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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 ジャビスコこども将棋祭り☆特訓編(2015年4月27日月曜)
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エスパーと魔法使い、ときどき宇宙人(1)

※ここからは飛瀬とびせさん視点です。

 どうも……捨神(すてがみ)くんといっぱいおしゃべりした、飛瀬(とびせ)カンナです……。

 今日は、ジャビスコこども将棋祭りのメンバーを集めに来ました……。

 鎌鼬(かまいたち)市の駅前……緑がきれい……。

(しずか)ちゃんは、どこかな……」

 締め切りは一週間前だから、今日中に話をつけないと……。

(ここだよ)

 振り返ると、水色のTシャツにズボンを履いた、前空(まえぞら)(しずか)ちゃんがいた。

 静ちゃんは、ウェーブのかかった髪がキレイ……顔は少年っぽいけど……キリッとした眉毛に、クールな瞳……私とは、だいぶ違う……。

 それにしても、この少女……直接脳内に……。

(遅れてごめんね……)

(電車で来たの?)

(宇宙船のトランスポーターで……最近、機械の調子が悪い……)

 私が答えると、静ちゃんはくすりとした。

(その冗談、おもしろいよ)

 冗談じゃないんだけどな……あとで整備課に連絡しないと……。

「ところで、美沙(みさ)ちゃんは……?」

 テレパシーは疲れるから、舌を動かす。

(残念だけど、今日は来れないんだって)

 え……ここに来た意味ないし……。 

(その代わりに、こんなのもらったよ)

 静ちゃんは、ポケットから水晶玉を取り出した。

 そして、それを宙に浮かせる。サイコキネシス。

「ここだと目立たない……?」

(そうだね、あっちの公園へ行こうか)

 私たちは、ひとけのない公園へと移動した。

 なるべく人目につかない、隅っこのベンチを選ぶ。

「で……さっきの水晶玉が、どうかしたの……?」

(あわてない、あわてない)

 静ちゃんは、空中に浮かんだ水晶玉をこすった。

 すると、眩い光があふれて、黒づくめの少女が姿を現す。

 黒木(くろき)美沙(みさ)ちゃん。

 ショートヘアだけど、もみあげが胸元まである……長過ぎ……。

《こんにちは、カンナ先輩、静先輩》

(こんにちはぁ)

「こんにちは……ひさしぶりだね……」

《おたがいに忙しかったですから》

「これ……どうやって通信してるの……ホログラム……?」

 美沙ちゃんは、三角帽子の角度をなおす。

《魔法に決まってます》

 魔法……地球人のナゾ技術が、またひとつ……。

 ときどき、宇宙連合にもないテクノロジーが飛び出すから困る……。

 こういう辺境の星には、失われたなにかがあるのかも……。

《で、今日はなんの用ですか?》

 私は、用件を伝えた。

 すると美沙ちゃんは、渋い顔をした。

《ジャビスコこども将棋祭り……興味ありませんね》

「そこをなんとか……」

(そうだよ。これはカンナちゃんの恋がかかってるんだから)

 さすがは静ちゃん……分かってる……。

 女子の部で優勝して……捨神くんのまえで、ええかっこしたいんです……。

《そんなに恋がしたいなら、惚れ薬でも作ってあげましょうか?》

「異性を獲得する薬物の使用は、宇宙条約で禁止されてるから……」

《そこは悪魔に魂を売るんですよ》

 えぇ……どういうことなの……宇宙刑務所には行きたくない……。

(美沙ちゃん、ダメだよぉ。悪の道にひきずり込むなんて)

《ふむ、考えてみれば、宇宙人の魂じゃ契約できないかもしれませんね》

(アハハ、美沙ちゃん、宇宙人なんていないよ。オカルトすぎぃ)

 なぜそういう結論になるのか……これが分からない……。

 美沙ちゃんは腕組みをして、フムとため息をついた。

《しょうがないですね。私とカンナ先輩の仲ということで、引き受けます》

「ありがとうございます……」

《但し、謝礼として、月の石をひとつください》

「100個でも200個でも、どうぞ……」

 こうして、私たちは交渉を成立させた。

 これって、友情なのかな……よく分からない……。

 地球の本によれば、女同士の友情は成立しないらしいけど……。

《用件は、以上ですね。では、さようなら》

(えぇ、ダメダメ、せっかくだから将棋指そうよ、将棋)

 静ちゃんは、ほんとに将棋が好き……私も好き……。

《すこしくらいなら……盤は用意してあるんですか?》

(いつもの布盤でいいよね)

 静ちゃんはポケットから緑色の布を取り出して、ベンチのうえに広げた。

 白い枠の模様が入っていて、これがマス目。

(魔法使っちゃダメだからね)

《超能力も禁止です》

「スペーステクノロジーも禁止……」

 そこで静ちゃんは笑った。

(アハハ、カンナちゃん、宇宙人はいないんだよ、これ定説)

 なぜ魔法使いよりも宇宙人のほうが信じられないのかと……小一時間……。

《最初は、私が抜け番でいいですよ。30秒数えます》

(カンナちゃん、よろしくね。7六歩)

 静ちゃんは、間髪置かずに指してきた。

 先後決めてないのに……。

「よろしく……8四歩……」

(6八銀)


挿絵(By みてみん)


 矢倉……最近は先手番の勝率が落ちてるのに、受けてきた……。

 静ちゃんは居飛車党だし、私よりも確実に強い……。

 3四歩、6六歩、6二銀、5六歩、5四歩、4八銀、4二銀、5八金右。

 どこかで手を変えたい……。

 3二金、7八金、7四歩、6九玉、4一玉、6七金右。

「ここかな……5三銀右……」


挿絵(By みてみん)


 静ちゃんは、へぇという顔をした。

(矢倉中飛車かな?)

「さぁ……どうでしょうか……」

《あんまり変わったことは、しないほうがいいですよ。平凡が一番》

 魔法使いに言われたくない……。

《20秒、1、2、3、4、5》

(2六歩)

 速攻には速攻……常識的な手が返ってきた……。

 8五歩、2五歩、8六歩。先に仕掛ける。

(んー、同歩)

「同飛……」

(8七歩。どこに引くのかな?)

 難しい質問だけど……。


挿絵(By みてみん)


 ここはどうかな……?

(そこで頑張るの? むずかしくない?)

「むずかしいのは百も承知ということで……」

 静ちゃんは29秒まで考えて、2四歩と突いた。

 同歩、同飛。

「3一玉……」

(えぇ? 二重にがんばるの?)

「恋も将棋もがんばるって決めたから……」

《だったら、告白すればいいじゃないですか。うまくいくかもしれませんよ?》

 それはできません……恋は穴熊流……。

(この出だしは、全然予想してなかったよぉ)

 静ちゃんは困ったのか、腕組みをして考え始めた。凛々しい。

 私も続きを読む。2八飛と引いたら、2五歩と止められないかな……?

《20秒、1、2、3》

(3六歩)


挿絵(By みてみん)


 引かなかった……ここで2五歩は3四飛、3三銀、3五飛で殺せない……最初の構想にムリがあったかも……2五歩に3七桂、3三角、2五飛、同桂とでもしてくれればいいんだけど……2九飛で王手桂取りになるから……。

「2三歩」

 私は飛車先を押さえた。

 2八飛、4四歩、7七銀。

 最初からやり直しになったね……プランを再考しないと……。

「4三銀」


挿絵(By みてみん)


 飛車先は切られたから、3三銀は意味がない……角の展開を目指す……。

 7九角、3三角、1六歩……突き返せないよね……5一角……。

 ここで、静ちゃんも小考。

(7三角を防止したいけど、これでいいのかな)

 もしかして、4六角を読んでる……?

 4六角、7三角、同角成、同桂……7五歩……?

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 同歩は7四歩、同飛は8四角……これはマズい……。

 取らないのはあるかな……? 8一飛、7四歩、8五桂、7三歩成……。

(4六角)

 上がってきた……今の順は、絶対読んでるはず……。

 私は続きを読む。

 7三歩成……7七桂成、同金寄、6四角で消せる……? でも、そこで4六角と合わせる順があるかな……同角、同歩、6四角の打ち直しに意味があるかどうか……。

《20秒、1、2、3、4、5、6、7、8、9》

「6四歩……」


挿絵(By みてみん)


 私は、角交換の筋を避けた。

 ちょっと消極的だったかな……30秒じゃ読み切れない……。

(3七桂)

「5二金……」

 もう雁木にしよう……そうしよう……。

 私の指が離れたとたん、静ちゃんはニッコリと笑った。

(それ、危ないよ)

「え……なんで……?」

 言葉でもテレパシーでもなく、指し手で答えが返ってきた。1五歩。

「端攻め……あッ」

 このままだと、完璧に端が潰れる……1四歩、同歩、1三歩くらいで……。

(ね、歩が足りてるんだよ)

「これはしょうがないから……2二金……」

(6五歩)


挿絵(By みてみん)


 これも厳しい……取れない……だいぶ形勢を損ねたかも……。

「やっぱり、8五飛は頑張り過ぎだったね……」

《後悔先に立たず、最善を尽くすしかありません》

 美沙ちゃんの言うとおり……とりあえず7三桂と跳ねる……。

 6四歩の取り込みに、4五歩……これを同桂は、4四銀右で桂馬が死ぬ……。

(5七角は6五桂だから……6八角)

 静ちゃんは、冷静に角を引いた。

 6四銀、1四歩、同歩、1三歩。ついに端攻めが始まった。

 これは取れないから……なにかほかの手を……。

《20秒、1、2、3、4、5、6、7、8》

「あわわ……6二角……」


挿絵(By みてみん)


 よく分からない手を指してしまった……。

(あ、それいい手だね)

 しかも褒められた……けがの功名……。

(1四香は1七角成で困るし、2五桂は狙いが明確じゃないから……)

 静ちゃんは29秒まで考えて、7九玉。

 こういう曖昧なのは苦手……手渡しされたのかな……?

 8四飛〜7五歩と攻めたいから……あ、5七角が飛車当たり……。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 いきなり6五桂は、8四角、同角、8一飛、5一角あるいは5一角打……そこで6六銀とあがって、どうなるか……それとも、飛車を先に逃げる……? 飛車を逃げたあとで手がなければ、今度こそ6五桂がある……どっち……?

 私は手をとめて、空中にさまよわせた。

「どうしよう……最初から飛車を安全な場所にする手も……」

《20秒、1、2、3、4、5、6、7、8》

「8三飛……」

 深く引いてみました……。

 静ちゃんは、両手の人差し指を立てて、くちびるに添える。

(角がいる限り、1四香と走れないんだよね。参ったなあ)

 あんまり参ってないように見えるんだけど……。

(こういうときは戦線拡大。3五歩)

 同歩なら、今度こそ1四香……? 3五同歩、1四香、3六歩、1二歩成、同香、同香成の順は、決まっちゃってる気がする……同金、2五桂、1七角成、3八飛とか……飛車がすぐ戦線復帰できるのが大きい……。

 私は29秒を読まれたところで、7五歩と突いた。


挿絵(By みてみん)


 こっちも戦線拡大する……。

 3四歩、4四角、6六歩。

「がっちりしてるね……」

(手抜くのも、ちょっと考えたよ)

 2五桂と8五桂のどっちが速いか、みたいな勝負だったと思う……。

 本譜は方針がはっきりしてきた……7六歩……。

(厳しいなあ。同銀か同金か)

 同金なんじゃないかな……? 同銀は銀が死ぬし……って、銀で取った……。

 私は7五歩と置いて、銀をころす。6五銀なら同銀、同歩、9九角成で……。

(3三歩成)

 やっぱり攻めてくるよね……同桂……。

 2四歩、同歩、7四歩……2四歩を入れてくるのが、いやらしい……。

「これはもう行きがけの駄賃……7六歩……」

 7三歩成、同銀、2四飛……2三歩、いや……さきに8六歩……。

(いいタイミングだね。これは放置できないから、同歩)

 私は2三歩と止めて、静ちゃんは1四飛と寄った。


挿絵(By みてみん)


 うーん……なにか手は……例えば、5八銀と打って、5七金寄なら6七歩……これが効くから、金は逃げないはず……5八銀。

 私の銀打ちに、静ちゃんは5七金としかけた。あわてて手を引っ込める。

(あ、そっか、逃げても意味ないね)

 1筋が突破されることもなさそうだし、盛り返したかも……。

《20秒、1、2、3、4、5、6》

(7五桂)

 露骨なの、きました……8二飛……。

(3四歩)

 これも厳し……ん……?

 あれ……これって、こうしたらどうなるのかな……?

《20秒、1、2、3、4、5、6、7、8》

 私は1三香と走った。

 

挿絵(By みてみん)


(……あッ!)

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