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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 ジャビスコこども将棋祭り☆特訓編(2015年4月27日月曜)
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エスパーと魔法使い、ときどき宇宙人(2)

 さあ……(しずか)ちゃん、どうする……?

 同角成、同金、同飛成が調子よくみえるけど、3五角が王手龍……。


挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 これがあるから、いきなり同飛成と突っ込むしかない……はず……。

 静ちゃんは、くちびるに指をあてて、身を引いた。

(うーん、困ったな。3四歩が手拍子だったかも)

 静ちゃんはギリギリ29秒まで考えて、1三同飛成。

 同金、同角成と進んだ。

「これが王手……合駒が飛車しかない……」

 ということは、打てない……4二……いや、4一玉……。

 4二玉は3三歩成が、いきなり王手になる……。

 1三香と走った瞬間に感じたほど、よくはないかも……ただ、これは次に、6九飛、8八玉、6七銀成の寄せがあるから、先手は受けないといけない……そのあいだに攻めを繋げられたら、私の勝ち……。

(6八馬)

「!」


挿絵(By みてみん)


 一番強く受けた……6九香じゃ弱いってことか……。

「4九飛……」

 こっちも一番強く打つ……。

 私が指を離したとたん、静ちゃんは金をつまみあげた。

 人差し指と中指で挟んで、こちらに見せつけてくる。

(普通じゃ受からないから、鉄板でいくね)


挿絵(By みてみん)


 これは……。

《友だちをなくす手ですね》

(カンナちゃんと私は友だち! これ重要!)

 女の友情が試されている……というのは置いといて、難しくなった……同銀成、同銀……じゃなくて、同馬、1九飛成が本線……そこで3三歩成が第一候補……同角と取ったあとでなにを指してくるか……6五香とか……?

《20秒、1、2、3、4、5》

 私は銀を裏返して、同銀成。以下、同馬、1九飛成、3三歩成、同角……。

(3九歩)


挿絵(By みてみん)


《友だちをなくす手、第2弾ですね》

(エスパー同士の友情に終わりはないんだよ)

 エスパーと宇宙人の友情に、終わりはあるのかな……。

「1八龍……」

(3八香)

 あぁ……友情が壊れていく……。

 こうなったらもう手がないから……。


挿絵(By みてみん)

 

 桂頭を受ける……7四銀……。

(4五桂)

 あッ……そっか、香車を打ったのは、この伏線……。

 単純な龍筋の止めかと思ってた……うっかり……。

「1五角……」

 すこしでも攻めを見せる……。

 7三銀、8一飛、7二銀成、8四飛、8五歩。

 飛車をいじめてきた……。

「同飛……」

(7六金)


挿絵(By みてみん)


 これもう、8四に逃げても意味ないよね……飛車は見捨てて……。

「2四角……」

 一回、王手……で、当然に4六桂と受けられた……。

「攻めがない……」

《20秒、1、2、3、4、5、6、7》

「あわわ……3七歩……」

 絶対間に合ってない……静ちゃんのほうに、なにかあったら終わり……。

(んー、とりあえず飛車を取るよね)

 静ちゃんは、8五金で飛車を回収した。

 同銀としかけたところで、私に電流が走る。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 これ……8一飛って打たれる……。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)

 

 終わった……でも取るしかない……。

「同銀……」

 静ちゃんは、パシリと8一飛。

《ん、それは……》

美沙(みさ)ちゃん、声出しちゃダメだよ)

《すみません……10秒》

 なにかあるのかな……なにもないようにみえるけど……。

 とりあえず、王手を回避しないといけないから……。

「駒を打つと、本格的に攻めが切れそう……」

(3二玉とかあるよ)

「それは3七香が王手で死ぬ……」

(あ、バレちゃった)

 エスパーは卑怯。

《20秒、1、2、3、4》

「5一角……」


挿絵(By みてみん)


 駒を節約してみたけど……どうだろう……。

(8五飛成♪)

 駒がひとりでに浮かんで、くるりとひっくり返った。

「あッ……サイコキネシスで指すの禁止……」

(ごめんごめん)

 静ちゃん、機嫌がいいとすぐサイコキネシス使うんだから……ん……?

 私は、盤面をみつめた。ここで、こう指すと……。

《20秒、1、2、3、4、5、6》

「8四香……」


挿絵(By みてみん)


 これ効かないかな……?

 5一角の段階では、見えてなかったけど……。

 私が指したとたん、静ちゃんは醒めたような顔になった。

(あれ……なんか厳しいね……それ……)

 7四龍でも7六龍でも8八歩……じゃなくて、そのまえに3八歩成か……。

 ただ、繋がるかどうかは微妙……思ったより悪くないってだけ……。

《20秒、1、2、3、4、5、6、7、8》

(7六龍)

 3八歩成、同歩、1九龍。ここで銀を打たせる……打たないと5八金……。

(打ちたくないけど……4九銀)

 これで私の玉は安全になった……入玉までみえる……。

「8八……」

 私は歩を打ちかけて、手を引っ込めた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「6八歩……」


挿絵(By みてみん)


 同金は8八金、同馬は4九龍、5九銀(5九馬は6九金、同馬、8八金、同金、同香成、同玉、6九龍)、5七金、最初から放置なら6九金……全部寄ってる……。

 静ちゃんは口元に手をあてて、目を丸くした。

(えぇ? 私の負け?)

「回避する手があれば、どうぞ……」

(8七歩……は全然受けになってないし……)

 一番粘れるのは、同玉かな……これだけちょっと難しい……。

《20秒、1、2、3、4、5、6、7、8、9》

(負けました)

 静ちゃんは、あっさり投了した。

「ありがとうございました……同玉としないの……?」

(取っても8九香成で、次に6四桂とか、いくらでもあるからムリだよ)

「6五龍とか、意外と厳しくない……?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


《私も、それでなかなか容易でないと思います》

(そうかな? 6四歩と叩いて、同龍に7六金くらいで終わってない?)

《先手敗勢だとは思いますが、投げる局面でもないかと》

 そのあたりは、好みだよね……エスパーは淡白……。

(8一飛が悪かったかな?)

「8一飛が悪いなら、8五金がおかしいよね……同銀で圧迫されてるし……」

 私が答えると、盤面が勝手に動いた。

 静ちゃんのサイコキネシスは、ほんとに便利……すぐ検討局面に戻せる……。


挿絵(By みてみん)


(……3七同香?)

「えーと……3七歩は、そこまで考えて打ってないんだよね……」

 ほとんど手拍子……棚からぼたもち……。

(でも、放置はできないよね? 3七同香かな)

 静ちゃんは、飛車を放置したまま、歩を取り払った。

 なにをしたらいいのか……。

 私は10秒ほど考えて、8四飛と引いた。

《それは、よさげですね。本譜と同様、放置なら6八歩があります》

 同金なら8八金、同馬なら4八龍、同玉なら……。

「これも、同玉で困るかな……?」

《同玉ならば、3六歩、同香、3七金とか、どうですか?》

 ああ……それで取れないのか……。

「とはいえ、先に8五歩くらいで止まるかも……」

(同銀……6三桂成、同金、7五金があるね)


【参考図】

挿絵(By みてみん)


(これなら、先手も頑張れるかな)

 結論、むずかしい……。

「1三香で飛車を捕獲していいかと思ったけど、そうでもなかったね……」

 私は、3四歩の周辺に話を移した。

《むしろ、先手を持ちたかったです、あの局面は》

 美沙ちゃんは、飛車を渡しても問題ないって読みか……。

(3四歩自体は、うっかりだったんだよね)

《静先輩って、たまに踏み込んだうっかりがありますね》

(エスパーは、冷静と情熱の狭間に生きてるんだよ)

 なにそれ……。

「じゃあ、7六歩に同銀も、冷静と情熱の狭間……?」

 私が尋ねると、駒がぴょんぴょん跳ねた。


【参考図】

挿絵(By みてみん)


(ここ同金はないよぉ)

「でも……具体的に殺すとなると、むずかしくない……?」

(7五歩、8六金の形が悪過ぎ)

 地球人は形にこだわり過ぎ……。

《金は殺せないのですよね。8五歩、9六金、9四歩は、7四歩で困ります》

 そう……この金は死なない……。

(死ななくても、6五歩くらいで困る困る)


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 あぁ……これは厳しいか……。

《なるほど、同歩、同桂、8八銀に8五歩ですか》

(美沙ちゃん、正解)

 8五歩、9六金、7六歩と伸ばされて終了……。

「ってことは、本譜の同銀が正しいわけか……」

(もちろん、30秒じゃここまで全部読めてないけどね)

 それは、私も一緒……30秒で読み切りはムリ……。

「あと、序盤の4六角……あれに7三角とするかどうか迷った……」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


(これは取らないと思うよ。6九玉の予定だったかな)

「4六角、同歩、5八角で……?」

(それは4七角と受けて、4九角成、3七桂)

 あッ……馬が死んだ……次の2九飛が受からない……。

《5八角のまえに4五歩もあって、怖くないですか?》

(4五歩……同歩、5八角、4七角、4九角成、3七桂、4六歩?)

《そうです。2九角と逃げれば、2九飛がなくなります》

(うーん、じゃあ、7三角は成立してるのかな?)

 検討は、だいたいこれで終わりかな……私の疑問は氷解した……。

 7三角以下の変化は、いろいろあり過ぎて、網羅できない……。

《さて、勝ち抜けにしますか? 負け抜けにしますか?》

(あ、そのまえに、5分くらい休憩しようよ)

 私たちは、休憩をとることにした。

 おしゃべりする……空の自由な飛び方とか、いろいろ……。

(それにしても、カンナちゃん、また強くなったんじゃない?)

「そうかな……」

《少なくとも、去年の冬よりは、上達しています》

 どのくらい棋力が上がったのか、自分でもよく分からない……とりあえず、部室だと裏見(うらみ)先輩以外には負けないかな……馬下(こまさげ)さんにも勝てるし……。

(カンナちゃんって、ほんとに個人戦決勝まで行ったことないの?)

「ない……っていうか、凖決勝もない……」

(えぇ? ほんと?)

《当たりが悪いのではないですか?》

 当たり……1年の春は、1回戦がエリーちゃん、秋は姫野(ひめの)さん、2年の春は、2回戦が春日川(かすがかわ)さん……よくないかも……前回は1回戦で落語少女に負けたし……。

《今のカンナ先輩なら、市代表までギリギリいけると思います》

(そうだよ、ガンバだよ)

 ありがとうございます……。

「ところで、将棋祭り優勝の可能性は、どのくらいあるかな……?」

 私は、ふたりにさりげなく尋ねた。

「1回戦負けだと、ちょっと恥ずかしい……」

《そもそも、トーナメントなんですか? 違う可能性もありますよ?》

「え……総当たりする時間あるかな……? 1日で指し切りだよ……?」

(スイス式かもしれないよね)

 スイス式……? スイスは……ヨーロッパのぼっち。

「永世中立国のスイスが、どうかしたの……?」

《スイス式というのは、勝った者同士、負けた者同士のように、成績の近い者同士でリーグを消化するゲームです。勝敗数の他にも、ソルコフやSBという、細かい基準で順位が決まります》

 地球の文化が、またひとつ明らかに……あとで母星に報告しなきゃ……。

「仮にスイス式だとして、何位くらいになれるかな……?」

《それは、出るチームによると思いますが》

 当たり前過ぎる……もうちょっと考えよう……。

《とりあえず、お(はな)先輩は出ると言ってました》

(それ絶対、うちの神崎(かんざき)さんと一緒だよ。あとは吉備(きび)さんで決まり)

 いつものメンバーだね……桐野(きりの)神崎(かんざき)吉備(きび)トリオ……。

 桐野さんは県代表経験者だから、かなりの強敵……他のふたりも強い……。

《あと出そうなのは、ソールズベリーの茉白(ましろ)先輩ですか》

(茉白ちゃんは出そうだね。目立ちたがりだもん)

《ただ、他のメンバーが読めません。同じ学校からは連れて来れませんし》

 今夜さらって、記憶を抽出すれば分かるんじゃないかな……?

 アブダクションは、宇宙人の特権……。

「あ、そうだ……」

(なにか思い出した?)

「チーム名を決めないと……」

 確か、HPにチーム名を登録する欄があったはず……。

《チーム名ですか……ローザエ(ばら)ウィルギヌム(おとめ)ディアボリキ(あくま)コミリトーネース(きしだん)は、どうですか?》

(美沙ちゃん、カッコつけすぎだよ。恋のテレポーテーションにしよ)

 このふたりのネーミングセンスは微妙……私が考える……。

 宇宙人、エスパー、魔法使いのチーム……。

「Outsidersは、どうかな……?」

(あ、いいね、それ)

《単純過ぎる気もしますが、特に異論はありません》

 じゃあ、これで決まり……今夜にでも登録……。

(そろそろ5分経ったね)

 静ちゃんは、腕時計をみた。茶色い革に銀盤の、シンプルなデザイン。

「私は勝ち抜けでいいよ……」

 美沙ちゃんと交代する。

 盤面は、サイコキネシスで一発。

 じゃんけんしようとしたところで、美沙さんが手を挙げた。

《ひとついいですか?》

 どうぞ……。

《私、映像だから、駒に(さわ)れないんですけど》

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ダメじゃん。

場所:鎌鼬市の公園

先手:前空 静

後手:飛瀬 カンナ

戦型:矢倉


▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀

▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金右 △3二金

▲7八金 △7四歩 ▲6九玉 △4一玉 ▲6七金右 △5三銀右

▲2六歩 △8五歩 ▲2五歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛

▲8七歩 △8五飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △3一玉

▲3六歩 △2三歩 ▲2八飛 △4四歩 ▲7七銀 △4三銀

▲7九角 △3三角 ▲1六歩 △5一角 ▲4六角 △6四歩

▲3七桂 △5二金 ▲1五歩 △2二金 ▲6五歩 △7三桂

▲6四歩 △4五歩 ▲6八角 △6四銀 ▲1四歩 △同 歩

▲1三歩 △6二角 ▲7九玉 △8三飛 ▲3五歩 △7五歩

▲3四歩 △4四角 ▲6六歩 △7六歩 ▲同 銀 △7五歩

▲3三歩成 △同 桂 ▲2四歩 △同 歩 ▲7四歩 △7六歩

▲7三歩成 △同 銀 ▲2四飛 △8六歩 ▲同 歩 △2三歩

▲1四飛 △5八銀 ▲7五桂 △8二飛 ▲3四歩 △1三香

▲同飛成 △同 金 ▲同角成 △4一玉 ▲6八馬 △4九飛

▲5九金 △同銀成 ▲同 馬 △1九飛成 ▲3三歩成 △同 角

▲3九歩 △1八龍 ▲3八香 △7四銀 ▲4五桂 △1五角

▲7三銀 △8一飛 ▲7二銀成 △8四飛 ▲8五歩 △同 飛

▲7六金 △2四角 ▲4六桂 △3七歩 ▲8五金 △同 銀

▲8一飛 △5一角 ▲8五飛成 △8四香 ▲7六龍 △3八歩成

▲同 歩 △1九龍 ▲4九銀 △6八歩


まで124手で飛瀬の勝ち

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