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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第40局 ぼくらの夏休み(2015年7月下旬)
431/683

419手目 林家笑魅の夏休み

※ここからは、林家はやしやさん視点です。

 いやあ、夏休みですねぇ。

 林家はやしや笑魅えみでがす。

 今日は駒桜こまざくらの市民プールに来てるんですよ。

 アウトドア。じぶんで言うのもなんだけど、落研おちけんらしくないな、これ?

 駒桜の市民プールは、けっこうゴージャス。中央の50メートルプール以外にも、流水プール、こども用プール、小さなスライダーもあるんです。海に面してないから、その分を補ってるんですかね。瀬戸内海はすぐそこなんだけど。

 目のまえでは、いおりんがバシャバシャクロール。

 さすがに速いな、こいつ。バスケ部のエースだけのことはある。

 わざわざ競泳用の水着まで持ってきてるし。

 私はプールサイドで、琴音ことねちゃんのお守りです。

 足だけプールに入れてのんびり。琴音ちゃんものんびり。

 ふたりとも、体型カバーの露出少なめの水着。

「琴音ちゃん、泳ぐならサポートしますよ?」

「あとですこし泳ぐかもしれません。そのときはお願いします」

 視覚障害者用のレーンがあればいいんですけどね。

 さすがに駒桜みたいな地方都市じゃムリか。

 あと、琴音ちゃん、すっごいパンダ日焼けしてる。気づいてないんだろうな、これ。

 とりあえず日光浴をしていると、見慣れた集団が入ってきました。

 虎向こなたを先頭に、1年生集団がぞろぞろ。

 私は手をふって、

「ここでがすよ〜」

 とあいさつ。

 虎向が気づきました。

「お、笑魅えみ、先に入ってたのか」

「いおりんがさっさと泳ぎたいって言うんで、お先してるんだな」

「で、これからどうする?」

 さあ、どうするんですかね。

 そもそもこれ、発起人だれなんでしたっけ?

 私が記憶をたどっていると、兎丸うさまるが、

「ごめん、僕から誘っといて悪いんだけど、好きなように遊ばない?」

 と言いました。

 みんなこれに賛成。

 虎向は準備体操をしながら、いおりんに、

「おーい、俺と競争しようぜ」

 と声をかけました。

 いおりんは泳ぐのをやめて、

「虎向があいてじゃ、10メートルくらいぶっちぎっちまうかなぁ」

 と、余裕綽々。

「そうはさせるかッ!」

 虎向はプールにダイブ。

 だーッ、水しぶきが飛ぶ。飛び込み禁止だろ、ここ。

 ふたりは、スタートラインへ移動しちゃいました。

 のこりのメンバーは散り散りに。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あれ? 私って友だちいない?

 悲しいなぁ、ってわけでもないんですけどね。集団行動苦手。

 こうやって琴音ちゃんと、ぶらぶらしてるのが性に合ってます。

 ぶらぶらぶらぶら。

 そうこうしていると、目のまえに変なかっこうで泳ぐ少女が。

 頭を水につけないで泳いでる。

 市立いちりつのもみじちゃんでした。眼鏡をはずしてたから、一瞬わからなかったです。

「もみじちゃん、なんか変わった泳ぎ方してない?」

 もみじちゃんは立ち泳ぎで止まって、

「あ、これ、古式泳法なんです」

 と答えました。

「こしきえいほう……? 戦国時代の泳ぎ方?」

「戦国時代限定ではありませんが、日本式ですね」

 なんでそんな泳ぎ方してるの?

 もみじちゃん、常識人だけど、なんかときどきおかしい気がする。

「笑魅さんは、泳がれないんですか? 琴音ちゃんのつれそいなら、私が一時的に交代してもいいですよ?」

「ここでまったりしてるから、だいじょうぶでがす」

「そうですか。気が向いたら、声をかけてください。では」

 もみじちゃんは、スーッと横ぎっちゃいました。

 またぶらぶらするか。

 ぶらぶらぶらぶら。

「おーい、歩夢あゆむ、おせぇぞ」

不破ふわさん、急いでも反対側につくだけだよ」

 天堂てんどうかえでちゃん、市立の歩夢が、目のまえを通過。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あいつら、つきあってるのかな?

 ふたりでやたら一緒にいる気がする。

 はあ、青春だねぇ。ぶらぶらぶらぶら……いッて!

 後頭部にビーチバレーのボールが炸裂。

 だれだぁ、いたいけな少女にボールをぶつけたやつは。

 ふりかえると、升風ますかぜ獅子戸ジョージが、

「いやぁ、わりぃ、ボールがあさってのほうに飛んだ」

 と謝ってきました。

「気をつけてくださいよ。琴音ちゃんもいるんだから」

「すまん」

「ビーチバレーしてるの?」

「ああ、笑魅もやるか? 今のところ男4人だけどな」

 コートのほうをちらり。

 兎丸、五見誠まこと曲田勝己かっちゃん、ジョージの4人でやってるのか。

「ジョージたちとかけまして、ノブのないドアと解きます」

「? その心は?」

「押す(牡)だけです」

 ジョージは腰に手をあてて、

「あのな、これは1年生会であって合コンじゃねーから」

 と答えた。

「へっへっへ、旦那、下心丸見えでがすよ。ほんとは女子の水着見にきたんでがしょ」

「そのオヤジくさいのなんとかしろ。つーか、自動ドアかもしれないだろ?」

 ぐッ……反論できない。

「おめぇ、私の大喜利おおぎりをやぶるとは、なかなかやるな」

「で、ビーチバレーするか?」

 私が返事をするまえに、琴音ちゃんが、

「笑魅さん、私はだいじょうぶなので、どうぞご自由に」

 と言いました。

 ダメですよ、こういうのは。

 私が離れて琴音ちゃんになにかあったら、SNSで炎上しますからね。

 女子高生、視覚障害の友人を放置してビーチバレーに興じる、とかなんとか。

 世間は事情を考慮してくれない。

「私はここでぶらぶらしてるでがす」

 ジョージは「そうか」とだけ言って、コートにもどって行きました。

 じゃあ、またぶらぶらしましょうか。

 ぶらぶらぶらぶら……あ、もう一組ひとくみ、ぶらぶらしてるペアがいますね。

 市立のあずさちゃんとよもぎちゃんだ。

 あずさちゃんは、体型カバーの赤い水着。

 よもぎちゃんは、もうちょっとおとなしめの白いワンピース型。

 なんかプールサイドをうろうろしてますね。ナンパ待ちか?

「そこのおふたりさん、あっしといっしょにぶらぶらしませんか?」

 ふたりはふりむきました。あずさちゃんが、

「あれ、笑魅、なにやってんの?」

 と尋ねてきました。

「ぶらぶらしてる」

「そっかぁ、あたしたちはタイミング見計らってる」

 なんのだよ。目的語は明確に。

 学校で習っただろ。

「なんのタイミングですか?」

「よもぎちゃんが兎丸くんに、『いっしょに泳いで♡』っていうタイミング」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?

 よもぎちゃんは赤くなって、

「そういうことは言いません」

 と否定しました。

 なんだよ、この流れ。ノロケか? ノロケを聞かされてるのか?

 だけど、兎丸とよもぎちゃんが付き合ってるって、ありえる?

 笑魅、わかんない。女子高生の世界は複雑だ。

 混乱する私をよそに、あずさちゃんは、

「じゃあ、そろそろ仕掛けてくるから」

 と言い、よもぎちゃんの背中を押しました。

 ふたりはコートのほうへ──ハァ、なんかイヤなもん見たな。

 またぶらぶらしますか……いや、琴音ちゃんと会話するか。

「そういえば、新人戦の決勝は、もうしないんですかね?」

 私の質問に対して、琴音ちゃんは、

「上級生からは、なにも連絡がありません」

 とだけ答えました。

「ぶっちゃけ、琴音ちゃんは決勝戦やりたい?」

 琴音ちゃん、即答せず。

「そうですね……古谷ふるやくんと決着をつけたい気はしますが、非公式戦ですし、1局だけのために大会を運営するというのは、むずかしいのかもしれません。公民館も、使用料がかかるそうですので」

「さいですか……」

 んー、なんかもやもやするんだよなあ。

 琴音ちゃんは、「それに」とつけくわえた。

「私が倒れた以上、ふつうは私の不戦敗だと思います」

「でも、琴音ちゃんの場合は、しょうがなくない?」

「将棋で視覚障害者に付与されるハンデは、駒などの道具だけです。対局スケジュールを変更して欲しいというのは、通らないのではないでしょうか」

「そりゃ前例がないからそうなってるだけで、ルール変えればいいと思いますがね」

 まあ、辛気くさくなるので、この話はやめやめ。

 そろそろ泳ぎましょ。

「琴音ちゃん、プール入りましょ、プール」

「ではエスコートしてください」

 了解、と。

 あっしが先に入って、琴音ちゃんの手伝い。

 そこへ、いおりんも戻ってきました。

「おーい、オレも手伝うぜ」

「あ、いおりん、虎向との勝負は、どうなったんですか?」

「虎向ならあっちで足つって沈んだ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?

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