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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第5局 ジャビスコこども将棋祭り☆午前の部(2015年5月5日火曜)
54/681

42手目 高校生女子の部A2回戦 桐野vs西野辺(2)

「……6一角ぅ」


挿絵(By みてみん)


 そこに角打ちかぁ……差し違え覚悟の手だね。

 ピッ。おっと、もう30秒将棋。これで79手目だから、当然か。

 私は29秒まで考えて、4五桂と跳ねた。

 7三金と逃げるのは、5二角成が銀当たりだからね。4二金と弾いたら、今度は5一馬が7三の金当たりになって、泥沼。

 ……ピッ。お(はな)おねぇも30秒将棋。

「7二角成ぃ」

「3七桂成」

 同金に4八銀。これで絡みつくよ。3八金と引いたら、4六角が王手金取り。

「これは、オオカミさんの攻めなのですぅ……3八金打ぃ」

 3七銀成、同金、1七歩成、同香、1六歩、同香、同飛、1七歩、1一飛。


挿絵(By みてみん)


 いったん引いて、次に1二香だね。ロケット。

「悪いオオカミさんには、お馬さんで対抗するのですぅ、6三馬ぁ」

 うーん、4二銀と節約したいけど、それは4四桂がある。

 お花おねぇの攻めも、相当オオカミだよ、まったく。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4三金打」

 手堅く守るよ。

「5二銀ですぅ」

 4四銀と手順に逃げて、4三銀成、同金、5二馬。

 覚悟はしてたけど、ギリギリの勝負だね。

「4二香」

「4九飛ぃ」


挿絵(By みてみん)


 ついに飛車が働いちゃったか……しかも歩切れ……。

「1二香」

 攻め合う。

「これはさすがに受けないとダメなのですぅ……1六桂としまぁす」

 ここでうまい手……なにかないかな……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「8六角」

 私は角を置いた。成れない場所なのが、ちょっと気になる。

 5八金、7五角。

「その角さん、攻めるときに邪魔なのですぅ、退いてくださぁい」

 7六歩。チッ、守りを追加できないか。6六角。

「やっと反撃できるのですぅ、2五歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 うぅ……厳しい……これは根元の桂馬を払うしかないね。

 1六香、同歩、2五歩。

「桂馬さんをおかわりしてぇ」

 5五銀、同……角?

 ちょっと待ってよ。これって……次の1五桂〜2四歩がキツ過ぎじゃんッ!

 5五同角、1五桂、4五桂の攻め合いは、2四歩、3七桂成、同桂……ダ、ダメ、全然続かない。もっと過激にいくか、あるいは受けないと……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!


挿絵(By みてみん)


 こっちで取るッ! 寄せるなら、角は6六の方がいいッ!

「ふえぇ……なんか飛車さんを切られそうなのですぅ……1五桂」

「同飛ッ!」

 ぶった切って、同歩に1六桂。

「……3八玉ぅ」

「4五桂ッ!」

「い、いきなり詰めろなのですぅ……鬼攻めですぅ……」

 3七桂成、同玉(同桂は2八金、4七玉、5六銀、4六玉、4五銀直まで)、2六銀、3八玉、2八金、4七玉、5六銀、4六玉、4五銀直までの9手詰めだよ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5七歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ぐぅ、これは読んでたけど……一番厳しいのきた。

 3七桂成、同桂、2八金は、全然足りてないし……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「3七桂成ッ!」

 私は突っ込んだ。

 同桂に2六歩。

「うにゅ? これって詰めろですかぁ?」

 ノーコメント。

「……」

 お花おねぇは、上半身をくねくねさせている。

「ふ、ふえぇ、これ詰めろなのですぅ……」

 チッ、バレたか。2八桂成が好手で、4八玉、3八金、5九玉(4七玉は4六歩、同玉、3五銀打、同歩、同銀、4五玉、4四金まで)、4九金、6九玉(同玉は3九飛以下、6八玉は7七銀以下、詰み)、8九飛、7九桂(7九金は同飛成、同玉、8八銀以下)、7八銀と捨てて、同玉、8八飛成、6九玉、7八銀、6八玉、7七龍まで。15手詰め。

 最初の4八玉のところで4七玉は、3八銀以下、同様。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4四飛ぃ」


挿絵(By みてみん)


 !? ……げぇ、こんな妙手があるのか。同金は3三金から詰みじゃん。2五桂打、2二玉(2四玉は4二馬)、1三銀、1一玉、3一飛のとき、合駒に飛金銀しかないのが痛過ぎる。

 ひ、飛車がないと、2八桂成のとき詰まない……いや、それとも詰む?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「に、2八桂成ッ!」

 いっちゃった。4八玉、3八金、5九玉。あうぅ、詰まない……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「3七金ッ!」

 私は、あわてて金を引いた。

茉白(ましろ)ちゃんの王様も、すぐには詰まないのですぅ……4二馬ぁ」

 桂馬取ったから、詰めろになってるんじゃないの?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 くぅ、なってるのかなってないのか分かんない。7七角成。

「6八金打ですぅ」

「4八銀ッ!」

 これは……同金でも6九玉でも詰まない……かも……。

「駒が足りてないのですぅ、同金ですぅ」


挿絵(By みてみん)


 えーい、アドレナリン全開ッ! 詰ます詰ます詰ます詰ますッ!

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 やっぱり詰まないッ!?


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!


 私は同金と取った。

 6七桂も詰まないから、あの飛車をなんとしても抜いてやる。

「ふえぇ……クソ粘りされてるのですぅ……」

 同玉、5六桂(!)、4七玉、3八銀、4六玉、4五歩。

「同飛は頓死しちゃいまぁす。同玉ですぅ」

 4四金、同玉、4三歩、同馬。


挿絵(By みてみん)


 3二金は同馬、同銀、1三銀以下、詰み……4三同玉としてくれてれば……。

「負けました」

「ありがとうございましたぁ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「生きてますかぁ?」

 生きてるっちゅーの。

《70分が経過しました。これより5分切れ負けになります》

 15分30秒で70分とか……指し過ぎ。

「最後、頓死筋が多くて、ちょっとヒヤヒヤしたのですぅ」

「詰んでなかったよね?」

「詰んでないと思いまぁす」

 ハァ……詰みくらいはチェックしとこうか。

 私たちは、局面をもどす。


挿絵(By みてみん)


「これ、同飛も考えたのですぅ」

「それはさすがに同金から詰むでしょ」

 同玉は4七歩、同金(同玉は3八銀、4六玉、5四桂、4五玉、4四飛まで)、3八飛、4九玉、3九成桂、5九玉、6八馬で、簡単な詰み。

「同金、同金、6七桂、5八玉、5九飛……あッ、5六銀があるのですぅ。3七玉、3九飛成、2六玉、2五歩……あれれぇ、詰まないのですぅ」

「ウソ? これで詰まないの?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ほんとだ、詰まない。

「あ、でも、3九飛成のところで、2七歩成、4六玉、4二金があるのですぅ」

「そっか、単純に馬を外して、私の勝ちだね」

「勝ってるんですかぁ? 歩2枚と角ですよぉ?」

 感想戦くらい勝たせてくれてもいいじゃん。

「っていうかぁ、4八銀に6九玉と逃げれば、鉄板焼きだったのですぅ」


挿絵(By みてみん)


 ま、まともな王手が8七馬しかない……。

「8七馬、7八金、7七桂、6八玉で、もうなにもすることがないのですぅ」

「4四飛が良過ぎるんだよ。あんなの30秒でひねり出さないでよね」

「えへへぇ、ぶった切ってみたら妙手だったのですぅ」

 私に指運のなかったパターン……くやしい!

「あれでダメなら、5五銀には素直に同角だったね」

 私は、さらに局面をもどした。


挿絵(By みてみん)


「これはこれで、左にどんどん逃げちゃいますぅ」

 んなことは分かってるの。

「本譜よりマシなんじゃない? 1五桂に3二銀打でさ」

「ここまで攻めといて、受けるんですかぁ?」

 だって他に手がないじゃん。

「3二銀打、2四歩、同銀は、意外としぶといのですぅ」

「でしょ?」

 てきとうに言ってるわけじゃないんだよ。半分はてきとうだけどさ。

「敵の打ちたいところに打てで、4五歩と打ちまぁす」


挿絵(By みてみん)


 ……厳しい。

「3三銀引だよ」

 こうなったら徹底抗戦。

「4四香ですぅ」

 お花おねぇは、しなやかに香車を打った。

「1四歩……は、ないよね。2三桂成、同銀のあと、飛車が死に体だし」

「やっぱり5五角の位置が悪いのですぅ。本譜のほうがいいと思いまぁす」

 あんまり納得したくないんだけどなあ、それ。

《全試合が終わりました。ただいまより、昼食休憩に入ります》

 あ、終わった。

 私たちは、アナウンスに耳を傾ける。

《午後の対局は、13時30分から開始します。遅れないようにご注意ください》

 13時30分……昼休憩は1時間か。プログラムに遅れはないみたい。

「お昼ご飯にするのですぅ」

「ほんとに嬉しそうだよね……」

「お花はぁ、食べてるときにシアワセを感じまぁす」

 ま、それは私も同感。

「じゃ、あんまり検討できなかったけど、ありがとうございました」

「ありがとうございましたぁ」

 私はため息を吐いて、席を立つ。

 晶子(あきこ)ちゃんとみどりちゃんは、うしろのほうで待っていた。

「えーと、負けちゃった……結果は?」

「ごめん、私も負けた」

「わ、私も……ッ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あのさぁ。

「なにやってるの?」

「0−3で、それ言う?」

「お、お祭りは、参加することに意義があるのよ……ッ」

 みどりちゃんは、爪を噛み噛み。

「そうそう、まさに至言だわ」

 晶子ちゃんも、やたら首を縦に振っていた。

 おまえらはクーベルタン男爵か。

「これは、金と名誉欲にまみれた現代オリンピックに対する警鐘よ」

 意味不明。晶子ちゃんって、たまに変な正義感が出るから困る。

「とにかく、残り全勝で2位の可能性はあるから、全力でいくよ」

「了解……と、そのまえに、腹ごしらえね。なに食べる? なんでもいいわよ」

「わ、私も、なんでもいい……ッ」

 んー……私、H市在住だから、とりたてて食べたいもの、ないんだよね。

 めずらしい店は高いし、あんまり遠出できないし……。

「コンビニでよくない?」

「えぇ? コンビニにするの?」

「こ、コンビニは却下……ッ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 さっき、なんでもいいって言ったよね? 言ったよね?

場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生女子の部Aクラス 2回戦

先手:桐野 花

後手:西野辺 茉白

戦型:先手佐藤流ダイレクト向かい飛車


▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △8五歩 ▲7七角 △5四歩

▲8八飛 △3四歩 ▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉

▲2二角成 △同 銀 ▲3八玉 △6二銀 ▲4八銀 △7四歩

▲2八玉 △1四歩 ▲1六歩 △2四歩 ▲3八金 △2三銀

▲7七桂 △7三桂 ▲8九飛 △2二玉 ▲5七銀左 △5三銀

▲6八金 △3二金 ▲4六歩 △3三桂 ▲4七銀 △4四歩

▲3六歩 △6二金 ▲2六歩 △6四銀 ▲6六歩 △8一飛

▲4八銀 △5三銀 ▲6五桂 △同 桂 ▲同 歩 △4二銀

▲6六桂 △5三銀 ▲7四桂 △7二金 ▲9六歩 △4三桂

▲3七銀 △1二香 ▲7五歩 △5五歩 ▲同 歩 △同 桂

▲5六銀 △5四歩 ▲8六歩 △1一飛 ▲8五歩 △1五歩

▲同 歩 △4五歩 ▲同 歩 △1五香 ▲同 香 △同 飛

▲1九香 △1六歩 ▲6一角 △4五桂 ▲7二角成 △3七桂成

▲同 金 △4八銀 ▲3八金打 △3七銀成 ▲同 金 △1七歩成

▲同 香 △1六歩 ▲同 香 △同 飛 ▲1七歩 △1一飛

▲6三馬 △4三金打 ▲5二銀 △4四銀 ▲4三銀成 △同 金

▲5二馬 △4二香 ▲4九飛 △1二香 ▲1六桂 △8六角

▲5八金 △7五角 ▲7六歩 △6六角 ▲2五歩 △1六香

▲同 歩 △2五歩 ▲5五銀 △同 歩 ▲1五桂 △同 飛

▲同 歩 △1六桂 ▲3八玉 △4五桂 ▲5七歩 △3七桂成

▲同 桂 △2六歩 ▲4四飛 △2八桂成 ▲4八玉 △3八金

▲5九玉 △3七金 ▲4二馬 △7七角成 ▲6八金打 △4八銀

▲同 金 △同 金 ▲同 玉 △5六桂 ▲4七玉 △3八銀

▲4六玉 △4五歩 ▲同 玉 △4四金 ▲同 玉 △4三歩

▲同 馬 △3二金 ▲同 馬 △同 銀 ▲1三銀 △同 玉

▲1四金 △2二玉 ▲2三金打


まで153手で桐野の勝ち

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