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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第44局 日日杯4日目(2015年8月4日火曜)
554/682

542手目 ガンづけ

※ここからは、鬼首おにこうべさん視点です。女子第17局開始時点にもどります。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………くっそ、さっきの対局、マジで納得がいかねえ。

 オレのミスだとは思うんだが……早乙女さおとめの指しかたが、どうも気になる。

 研究にハマったか? それともオレとの相性か?

 あれこれ考えていると、大谷おおたにがようやく来た。

「遅かったな」

「失礼いたしました」

 大谷はわざわざ手を合わせて、オレを拝んだ。

 ナマステかよ。

「チッ、なんか調子狂う」

「振り駒は、どういたしますか?」

「任せる」

 大谷は駒を集めて、混ぜてから放った。

「歩が1枚。拙僧の後手です」

 そのあいだもオレは、早乙女戦のことを考えていた。

 すると大谷は、

「なにやら雑念がおありのようですが」

 と言ってきた。

「オレは機嫌が悪いんだよ。さっきの対局がボロ負けでな」

「心中お察しいたします。しかし、今の対局相手は、目のまえにおります」

 オレは大谷をにらんだ。

 大谷も強烈にオレの視線をとらえかえしてきた。

 オレは苦笑する。

「おまえ、以前ボコったレディースのヘッドに似てるな」

《対局準備はよろしいでしょうか?》

 オレは座り直して、前髪を流した。

《では、始めてください》

 大谷は、よろしくお願いします、と言ってチェスクロを押した。

 オレは駒音高く2六歩。

「ごあいさついただけないようで」

 オレは大谷をゆびさして、口の端をゆがめた。

「あいさつなら、さっきのガンづけで終わってるぜ」

「……なるほど」


 パシリ


【先手:鬼首あざみ(O山県) 後手:大谷おおたにひよこ(T島県)】

挿絵(By みてみん)


 よし、潰す。

 2五歩、8五歩、7八金、3二金、3八銀、7二銀。

 相掛かりを受けたことだけは、褒めてやる。

 桃子ももこなら変化しただろうな。

 9六歩、3四歩、2四歩、同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛。

 オレは5八玉と上がった。

 5二玉、7六歩、7四歩、3四飛、3三角、3六飛。


挿絵(By みてみん)


 大谷次第、か。

 こいつ、坊主のコスプレしてるくせに、好戦的な性格とみた。

 それとも、坊主だから好戦的か?

 後手のほうから盛り上がってくるだろうよ。

「……8五飛」

 高く浮いたな。

 2六飛、2二銀に7七桂と跳ねて、即座にとがめる。

 大谷は10秒ほど考えて、8二飛と引いた。

 桂馬を跳ねさせたつもりか?

 そうはいかないぜ。

「8五歩だ」

「4四角です」

 3六飛、3三桂。


挿絵(By みてみん)


 よしよし、予定通り、後手が盛り上がってきた。

 オレも好戦的だが、タメはできるんだよ。じゃなきゃ喧嘩には勝てねえ。

「1六歩」

 6四歩、1七桂、3五歩、2六飛、5四歩。

 ここだ。

「6五桂」


挿絵(By みてみん)


 大谷、背筋が伸びる。

 見えてなかったか?

 同歩なら4四角、同歩、2一角だ。

 4二玉、3二角成、同玉に、4二金、同玉、2二飛成と、いきなり成り込む。

 ここで考えてるようだと、キツイぜ~。

 けっきょく1分も考えて、5五歩。

「次のはもっとキツイぜッ! 2二飛成ッ!」

「さすがにそれは読みました。同金」

 5三銀、同角、同桂成、同玉、3一角。


挿絵(By みてみん)


 王手金だ。

 このままボコボコにする。

 6二玉、2二角成。

「反撃します。4五桂」

 ん? 5五馬で、なにがある? ……8五飛の飛び出しか。

 4六馬に6五桂で、中央に殺到する、って寸法ね。了解。

「5五馬」

 8五飛、4六馬、6五桂、5六金。

 攻めは好きだが、受けが弱いってわけじゃないからな、オレは。

 受け潰しでもいい。

 大谷はここで考えた。

 オレなら5七桂成だね。どっちから行ってもいい。それが流れってもんだろ。

 大谷も5七桂左成を選んだ。

 同金、同桂成、同馬。

「2七歩です」


挿絵(By みてみん)


 ふーん、垂らすんだ。

 オレなら4五金~5六歩で、5筋をこじ開けたけどな。

 ちょこまかするのは、よくないぜ。

「2九歩」

「7三桂」

 どうすっかな。

 次に6五桂なんだろうが、そんな悠長な手は認めたくねえ。

 このスキに攻めるか。

「8六歩」

 オレは飛車を叩いた。

 同飛なら3五馬で飛び出す。

 オレなら、無視して6五桂と跳ねるところだ。

 大谷の手が止まる。

 オレはポケットのチョコを食べた。

 ミルクチョコも置いとけよ。

 味が変えられないだろぉ。


 パシリ


 お、指した。


挿絵(By みてみん)


 取ったかあ。ひよってんなあ。

「5筋を攻めるんじゃなかったのか?」

「たしかに、巧遅拙速とも申しますが、この場合は……」

「ああ、そういうのわかんないから。3五馬」

 4四銀、同角、同歩、同馬、5三歩。

 おらおら、5筋を逆襲だあ。

 5四歩、6五桂。

 っと、ここで反撃か。

 さすがに7一玉はねえか。

 オレはテーブルにひじをついて、手のひらにあごを乗せた。

 ひと目、突っ込む一手。

 5三歩成、7三玉、5七桂、同桂成、同玉の攻め合いで、悪い気はしない。

 変えるなら6九桂の受けだが、オレの棋風じゃねえ。

「5三歩成」

 7三玉、5七桂、同桂成、同玉。

 大谷は1分考えて、7六飛と寄った。


挿絵(By みてみん)


 ……ほーん、詰めろか。6五桂、6八玉、5七角、5九玉、6九金、同玉、7八飛成、同玉、

7七飛、6九玉、7九飛成、5八玉、6八金まで。13手。

 やるじゃねえか。

「これで止まってるだろ。5六歩」

 大谷はまた考えた。

 詰めろに気づかないと思ったか? ……いや、ちがうな。

 受けの手が広かったから、決め打ちできなかったんだろう。5六歩じゃなくて6六歩でも受かってたし、一回8五桂と王手してもよかった。ごちゃごちゃ考えるのがめんどくせえから、深くは読まなかったけどな。

 オレが耳の穴をかっぽじっていると、駒音が聞こえた。


挿絵(By みてみん)


 ……ん? 5五歩じゃないのか。

 6五桂じゃなかったのは、わかる。4六玉から抜けられる。5七角と打たれても、どんどん上へ逃げればいい。つまり、馬がデカいんだよ。

 で、こっから4三歩の意味もわかる。

 同馬なら3五角で、オレの王様は出口がなくなる、と。

 5四馬は6五桂、4六玉の瞬間、4四金で馬を押さえられる。

 だったら同と、だな。

 そのあと、なにをしてくる? 今度こそ5五歩か?

 それを同馬はできないんだよな。6五桂、4六玉、5七角、4五玉、3五飛で捕まる。ようするに、オレの馬の位置がポイントだ。

 5五歩に同歩もできない。だけど、凌ぐ手はあるだろ、さすがに。

「……同と」

「5五歩」

 オレは6六銀と打ち込んだ。

 5六歩、同玉、1二角。


挿絵(By みてみん)


 んー、なるほどね、りょーかい。

 3、4筋をなんとかしたいわけだ。

 そりゃそうだよな。オレが指しやすい理由は、入玉が容易だから。これ。

 だけどそこにリソースを割くんじゃ、あべこべだぜ。

「その方針、後悔させてやるよ。3四桂」

 4二歩、5三と、3三歩。

 同馬なら4一桂の両取り。見え見えだ。

「こいつで、どうする? 6八桂」

 大谷、お茶を飲む。

 こういうときって、だいたいふたつあるよな。

 もう楽勝ってときと、困ってリフレッシュしたいとき。

 後者の匂いがする。オレが4六玉と寄ると思ったか?

「……8六飛」

「5七玉」


挿絵(By みてみん)


 オレは最初から、入玉とか目指してないんだよ。

 自陣で耐え切れる。

 大谷は方針が外れたからか、またまた長考した。

 残り時間は、オレが10分、大谷が6分。

 そんなに考える時間はないぜ。

 3四角あたりだろ、どうせ。

 んで、この予想は当たった。

 大谷は3四角と飛び出して、馬との交換を迫ってきた。

「んー、交換してもいいんだが……」

 どうすっかな。

 同馬、同歩、9五角の王手飛車を誘ってるんだろうが、8四飛打で受かる。

 そっちに突っ込むメリットもねえ。

「5四と」

 後手玉にプレッシャーをかける。

 大谷は8九飛成で、飛車を成り込んだ。

 4五桂じゃないんだな。受けを優先したか?

 流れの変化を感じる。均衡してたバランスが崩れる音を。

「5五馬」

「6二玉」


挿絵(By みてみん)


 よーしよしよし。

「先手がよくなったな。6四と」

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