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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第5局 ジャビスコこども将棋祭り☆午前の部(2015年5月5日火曜)
52/682

40手目 高校生女子の部A1回戦 月代vs裏見(2)

 パシリ!


挿絵(By みてみん)


 駒音高く、私は金を叩いた。

 同金は4八角だから、取れませんよ。

 月代(つきしろ)さんもそれは分かってるから、6八金。

 ここで5三銀……じゃないか。それは5四桂、同銀、同馬がある。

「7一玉」

 私は、王様を早逃げした。

 1一馬、5三銀。これで、囲いの差は歴然。私のほうがいい。

 3六飛(次に5七金の狙いね)、5八金。私は先手陣に絡みついた。

「5九歩」


挿絵(By みてみん)


 くッ、これは手筋。

 同金、5七金、3三歩。

 月代さんの棋風なら、3一飛成かと思いきや、違ったわね。

 そこまでメチャクチャな攻め将棋じゃ、ないってことか。

 それとも、なにかイヤな筋がみえてた?

「1二飛」

 ああ、そっか、飛車打ちもあるのか。攻められているのに変わりはない。

 なるべく、最速の攻めをしないといけないわね。

 普通なら……普通なら、4八角かしら? ただ、5八歩で簡単に受かる。

 そこで継続手を……4五銀とか? 1六飛、5六歩、4六金、同銀、同飛、5七歩成、同歩、5七角成。これは、次の4二飛成行、同銀、同飛成の2枚換えが、成立してるかどうか次第ね。さすがに、飛車を入手したら、先手玉は寄るような……2八飛……6八香、同馬、同銀、8八金、7七玉(同玉は6八龍、7八合駒、7九銀以下の詰み)……ん? 駒が足りない?

 4八角は、ダメかもしれない。もっと厳しく……ピッ。

 私は顔をあげて、チェスクロをみた。

 うわッ! もう30秒将棋になってるッ!

 いい手、なにかいい手……駒が足りないなら、もっと堅実にいかないと……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!


挿絵(By みてみん)


 あんまり深く読んでないけど、さっきの順の応用。角と銀の順を入れ替える。

 3五飛なら、5六歩、4五飛、5七歩成として、と金の拠点が残る。

「こ、これは……?」

 月代さんは、まったく読みに入っていなかったのか、目を白黒させた。

 ピッ。彼女も30秒将棋。

「このまま3三馬? でも、清算したあとが……」

 それも怖い。3三馬、3六銀、4二馬、同銀、同飛成は、こっちが飛車得なんだけど、金銀を持ってないから、受けるのがむずかしい。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「1六飛ッ!」


挿絵(By みてみん)


 ふわあッ!? そっちッ!?

 これは……5六歩の防止か。受けたわけね。

 5六歩とはできないから、どこかに角を……4九? これが飛車当たりだ。

 2六飛と逃げて……まさか、6六に逃げたりはしないわよね?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 私は、4九角と打った。

 2六飛に3八角成。ぼんやりしてるようだけど、次に4八馬だ。

「ご、5六金」

 月代さんは、両取りを回避した。

 しかーし、これなら4五銀を打った甲斐があるわ。

 同……待った。同銀? もっといい手はないかしら。例えば、馬を寄って……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「4八馬」

 1六飛、5六銀、同飛。


挿絵(By みてみん)


 よし、0手で馬を4八に移動できたわ。ナイス。

「5七金」

 私は力強く、金を張り付けた。

 4六飛、4五歩、同飛、4四歩、4六飛、5八馬。

 私は優勢を確信する。歩が足りて助かったパターンだ。

 月代さんは29秒まで考えて、5四歩。これは無視。

 6九金、5三歩成、6七馬、8八玉、7九金、同玉、6八金、8八玉。

 おたがいに、指し手は速い。月代さんも、ほぼノータイム。

「7八馬」

「9八玉」

「8八銀」


挿絵(By みてみん)


 必至の手前まで追い込んだ。

 9六歩は8九馬、8六歩は8九銀不成で詰み。回避するには7九金があるけど、それは同金と取って、必至が完成する。

 私は背筋を伸ばして、月代さんの投了を待った。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「負けました」

 月代さんは、頭をさげた。

「ありがとうございました」

 私も一礼する。3人のなかで、一番早く終わったわね。90手くらい?

 月代さんは、ちょっとななめに傾いて、下唇を口のなかに巻き込んだ。

 納得がいかないようだ。まあ、飛車金交換からの完勝だからね。

「……3五飛と浮いたほうが、よかったですか?」

 月代さんのひとことで、感想戦が始まった。局面をもどす。


挿絵(By みてみん)


「5六歩の予定だったけど……」

 私は手元の歩をつまんで、小考した。そして、5六歩にパシリと打つ。

「これがイヤで、本譜は3五飛を見送りました。でも、本譜もひどかったですね」

「私も読み切れてたわけじゃないから、どっちもイヤかな。ただ、今になってみると、5六歩、4五飛、5七歩成の次に、3四角〜6七と、あるいは6七角成があるから、私のほうがいいと思う」

「あ、そっちですか。私は4五飛に4四歩があるんで、切っちゃいました」

 4五飛、4四歩? ……4六飛、5七歩成ってことか。

「でも、それは4四歩に5五飛って逃げるんじゃない?」

「ああ……たしかに、5七歩成、同飛ですか。と金は残らないですね」

「4八角、5六飛、5七金……これはちょっと、私が悪いわね。4八が生角だから。4四歩とムリしないで、すぐに5七歩成でいいと思うわ」

 だんだん、分かってきたわよ。あの時点で、私が有利だったみたい。

「3三歩と止められるまえに、飛車を成っといたほうがよかったですか?」

 私たちは、さらに局面を巻き戻した。

 

挿絵(By みてみん)


 私は黙って、5八歩成とする。月代さんは、6六馬と退却した。

「んー、そういう手があるのか……」

 私は6八と、同銀、6九角、7七玉、7八金まで進めた。

「……これもダメみたいですね」

「即寄りはないけど、6八の銀も拾えるし、こっちが鉄板ね」

「もしかして、5六飛って罠でした?」

 いいえ、読み抜けです。

「あれはちょっと、うっかりかな」

「飛車を切られてから、金で絡まれるまで、手数がほとんどないんですよね……」

 えーと、何手かしら。5六飛、6五角、5八飛成、同金、6三歩、5三歩、4二金、5四角、6四歩、2一角成、5七歩、6八金、7一玉、1一馬、5三銀、3六飛、5八金……17手しかないのか。

「軌道修正できそうなのは、4二金のところかしら」

「2二飛ですか?」

 局面をもどした月代さんは、ぴしゃりと飛車を打った。


挿絵(By みてみん)


 これねぇ……自分で提案してみたものの……。

「対局中に読んでたのは、4一に底歩を打って、2一飛成、6四歩」

「はい、私もその順です。先手が悪いと思いました」

 ふむ……軌道修正が効かないわね。もしかして、終始、私が有利だった?

「これがダメなら、もう6三歩に7五銀と引くしかないです」

「引かれたら……3三桂かな」

 振り飛車の左桂跳ねは、ほんとにキモチがいい。

「3一飛、4五桂、3六飛成とか、するかもしれません」

 えぇ……それはどうなの……悲観し過ぎじゃないかなぁ。

「負けました」

 あ、乃々村(ののむら)さんが負けた。

 ここは予想通りだから、しょうがないか。

「ほかに、なにかある?」

 月代さんは、すこしだけ考えこんだ。

「……ちょっと気になったんですけど、5七歩に手抜くのはありですか?」

 5七歩? それって……。

「金の頭を叩いたところ?」

「はい、そこで5四桂をちらっと考えて……」

 月代さんは局面をもどして、迷いながら5四桂と打った。


挿絵(By みてみん)


 ……ん、これは厳しいわね。

「7一玉、6八金、5三金?」

「はい、そのとき、形が悪いのかいいのか、よく分からなくて……」

「んー、ちょっと私の方がイヤかな……」

 5三金型よりは、5三銀型のほうが、いいもの。

 2二飛と打たれたとき、5二歩と打てないのも困る。

「これがあるなら、6四歩じゃなくて5七歩のほうが先だったわね」

 私は、手順前後を認めた。月代さんは、ウーンとうしろに仰け反った。

「こっちにしとけばよかったですね……本譜は自分から悪くしてます」

 いやはや、結果は完勝だったけど、内容は反省点が多いわ。

「ほかには、まだある?」

「いえ、ないです」

 じゃあ、感想戦はお開きにして、仲間の応援でもしますか。

「それじゃ、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 私たちは一礼して、3番席に向かった。


【先手:南海(なんかい)朱美(あけみ) 後手:渋川(しぶかわ)みどり】

挿絵(By みてみん)


 ほほぉ、こうなってるんですか。

 これは南海さん勝勢。入玉が確定してるうえに、渋川さんは身動きが取れない。

 いつ投了しても、おかしくない局面だけど……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「さ、3二銀……ッ!」

 受けましたか。でも、これはさすがにムリでしょ。

 2二角成(強い)、同玉、4二飛。

 これがあるから、4一銀とできないのよねぇ。王手放置になっちゃう。

 3一角は、同龍、同玉、4一金、同銀、2二金まで。詰み。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「に、2四歩……ッ!」


挿絵(By みてみん)


 がんばりますね。これには、ああして、こうして……。

「3二龍ッ!」

 切ったわね。さすがは南海さん、読み切り。

「ど、同金……ッ!」

 同飛成、同玉、4二桂成、2二玉(同玉は4三金、3一玉、3二金打まで、2三玉は1五桂、1四玉、2三銀、1五玉、1六金まで)、3二金、2三玉、1五桂、1四玉、2三銀、1五玉、1六金。

 頭金まで指しましたか。いかにも団体戦らしい。

「ま、負けました……ッ」

「ありがとうございました」

 一礼して、終了。チームも勝ち、と。

「途中、むずかしくなかった?」

 勝者から感想戦を始めるスタイル。

「な、7六玉と上がられたときは、もうダメだと思った……ッ」

「まあ、かなり早くから入玉確定してたからね。検討するならもっと前っしょ」

 ふたりはそう言って、局面をもどした。

 

挿絵(By みてみん)


 えぇ……中盤なのに入玉模様……実は南海さん、入玉派だった……?

「ろ、6二飛よね……ッ」

 渋川さんは、飛車を逃げた。当たり前。

「ここ、時間使いたかったんだけどねぇ……」

 南海さんは、5三歩と打ち込んだ。本譜の進行かしら。

「な、なにかあると思ったんだけど……ッ」

「6六金、同銀のあと、すぐ5九角と打ったら?」

 さくさくと駒が動く。


挿絵(By みてみん)


「こ、こんなの絶対足りてないと思うんだけど……ッ」

「4七飛、6五歩、同銀引、4五銀、同歩、8六角成は?」

「は、8七歩に5三馬……ッ?」

「そんな感じ」

「よ、4四銀が厳し過ぎるわ……ッ」

 私も、そう思う。これは、渋川さんの言ってることが正しそう。

 南海さんは背筋を伸ばすと、前髪を左右に分けながら、ため息を漏らした。

「うーん、そっかぁ……正直、30秒将棋で、全然分かんなかったんだよね」

「た、短時間で入玉されると、ほんとキツいわ……ッ」

 でしょうね。60秒あっても、わけわかんなくなるのに。

「も、もうちょっと前じゃないと、軌道修正できない……ッ」

「どのへんかな? 5六銀って打ち込んだあたり?」

 感想戦を続けるなか、アナウンスが入った。

《試合開始から、70分が経過しました。ただいまより、5分切れ負けになります。最寄りのスタッフの指示にしたがってください》

 どこか残ってる? ……男子が1箇所だけ残ってるわね。

 ということは、あと10分で必ず決着がつくということだ。

 私がそんなことを考えていると、見慣れた面子が視界に入った。

裏見(うらみ)先輩、おはようございますッ!」

「おはようございまぁす」

「おはようございます」

 箕辺(みのべ)くん、葛城(かつらぎ)くん、佐伯(さえき)くん。

「おはよ、みんなも参加してるの?」

「はい、Bクラスに『駒桜市幹事会』で出てます」

 と箕辺くん。

 なるほど、いつもの面子から、捨神(すてがみ)くんアウトの佐伯くんインってことか。

 箕辺くんはデニムジーンズに黄色い長袖シャツ、葛城くんは、短パンに花柄サンダルで、うえはピンクのカーディガン、佐伯くんはタキシード。服装がバラバラ。特に葛城くんは、女の子にしかみえない。

「ちゃんと勝ってる?」

「1回戦は3−0でぇす」

 あら、やるじゃない。

「……あれ? 箕辺くんと葛城くんって、県大会に出たことなかった?」

「あれは団体戦ですよ。引っかかるのは個人戦だけです」

 そういうことか。レギュレーション真面目に読んでないのがバレてしまった。

「ほかに、駒桜からだれか出てる?」

「高校は、古谷(ふるや)新巻(あらまき)五見(いつみ)がいました。中学も、多喜(たき)とか内木(うちき)とか……」

「たっちゃんの妹も来てまぁす」

 葛城くんの発言に、箕辺くんはデレた。

「ええ、妹も来てるんですよ」

「妹さんいるの?」

「はい、今年で中2です。俺と違って、市代表経験者なんです」

 ほぉ、それはまた凄い。兄より優れた妹ですね。

《ただいま、全試合が終了しました。5分後に2回戦を始めます》

 おっと、ようやく終わりましたか。

 これ、スケジュールがキツキツだから、長引くと休憩できないわね。

「それじゃ、裏見先輩、がんばってください」

「箕辺くんたちもね。また、お昼にでも会いましょ」

場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生女子の部Aクラス 1回戦

先手:月代 晶子

後手:裏見 香子

戦型:右銀急戦


▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3三角

▲4八銀 △4二飛 ▲6八玉 △9四歩 ▲7八玉 △7二銀

▲5六歩 △5二金左 ▲5八金右 △6四歩 ▲5七銀 △3二銀

▲3六歩 △6二玉 ▲3五歩 △同 歩 ▲4六銀 △3六歩

▲2六飛 △4五歩 ▲5五銀 △5四歩 ▲6四銀 △4六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲4七歩 △5六飛 ▲3三角成 △同 銀

▲3五角 △4四角 ▲同 角 △同 銀 ▲6五角 △5八飛成

▲同 金 △6三歩 ▲5三歩 △4二金 ▲5四角 △6四歩

▲2一角成 △5七歩 ▲6八金 △7一玉 ▲1一馬 △5三銀

▲3六飛 △5八金 ▲5九歩 △同 金 ▲5七金 △3三歩

▲1二飛 △4五銀 ▲1六飛 △4九角 ▲2六飛 △3八角成

▲5六金 △4八馬 ▲1六飛 △5六銀 ▲同 飛 △5七金

▲4六飛 △4五歩 ▲同 飛 △4四歩 ▲4六飛 △5八馬

▲5四歩 △6九金 ▲5三歩成 △6七馬 ▲8八玉 △7九金

▲同 玉 △6八金 ▲8八玉 △7八馬 ▲9八玉 △8八銀


まで90手で裏見の勝ち

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