表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第44局 日日杯4日目(2015年8月4日火曜)
526/682

514手目 ラスト2局

【4日目開始:女子】

挿絵(By みてみん)


【4日目開始:男子】

挿絵(By みてみん)


※ここからは、内木うちきさん視点です。

 ついに予選はラスト2局。

 はりきっていきましょう。

 おめかしもばっちり、アイドルモードで出陣。

 対局テーブルにつくと、伊吹いぶきさんはあくびをしながら登場。

「ふわぁ……おはようございます」

「おはようございます……って、その現れ方、アイドルとしてどうなんですか」

 伊吹さんは両肩をすくめた。

「ほら、そこは私のかわいさがすべてを吸収するので~」

 はいはい。

 とはいえ、今日の伊吹さんは衣装も新調したみたい。

 黒いスカートも、白い制服も、赤いネクタイも、よれたところがなかった。

 頭に乗ってるパンプキンモンスターのアクセサリは、今日初めてみた。

「その眼帯も、新しいやつですか?」

「これはさすがに毎日変えてますよ。不衛生でしょ」

 たしかに。っていうか、1日中眼帯つけてて、蒸れないの?

 なんか眼に悪い気がする。

 と、前座はこのあたりにして、そろそろ放送開始。

 姿勢を正して、カメラへお辞儀。

「おはようございます。内木うちきレモンです」

夜ノよるの伊吹いぶきでーす」

「本日は日日にちにち杯の予選最終日となります。よろしくお願い致します」

 さて、まずは成績の整理から。

「決勝トーナメント進出の可能性がある、女子のメンバーをご紹介します」


 1位 鬼首あざみ 13勝2敗

    萩尾萌   13勝2敗

 3位 磯前好江  11勝4敗

    大谷雛   11勝4敗

    桐野花   11勝4敗

 6位 温田みかん 10勝5敗

    早乙女素子 10勝5敗

 8位 出雲美伽   9勝6敗

    剣桃子    9勝6敗

    梨元真沙子  9勝6敗


 同順位の場合は、五十音順。

 伊吹さんはこれを見て、

「9勝6敗のメンバーは、決勝の可能性あるんですか?」

 とたずねた。

「プレーオフの可能性は、残されています」

「……なるほど、4敗勢と5敗勢が落ちてきてくれれば、って感じですか。4敗勢同士の対局は残っていないので、3人とも2連敗する可能性があるんですね」

「その通りです。また、1位の鬼首おにこうべ選手と萩尾はぎお選手は、勝てば決勝進出。完全に自力です。磯前いそざき選手、大谷おおたに選手、桐野きりの選手のうち、ひとりが負けた場合も、鬼首選手と萩尾選手は決勝進出が決まります」

「ふんふん、4敗以下が4人にまで絞れますもんね」

 というわけで、私たちは長門ながとvs萩尾を予約。

 まずは選手紹介。

「本局はY口県同士の戦いです。公式戦は、県内の予選で3回当たっており、萩尾選手の3-0です」

「非公式戦も、そこそこ指してそうですね。そこ全敗だとキツイかなあ」

 さすがにそれはなさそう。

 長門先輩も、そこまで弱くはない。

 磯前先輩に一発入るのだから、萩尾先輩に入っていてもおかしくはなかった。

《間もなく開始です。ご準備ください》

 了解。


 ……ピポ


 7六歩、3四歩、2六歩、8四歩、2五歩、8五歩。


【先手:長門ながと亜季あき(Y口県) 後手:萩尾はぎおもえ(Y口県)】

挿絵(By みてみん)


 おっと、横歩だ。

 私はさっそく解説を入れる。

「研究勝負に持ち込みやすい戦型です」

 伊吹さんは、

「まだ研究ストックあるんですかね? 切れてるっぽい人はいますけど」

 とコメントした。

「長門選手の横歩には、まだ研究ストックがあると思います」

「理由は?」

「長門選手が横歩をぶつけたのは、早乙女さおとめ戦だけだからです。もう一局、鬼首戦の先手で、7六歩、3四歩、2六歩の出だしになりましたが、これは鬼首選手が三間にしたので、横歩になっていません」

「横歩の研究ストックが1局だけのはずがない、ってことですか。まあ2、3局は用意してそうですね」

 7八金、3二金、2四歩、同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛。

 当然だけど、序盤は指し手が速い。

 3四飛、4二玉、3六飛、7二銀、8七歩、8四飛。


挿絵(By みてみん)


 私は、

「後手、8四に浮きました。やや攻撃的です」

 と評価した。

 伊吹さんは、

「先手玉がどう態度を決めるのか、そこが重要です」

 と、居玉のままでは危険なことを指摘した。

 これは自然な発言だったけど、長門先輩はやや変則的に指した。

 2六飛、1四歩、3八銀、3三桂、6八銀。

 萩尾先輩はこれに乗じて、攻勢に。

 2五歩、3六飛、2四飛、7五歩。


挿絵(By みてみん)


 5八にも6八にも上がらなかった。

「伊吹さん、これはどうなんでしょうか。居玉のままになりそうですが……」

「んー……そのうち6九に入ると思います。もちろん、5九のまま進むことも、なくはないです。けど、それは序盤から空中戦になったケースがほとんどで、本譜の場合はそのうち解消するはずです」

 2六歩、2八歩。

 先手陣をへこませてから、後手は8三銀と出た。

 長門先輩は1分考えて、5五角と飛び出した。

 私はこの手を見て、しばらく考えたあと、

「個人的な感想ですが……先手を持ちたいです」

 と告げた。

 伊吹さんも、うんうんとうなずいて、

「伊吹も先手を持ってみたいです。先手有利ってほどじゃないですが、後手はここからまとめるのが難しいと思います」

 と、同調してくれた。

 カメラの映像から、萩尾先輩の感情は読み取れない。

 でも、研究にハマったっぽくない?

 長門先輩はやや前傾姿勢で、椅子に手をあてて読んでいる。

 これは気持ちが前向きな証拠だ。

「伊吹さんなら、どう対応しますか?」

「4四歩か2五飛の2択です」

「2五飛は5六飛が、ややめんどくさそうです」

「ええ、なので4四歩が本命」

 萩尾先輩も、この手だった。

 4四歩。

 長門先輩は、即座に7六飛。

 ぐずぐずしてると攻められるから、萩尾先輩は4五歩で盛り上がった。

 すこし間が開く。

 30秒ほどして、天井カメラに長門先輩の手が映った。


挿絵(By みてみん)


 逆用した。

 私はタブレットを一手戻して、

「今のところ、先に8六飛とけん制する手もありました」

 とコメントした。

 伊吹さんは、

「6九玉もあったと思いますね」

 と、あくまで居玉を避けることにこだわった。

 伊吹さんはさらに、

「4六同歩、同角、3四飛、8六飛は、お手伝いな気もするんですよね。ここまで研究手順かどうかはわかりませんが、後手は手を外したいです」

 と、同歩を否定した。

「しかし、同歩が一番素直に見えませんか?」

「このまま先手に主導権を握られるのはイヤです」

 けっこう感情的な理由。

 でも、わかる。気分的にイヤ、というのは将棋でもけっこうあることだ。

 そして、萩尾先輩もそうだったのか、5二玉と寄った。

 4五歩、4二銀、6九玉。


挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは、

「やっと入りましたね。これで先手陣は安定しました」

 と好評価。

 私も便乗しておく。

「後手は、しばらく受ける展開になりそうです」

 とりあえず、7筋を受けないといけない。

 7二金とか──あ、そう指した。

 先手は7九玉と、もうひとつ深く入ってから、4三銀、7四歩。

 それでも7筋から仕掛けた。

「突破できそうですか?」

 私の質問に、伊吹さんはしばらく考え込んだ。

「……微妙です」

「7筋は3枚の利きなので、先手が足りないと思うのですが……」

「7筋以外に揺さぶりをかけられると、けっこう困ります」

 そう? どこも備えてあるようにみえる。

 とはいえ、県代表クラスが言うのだから、傾聴には値した。

 6二玉、7七桂、7四銀、4四歩、5四銀、7四飛。


挿絵(By みてみん)


 あ、切った。

「これは珍しいかたちです。別々の駒で、角と飛車の両当たりです」

 私が興奮する中、萩尾先輩の手が、盤上を一周した。

 なにか指そうとして、ひっこめたようだ。

 今の動きからして、私は、

「7四歩、っぽかったように見えました」

 とコメントした。

「ですね……ただ、5五銀も、かなり有力だと思います。というか、7四同歩はヘタすると、9一角成、7三桂、7五歩くらいで困る可能性がありますね。王様が7三の地点に近すぎるので」

「取れないなら、後手不利ですか?」

「いえ、そこまでは言えないような……どっちかっていうと互角……」

 伊吹さんも、自信のない局面になってきたようだ。

 長門先輩としては、この段階で差をつけておきたいはずだ。

 

 パシリ


 5五銀が指された。

 8四飛、9二角、8二銀。


挿絵(By みてみん)


 こ、これは後手が悪いのでは?

「ほんとに互角ですか?」

 伊吹さんは口もとに手をあてて、アッという表情をしていた。

「そっか……8二銀と露骨に打たれたら、困るのか……」

 どうやら伊吹さんは、違う局面を互角と評価していたらしい。

 私はタブレットから顔をあげて、お茶を飲んだ。

 解説に夢中で、肩に力が入っていた。ひとまず落ち着く。

 ここまでは長門先輩の作戦勝ち。

 これって一発入れる展開、ある?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ