35手目 飛瀬・捨神ペア
※ここからは捨神くん視点です。
アハッ! 飛瀬さんとデートの続きだよ!
ほんとにドキドキしちゃうな……この機会をつくってくれた箕辺くんには、心から感謝してるよ。今度、なにかおごらないとね。
まずは、中断していた名人戦第2局の話をしようか。
「……というわけで、行方8段の勝ちになったんだよ」
ようやく話が終わったよ。
……………………
……………………
…………………
………………
「飛瀬さん、聞いてる?」
「あ……うん……聞いてる……」
さっきから、ボーっとしてるように見えるけど……もしかして、僕の話がつまらないのかな? 会話には、あんまり自信がないんだよね……どうしよう。さすがに、将棋とピアノの話でぶっ続けに何時間も話してるのは、変かもしれない。
ちょっと話題を変えようか。
「飛瀬さん、最近の学校生活は、どう? もう駒桜市にも慣れたでしょ?」
「うん……地球の生活は、だいぶ慣れたかな……」
アハハ、飛瀬さんって、ほんとにおもしろいよね。
ところで、飛瀬さんが宇宙人だって話、どのくらいのひとが信じてるのかな? ドイツ人のポーンさんは、信じてるみたいだね。あとは……あとは、僕しかいない気がする。
え? なんで信じてるのかって? イヤだな、好きになった子のいうことを、疑えるわけないじゃないか。それに、飛瀬さんが宇宙人でも、僕は構わないからね。人間、大事なのは種族じゃなくてハートだよ。
体の構造が違ったらどうしようとかは、たまに思うけどね。
「飛瀬さんの住んでるシャートフ星って、どんな場所?」
「N72星雲にある……田舎かな……緑がいっぱい……」
「星に田舎とか都会とか、あるの?」
「あるよ……宇宙連合のなかでも、人口格差や経済格差があるし……」
なんだかリアルだね。もっと平等かと思ってた。
「地球は?」
「地球は、そもそも連合に加盟してないし……辺境の惑星かな……」
でも、そんなに辺境って感じはしないよね。
ロボットは開発されてるし、パソコンだってすごいよ。
それとも、宇宙旅行ができないとダメなのかな?
「その辺境の惑星に、飛瀬さんはなんで来てるの?」
「生態系の調査……」
「趣味で?」
「私は宇宙探査局の局員だから……テラ系担当……」
そう言えば、公務員だって言ってたね。
「局員ってことは……」
僕は、そこで言葉を区切った。
「局員ってことは……?」
「アハハ、ごめん、なんでもない」
未だに訊けないことが、ひとつあるんだよね……飛瀬さんの年齢。公務員で、僕と同世代だなんて、ありえるのかな? もしかして、僕よりずっと年上なんじゃない? 20代とかならいいけど……実は、50代、60代とか……あるいは、100歳を超えてるとか。医療水準も違うだろうし、あんまり寿命差がありすぎると、お付き合いしてもらえないかも。
怖くて訊けない……でも、いつかは訊かないといけない……どうしよう?
この場の勢いで、笑って尋ねちゃおうか?
「飛瀬さんってさ、どのくらい……」
「お、捨神じゃないか」
いきなり名前を呼ばれて、僕は振り返った。
そこには、肩までロンゲを垂らした、落ち着いた雰囲気の少年が立っていた。
右手には、開いたままの本を持っている。
「あ、御城くん」
「奇遇だな。まさかこんなところで……と」
御城くんは、飛瀬さんの存在に気づいたみたいだ。
「すまん、デートの最中だったか」
とかなんとか言いながら、僕と飛瀬さんのあいだに割って入ったね。
これは寝取られフラグ……なわけないよ。御城くんは、女の子に興味ないから。
僕に用事があるみたいだけど、将棋かな?
「ごめん、今は将棋指せないよ。というか、なんでここにいるの?」
「家族で来てるんだ。俺は疲れたから、単独行動させてもらってる」
アハッ、そういうことなんだ。
すぐに、店員さんがやってきた。さすがに場所代は払わないとね。
「コーラ」
「しばらくお待ちください」
注文を終えた御城くんは、僕に向きなおる。
飛瀬さんの美貌に関心がないのは、さすが御城くんだよ。安心、安全。
御城くんは本をたたんで、テーブルのうえに置いた。
「ゴールデンウィークにある将棋祭り、出ないのか?」
将棋祭り……ああ、あのことだね。
「ジャビスコこども将棋祭り?」
「高校の部にエントリーしてるかと思ったら、おまえの名前はないって言われたぞ」
どこからそんな情報仕入れてるんだろうね……まあ、だいたい見当つくけど。
一方、飛瀬さんは、
「じゃびすこって……なに……?」
とたずねてきた。
僕は、
「ジャビスコこども将棋祭りっていうのは、最近の将棋ブームにあやかって、地元のフランチャイズ企業が開催するイベントのことだよ。3人制のチーム戦で、日付は5月5日。こどもの日だね。小学生から高校生までの年齢別になっていて、さらにA・Bのクラス分けがあるんだ」
と説明した。飛瀬さんはかるくうなずいた。
御城くんはまた割り込んできて、
「で、なんで出てないんだ?」
とたずねた。
「あれね、地元の友だちと出るつもりが、クラス分けに当てはまらなくてさ」
「クラス分け? どういうことだ?」
「市代表がいると、Bクラスに登録できないでしょ? でも、ほかのメンバー……箕辺くんと葛城くんって言うんだけど、Aはちょっとキツいかな、と思って」
「べつにお祭りイベントだから、好きに出ればいいんじゃないのか?」
そうかもしれない……考え過ぎたかな?
とはいえ、一番遠慮したのが箕辺くんだったし、しょうがないよね。
「お待たせしました」
御城くんのところへ、コーラが運ばれてきた。
彼はストローを使わずに、ひとくちあおって、息をはく。
「まあ、ちょうどよかった。用事で出られないわけじゃないんだな?」
「アハッ、そうじゃないよ」
「だったら、俺と出ないか?」
「……御城くんと?」
「ん? イヤか?」
イヤってわけじゃないけど……ギリギリのスケジュール調整はキツいかな。
「ゴールデンウィークは、予定を入れようと思ってたんだけど……」
「さっき、用事はないって言ったじゃないか」
「必須の用事はないよ。でも、ピアノのレッスンとか、いろいろ……」
言い訳をする僕のまえで、御城くんは飛瀬さんに話しかけた。
「きみ、名前は?」
「飛瀬カンナ……」
「トビセさんも、捨神にひとこと言ってくれよ」
「え……なんて……?」
「んー、そうだな……」
御城くんは、あごに手をあてて、じっと空をみあげた。
あんまり、変なこと言わないで欲しいな。
飛瀬さんは淑女だからね。そこらの女子高生とは違うんだよ。
「そうだ、俺たちのチームが優勝したら、捨神とデートしてやってくれよ」
……あのさ、御城くん、いくら友だちでも、それは怒るよ。
「御城くん、飛瀬さんにセクハラするの、止めてもらえないかな?」
「べつにセクハラはしてないぞ」
「いや、今のは明らかに……」
「いいよ……」
……………………
……………………
…………………
………………
え?
「飛瀬さん、いま、なんて言った?」
「捨神くんが優勝したら……ふたりでデートしてもいい……」
……………………
……………………
…………………
………………
「アハッ! 参加するよ!」
「よし、あとひとりは、どうする?」
「黒潮の魚住くんか、皆星の昴くん」
御城くんは、コーラでむせ返った。
気管支に入ったのかな?
「どうしたの? ふたりと喧嘩でもしてる?」
「い、いや……その面子は、ちょっとマズくないか?」
「『県大会優勝経験者で固めちゃダメ』ってルールでもあるの?」
「お祭りイベントだぞ?」
飛瀬さんとのデートが懸かってるのに、お祭りなわけないよね。
ガチだよ。
「……まあ、それでもいいか。優勝しないと恥だがな」
「覚悟のうえだよ」
御城くんはコーラを飲み干すと、席を立った。
「昴は、もう自分のチームを作ってるらしい。魚住と掛け合う」
そっか……昴くんも出るんだね。面子は、なんとなく予想がつく。
「よろしくね」
「物事に100%はないからな。あまり期待しないでくれ」
御城くんは本をひらくと、立ち読みしながらその場を去った。危ないよ。
……っと、話を戻さなきゃ。なんだったっけ?
……ああ、年齢の話か……どうしよう。今ので勢いが削がれちゃったな。
「そうだ、飛瀬さんも参加したら?」
「将棋祭りに……? チーム戦なんだよね……?」
「ポーンさんとか大場さんとか、すぐに集まるんじゃない?」
ただ、その場合はBクラス参加になるかな。市代表がひとりもいないから。
「裏見先輩は、どうかな……? それプラス馬下さん……」
「あ、それはダメ。チームメイトは、高校がバラバラじゃないといけないから」
「高校がバラバラ……? なんでそんなルールがあるの……?」
「ソールズベリーとか紫水館が身内で優勝しないように、じゃない?」
主催者からは、なにも説明がないけど、多分そうだよ。同じ学校で固めていいなら、女子はソールズベリー女学院、男子は紫水館高校が鉄板だからね。
飛瀬さんは、もういちど考え込んだ。
「前空さんと黒木さんじゃダメ……?」
へぇ、そことコネクションがあるんだ。すごいや。
「ダメどころか、十分過ぎると思うよ」
ふたりとも、市代表だからね。前空さんは鎌鼬市、黒木さんは艶田市。
「Aクラスは激戦だと思うけど、おたがいに頑張ろうね」
「うん……」
今日のグループデートで、飛瀬さんとの距離が、ちょっと縮まった気がするよ。
じわじわ寄せていきたいな。
「ところで、今週の棋聖戦挑決は、豊島7段と……」




