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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第44局 日日杯4日目(2015年8月4日火曜)
541/682

529手目 予選最終局

【予選最終局:女子】

挿絵(By みてみん)


【予選最終局:男子】

挿絵(By みてみん)


※ここからは、内木うちきさん視点になります。女子17回戦になります。

 はい、というわけで、予選最後の対局です。

 伊吹いぶきさんは、

「わー」

 と言って、拍手。

 私も合わせておく。パチパチパチ。

「それでは、予選もラストを迎えました。伊吹さん、ここまでのご感想は?」

「そうですね、気分的に2年くらいかかった気がします」

 そういうことを言わない。

 まずは成績状況の紹介。

 全モニタに映っているから、ちょっと緊張する。

 ちゃんと予習してきた。

「女子からいきましょう。女子は現在、以下のようになっています」


 1位 萩尾萌   14勝2敗 決勝トーナメント進出確定

 2位 鬼首あざみ 13勝3敗 決勝トーナメント進出確定

 3位 磯前好江  11勝5敗

    大谷雛   11勝5敗

    温田みかん 11勝5敗

    桐野花   11勝5敗

    早乙女素子 11勝5敗

 8位 剣桃子   10勝6敗

    梨元真沙子 10勝6敗


 伊吹さんは、

「めちゃくちゃ混戦になってますね。10勝6敗は、まだ芽があるんですか?」

 とたずねた。

「5敗同士の直接対決はないので、4人以上負けた場合は、6敗勢にプレーオフのチャンスがきます」

「ってことは、最大7名プレーオフですか。どういう方式でしたっけ?」

「1枠を複数人で争うときは、パラマス式トーナメントです。予選リーグで勝ったあいての順位を上から5名足し、合計が少ない選手からトーナメント上位になります。2枠を複数人で争うときは、方式が複雑になるので、実現したときにまた解説したいと思います。なお、プレーオフの人数が多い場合、決勝トーナメントは明日の午前になりますので、ご承知おきください」

 予選は最終日だけど、日日杯最終日と表記していないのは、このため。

 4泊5日の5日目は、予備日みたいな枠でもあった。

 なるほど、と伊吹さんはうなずいて、

「5敗勢は、じぶんが勝つだけじゃ決まらないんですね。全員勝つパターンもあるので」

 と指摘した。

「おっしゃる通りです。5敗勢は全員条件がいっしょで、『じぶんが勝ち、かつ、5敗しているほかの選手のうち、3名以上が負ける』です。それ以外はプレーオフ、または予選敗退になります」

「となると、対戦相手が重要です」

 そう、というわけで、対局カードもオープン。


 磯前好江(3)  vs 西野辺茉白(11)

 大谷雛(3)   vs 鬼首あざみ(2)

 温田みかん(3) vs 剣桃子(8)

 桐野花(3)   vs 梨元真沙子(8)

 早乙女素子(3) vs 宇和島伊代(17)


 伊吹さんはしばらく見て、

「……だいぶ強弱があるような」

 と言った。

「カッコ内は現時点の順位です。あいての順位が一番低いのは、早乙女さおとめ選手です」

「早乙女さんが負けるとこ、あんまり想像できないですね。入れるなら西野辺にしのべさんかな。さっき大谷おおたにさんに入れてましたし……8位勢と当たってる温田おんださんと桐野きりのさんは、ガチンコです。プレーオフの芽があるあいてなので」

「はい、たいへん楽しみなカードが残っています。では、男子へ移ります」

 フリップオープン。


 1位 囃子原礼音 12勝2敗 決勝トーナメント進出確定

 2位 吉良義伸  11勝3敗 プレーオフ以上確定

    捨神九十九 11勝3敗 プレーオフ以上確定

 4位 石鉄烈   10.5勝3.5敗

 5位 六連昴   10勝4敗

 6位 鳴門駿   9.5勝4.5敗


 伊吹さんは、

「ひえ~、複雑」

 と悲鳴をあげた。

「条件がかなり込み入っているので、対戦カードを見ながら解説します」


 石鉄烈(4)   vs 吉良義伸(2)

 捨神九十九(2) vs 香宗我部忠親(13)

 六連昴(5)   vs 阿南是靖(9)

 鳴門駿(6)   vs 米子耕平(9)


「まず、自力なのが2位の吉良きら選手、捨神すてがみ選手、それから4位の石鉄いしづち選手です。勝った時点で決勝トーナメント進出確定です。反対に、鳴門なると選手は他力です。プレーオフへ進むには、石鉄選手と六連むつむら選手の、両方が負けないといけません」

 伊吹さんは、うーんとうなったあと、

「さっきの持将棋のときも、話題になってましたね。石鉄vs吉良戦で石鉄負けに賭けるのは、まだいいとしても、今日の六連くんは、調子いいんじゃないでしょうか」

 とコメントした。

「対局中にはわからなかったことなので、しかたがないところです」

「たしかに、朝一で『今日調子悪い?』とも訊けませんし」

 それを訊くのは、阿南あなん先輩くらいだと思う。

「そういえば、六連さんを飛ばしましたよね? 六連さんはどうなってるんですか?」

「では、六連選手も含めて、全員の条件を整理します」


 吉良義伸

  自分が勝った場合=石鉄負け → 決勝トーナメント進出確定

  自分が負けた場合=石鉄勝ち

   六連負け → 決勝トーナメント進出確定

   六連勝ち

    捨神負け → 吉良、捨神、六連でプレーオフ(3名で2枠を争う)

    捨神勝ち → 吉良、六連でプレーオフ(2名で1枠を争う)


 捨神九十九

  自分が勝った場合 → 決勝トーナメント進出確定

  自分が負けた場合

   石鉄or六連負け → 決勝トーナメント進出確定

   石鉄and六連勝ち → 吉良、捨神、六連でプレーオフ(3名で2枠を争う)


 石鉄烈

  自分が勝った場合=吉良負け → 決勝トーナメント進出確定

  自分が負けた場合=吉良勝ち

   六連勝ち → 予選敗退

    六連負け、鳴門勝ち → 石鉄、鳴門でプレーオフ(2名で1枠を争う)

    六連負け、鳴門負け → 決勝トーナメント進出確定


 六連昴

  自分が勝った場合

   捨神勝ち、石鉄勝ち → 吉良、六連でプレーオフ(2名で1枠を争う)

   捨神勝ち、石鉄負け → 決勝トーナメント進出確定

   捨神負け、石鉄勝ち → 吉良、捨神、六連でプレーオフ(3名で2枠を争う)

   捨神負け、石鉄負け → 決勝トーナメント進出確定

  自分が負けた場合 → 予選敗退


 鳴門駿

  自分が勝った場合

   石鉄and六連負け → 石鉄、鳴門でプレーオフ(2名で1枠を争う)

   それ以外 → 予選敗退

  自分が負けた場合 → 予選敗退


 伊吹さんは、

「うーん、鳴門さん、かなりワンポイントの条件に突っ込んだような……あ、でも、伊吹が大会で同じ状況になっても、そうするかな。ラス前で長期戦は、ちょっと……リーグ戦はふつうないですが……」

 と、ひとりごちた。

 大会経験者のしっぽが出てますよ。

 とりあえず、状況整理はここまで。

 私はフリップを片付けた。

「さて、このあとは、各テーブルの中継になります。本チャンネルでは鬼首おにこうべvs大谷戦を観ていきますので、よろしくお願い致します」

 さっそく対局席カメラへ移動。

 大谷先輩も鬼首先輩も、すでにスタンバイしていた。大谷先輩は向かって左に姿勢よく座り、鬼首さんは頭をかきながら、目をつむっていた。

「さて、伊吹さん、戦型予想ですが……」

「なんでもありなんじゃないですかね。大谷さんが居飛車党ですから、相振りはないと思うんですが、対抗形はありえます。鬼首さんはオールマイティなので」

「振り駒は……あ、先手が鬼首さんです」

 カメラ越しでも、息を呑むような緊迫感があった。

 大谷先輩は、負けると予選敗退がちらつくから、当然。

 一方、鬼首先輩も、決勝トーナメント確定で流してる、って雰囲気じゃない。

 伊吹さんもそれを感じ取ったらしく、

「鬼首さん、むしろ気合い入ってません?」

 と言った。

「そうですね、前局の敗戦に、納得がいっていないのか……あ、始まります」


 ピポ パシリ


【先手:鬼首あざみ(O山県) 後手:大谷おおたにひよこ(T島県)】

挿絵(By みてみん)


 おっと、この出だしは──私は、

「相掛かりです。鬼首選手から要求しました」

 と、ちょっと興奮してしまった。

「かかってこい、って感じの手つきでしたね。なにか因縁でも?」

「いえ、ふたりの対戦は、過去ありません」

 攻め潰したい、という意気込みを感じた。

 負けて決勝トーナメント進出が確定したことに、不満なのだろうか。

 それとも、なにかべつの理由が?

 憶測が過ぎるといけないので、このあたりは局後インタビューのお楽しみに。

 大谷先輩も面食らったのか、2手目に長考した。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 受けた。

 2五歩、8五歩、7八金、3二金、3八銀。

 私はこの手を見て、

「これは流行の銀上がりです。相掛かりといえば、2四歩、同歩、同飛からの飛車先交換が主流でしたが、最近は交換を遅らせるのが人気です」

 と解説した。

 伊吹さんも、

「飛車の引き場所を早めに決めたくないから、でしたっけ?」

 と便乗した。

「そうです。数手ほど様子見すると思います」

 7二銀、9六歩、3四歩。

 鬼首先輩は、ここで仕掛けた。


挿絵(By みてみん)


 同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛、5八玉、5二玉。

 どちらも中住まいを選択。

 伊吹さんは、

「ちょっと横歩っぽい展開になりましたか」

 とコメントした。

 7六歩、7四歩、3四飛、3三角、3六飛。

 そろそろ後手も飛車を引きそう。

「8四飛が第一感でしょうか?」

「7三桂とかもイケると思いますけどね。ぶっちゃけいきなり7五歩もありです。同歩、8四飛の瞬間、先手は2八を受ける必要があります。プロなら解明済みの局面かもしれませんが、アマならどちらもやれます」

 2八歩、8六歩なら、激しくなりそうだ。

 大谷先輩の決断は──

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