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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第42局 日日杯2日目(2015年8月2日日曜)
461/681

449手目 ランチタイム

【2日目午前:女子】

挿絵(By みてみん)


【2日目午前:男子】

挿絵(By みてみん)


※ここからは、捨神すてがみくん視点です。

 アハッ、というわけでランチタイムだよ。

 不破ふわさんと相談して、和食のお店を選択。

 当たりだといいね。高級ホテルだからそこは保証されてるかな。

 のれんをくぐって、店員さんにチケットをみせた。

 奥のほうが貸切になっているみたいで、すぐに通してくれた。

 本格的な和の装い、って感じの店だね。

 仕切りは木製で、店員さんはみんな和服を着ていた。

 左手の窓の外にはベランダがあって、日本庭園の作りになっていた。

 途中、2人席に奥村おくむらくんと凡地ぼんち先輩がいた。

 奥村くんはお箸を持ったまま、

「お、捨神っち、がんばってるべな」

 と声をかけてくれた。

「奥村くん、おつかれさま。スタッフも大変そうだね」

「なあに、誘導やらモニタの監視ばっかりで、案外ヒマしてるだよ」

 そっか、裏方なんだね。縁の下の力持ち。

 凡地先輩も手をふって、

「捨神くん、がんばるのだ〜」

 と言ってくれた。

「アハッ、善処します」

 さらに奥へ行くと、ふいに声をかけられた。

 吉良きらくんだった。8人がけのテーブルの、向かって右端に座っていた。

 吉良くんは箸を持った手で合図しながら、

「ここ空いてるぜ」

 と言った。

 うーん、大胆だね。とはいえ、断るのは悪いか。

 それに、席はあんまり空いてないっぽい。

「お言葉に甘えるよ」

 吉良くんの正面に座った。不破さんは僕の左どなり。

 すぐにお冷やが持ってこられた。

 なににしようかな……あ、吉良くん、ざる蕎麦を食べてるね。

 僕は店員さんに、

「ざる蕎麦をひとつ」

 と注文した。

「天ぷら、ご飯などもお付けできますが」

「いえ、お蕎麦だけでけっこうです。それと、温かいお茶もお願いします」

 これを聞いた不破さんは、メニューから顔をあげて、

「師匠、せっかくチケットがあるんですし、もったいなくないですか?」

 と言った。

「お腹がいっぱいになると、午後の対局に差し支えるからね」

「なるほど……じゃああたしは遠慮なくいただきます。この御膳で」

 店員さんが去ったあと、僕は吉良くんのほうに向きなおった。

 向かって左どなり、不破さんの正面には、知らない男の子がいた。

 日焼けしてて、スポーツをやっていそう。中学生かな。

 どこか顔に面影があるけど……思い出せない。とりあえずあいさつ。

「はじめまして、僕は捨神だよ。吉良くんの友だち?」

「あ、はじめまして、裏見うらみです」

 え? うらみ? ……偶然の一致かな。

「裏側を見る、じゃないよね?」

「そうですよ。香子きょうこ姉ちゃんの従兄弟です」

 あ、従兄弟がいたんだ。しかも吉良くんの知り合い。

 世の中狭いなあ。

「もしかして帰省ついで?」

「帰省ってわけじゃないですけど、まあそんな感じです」

 これには不破さんが食いついてきて、

「おまえも将棋指せるの?」

 とたずねた。

「もちろんです」

「どのくらい? 裏見うらみ香子きょうこより強い?」

「んー、香子姉ちゃんのほうがちょっと強いと思います」

 まあそうだよね。裏見先輩より強かったらふつうに県代表クラスだよ。

 不破さんは椅子に寄りかかって、

「じゃあ市代表レベル?」

 とたずねた。

「ですね」

「マジか。あとで一局指そうぜ。観戦ばっかしてるとさすがに疲れるんだよ」

 ここでお蕎麦が来た。

 お先にいただきます。

 吉良くんはほとんど食べ終えていて、お茶を飲んでいた。

 僕は、

「やっぱり冷たいものは飲まないの?」

 とたずねた。

「氷が入ってるやつは飲まないな。代謝が落ちる」

 徹底してるね。

 歌手でも氷入りの水は飲まないってひとがいた。喉に悪いらしいよ。

 ここで裏見くんが、

「吉良先輩、天ぷらぐらいつければいいのに」

 と言った。

「天ぷらは脂質過多だろ。ただでさえ1日中座ってるんだぞ」

「先輩、健康診断で引っかかってるおじさんみたい……」

 吉良くんはダンサーだからね。

 体型は男の僕からみてもすごくいいと思う。

 僕は裏見くんのほうがすこし気になって、

「裏見くんはスポーツしてるの? けっこう日焼けしてるよね?」

 とたずねた。

「サッカーしてます」

 そっか、裏見先輩も中学のときは陸上だったらしいし、文武両道なんだね。

 僕がお蕎麦をすすっていると、3人組のお客さんが現れた。

 その姿をみて、僕はアッとなった。

「は、囃子原はやしばらくん」

「おや、捨神くんに吉良くんではないか」

 囃子原くんは、ふたりの少女を従えていた。

 ひとりはスーツ姿で帯刀している。つるぎさんだ。

 もうひとりは制服をすごく着崩して、上着を腰に巻いていた。鬼首おにこうべさん。

 鬼首さんは、

「席、ここしかなくない?」

 と言った。

 囃子原くんはうなずいて、

「そのようだな。諸君、同席させてもらってもいいかな?」

 と確認してきた。

 もちろん。僕たちはすぐにオッケーした。

 囃子原くんは裏見くんのとなり。さらにそのとなりに剣さんが座った。

 鬼首さんは不破さんのとなり。

 吉良くんはちょっと呆れ気味に、

「おまえ、こんなところで飯食ってるのか?」

 とたずねた。

「こんなところというのは、店に失礼ではないかね」

「っと、失言だった。てっきりVIPルームでも借り切ってるのかと思ったぜ」

「僕の部屋もふつうの個室だ……ざる蕎麦をもらおう。剣は?」

「僭越ながら、礼音れおんさまとおなじものにいたします」

「鬼首は?」

「んー、ハンバーガーとか売ってないの?」

「残念ながらないな」

「……アイスあるじゃん。アイスでいいや。バニラと抹茶、ひとつずつ」

 すごいね。デザートオンリーでいくんだ。

 囃子原くんは注文を済ませて、僕たちのほうへ話しかけてきた。

「男子は次の8回戦で折り返しだ。ひとまずお疲れ様と言ったところか」

 吉良くんはむずかしい表情で、

「おつかれさん、と言いたいところだが、本番はこれからだぜ。トップグループは1敗で並んだ。俺たち3人は、まだおたがいに当たってない」

 とコメントした。

 囃子原くんは不敵な笑みを浮かべて、

「しかし、六連むつむらくんがひとつリードしているのではないかね?」

 と返した。

 吉良くんは悔しそうな顔で、

「だな……俺とおまえはもう負けてる」

 と言った。

 そうなんだよね。六連くんは前半に強豪とのカードが多かった。

 そのなかで6勝1敗。僕たちの6勝1敗とはすこし意味合いが異なる。

 吉良くんは、

「決勝枠は4人だ。そこに滑り込めばいい」

 と言ってお茶を飲み、席を立った。

「それじゃ、またあとでな……裏見はゆっくりしてっていいぞ」

「あ、うん、吉良先輩、がんばってね」

 吉良くんはそのままお店を出て行った。

 入れ替わるように、囃子原くんたちのメニューが出て来た。

 囃子原くんはいただきますと言ってから、お箸を割った。

 鬼首さんはバニラアイスと抹茶アイスを交互に見比べて、

「どうすっかなあ。混ぜるか、混ぜないか」

 と言って迷っていた。不破さんは、

「半分ほど別々に食ったあとで混ぜたら、一石三鳥だろ」

 とアドバイスした。

 鬼首さんは「おッ」と言って、にっかり笑った。

「おまえ頭いいな。どこのだれだ?」

駒桜こまざくらの不破だ。おぼえとけよ」

「こまざくら……もしかして捨神の彼女?」

「ちげーよ」

 アハハ、僕の彼女はべつのひとだね。

 鬼首さんも豪快に笑った。

「ギャハハ、そりゃそうか。似合ってないもんな」

「それはそれで頭に来るんだよなあ」

 まあまあ、ケンカしないでね。

 ここで剣さんが、

「あざみ、他の客を煽るな」

 と注意した。

 鬼首さんはチェッと言って、バニラアイスをすくって舐めた。

「うめぇ……それにしても張り合いがねぇ大会だな。もっと強いやついないのか」

 そういえば、鬼首さんは全勝中なんだよね。

 女子はもうひとり、萩尾はぎおさんが全勝中だったはず。

 女子のほうが早めに決勝枠が埋まるかも。

 僕はちょっと興味が出て、

「鬼首さん、中学のときは全国大会に出てなかったよね?」

 とたずねた。

「ああ、あんときは学校行ってなかったからな」

「アハッ、奇遇だね。僕もサボってたよ」

「ん、マジか? ……おまえ話合わせてないよな?」

「違うよ。中学のときはわりとグレてたから」

 鬼首さんはまた豪快に笑った。

「ガッコーなんて行ってたら頭がおかしくなるからなあ」

「ただ、友だちはできたからよかったかな、って思ってる」

 鬼首さんはきょとんとした。

「友だち? ……おまえ、友だちなんか信じてるの?」

「もちろん……鬼首さんは?」

 鬼首さんは笑った。

「友だちなんていてもしょうがねぇだろ。オレが会いたいのはオレより強いやつだ」

 ……なるほどね、鬼首さんって、そういうタイプなのか。

 ほとんど面識がなかったけど、今のひとことで通じた気がする。

 それともそう考えるのは、僕の傲慢かな?

 不破さんは「へぇ」と言って、

「雑魚狩りしてるタイプかと思ったら、違うんだな」

 とコメントした。

 そ、それは失礼じゃないかな。

 とりあえず僕は食事を終えた。

 不破さんは御前だし女の子だから、まだ時間がかかりそう。

 僕は先に席を立った。

「それじゃ、囃子原くん、またあとで」

「あとというのは、今日の午後のことかね。それとも明日の12回戦?」

 気軽なあいさつのつもりだったんだけど……マジメに返しておこうか。

「12回戦と……それから決勝でね」

 囃子原くんは口の端に笑みをこぼした。

「よろしい。必ずだぞ。この囃子原礼音、約束をたがえられるのは性に合わないのでね」

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