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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第4局 どっきり♡グループデート(2015年4月26日日曜)
44/681

34手目 来島・箕辺ペア

※ここからは箕辺みのべくん視点です。

 というわけで、昼食休憩だ。

 俺たちは、レストラン街に集まっていた。

「人が多い……」

 飛瀬(とびせ)は、あちこちの店を眺めながら、そうつぶやいた。

 もっと早目にしたほうが、よかったか?

「席が取れないかもしれないな……すまん」

「大丈夫だよ。ちゃんと予約しておいたから」

 そう言って遊子(ゆうこ)は、ちょっと奥にある和風レストランを指差した。

 道に面した窓ガラス越しにのぞいてみると、満席だ。

「席が空いてないようにみえるぞ?」

 にわかに信じがたかった俺は、思わず聞き返してしまった。

「うん、8人分あるよ」

「こういうところって、普通は予約できないんじゃないの?」

 と佐伯(さえき)。俺も、そう思う。

 予約できるなら、みんなそうするような……。

「いいから、早く入らないと、お店に迷惑だと思うよ?」

 首をかしげる俺たちを、遊子は急かした。

「そうっス。ここは遊子ちゃんを信頼して、さっさと入るっス」

 大場(おおば)は、あいかわらずだな。

 そういうところは、たまに助かるが。

 俺たちはレストランに入った。

 入り口のところで、女の店員さんに呼び止められた。

「すみません、ただいま満席でして……」

「予約した来島(くるしま)です」

 遊子が名前を告げると、店員さんは急に営業スマイル。

「失礼いたしました。8名様でよろしいでしょうか?」

「はい」

 俺たちは、入り口からみえにくい、一番奥の席に案内された。

 と言っても、窮屈でもなければ、景色も悪くなかった。反対側の窓から、瀬戸内海を遠望することができた。晴天のおかげで、島がよくみえる。

「来島、サンキュ」

 俺は、遊子に感謝した。

「Danke schön」

「アハッ、ありがとね」

「ありがとう……」

「ありがとうございます!」

「遊子ちゃんマジックっスねぇ」

「え? これ手品なの?」

 佐伯だけ素ボケしてるが、いつものことだ。

 じゃあ、席について……っと。どう座る? 誰かが海を背にしないといけないな。

「俺はここに座るから、みんなは景色がいいところをとれよ」

 こういうときは、ゆずり合いの精神が大事だぞ。

「いいんっスか? そこ、見晴らしが悪いっスよ?」

「ああ」

「では、お言葉に甘えまして」

 ポーンは、反対側の中央席を陣取った。遠慮がないな。

 向かって左側に捨神(すてがみ)と飛瀬、右側に大場と(やなぎ)

 結局、ペア同士か。俺のとなりには、遊子が座った。

箕辺(みのべ)くん、そこで大丈夫? ちょっと端に寄ろうか?」

「大丈夫だ。気にしないでくれ」

 俺は、遊子がそばにいてくれれば、どこでもいいのさ……なんてな。

 さすがに同級生の前だから、ノロけられない。

 俺と遊子が付き合ってるのは、ナイショの話だ。

 店員さんは、メニューを4つ持ってきた。

「お決まりになりましたら、そちらのボタンを押してください」

 さてと……なにを食べるか。こういうのも、テーマパークの楽しみのひとつ。

 とはいえ、高いな……遊園地価格だ……。

「アハハ、どれも美味しそうだね。飛瀬さん、なに食べる?」

「あまり硬くないものがいいかな……カライのもちょっと……」

「カキフライなんか、どう? H県名物だしね」

「捨神くんがそう言うなら……それで……」

 捨神と飛瀬は、うまくいってるのか? あんまり、遊んでるところをイメージできないんだが……まさか、グループデートでも将棋指してるんじゃないだろうな?

 俺は心配だぞ。

優太(ゆうた)くんは、なに食べるっスか?」

「和風ハンバーグステーキ!」

「これはちょっと量が多そうっスね……(すみ)ちゃんは、パスタにするっス」

 大場は、なんか疲れてるみたいだな。

 年下に手を出すから、そういうことになるんだ……ん?

「大場、手になんかついてるぞ?」

 俺はそう言って、大場の左手の甲を指差した。

「なにがっスか……うわッ!」

 大場の左手には、透明な液体がこびりついていた。炭酸水か?

「さっき拭いたのに、見落としてたっス」

 大場はナプキンを2枚取って、液体を拭き取った。

 糸を引いている。

 それをみた遊子は、眠たそうに目を細めた。

「それ、なに?」

「ニョキニョキしたツノを触ったら、くっついてきたっス」

「ニョキニョキしたツノを触る……警察を呼んだ方がいいのかな?」

「なんでっスか? 遊子ちゃん、痴漢にでもあったんっスか?」

 大場が柳くんを……いや……まさかそんな……。

 俺は、不純な妄想を振り払う。

 多分、アトラクションの配管にでも触れたんだろう。そうに違いない。

「Herrサエキは、なにがよろしいですかしら?」

「目移りするね……ポーンさんは?」

「わたくしは、Herrサエキに合わせますわ」

「え? 僕に合わせるの? ……別々に頼んで交換したほうがよくない?」

「Ehrlich!? ……は、恥ずかしいですわ」

 なにが恥ずかしいんだ? 高校生どころか、大人でもやってるだろ。

 それとも、ドイツだとそういうことはしないのか?

「箕辺くんは、なににする?」

 おっと、遊子が話しかけてきた。

 俺は、メニューをのぞきこむ。

「……エビフライ定食かな」

「私は、お蕎麦にするね」

 遊子は小食なんだな。もっと食べてもいいんだぞ。

「全員決まったか?」

 俺は注文が決まったことを確認して、ボタンを押した。

 すぐに別の店員さんが注文を取りにきた。

「ああッ! このお姉さんっス!」

 大場は、店員さんをいきなり指差した。

 失礼だぞ。

「あら、さっきの……」

 注文用の機械を手にしたまま、店員さんは顔をあげた。

 なんか、ちょっと暗そうな感じの人だ。

 あと、髪型が変わってるな。触覚みたいな寝癖(?)が、2本飛び出してる。

 それとも、こういうヘアスタイルなのか?

「ご注文は、なんにいたしましょうか?」

 めいめい、考えておいたものを頼んだ。

 店員さんはテキパキと注文を済ませて、メニューを片付けた。

 俺は、大場に話しかける。

「あの人が、どうかしたのか?」

「あのお姉さんのかぶり物に触ったら、変な液体がついたっス」

 かぶり物?

「なんにもかぶってなかったぞ?」

「さっきはかぶってたっス!」

 ……話がみえてこない。

「ところでみんな、午前中は、なにしてたのかな?」

 遊子が話題を変えた。

「ジェットコースターとフリーフォールとウォーターライドと……」

 柳くんは、どんどん乗り物の名前をあげた。

 絶叫マシーンばっかりだな。それで大場はグロッキーなのか。

「わたくしたちは、コーヒーカップなどに乗っておりました」

「ほんとうはバンジージャンプしたかったんだけどね」

「Ups!! そ、そうでしたの?」

 ポーンは、ワンマンか。すこしは相手に気をつかわないとダメだぞ。

「捨神たちは?」

「アハッ、さっき挙げられたなかから、つまみ食いして乗ったよ」

「ずっと名人戦第2局の話をしてくれた……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あのなぁ。

「将棋の話は、今度の団体戦ですればいいんじゃないのか?」

「アハハ、それはダメだよ。第3局が終わっちゃってるもの」

 いや、将棋から離れろよ。

 遊園地で将棋の話をされて、女の子がよろこぶわけないだろ。よく考えろ。

「将棋で思い出したけど、藤女(ふじじょ)のレモンさんに会ったよ」

 佐伯のひとことに、俺はびっくりした。

「え? どこでだ?」

「中央のステージで。なんかのショーみたいだったよ」

 レモンって、駒桜ローカルアイドルの内木(うちき)檸檬(れもん)だよな?

 こんなところでも営業してるのか……中学生なのに、たいへんだ。

「歌でも歌ってたのか?」

「全部は見てないけど、将棋を指してたよ」

「だれと?」

「僕と」

 ???

「な、なんで佐伯と指してるんだ?」

「カードを引いたら、番号が当たったんだよ」

 ……ああ、ファンサービスか。

 佐伯が当たりくじとか、ちょっと営業妨害な気もするが……。

 そんなことを考えていると、食事が運ばれてきた。

 全員そろったところで、いただきます。

「……アハッ、美味しいね」

「うん……地球の食べ物は美味しい……」

「ポーンさん、どれを交換する?」

「で、では、そこのポテトを……」

「ポテトでいいの? こっちの魚を半分食べてもいいよ」

 こういうのって、ほんとにいいよな。来てよかった。

 みんなでワイワイやっていると、捨神がこちらを向いた。

「ところでみんな、団体戦の準備はしてるのかな?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 主将が5人もいるところで訊いちゃダメだろ。

「それは機密事項ですわ」

 とポーン。そのとおりだ。

「アハハ、ごめんごめん、べつにオーダーを聞きたいわけじゃないよ。ただ、今回はどこも優勝の可能性があるし、自信のほどはどうかな、と思って」

 捨神はそう言って、へらへらと笑った。

 まあ、捨神のことだから、他意はないんだろうが……ちなみに、団体戦っていうのは、毎年5月と11月に行われる、対抗戦のことだ。各校がチームを出して、覇を競い合う。優勝したチームには、県大会への切符が与えられることになっていた。

「今年度は、升風(ますかぜ)が強いんだよね。可能性は偏ってると思うよ」

 佐伯は、ちょっと悲観的だな。能面だから、腹のなかは分からないが。

「升風は確かに強いけど……個人戦の決勝に残ってない……」

 と飛瀬。

九十九(つくも)ちゃんが葬っちゃったからっスね」

「アハッ、僕は殺してないよ」

「Das ist eine Lüge!! マガタを消していましたわ」

 物騒に聞こえるからやめてくれ。まわりに見られてるぞ。

「団体戦は、個々人の強さよりも、選手の層じゃない?」

 佐伯は、さらっとキツいことを言う。

「オーッホッホ、選手の層の厚さなら、藤花(ふじはな)も負けてませんわ」

「まあまあ、その話は、また今度ね?」

 遊子は、また話題を打ち切った。容赦ないな。

 そのあと俺たちは、今日の出来事や学校のことを話して、昼食を終えた。

「はあ、美味しかったな。来島、サンキュ」

 俺は、あらためてお礼を言った。

「べつに大したことじゃないよ。ところで、このあとどうする?」

 俺たちは、レストランのまえで作戦会議。

「角ちゃんは、このペアでいいっスよ。動きやすいっス」

「そうですね! またジェットコースターに乗りましょう!」

「前言撤回っス!」

「僕も、このままでいいかな」

「私も……」

 大場の前言撤回を無視して、捨神と飛瀬が同意した。

 飛瀬は、捨神とふたりきりがイヤじゃないのか。

 微妙に脈があったりするのか? それとも、頓着してないだけか?

「あとでバンジージャンプさせてくれるなら、僕もこのままでいいよ」

「も、もちろん許可いたしますわ!」

 俺は遊子とふたりでいたいし……多数決だな。

「それじゃ、このままで。次は3時半に集合でいいか?」

「おやつの時間……?」

 俺は、飛瀬の質問にうなずきかえした。

 ぴったり3時だと、また混むからな。それにお腹も一杯だ。

「よし、解散」

 捨神と飛瀬は、さっさとどこかへ行ってしまった。

 のこりの3組は、地図を取り出して、それぞれ次の行き先を考える。

「アメ玉〜アメ玉はいらんかね〜? アメ〜」 

 ん? なんだ?

 俺が振り返ると、Tシャツにジーパンを履いたお姉さんが立っていた。

 ちょっといじわるそうな顔つきで、やたらニヤニヤしている。

 腰まであるロングヘアは、毛先まで真っ赤だった。染めてるのか?

 さすがにびっくりして、俺はあとずさりした。

「そこの、あんちゃん、ねぇちゃん、アメ玉、欲しくない?」

 なんだ? 売り子さんか? ……それにしても、すごい巨乳だ。

 ……ハッ、いかん! 遊子の視線が痛い!

「あ、あの、食べたばっかりで……」

「タダだよ、タダ、お金はいらないよ〜」

 お姉さんはそう言って、カゴから青い包みのアメ玉を取り出した。

 そして、俺の手に押しつけてきた。

「えっと……」

「こっちのひとにもあげるよ〜」

 お姉さんはアメ玉を配り終えると、ポケットから深紅の箱を取り出した。

 なにかと思えば、煙草を一本取り出し、口にくわえた。

「頭がすっきりして気持ちよくなるアメだよ。欲しくなったら、またきてね〜」

 お姉さんは火もつけずに、その場を去って行った。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 なんだ今の?

「Aha, das ist Pfefferminze……日本語では、なんと言うのですかしら?」

 ポーンは包みを開けて、さっさと食べていた。

「ハッカじゃなかったっけ?」

 佐伯はそう言って、包み紙を嗅いだ。

 俺も同じことをする。

 ……たしかに、ハッカだな。口直しには、ちょうどよさそうだ。

 おそらく、アメ玉配りのバイトさんだったんだろう。

「僕たちは、コーヒーを飲むね」

「Nachtisch auch」

 佐伯とポーンは、食後のカフェタイムらしい。

「角ちゃんたちは、観覧車に乗るっス」

「その次はジェットコースターですよ!」

「そ、それはまた相談するっス」

 4人とも去って、俺と遊子だけが残った。

 ……どちらからともなく、手をつなぐ。

「デートの続きだね」

「次は、どこにする?」

「あんまり見られないところがいいな……海とか」

「よし、海沿いの散歩コースにするか」

 遊子のぬくもりを感じながら、俺は海沿いの公園へと向かった。

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