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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第41局 日日杯1日目(2015年8月1日土曜)
437/682

425手目 コスプレガールズ

 1分ほどして、ふたたびスタッフの音声が入った。

 インタビューの準備ができたらしい。

 タブレットの映像が切り替わり、大谷おおたにさんの顔が映る。

 大谷さんは、向かって右の耳にイヤホンをしていた。

《もしもし、聞こえていますでしょうか?》

「聞こえるわよ」

《その声は裏見うらみさんですね》

 どうやら、私たちのほうは映っていないようだ。

 一之宮いちのみやさんもあいさつをした。

 えーと、なにを訊けばいいのかしら。

 知り合いが先発だったから、気さくに始めますか。

「おつかれさま。初戦を制して、出だし好調ね」

《ありがとうございます。最後、磯前いそざきさんがすこし早投げしてくださったのですが、まだ難しかったような気もしています》

「大谷さんの序盤の動きがよかった、って評判だったわよ」

《1局目なので、積極策をとってみました》

 大谷さん、発言が慎重ね。磯前さんの構想が悪かったとは、さすがに言わないか。

 ソフトボールでマスコミ対応もしてるみたいだし、トークスキルは満点。

 そのあとの一之宮さんも、当たり障りのないコメントをした。

 画面が切り替わる。

 こんどは磯前さんが映った。

《もしもし、今のようすだと香子きょうこ華蓮かれんかな?》

「あ、もしもし、おつかれさま」

《観てのとおりというか、ちょっとコケた対局になっちゃったね》

 さて、どうコメントしたものか。

 敗者インタビューのほうが難しい。

「スズメ刺しは、事前に準備してきたの?」

《一応。想定してたのとはだいぶちがうけど》

 んー、研究をハズされたパターンか。

 あまり引き止めても悪いので、一之宮さんにもコメントしてもらい、終了。

 次はもうひとつの対局、桐野きりのさんから。

《もしもーし》

「桐野さん、おつかれさま。1回戦勝ち、おめでとう」

《えへへぇ、ありがとうなのですぅ》

「最後の詰みは鮮やかだったわね」

《あの筋は狙ってましたぁ。みかんちゃんが角を持ってたら、危なかったのですぅ》

 たしかに、8五銀のところで8五角なら、先手陣に利くのか。

 あと、7二角に9四玉とも逃げられなくなっていた。

 これにも一之宮さんが無難なコメントをして、最後に温田おんださん。

 温田さんは、あいさつをしてからすぐに、

《8五銀の詰めろ龍取りの予定だったのに、9八龍が王手になる筋しかなくてダメだったの〜4七歩で3七金左を強要されたのが、予想よりも厳しかったかもぉ〜》

 と、反省の弁。まだちょっと悔しそう。

 見た目がふわふわしてても、このあたりは将棋指しだな、と思う。

 こちらも敗者インタビューなので、適度なところで終了。

 さて、休憩。カメラが切られたらしいので、すこしだらける。

 けっこう疲れるわね。

 ネット中継でプロ棋士がちょくちょく休憩するわけだわ。

 第2局も、私は一之宮さんと同席らしい。

 午前中は人員固定かな。

 解説室にいるスタッフのひとから、準備の合図があった。

 ふたたびヘッドセットをつける。

 ふぅ……私はひと息ついて、タブレットを操作した。

「どこを観る?」

「そうですね……さきほど対局したメンバーの中から、引き続き2局選ぶのは、いかがでしょうか。観戦者もチャンネルを変える手間が省けるかと思います」

 いいチョイス。

 私は対戦表を確認する。

「磯前vs長門ながと、大谷vs梨元なしもと、温田vs鬼首おにこうべ、桐野vs宇和島うわじま……か」

 私はちょっと迷った。

 一之宮さんにたずねると、お任せします、みたいな返答。

 そこまで気をつかわなくても、いいと思うんだけど。

 まあ、ゆずりあいをしてもしょうがないし、サクサク決めましょ。

「……磯前vs長門、大谷vs梨元でもいい?」

「はい、けっこうです」

 1回戦で明暗のわかれたふたり、その次局が気になる。

 それに、大谷vs梨元もけっこう大きいカードだ、といううわさ。

 私はタブレットのボタンを押した。


【先手:磯前いそざき好江よしえ(K知県) 後手:長門ながと亜季あき(Y口県)】

挿絵(By みてみん)


 うわぁん、私の苦手な横歩だ。

「一之宮さん、ごめんなさい、横歩はあんまりわからないんだけど……」

「でしたら、こちらはわたくしがメインで解説を」

 お願いいたします。

 さて、こんどは磯前さんが後手か。

 長門さんのほうは、ぜんぜん知らないのよね。会ったことないし。

「長門さんって、どういう棋風?」

「念入りに準備なさってくる印象です」

 研究家か。

 となると、この横歩は明らかに誘導。

 2六飛、2五歩、2八飛、8八角成、同銀、3三桂、6八玉、8四飛。

 

挿絵(By みてみん)


 おたがいに指したことのある局面らしい。

「これってふつうのかたち?」

「いえ、6八玉型なので、少々めずらしいと思います」

「……磯前さんの研究ハズし?」

「その可能性はあるやも……しかし、長門さんのストックも尋常ではありません」

 ふむふむ、とりまこっちは横歩ということで把握した。

 もうひとつも確認。私は局面を切り替えた。

 

【先手:梨元なしもと真沙子まさこ(T取県) 後手:大谷おおたにひよこ(T島県)】

挿絵(By みてみん)


 あ、こっちはわかりやすい。

「先手の三間飛車か……梨元さんは振り飛車党?」

「わたくしが存じあげるかぎりでは、そうだと思います」

 じゃあ、横歩は一之宮さんに任せて、私はこちらをメインに。役割分担。

 タブレットの盤面が動いて、4八玉が指された。

「後手が急戦っぽいのよね」

「左美濃の可能性もありますか」

 んー、どうだろう。

 左美濃ってあんまり勝率よくないイメージなのよね。

 藤井ふじいプロがほとんど潰しちゃったような囲いだから。

 ただ、かたちは明らかにそれっぽい。

 

 パシリ

 

 3一玉が指された。

 5八金左、5二金右、6七銀。

「やっぱり左美濃……」


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 むッ! ちがうッ!

「じゃないわね。右四間」

「右四間ですか……これはまた……」

 一之宮さんは言葉をにごした。

 けど、言いたいことはわかる。

 大一番で使う戦法じゃない。プロのタイトル戦でも、まず見ない。

 梨元さんはカウボーイハットをかぶりなおした。なんでカウボーイのかっこうしてるのかしら。長門さんも迷彩服みたいなの着てるし。釣りガール、仏教ガール、カウガール、ミリオタガールが2画面に配置されている。コスプレ大会にみえなくもない。

 解説中なのでつっこまないけど。

 あと、対局中は脱帽しましょう。マナー大事。

 いずれにせよ、梨元さんにとっても右四間は予想外だったようだ。

 手がパタリと止まった。

「磯前vs長門にもどしますか?」

「そうね」

 切り替えまして、と。


挿絵(By みてみん)


 んー、なんじゃこりゃ。

 棋譜を確認。

「3八銀、2四飛、2七歩、3四飛、7七銀、4四歩、6六銀、4五歩、と」

「梨元vs大谷より早く進んでいますね。先手にも対策があるのかもしれません」

 双方研究勝負か。

 いよいよ横歩っぽくなってきた。

 9六歩、4二銀、9五歩。

「端を詰められてもいいの?」

「突き返すリスクのほうが大きいと思います。ただ……わたくしの個人的な意見ですが、突き越さずに2六歩もあったかと」

「先手から?」

「はい、2六歩は飛車を解放するために必須です。2六歩、同歩、同飛、2五歩、2八飛でいったん戻りますが、再度2四飛に2七銀と上がれます」

「……あれ? じゃあ、さっき2七歩のところで2七銀としなかったのは?」

「あの時点でも有効だったはずです。自陣の整備を優先した結果かな、と思いますが」

 なるほどなるほど、一直線の定跡ってわけじゃないのか。

 対局者も工夫しているようだ。


 パシリ

 

 局面が動いた。

 4三銀、7七桂、8二銀。

 8二銀は端攻め対策かしら。

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 と、一之宮さん、正解。

「ここから同歩、同飛、2五歩、2八飛、ね」

「……」

 一之宮さんは、急に黙った。

 私は声をかける。

「もしかして、他にもある?」

「……あ、失礼いたしました。同歩、同飛、2五歩、3六飛を考えていました」

 飛車ぶつけか──私はそこまで動かしてみた。

 

【参考図】

挿絵(By みてみん)


「3六同飛、同歩、8九飛には7九飛の打ち返しがあるのね」

「それに対して後手は、2三歩〜2一飛の傷があります」

 ……なるほど、2三歩と打たれたら後手は困るのか。

 飛車交換には後手のほうが弱い、と。

「ってことは3六飛のぶつけに2四飛?」

「おそらく。これが効くなら3六飛も候補手になりそうです」

「飛車の位置が中途半端にならない?」

 一之宮さんはタッチパネルを動かしながら、

「そのあとで5六飛と回る手があります。この手は6五桂と組み合わせて中央に殺到する順なので、7七桂と跳ねたのはその伏線かもしれません」

 とコメントした。

 先に左辺を整理したから、3六飛の可能性が高いってことか。

 

 パシリ


 2六同歩、同飛、2五歩、3六飛。

 一之宮さんが正解。

 長門さんもすぐに2四飛と寄った。

 ここで磯前さんが長考。

 ふたたび梨元vs大谷に切り替える。

 

挿絵(By みてみん)


 おっとっと、だいぶ進んでいた。

「本譜は……6四歩のあと、5六銀、6三銀、4五銀、6五歩、6八飛、8六歩、同歩、6六角、3九玉、7七角成、同桂、8六飛、6五飛ね」

 横歩より進行が速い。ちょっと意外。

 さっきは一之宮さんがぴしゃりと当てたから、私もがんばりましょう。

「ひと目、7八角と打ちたいかしら。後手は4六歩と5六銀の二択」

「裏見さんでしたら、どちらになさいますか?」

「私は……4六歩かな。5六銀はちょっと消極的……」


 パシリ パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 おおおおッ……ハズれた。

 一之宮さんは、

「大舞台だからでしょうか、比較的消極に動きましたね」

 とフォローしてくれた。

 ありがとうございます。

 んー、とはいえ私だったら、冗談抜きで4六歩だったと思う。

 5六銀は先手の攻めがむずかしそう。

「以下、8七角成で……あ、そう指したわね。次は……」


 パシリ パシリ パシリ パシリ パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 ストップストップ。速い速い。

 8五飛、7七馬、8六飛、同馬、8二飛まではほとんどノータイムだった。

 ここで梨元さんが小考。

 腕組みをして、斜めうえをみている。

 脳内将棋盤っぽい。

「ここで迷ってるということは……8五飛の打ちなおしも視野にある?」

「8五飛、同飛成、同馬、8二飛、8四飛以下で、馬を引きつけるわけですね」

 そうそう、手堅く指すなら、これが有効。

 やっぱり5六銀が分岐点だった。先手から急襲される心配がない。


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 あ、うーん、当たらないなあ。

 私は数秒ほど読みを入れて、

「これは8一飛成〜4六桂があるから、かなり踏み込んでるわね」

 とコメントした。

「裏見さんのご指摘なさった順のほうが、手堅いという印象です」

 またまたフォローありがとうございます。

 一之宮さん、口数は多くないけど的確だから助かる。

 とりあえず、先手の消極策に後手の積極策、という構図になった。

 大谷さん、将棋だとわりと踏み込むのよね。

 1局目もそうだったし、四国で神崎かんざきさんと指してた将棋も攻め将棋だった。

 梨元さんは8一飛成と成り込んだ。

 大谷さんは6九飛と打ち込む。

 これは次に5八馬があるから、手抜けない。梨元さんは5九金引とした。

 7九飛成、4六桂。


挿絵(By みてみん)


 よし、読み通り。こんどこそ当たった。

「いったん6六馬かな。5七馬と9九馬の両方をみせて……」

 ここでヘッドセットにスタッフの声が入った。

《磯前vs長門のほうが激しくなってますので、そちらもできれば》

 はいはい、了解。

 タブレット、ポチ。

 

挿絵(By みてみん)


 おおッ!

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