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469手目 恋バナ

※ここからは、不破ふわさん視点です。

《打ったああああああッ! これは大きいッ! 入るかッ!? 入るかッ!? 入ったぁああああああッ! 読切ジャイアントさよならホームラン!》

 早乙女さおとめは泡を吹いてぶっ倒れた。

 そのとなりで宇和島うわじまは大はしゃぎ。

「やりましたッ! 大正義巨神軍、大勝利ッ! 正義は勝つッ!」

 宇和島は目の前のスクリーンに向かって、『熱血込めて』を歌い始めた。

 おまえ敵の本拠地でよくジャイアント応援できるな。

 まあいいんだが。あたしはカァプ女子でもなんでもない。

 ここはホテルの休憩スペース。大きめのテーブルにソファー、テレビ付き。

 安奈あんなと無事合流したあたしは、早乙女たちと野球を観ることになった。

 メンバーはあたし、早乙女、安奈、宇和島、那賀なが

 宇和島と那賀は初対面だったが、すぐに打ち解けた。

 早乙女たちが野球観戦している横で、あたしは安奈と恋バナをしてた。

 このほうが女子高生らしいだろ。

 あたしはソファーに寝そべって、ここまでの話を総括する。

「で、安奈はその後の進展なし、と」

かえでさんもないみたいだけど」

 くッ、その通りだ。

 なにが足りてねぇ? もう付き合っていいレベルじゃね?

「やっぱりこっちから仕掛けるしかないのか?」

「なんだか話がループしてるわね。5回の表のときもその話題だった気がするわ」

「ぶっちゃけあいつから告ってくるイメージが湧かねぇんだよな」

「たしかに、彼ってかなり変わってそうではあるわね」

「おーい、他人の男の悪口言うのはNGだぞ」

「あら、ごめんなさい……並木なみきくんからの告白はワンチャンあると思ってる」

「そうか? 安奈から攻めたほうがよくね?」

「攻めが切れたらどうするの?」

「おまえの場合、最後は襲うっていう選択肢があるぞ」

 安奈はあたしの額にチョップした。

「並木くんにそんなことしていいわけないでしょ」

「いててて……冗談だよ。真に受けるな」

 ここで宇和島が歌い終えた。

「いやぁ、これで今夜は快眠ですね……おふたりとも、なんの話をしてるんですか?」

「恋バナ」

 宇和島はメガホンを胸元にあてて、

「あ、いいですね、女子会っぽくて……おふたりには、どなたか意中のひとでも?」

 とたずねてきた。

 あたしは「いるよ」と単刀直入に答えた。

 安奈はすこしもじもじして、

「気になってる男子はいるわ」

 と答えた。

 気になってるっていうレベルじゃないだろ。

 っていうか宇和島は聞き耳もなにも立ててなかったんだな。

 そっちのほうが好感は持てる。

 那賀も便乗してきた。

「うらやましいお話ですじょ。楓ちゃんの好きなひとはやっぱりリーゼントですじょ?」

 それは偏見。

 っていうかリーゼントの男なんてイマドキいない。

「あたしの好きな男はだな……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………なんて説明すればいいんだ?

 将棋バカ……は説明になってないしな。

 あたしが変人みたいに思われる。

「んー、なんつーの、幼馴染」

「それまた純情ですじょ」

 だろ? あたしは純情だからな。

「安奈ちゃんの好きなひとはマジメくんですじょ?」

「そうね。とても誠実なひとよ」

 ここで宇和島が割り込んできた。

「っていうか、あの並木ってひとですよね」

 一発で当てられた安奈は動揺した。

「……どうして分かったの?」

「分かりますよ。話してるときの調子とか、視線のかわし方とか。距離感もただのスタッフ同士っぽくなかったですし。じつは付き合ってるんじゃないですか?」

 安奈は赤くなった。

「……まだ付き合ってはいないわ」

「ほんとですか?」

「ほんとうよ。いっしょに買い物や食事はするけど……ほかには、並木くんが迷っているときに服を選んだり、将来の職業を相談したりするくらいかしら」

「???」

 宇和島が混乱してるだろ。

 安奈と並木の関係って、途中をスキップして夫婦になってる気がするんだよなあ。

 それで告白のタイミングが消滅してるんじゃないか。

 那賀もつっこみを入れる。

「それはお付き合いしてるって言わないんですかじょ?」

「付き合うっていうのは告白から始まるんじゃない?」

「そうなんですかじょ? だったら告白したらイケるんじゃないですかじょ?」

 安奈は、ますます赤くなる。

「……失敗したときに首を吊らないといけなくなるでしょ」

「あ、愛が重いですじょ」

 宇和島がここで便乗。

「雰囲気的にイケると思いますけどねぇ」

伊代いよさんは失敗したときの責任が取れないじゃない。腹でもさばいてくれるの?」

「ひえぇ、切腹はしません」

 神崎かんざきに介錯してもらうか。スパッとやってくれそうだ。

 っと、こっちばっか質問攻めに遭ってるな。

 ここは反撃するぜ。

「伊代は好きな男子とかいないの?」

「そうですねぇ、カッコいいな、というひとはいますが、好きかと言われると……」

「すみれは?」

 那賀は照れながら、

「じつは鳴門なると先輩のことちょっと好きですじょ」

 と言った。

 あいつかあ。なんかバンドマンみたいだよな。

「接点けっこうあるんじゃね? 同郷の将棋指しだろ?」

「残念ながら、鳴門先輩はすみれに興味がなさそうですじょ。たぶん妹枠ですじょ」

 なるほどね……それはまたツライな。

 安奈は素面にもどって、

「恋愛が成就しない女子会になってるわね」

 とまとめた。

 恋愛成就しない部……どうすれば成就するんだ。

 詰め将棋より難しいな、これ。

「だれか彼氏いるやついないの? いたらいろいろ教えてもらいたいんだけど」

 安奈は髪を撫でながら、

西野辺にしのべ先輩にはいるはずよ」

 と答えた。

「マジで? あいつめちゃくちゃ性格悪いだろ?」

「性格が悪いんじゃなくて口が悪いだけよ」

 くそぉ、あたしみたいに純情で無口じゃダメなのか。

 世の中不公平だぜ。

「ちなみにどこのどいつ?」

城南じょうなんの生徒会長ってうわさ。幼馴染らしいわ」

 ぐッ……幼馴染か。ちょっとアドバイス聞きたくなった。

「今から呼び出して話聞けね?」

「選手だから呼び出しは不可よ。コンディションが大事なんだし」

「伊代とすみれだって選手だけど、ここにいるだろ」

 宇和島は頭をかいた。

「私は1勝9敗なのでもう諦めました。遊んでもいいかな、と」

 おーい、どういうことだ、マジメにやれ。

 米長哲学だぞ、米長哲学。

 あたしはソファーに寝っ転がりながら、

「西野辺かぁ……西野辺に彼氏いるなら、イケる気がしてきた」

 とつぶやいた。

「女は度胸ですじょ。当たって砕けるですじょ」

 いや、砕けたくはない……っていうか、告白してダメだったとき、次の日からどうすればいいのかがよくわかんねぇ……そこが解決すれば……あとはクソ度胸で……。

 とそのとき、廊下を風呂上がりの西野辺が通った。

 うわさをすれば影じゃないか。

 あたしはレクリエーションルームから出て呼び止める。

「おーい、西野辺」

 髪を拭いていた西野辺はふりかえった。

「あれ? なんで楓ちゃんがいるの?」

 まあまあ、とりあえず入れ。

 あたしは西野辺を連れ込んで、事情を説明した。

「彼氏の作り方? そんなの知らないよ」

「またまた、ネタはあがってんだぜ。彼氏持ちなんだろ?」

「え、だれから聞いたの?」

「風のうわさだよ、うわさ。で、どうやって作ったの?」

「作ったっていうか、私と彼氏は幼稚園のときから幼馴染だし、もう運命でしょこれ」

 う、運命? こいつすごい発想してるな。

 それでも進学校か。

「幼馴染でもきっかけってもんがあるだろ」

「んー、たしかにコクったのは私だけど……ふたりで駅のホームにいたとき、『あしたもこんなふうに……ううん、これからずっとこんなふうにいられるかな?』って言って、おたがいに目があって、それからこうチューっと……」

 ひゃー、乙女なあたしには刺激が強すぎるぜ。

 一方、安奈は、

「そのシチュエーション、参考にさせていただきます」

 と言った。鼻血出てるぞ。

 西野辺は時計をみあげる。

「っと、そろそろ解散しないとマズくない? もう9時半過ぎだよ?」

 たしかに良い子は寝る時間だ。

 あたしは気絶した早乙女を抱き上げて、

「じゃ、こいつはあたしが部屋まで送っておくから」

 と言い、レクリエーションルームを出た。

 早乙女のポケットからルームカードキーをさぐりあてて、番号を調べる。

 そのまま部屋のまえまで行って、カギを開けた。

 えーと、電気は……ここにカードを差し込めばいいのか。

 部屋の灯りがつく──いい部屋じゃーん。キングサイズのダブルベッド。

 あたしは早乙女を奥のベッドに寝かした。

「おーい、早乙女ぇ?」

「……」

「早乙女素子さーん?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………よし、返事はないな。今夜の寝床ゲットだぜ。

 じつは泊まるところなくて困ってたんだよね。

 シャワー浴びて寝よっと。

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