43手目 高校生男子の部A2回戦 六連vs三国(1)
※ここからは六連くん視点です。
まいったな……81Boysなんてガチなチームがくるとは、思わなかった。
「昴くん、初戦は、うまく勝てたね」
ちょっと小柄な、カワイイ系の少年が話しかけてきた。
アホ毛が出てる。チャームポイント。
「これも、並木くんたちのおかげだよ」
「そんなことないよ。僕はサブ選手だから」
並木くんは、ほんとに謙虚だ。
爪のアカを煎じて、何人かに飲ませればいいんじゃないかな。
西野辺さん、白鳥くん、不破さんあたりに。
「ところで昴くん、対戦表なんかみて、どうしたの?」
「勝ち星3のチームをチェックしてたんだ。今、3チームしかない」
スイス式だから、原則的に勝ち星3−0同士が当たるはず。
「そっか……次で、御城先輩たちと当たるかもしれないね」
並木くんの言う通り。ウォーリアーズも強敵だけど、できればそっちがいい。
「おーい、六連ぁ、並木ぃ」
白いシャツに黒いズボン。よくある制服を着た、体格のいい少年が加わった。
角刈りで、左右にちょっと伸びが入ってる、蟹型ヘアスタイル。
左手に扇子を持って、肩を叩いている。
「大文字先輩、お疲れさまです」
「俺はまだ疲れてないぞ。体力には自信があるからな……で、発表は、まだか?」
「もうすぐだと思うんですが……」
あ、スタッフが来た。人が集まってくる。
【第2ラウンド】
81Boys (改) vs 棋神ウォーリアーズ
将棋プレアデス星団 vs H市がなんぼのもんじゃ!
北西ブロック連合 vs ピカピカの1年生
Shogi International vs おらが将棋村
剣ちゃんズ vs 思い出王手
「お、ベストな進行じゃないか」
大文字先輩はそう言いながら、パタパタと扇子であおいだ。
こうなったか……将棋の神様も、まだ僕らを見放してないらしい。
《それでは、対局準備をお願いします》
アナウンスと同時に、大文字先輩は扇子をパチリと閉じた。
「よし、ここも3−0でぶっとばす。六連、並木、いくぞ」
僕らは、対局席にむかう。
1番席には、大文字先輩と同じように、夏用学生服を着た少年。
高校生なのにあご髭。このスポーツマンっぽい人、見覚えがある。
紫水館の三国先輩だ。たしか、3年生だったはず。
「お、来たな」
三国先輩は、右手でヨッと挨拶した。
「よろしくお願いします」
着席して、駒を並べる。1日5ラウンドは、ほんとにカツカツだ。
並びは、僕vs三国先輩、並木くんvs大伴くん、大文字先輩vs白鳥くん。
悪くない。
「六連と指すのは、初めてだな」
三国先輩は、太い指で王様を置きながら、そうつぶやいた。
「そうですね」
「俺が中3のとき、いたか?」
「3年前ですか……その頃は、将棋を指してませんでした」
「いつから始めた?」
「ちょうどその半年後です。中2の夏に」
三国先輩はフンと鼻息を鳴らして、飛車をパシリと置いた。
「ほんで、1年後に県大会で優勝か……才能があるな」
「そんなことはないです。テーブルゲーム自体は、昔からやってましたし」
僕の本職は、トレーディングカードゲーム。
マジック・ザ・ギャ○リングみたいなやつだ。
専門にしてるのは、遊戯の王子様という、日本製のもの。
「テーブルゲームと将棋は違うと思うが……まあ、いい」
《準備の整ったところから、振り駒をしてください》
最後の駒を並べ終えた三国先輩は、歩を5枚集めた。
「俺の振り駒でいいな?」
「どうぞ」
毛の濃い指で、歩がシャッフルされる。パラリと、盤のうえに放られた。
「オモテが2枚……大伴! 白鳥! 偶数先!」
「将棋プレアデス星団、奇数先」
三国先輩は、チェスクロを自分の右側になおす。
あとは、開始の合図を待つだけだ。
《対局準備の整っていないところはありますか?》
……。
《では、始めてください》
「よろしくお願いします」
三国先輩がチェスクロを押して、スタート。
「7六歩」
僕は、角道を開けた。
「皆星のエース、お手並み拝見といくか」
三国先輩は、3四歩。
以下、2六歩、8四歩、2五歩、8五歩、7八金、3二金。
ここまでは、ありきたりな出だしと言っていい。
「2四歩」
同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛。
「2六飛」
僕は、飛車を縦に引いた。
三国先輩は、おやっという顔をする。
「横歩取りにしないのか?」
「しません」
僕が答えると、三国先輩は右手のこぶしをこめかみに当てて、テーブルにひじをついた。ゆっくりと、飛車に指をそえる。
「縦歩取りは、ひさしぶりにみた」
8五飛。
「レアリティと戦法の強さは、関係ないと思います」
9六歩。
「カードゲームの応用か?」
6二銀。
僕は、すこしばかり指をとめた。
「……むずかしい質問ですね。カードのレアリティと強さは、必ずしも関係ありません。コモンでもアンコモンでも、強いカードは強いですから。ただ、戦法……トレーディングカードゲームなら、デッキかストラテジーの話になると思いますが、そういうものはポピュラーなもののほうが強いですね。あまりにもレアリティが高いと、地雷デッキと呼ばれます。もちろん、そういうデッキで大会を勝ち上がる人もいます。でもそれは、デッキの強さというよりも、プレイングのうまさとメタ読みです」
7七桂、8六飛、4八玉。
「おまえの話は、横文字が多過ぎる。もっと分かりやすく解説してくれ」
9四歩。
端を突いてきた……典型的な相掛かり模様。3八銀。
「三国先輩は、トレーディングカードゲームをプレイしますか?」
「ちょっと待て、駒組みが難しくなった」
三国先輩は、小考。僕も黙って、続きを読む。
「4一玉……で、なんの質問だった?」
「三国先輩は、トレーディングカードゲームで遊んだことがありますか?」
「ない」
きっぱりと否定。
「すみません、だとしたら、説明が難しいですね」
僕の答えに、三国先輩はニヤリとして、髭をなでた。
「ハハッ、将棋でも、ルールを知らんヤツに戦法は教えられんからな」
それも、そうだ。将棋のルールを知らない人に、棒銀や振り飛車を教えろと言われても、ムリがある。僕がひとつだけ言いたかったのは、単純なこと。トレーディングカードゲームと将棋のあいだには、細かな違いと、細かな類似点がある。それだけ。
さあ、そろそろ将棋にもどろうか。
「3九玉です」
「4二銀」
1六歩、3一玉、3六飛。
僕は、3筋の歩に狙いをさだめた。
「8四飛は、8五歩〜7六歩〜8六飛で、ひねり飛車か」
見抜かれてる。
受験生とはいえ、こういうところは衰えてないみたいだ。
「そうはさせんぞ。4四角」
8七歩、3五歩。突っ張ってきた。
取り合いはダメなのか? 8六歩、3六歩、8二飛、3七歩成、同桂(放置で8一飛成は3八と、同銀、6九飛、2八玉、7一金みたいな感じでダメだろう)、7一金、8五飛成、3六歩、2五桂、2六角。
(※図は六連くんの脳内イメージです。)
これが正解かどうか分からないけれど、遅いのは僕のほうだ。
「2六飛」
「まあ、逃げるよな。8四飛」
4六歩。角にプレッシャーをかける。頭の丸い駒に対する、基本的な戦略だ。
将棋指しの人はあまり言わないけど、駒と駒とのあいだには、相性があると思っている。例えば、角と桂馬のシナジーは抜群。逆に、角と香車は相性がとても悪い。このふたつの組み合わせで可能な攻めは、少ないんだ。
「3三銀」
僕もプレッシャーをかけられてる……2八飛。
「ずいぶんと消極的だな。3四銀」
「4七銀」
4筋の攻防戦に移る。
「囲いの発展性は、俺のほうがある……5二金」
6八銀、4二金右。三国先輩の言うとおり、僕のほうが発展性は低い。
玉飛接近形なのも気になる。ひねり飛車に失敗したから、しかたがないか。
「4八玉」
「手損も意に介せず、か」
「手損よりも形です」
同じところに駒をもどしてなにが悪いのか、僕には分からない。
「いかにも現代将棋らしいな。だが、これを見落としてないか? 7四歩」
うッ……厳しい手。次に7五歩、同歩、7六歩だ。
「……桂頭のケアが甘かったですね」
「アッハッハ、おまえの将棋も、まだまだ荒っぽいな」
三国先輩は、豪快に笑った。
たしかに、僕の将棋は荒っぽいのかもしれない。御城先輩や魚住くんなら、しないようなミスをしてしまうから。捨神先輩はポカ神先輩だから、たまにすごいのが飛び出すけど。
のこり時間は、5分。立て直す。
「……6六歩」
三国先輩は、さっきよりも強くおどろいた。
「歩損までするのか?」
「歩とライフは投げ捨てるものです」
ライフは、0にならなければいい。
それと同じように、歩は足りればいいんであって、余らせる必要はない。
みんなにはおかしいと言われるかもしれないけど、それが僕のセオリーだ。
「さすがにそれはないだろ……罠か?」
罠というか、6六歩、同角、6七銀以外は、桂頭が受からない。
「えーい、分からんときは取る」
6六同角、6七銀、3三角、3八金。
そこで、三国先輩の指が止まった。
あごに手をあてて、椅子にもたれかかる。
「これは、7三桂と跳ねてもいいのか……?」
僕も、そこはさっきから気になってる。7三桂と跳ねられるようじゃ、こっちは立ち後れもいいところだから。でも、7三桂には5六銀右と上がって、4四歩、4七金、2三歩、6五桂、同桂、同銀が効くと思う。
(※図は六連くんの脳内イメージです。)
次に6六角の覗きから7四銀とかすめて、歩損を解消できる。
「……ダメだな。跳ねると目標になる。2三歩」
5六銀右、4四歩、4七金。読み筋は噛み合っている。
「右銀の遅れで、攻められんな……1四歩」
僕は5八玉と寄って、玉飛接近形を解消。一番安定した囲いになった。
なに囲いって言うのかは、全然分からないけどね。
「4三金直……こっちも完成だ」
お互いに陣形整備は完了。飽和した。
「飽和なら攻めですね……3六歩」




