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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第43局 日日杯3日目(2015年8月3日月曜)
504/681

492手目 途中経過

【3日目午後開始時:女子】

挿絵(By みてみん)


【3日目午後開始時:男子】

挿絵(By みてみん)


※ここからは、内木うちきさん視点です。

 昼食休憩も終わり、いよいよ3日目午後の部──の前に、総括。

 私と伊吹いぶきさんが担当ということで、大任をおおせつかってしまった。

 全モニタで中継されているらしい。緊張する。

「それでは、よろしくお願いいたします。内木うちき檸檬れもんです」

「よろしくお願いしまーす。夜ノよるの伊吹いぶきでーす」

「まずは女子の部から紹介いたします。上位8名の選手です」


 1位 萩尾萌   11勝1敗

 1位 鬼首あざみ 11勝1敗

 3位 大谷雛    9勝3敗

 3位 早乙女素子  9勝3敗

 3位 剣桃子    9勝3敗

 6位 桐野花    8勝4敗

 6位 温田みかん  8勝4敗

 6位 磯前好江   8勝4敗


「そうそうたる顔ぶれですが、伊吹さん、いかがでしょうか」

鬼首おにこうべさんと萩尾はぎおさんがぶっちですか。ここはもう決まりじゃないですかね」

 こらこら、断言しない。

「鬼首選手はこの8名のうち、4名との対戦を残しています」

「あ、そういう……萩尾さんも3名残してますね。だけどそこで全敗しても12勝5敗か13勝4敗です。決勝トーナメントは余裕そうですが」

「つまり12勝5敗が決勝進出ライン、と?」

「んー、むずかしいですね。12勝5敗までで4枠埋まるかと言うと……11勝6敗でプレイオフの可能性もあります。そうなると6位まではチャンスがあるかもしれないです」

 私も似たような予想だ。

 トップが14勝3敗で、4位に11勝6敗の団子ができるんじゃないかしら。

 私はそのことを伝えたうえで、原稿をめくった。

「次は男子の部です」


 1位 囃子原礼音 10勝1敗

 2位 六連昴    9勝2敗

 2位 石鉄烈    9勝2敗

 2位 捨神九十九  9勝2敗

 2位 吉良義伸   9勝2敗

 6位 鳴門駿    7勝4敗

 7位 葦原貴    6勝5敗

 7位 米子耕平   6勝5敗


 伊吹さんはリストをざっと見て、

「うーん、上位が団子ですね。とはいえ囃子原はやしばらくんはさすがに決まりでは」

 とコメントした。

「男子は上位陣同士の対局がかなり残っています」

「ああ、囃子原vs捨神すてがみ、囃子原vs吉良きら、捨神vs吉良、石鉄いしづちvs吉良が全部残ってるんですか……でもここから囃子原くん4連敗しないでしょ。あと、良く見たら六連むつむらくんは2位集団でもずば抜けてますね。上位陣との対局を全部終えて2位ですか」

「はい、のこり4名は全員負け越しの選手です」

「ってことは囃子原くん、六連くんが内定で、のこり2枠争いですね」

 内定を出すのが早いというに。

「伊吹さん、あまり予断を入れない方が……」

「いやいやいや、こういうのはずばり言ったほうが盛り上がります」

 たしかに、ごにょごにょされるよりはいいか。

 ここからどう持って行こうか悩んでいると、伊吹さんは、

「あれ? そういえばこれ、同順位が五十音順になってませんね。なんでですか?」

 とたずねた。

「残りの対戦相手の順位を足して、数が大きい順になっています」

「……ああ、そういうことですか。それも出してもらえません?」

 私はスタッフのひとに頼んだ。

 すぐに結果が出てくる。


 1位 萩尾萌   11勝1敗 32

 1位 鬼首あざみ 11勝1敗 24

 3位 大谷雛    9勝3敗 43

 3位 早乙女素子  9勝3敗 42

 3位 剣桃子    9勝3敗 40

 6位 桐野花    8勝4敗 51

 6位 温田みかん  8勝4敗 43

 6位 磯前好江   8勝4敗 34


 1位 囃子原礼音 10勝1敗 30

 2位 六連昴    9勝2敗 50

 2位 石鉄烈    9勝2敗 25

 2位 捨神九十九  9勝2敗 23

 2位 吉良義伸   9勝2敗 18

 6位 鳴門駿    7勝4敗 38

 7位 葦原貴    6勝5敗 35

 7位 米子耕平   6勝5敗 28


 おっと、これはおもしろい。

 私は数字を見比べながら、

「男子は六連選手が最大で、吉良選手が最小です」

 とコメントした。

 伊吹さんも、

「やっぱり勝敗数以上に六連くんが有利ですね。女子は鬼首さんが一番きつくて桐野さんの相手がダントツで楽です。こうなると、1位~3位あたりから脱落者が出て、6位のメンツが割り込んでくる可能性もありますね」

 と分析した。

「男子も同様で、鳴門選手は十分に射程圏内だと思います」

 なんとなくいい感じで収まった。

 時間的にもこのあたりで切り上げ。

「以上、中間発表でした。まもなく午後の部が始まります。なお、本解説席は大谷おおたにvs萩尾戦をお送りいたします。引き続きお楽しみください」

 いよいよ午後の部の開始だ。

 対局画面へ移動。

 私は集めておいたデータを読み上げる。

「大谷vs萩尾は過去の対戦成績が1回、萩尾選手の勝ちです」

「大谷さんは残りが極端ですねぇ。暫定1位が2人で、のこりの3人が17位、13位、11位ですか。とはいえ、萩尾、鬼首で両方負けても12勝5敗ですし、9勝3敗陣のなかでは有望」

「両者居飛車党なので、矢倉か角換わりを予想します」

 ここでスタッフの声が入った。

《まもなく再開になります》

 いったん解説を中断。


 ……ピポ


 7六歩、8四歩、6八銀、3四歩、7七銀。


【先手:萩尾はぎおもえ(Y口県) 後手:大谷おおたにひよこ(T島県)】

挿絵(By みてみん)


 私は「矢倉のようですね」とコメントした。

 伊吹さんからの反応は特になし。

 6二銀、2六歩、4二銀、2五歩。

 あ、突き越した。

 私はすかさず、

「飛車先の歩がすこし早いです」

 とコメントした。

 伊吹さんも、

「単純な矢倉じゃなさそうです」

 と予想した。

 昔ながらの矢倉は、プロでも減っている。

 大谷先輩や萩尾先輩レベルなら、その動向も追っているだろう。

 3三銀、4八銀、3二金、5八金右、5四歩、5六歩。

 午後一から飛ばしてもよくないので、雑談タイム。

「伊吹さん、H島で美味しかったもの、なにかありますか?」

「美味しかったもの? ……もみじまんじゅうですかね」

「味はどれがお好きですか?」

「んー、こしあん?」

「私はつぶあん派です」

「まあN良のおまんじゅうと比べたら味が……」

 伊吹さん、そこで急に言葉に詰まる。

「どうしてN良と比べるんですか?」

「え……いや、ほら、そこはあれですよ、おまんじゅうの発祥はN良なので」

「そうなんですか?」

 伊吹さん、自慢げに話し始める。

「おまんじゅうというのはですね、14世紀に日本へ帰化した中国人の林浄因というひとが作ったものなんです。中国にはもともとマントウという食べ物があって、これに砂糖で甘くした小豆を入れたのが日本のおまんじゅうなんですねぇ」

 ぐぅ、歴史の古さと教養にごまかされた。

 4一玉、7八金、7四歩、6九玉、5二金、3六歩。


挿絵(By みてみん)


 両者、慎重に進めている。

 どちらかが研究してきた、というわけでもないようだ。

「後手は4四歩が遅いように見えます」

「後手のほうが変則的な感じはしますね。ただ先手も様子見くさい駒組です」

「ここから4八銀を動かさずに3七桂ならば、森下システムに似ます。森下システムの場合は2五歩をまだ入れていないかたちなので、厳密に同じとは言えませんが」

「森下システムのメリットは『相手の出方を見る』なので、2五歩を決めてる状態ではあんまり柔軟性がないんじゃないですかね。かと言って3七桂と跳ねないなら、銀を早めに繰り出したほうがいいと思いますけど」

 7三桂、6六歩、6四歩、6七金右、1四歩、7九角、4四銀。


挿絵(By みてみん)


 伊吹さんはこれを見て、

「はは~ん、そうしますか」

 とつぶやいた。

「4四銀は強い印象です」

「とはいえ最善ですね。先手が入城しないうちに、5五歩で仕掛けると思います。以下、同歩、同銀、5六歩、4四銀で収めたあと、今度は3五歩で桂頭を狙うはずです」

「だとすると先手は3七桂と跳ねないのでは?」

 伊吹さんはすこし考えた。

「……それでも跳ねる手があると思います。3七桂、5五歩、同歩、同銀、5六歩、4四銀の瞬間に2四歩と突けば、先手もやれます」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 なるほど、反動で攻めるわけか。

 4四銀と出た以上、2筋が弱くなるのは必定。

「萩尾選手、長考中です」

「2筋以下を掘り下げてるかもしれないです。決まれば一気に先手有利ですから」

 将棋は基本的に攻めるほうが有利。

 大谷先輩の4四銀も、主導権を握りたいという手だ。

 萩尾先輩はなんと5分消費して、3七桂と跳ねた。

 今度は大谷先輩が長考。

 私は、

「さきほどの3七桂のところで、他の手はありましたか?」

 とたずねた。

「9六歩の様子見はあったんじゃないですか。その場合、後手は5五歩、8五歩あるいは8五桂の3種類が考えられますけど、どちらにせよ2四歩は入りそうです」

「となるとあの時点で、2四歩は高確率で入る状態でしたか」

 萩尾先輩の駒組みが達者だったように思う。

 一見中途半端にみえて、4四銀以下の局面を想定していたのだろう。

 私が感心していると、大谷先輩は5五歩と仕掛けた。

 同歩──ん? 6三銀?


挿絵(By みてみん)


「この手はなんでしょうか?」

 私の問いかけに、伊吹さんも困っていた。

「固めたっぽいですね……5五同銀に2四歩だともたないのかな……」

 考えるヒマもなく、萩尾先輩は9六歩。

 うむむ、よくわからなくなってきた。

 とりあえずアドリブでコメントしておく。

「9六歩自体は先ほどの解説にもありました。しかし今のところは2四歩と先攻するチャンスでもあったので、謎が残ります」

 いきなり解説が当たらない展開。不安になってきた。

 この将棋、どっちが勝ってもハイレベルになりそう。

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