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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第42局 日日杯2日目(2015年8月2日日曜)
471/682

459手目 トップグループ

※ここからは、石鉄いしづちくん視点です。

【先手:石鉄いしづちれつ(E媛県) 後手:長尾ながおあきら(K川県)】

挿絵(By みてみん)


 この局面……イケると思います。

 男子の2日目は9回戦で終わり。これを勝てば8−1でフィニッシュ。

 お昼ご飯のとき、みかんちゃんに連勝を誓いました。

 押し切ります。


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 長尾先輩はこの手をみて、うーんと考え込みました。

 本命は9五歩を読んでいます。

 以下、8六桂と支えて、8五歩、9三歩です。そこで8六歩なら9二歩成、7一玉、8二とと王手しながら金駒かなごまを取れます。そのあと8四角と切るかどうかなんですよね。


挿絵(By みてみん)


 (※図は石鉄くんの脳内イメージです。)

 

 切らないと繋がらないかな、とは思うんですが……同金、9三銀、8三玉、8四銀成、同玉のあとが問題です。そこで5三金はどうですか? 飛車取りですよ?

 飛車を入手できれば一応続くはずです。多分。

 ただ寄せがあるかどうか……僕の玉頭も危ないんですよね。それに、取った飛車をどこに打つのかも問題です。先に香車を成ったほうがいいのかな、とか、そのあたりも。

 

 パシリ


挿絵(By みてみん)


 ……あ、読みが外れました。

 これは同香に8五桂ですか?

「……同香です」

 8五桂。

 ほんとにそうなんですね。

 どうなんでしょう……とりあえず9二香成とします。

 7一玉、8二成香、同……飛ッ!

 罠……じゃないですよね? 8四角、同金、7三銀でどうするんですか?

 8四角を取らないつもりでしょうか?

 これはちょっと考えないといけませんね。

 早指し将棋なら相手のミスかな、と思ってしまいますが──

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………8四角に4二角ですか?


挿絵(By みてみん)


 (※図は石鉄くんの脳内イメージです。)

 

 8六歩、9七桂成、同玉なら、8四金、7三銀に9二飛の王手ですか。

 ただ……これでも先手がいいと思います。

 9七桂成に7九玉と引いたのと、どっちがいいですか?

 むずかしいですね。

 慎重に行くなら7九玉、積極策なら9七同玉。

「……8四角」

「んー、さすがにそれは見落としてくれないよね。4二角」

 8六歩、9七桂成。

 僕は王様にゆびをそえて──

 

挿絵(By みてみん)


 こっちです。ひよりました。

 明日の第1局は捨神すてがみ先輩との大一番。

 今日はなにがなんでも8−1で終わらせます。

「そっちか……8四金」

 7三銀、8三金、8二銀成、同金、9一飛。

 成桂も抜きます。

 ちょっと消極的すぎますが、一貫性大事。

 8一金、9七飛成。

 

挿絵(By みてみん)


 長尾先輩は右手をひたいにあてて、前傾姿勢に。

 ゆらゆらと前後に揺れてます。

 先輩のほうは、助かったと思ってる可能性があるんですよね。先輩から感じる圧が強くなってます。おそらく9七同玉コースを若干悲観していて、逆に僕の7九玉をチャンスと見たんじゃないかな、と。

 だけど僕も、読みで負けているとは思いません。これは先手良しです。多分。

 長尾先輩は残り5分まで考えて、3九角と打ち込みました。

 僕は1分ほど読んで7三桂の反撃。

「え……それは……」

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 あッ、飛車龍両取り……は読み切りですッ!

 8一桂成、6二玉、9四歩、2八角成、9三歩成。

「入玉阻止……はムリか。3九飛」

 6九歩、5二玉。

 ん? この動きは──

 8三と、3二銀、7三と、4三玉、6三と、2九馬。

 

挿絵(By みてみん)


 長尾先輩も入玉に切り替えですか。そうはさせません。

 9三龍で再出動。

 9二歩、8三龍、6一香。

 ちょっとイヤらしい絡め方ですね。

 6二とで王手香取りになるんですが、攻めは遅くなります。

 限界まで粘る気ですね……僕はここで小考。

 2五歩がめちゃくちゃ効いているので、このあいだになんとかします。

 ああしてこうして──

「5三金」

 長尾先輩はこの手をみて、悩ましげな表情。

 そのまま1分将棋へ。

 

 ピッ ピッ ピッ ピーッ! パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 それしかありませんよね。

 あとは2二に押し込むだけです。

 4二金、同玉、5三と、3一玉、4二銀、2二玉、4一銀不成。

 そろそろ投了してくれそうですか?

 

 ピッ ピッ ピッ ピーッ! パシリ

 

 同銀……まだ指しますか。

 では必至か詰みになるまで。

 4三と(詰めろ)、1二玉、3一角(詰めろ)、2二桂。

「2四桂ですッ!」


挿絵(By みてみん)


 長尾先輩はタメ息をつきました。

「同歩、同歩で寄りだね……投了」

「ありがとうございました」

 やりました、みかんちゃん。首位グループで2日目終了です。

 長尾先輩は水をひとくち飲んでから、

「9七歩〜8五桂はやりすぎだったね」

 と言いました。感想戦です。

「そうですね……9五歩くらいかな、と思いました」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「そっちも考えたんだけど、8六桂〜9三歩、9二歩成くらいでダメかな、と思った。あと石鉄くんが7九玉と引いたのも誤算だったよ。同玉のほうをメインに読んでた」

「そこは僕も迷いました。9七同玉でも先手がいいかな……と思います」

「うーん、そっか……それで悪いなら端攻めにムリがあったかも……」

 長尾先輩が悩んでいるなか、僕は捨神先輩のほうをチラ見。

 まだやってますね。

 距離があるので、局面はまったくわかりません。

「石鉄くん、あっちの対局観たいの?」

「あ、いえ……すみません」

「いいよ、中盤から僕が悪かったし、またあとで検討しようか」

 すみません、ありがとうございます。

 おたがいに一礼して、僕は席を立ちました。

 となりのテーブルを遠目に観戦。


【先手:捨神すてがみ九十九つくも(H島県) 後手:葦原あしはらたつる(S根県)】

挿絵(By みてみん)


 ……先手がいいですか?

 後手敗勢ってほどじゃないです。

 葦原先輩は微動だにせず、盤面に集中。

 

 ピッ ピッ ピッ ピーッ! パシリ

 

 3一金。

 葦原先輩のねばりが効くかどうか。

 捨神先輩も秒読みになってます。

 

 ピッ ピッ ピッ ピーッ! パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 ……あッ! 同歩だと2三金、同玉、3四銀、1二玉、2三金までですか。

 筋に入ったかもしれません。

 葦原先輩の顔も、すこしだけ険しくなりました。

 

 ピッ ピッ ピッ ピーッ!

 

 2二玉、3二金、同金、同桂成、同玉、4一金打。

 

挿絵(By みてみん)


 わかりやすい詰めろ。

 4二馬、2二玉、3一馬、3三玉、3四金までです。

 葦原先輩、ねばってください。ネバーギブアップ。

 

 ピッ ピッ ピッ ピーッ! パシリ

 

 3一金と受けました。

 捨神先輩はノータイムで4二馬と切ります。

 葦原先輩は扇子をひらいて、それからまた閉じました。

「切りましたか……」


 ピッ ピッ ピッ ピーッ!

 

「同金」

「3一金」


挿絵(By みてみん)


 詰んではいません……が……。

 葦原先輩は3三のルートから脱出。

 3四銀打、2四玉、4二金、2二桂、2五金。

 包囲網。

 1三玉、2一金、3四桂。

 捨神先輩は、静かに端歩を伸ばしました。


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………決まったっぽいです。

 葦原先輩は目を閉じて、扇子で口もとを覆いました。

 投了する直前のくせですね。ということは──

「これが詰めろでは、どうにもなりません……投了です」

「ありがとうございました」

 捨神先輩は大きく息をつきました。

 これでおたがいに8−1です。

 葦原先輩は涼やかな声で、

「詰めろに気を配りすぎました。真綿で締められる順を想定しておらず……」

 と、感想戦を始めました。

 捨神先輩は対局を思い出すように、

「キレイに寄せる順が見えなかったです。6三歩に2二金でしたか?」

 とたずねました。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 葦原先輩は扇子で5二の地点を指して、

「これは5二金と補強する手を読んでいました」

 とのこと。

 捨神先輩もうなずきました。

「以下、5四銀、7六飛打、3二金打、5一玉で左に逃げられますね」

「ただ、こちらもいずれ包囲されると思いました。例えば5一玉以下、6三銀不成、7四飛、同銀成、5三銀、6五桂とすれば、馬を代償にした挟撃になります」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 さすがは葦原先輩、丁寧に読んでますね。

 12回戦では葦原先輩とも当たります。要注意です。

 そのあとは中盤を調べて、感想戦も終わり。

 先輩たちは席を立ちました。

 僕は捨神先輩と目が合います。

「あ、石鉄くん、おつかれさま……どうだった?」

「勝ちました」

 捨神先輩は「そっか」と小声になったあと、

「じゃあ明日の対局は8勝1敗同士だね」

 と言いました。

「はい」

 と、返事をしたものの……なんて続けましょうか。

 僕が迷っていると、捨神先輩が先に、

「負けたほうがちょっと厳しくなるね」

 と言いました。

 盤外戦術……じゃないですね。ただの事実です。

 そう、将棋指しは事実を見ないといけません。

 そして捨神先輩なら、僕のこの発言も受け入れてくれるはずです。

「明日は負けませんよ」

「アハッ、僕も負けないよ」

 どちらの世界線に入るか、尋常に勝負です。

場所:第10回日日杯 2日目 男子の部 9回戦

先手:石鉄 烈

後手:長尾 彰

戦型:後手四間飛車


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二飛

▲6八玉 △3二銀 ▲7八玉 △9四歩 ▲5六歩 △4三銀

▲5八金右 △9五歩 ▲5七銀 △6二玉 ▲7七角 △7二玉

▲8八玉 △8二玉 ▲7八銀 △7二銀 ▲8六歩 △8四歩

▲8七銀 △8三銀 ▲7八金 △7二金 ▲6六歩 △7四歩

▲6七金右 △7三桂 ▲2五歩 △3三角 ▲9六歩 △同 歩

▲同 銀 △同 香 ▲同 香 △9四歩 ▲9九香 △9三銀

▲6五歩 △同 桂 ▲5五角 △8一玉 ▲6八銀 △5四歩

▲6六角 △9五歩 ▲同 香 △9四歩 ▲7七桂 △同桂成

▲同金寄 △9五歩 ▲同 香 △8二銀 ▲9四歩 △9一香

▲8五歩 △9四香 ▲8四歩 △同 銀 ▲9四香 △8三金

▲9九香 △9七歩 ▲同 香 △8五桂 ▲9二香成 △7一玉

▲8二成香 △同 飛 ▲8四角 △4二角 ▲8六歩 △9七桂成

▲7九玉 △8四金 ▲7三銀 △8三金 ▲8二銀成 △同 金

▲9一飛 △8一金 ▲9七飛成 △3九角 ▲7三桂 △9三香

▲8一桂成 △6二玉 ▲9四歩 △2八角成 ▲9三歩成 △3九飛

▲6九歩 △5二玉 ▲8三と △3二銀 ▲7三と △4三玉

▲6三と △2九馬 ▲9三龍 △9二歩 ▲8三龍 △6一香

▲5三金 △3三玉 ▲4二金 △同 玉 ▲5三と △3一玉

▲4二銀 △2二玉 ▲4一銀不成△同 銀 ▲4三と △1二玉

▲3一角 △2二桂 ▲2四桂


まで123手で石鉄の勝ち

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