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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第43局 日日杯3日目(2015年8月3日月曜)
492/682

480手目 ちくわちゃん

※ここからは、米子よなごくん視点です。男子第10局開始時点にもどります。

 いやぁ、きついっす。

 葦原あしはら先輩よりは上なんだけど、上位5人が崩れそうにないんだよね。

 まあがんばるしかない。

 次はS根の光彦みつひこと。俺っちが会場入りすると、駿しゅんに声をかけられた。

「おはよ。今朝レストランにいなくなかった?」

「コンビニでパン買ってた。コーヒーは部屋のインスタント」

 駿は笑った。

「食べ飽きたってわけ?」

「なんか食べ過ぎるんだよね。自制心ないから」

「お腹パンパンになるのはよくないか。夕食も豪華だし、デザートまで出るから気をつけないといけないね。でもコーヒーくらい下で飲みなよ。今朝丸けさまる先輩も心配してたし」

 コーヒーだけってのもなんか変な気がする。

 俺っちは「明日はまた考えるっす」とだけ伝えた。

 駿と別れると、当の今朝丸先輩につかまった。

「米子くん、体調が悪いのかね?」

「食べ過ぎるんで、コンビニで済ませました」

「ふむ、こうも連日歓待されると太りかねないな」

「でしょ。女子とか昨日残してましたよ」

 腹肉が気になるからね。しょうがないっす。

 と、そこへ真沙子まさこちゃんも登場。

「ふたりともなんの話?」

「食べ過ぎの話っす……なんで動揺するの?」

「ど、動揺してないし」

 さては自覚があるね。触れないけど。

「ところで真沙子ちゃん、毎日同じ服着ててだいじょうぶなの?」

「着てないわよ。4着持ってきてるもん」

 えぇ……そのカウボーイ服、何着持ってるの。

 でもある意味合理的か。お気に入りの私服を3泊分も用意するの大変だし。

 真沙子ちゃんは腰のホルダーからモデルガンをとりだして、くるくる回しながら、

「残り全勝を目指してがんばりましょ」

 と言った。それ昨日も聞いたっす。

 まあ全勝しないと決勝トーナメント出られそうにないけどさ。

 俺っちはそれからすこし雑談して、対局テーブルへ。

 光彦は先に座っていた。

「こんちゃっす。今日はよろしく」

耕平こうへい、ひさしぶりぃ」

 椅子を引いて着席。

 準備は終わってるから、やることがない。雑談。

「最近SNSでちくわちゃん見ないっすよね。元気?」

「ああ、妊娠してた」

 マジっすか──あ、ちくわちゃんっていうのは光彦が飼ってるフェレットね。

 捨てられてたのを拾ってきたらしい。

 白と茶の毛色だから、ちくわみたいでカワイイ。 

「赤ちゃんどうするの?」

「んー、C葉のかづらにゆずる予定」

「え、白須しらすくんにっすか?」

「あいつ飼ってたフェレット亡くなったんだよね。泣いてたからやる」

 光彦、なんだかんだで優しい。

 人間嫌い自称してるのに。

 俺っちにもなんかゆずってくれないかな。

 でもこっちから頼むと怒るんだよね。気難しい。

《間もなく定刻になります。対局準備はよろしいでしょうか?》

 おっと、始まるっすよ。静粛に。

《では、始めてください》

「よろしくお願いします」

 一礼して対局開始。

 7六歩、3四歩、2六歩。

「9四歩」


挿絵(By みてみん)


 光彦は振り飛車党っすね。

 これは藤井システム調。

 俺っちも穴熊にする予定じゃないので突き返す。

 9六歩、5四歩、2五歩、5二飛。

 中飛車っすか。

 6八玉、5五歩、4八銀、3三角、3六歩。

 光彦はこの手をみて、

「ふーん、速攻か……」

 とつぶやき、椅子をうしろに傾けてぶらぶら。

 危ないっすよ。

「6二玉」

 囲い始めたっすね。

 3七銀、7二玉、4六銀、3二金、5八金右、4二銀。


挿絵(By みてみん)


 どうするかなあ。

 四間なら3五歩で単純に開戦できるけど、ゴキゲンだからそうもいかないんっすよね。

 超速でもないし。

 5六歩と攻めてくるの待ったほうがいいかも。

 7八玉、8二玉、6八銀、7二銀、7七角。

「耕平、攻めてこないの?」

「見たまんまっす」

「じゃあ俺から攻めるよ。5六歩」

 俺っちは6六歩。

 5七歩成、同銀上、4四歩、6七金、4三金、5六銀。


挿絵(By みてみん)


 これで十分。ちょっともたれて指す。

 5三銀、3七桂、6四歩、1六歩。

「んー、ほんとに攻めてこないんだな……」

「光彦っちから2四歩と突くのはどうっすか?」

「アホか……」

 光彦は5四歩。あっちも慎重。

 どうするかなあ。

 どうしても攻めてこないから、3五歩のタイミングを計るっすか。

 8八玉、6三銀、7八金、7二金、2六飛。

 これがあからさまな3五歩の合図だから、光彦も小考。

「……5一角」

 ここで3五歩。


挿絵(By みてみん)


 どうっすか。

 多分同歩はしてこないかな。3四歩に同金で盛り上がってきそう。

 この予想は当たって、光彦は7四歩。

 3四歩、同金、3六飛、3二飛。

 これには6八角で対応。3筋は俺っちのほうが優勢。

「8四角」

「2四歩ッ!」

 同歩に2二歩。

 光彦長考。たぶん3筋を清算してくる。

 3五歩と打ってくるんじゃないかな。

 同銀、同金に同飛としたいね。ちょっと怖いけど。

「……3五歩」

 ほい。同銀、同金、同飛、同飛、同角。

「先着ッ! 3八飛ッ!」

「早けりゃいいってもんじゃないっすよ。4五桂」


挿絵(By みてみん)


 これが銀当たり。3五飛成、5三桂成はさすがに先手有利。

 光彦も6二銀と逃げた。

 俺っちは4四角で角を救出。

「6九銀」

 うーん、急所。6八金寄とするか7九金とするか。

 6八金寄は5八銀不成、同金、同飛成、6八金打と弾く展開。

 7九金打は7八銀成、同金、6五歩で上から攻めてきそう。

 俺っちは両方を検討して、後者を選択。7九金打。

「そっち?」

「6八金寄で読んでたっすか?」

 光彦は黙って7八銀成。

 同金、5五歩。


挿絵(By みてみん)


「そっちっすか?」

「6五歩で読んでた?」

 読みが合わない。

 5五歩ってなに? 同銀に? ……3四金?

 角を切らせるつもりかな。6二角成がそんなに悪いとも思えない。

 5五同銀、3四金、6二角成、同角ならこっちの手番だよね。

 飛車を打つこともできるし、5三銀でべったり張り付くこともできる。

 2分ほど念入りに考えて、同銀。

 光彦はほんとうに3四金と打ってきた。

 6二角成、同角、5三銀。


挿絵(By みてみん)


 これでよくない? ダメ?

 3一飛も考えたけど、飛車抜けなさそうなんだよね。

「5三銀か……じゃあこうかな」

 光彦は6九角と打った。

 俺っちは6八金寄、5八角成に、7八飛。

 自陣飛車で受けた。

 この飛車はすぐに交換することを予定してる。

 そしてその通りに進んだ。

 6七馬、同金、7八飛成、同玉、7三角。


挿絵(By みてみん)


 逃げたね。5八飛の王手銀取りは殴り合い負けとみたかな。

 かと言ってここで受けても4五金と取られちゃう。

「4二飛ッ!」

「桂馬を助けたか。5八飛ッ!」

 6八角、5五飛成、5六銀打、5一金。


挿絵(By みてみん)


 っと、そう来るか。まさかの飛車龍交換のお誘い。

 俺っち、手が止まる。

 7二飛成、同銀、5五銀で飛車は回収できるけど……その次に後手がどうするか。

 4九飛? それとも5八銀?

 攻め駒が足りないとみたら4五金かな。

 この3つの善悪がよくわからない。

 4九飛はそんなにプレッシャーないから、6四銀上で良さげ。

 5八銀は5七金と受ける必要あり。そこで4九飛か4五金。

 最初から4五金は6四銀上と出て……そこで5八銀、5七金?

 もしかして流れ的に合流する感じ?

 俺っちはチェスクロを確認。のこり時間は先手が9分、後手が10分。

 終盤に5分くらい残しておきたい。

「7二飛成」

 同銀、5五銀。

 ここで光彦が2分小考。

「……4五金」

 そっちね、了解。6四銀上。

 光彦はさらに1分小考。

 さっき結論出してなかったのかな。なにか悩んでるっす。

「これに賭けるか……5五桂」


挿絵(By みてみん)


 桂打ちっすか──あれ?

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