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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第39局 2015年度全国高等学校将棋トーナメント(2015年7月20日月曜)
422/682

410手目 続・裏番組

※ここからは、西野辺にしのべさん視点です。

 くおらぁあああああああッ!

 だから裏番組じゃないっちゅーの。

「えへへぇ、茉白ましろちゃんをいい子いい子するチャンスが来ましたぁ」

 ひえッ、おはなおねぇ、怖いってば。

 私は駒をならべながら、

「準決勝、決勝は、日日にちにち杯の前哨戦になりそうだね」

 とつぶやいた。

「前哨戦とかアンコールとか関係ないのですぅ。ぜんぶ勝つのですぅ」

 もち、私もそのつもり。

 だいたいさ、日日杯は中四国の名誉称号みたいなもので、公式記録に残るのはこっちの全日本高校将棋トーナメントだからね。主催がちがうし。

 振り駒はお花おねぇにゆずる。

「ふりふりぃ」

 歩が5枚で、お花おねぇの先手。

 あとは待つのみ。

 ポニテお化けの司会進行。

「準備はよろしいですか? ……それでは、始めてください」

「よろしくお願いします」

 おたがいに一礼。私はチェスクロを押す。

「7六歩ぅ」

「8四歩」

「あぁ、お花のほんわか向かい飛車を受けない気ですぅ。悪い子ですぅ」

 対策して来てるに決まってるでしょ。

 私もそんなにうぬぼれ屋じゃないし。

 正直、お花おねぇと素子もとこちゃんには分が悪い。策で勝つ。

 5六歩、6二銀、7七角、4二玉、8八飛。


挿絵(By みてみん)


 けっきょく向かい飛車なのか。

 1四歩、1六歩、3二銀、6八銀、3一玉、4八玉、5二金右。

「うにゅにゅ、角道を開けないんですかぁ?」

 しばらく開けない。角交換型を拒否する。

 3八玉、7四歩、6六歩、5四歩、2八玉、5三銀。

「3八銀ですぅ」

 このタイミングで開ける。

「3四歩」


挿絵(By みてみん)


 さてさて、普通の向かい飛車と左美濃になった。

 角交換型を回避する、という目標は達成。

 6七銀、8五歩、5八金左、6四銀。

 私は急戦を見せる。

 お花おねぇは4六歩で、いたって平凡に組んできた。

 4二金寄、5七金、7三桂、4七金。

 うーん、美濃→高美濃か。このまま銀冠ぎんかんにしてくるかな。

「9四歩」

 とりあえず税金を払っておく。

「3六歩ぅ」

 お花おねぇは、動いてくる気配がないね。

 こっちから主導権をにぎれるかも。

 ただ、そのまえに壁角かべかくを解消しておきたい。

 2四歩、2六歩、2三銀、2七銀、3二金上、3八金、3三角。


挿絵(By みてみん)


「茉白ちゃんの囲い、ちょっとカワイイのですぅ」

「か、かわいい囲いってなに?」

「センスを感じまぁす。お花も可愛くしまぁす」

 お花おねぇは3七桂と跳ねた。

 めっちゃ普通じゃん。

「9五歩」

「5八飛ぃ」


挿絵(By みてみん)


 動いてきた。

 囲いの話の直後に、この指し手は困る。

 お花おねぇじゃなかったら、三味線を疑っちゃうかも。

「……8三飛」

 私はもう一手指すように催促した。

 意外と後手は動きにくい。

「6八飛ぃ」

「4四歩」

「4五歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 うーん、取ったら同桂、4四角になっちゃうね。

 まあ取らなきゃいいか。

 私は放置して2二玉と入った。

 4四歩、同角、4六金、3三桂、4八飛。

「ほい、8六歩」


挿絵(By みてみん)


 飛車が移動した瞬間を狙う。

 同歩、4三金直、8八飛、6二角、6八角。

 これ、8筋突破が思ったより難しい。

「8一飛」

「4七金と引きまぁす」

 ……ん? 金を引いてくれるの?

 罠じゃないよね?

 私は1分読んで、4五歩と拠点をつくる。

「えへへぇ、それは同桂なのですぅ」


挿絵(By みてみん)


 え? 即取り?

 歩損しちゃった?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………そんなことないよね。

 だって、同桂、4六歩、4四金、4五歩、同金で回収できるし。

「同桂」

 以下、読みどおり、4六歩、4四金、4五歩、同金と進んだ。

 お花おねぇは3七桂で、私の金を撤退させにくる。

 これは引くしかないね。

「4四金」


挿絵(By みてみん)


 お花おねぇの手が止まった。

 長考し始める。

 ここまでは指し手が速かったからね。

 今、70手くらいかな。のこり時間は、先手が18分、後手が17分。

 私もひと息ついて、8筋の攻めに集中する。

 お花おねぇは、思ったよりも時間を使った。

 私は保温瓶をとりだし、お茶を飲む。

 エアコンが効いてるから、あったかい飲み物がいいよね。経験則。

「……これ、お花の勝ちなのですぅ」

「え?」

「6五歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 私は保温瓶のふたをおいた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………先手勝勢?

 いや、まあ、第三者視点でどっちを持ちたいか、と訊かれたら先手だ。

 後手はちょっとまとめにくいと思う。そこは認める。

 でも、勝勢はなくない? 後手陣に手がついてないし。

 とりあえず、これは取れないから──

「5三銀」

「2五歩ぅ」

 これも取れない。

 けど、手筋だから対応は考えてある。

「5一角」

 2四歩、同銀、2五歩、3三銀。

「茉白ちゃん、この手を見落としてると思うのですぅ。4六歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………歩打ち?

 4五歩の先受けかな。でも、これで勝勢はいい過ぎでしょ。

 だって、勝勢なら攻めがあるはず。これは受けだ。

 そう考えた瞬間、イヤな筋が浮かんだ──4五桂跳ねの準備?

 両取りだ。4二銀右引は、意味がないんだよね。4五桂で3三の銀が死ぬ。

 4二銀左引も、ちょっと危ないかな。2四歩〜7七角がある。

 銀を動かすのはやめておこう。

 ということは、銀桂交換は確定っぽいね。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………それって、マズくない?

 7二銀があるじゃん。


挿絵(By みてみん)


 (※図は西野辺さんの脳内イメージです。)

 

 あ、そっか……しまった……飛車角の位置が悪い。

 4五桂の時点で8二飛と浮く? 8二飛、3三桂成、同銀……ダメっぽい。次に2四銀と打たれて、同銀、同歩、同角、2五歩、5一角、7七角ののぞきが厳しすぎる。

「えへへぇ、困ってるっぽいのですぅ」

「お、お花おねぇ、ちょっと静かにして」

「はぁい」

 私はそこから3分使って考えた。


 結論:飛車角金銀の配置が悪すぎる


 おたがいが邪魔にしかなってない。

 うぅ、思ったよりも劣勢。でも、敗勢じゃないはず。

 私はそれぞれの順を比較して、一番安全そうな手を選択。

「4三金引」


挿絵(By みてみん)


 これでしのぐ。

「うにゅ、最善ぽいのですぅ」

 お花おねぇは30秒ほど考えて、4五桂と跳ねた。

 4二銀右、3三桂成、同金寄、7二銀。

 うーん、打たれちゃうのは、もうしょうがない。

「飛車は逃げないよ。2六歩」


挿絵(By みてみん)


 強く斬り合う。

 という予定だったけど、お花おねぇは1八銀と逃げた。

 銀がそっぽの8一銀成は、してくれないか。

 私はここで8二飛。

 以下、6一銀成で角銀交換が確定。

 ジタバタしてもしょうがない。4四歩といったんおさめる。

辛口からくちでいきまぁす。1七銀」


挿絵(By みてみん)


 ぐッ……マジか。

 拠点も残させてくれないの?

 これを取られると、一方的に悪くなる。

 でも、支える方法がなにもない。

 私はまた長考。

「……」

「……」

 玉頭の奪還は絶対にダメ。

 私は1三桂と打った。

 いざというときの2五桂、同銀、2六歩を残しておく。

 歩は6五に落ちてるし、5一成銀なら銀も手に入る。

「お花が先なのですぅ。2四歩ぅ」

「同金」

「2六ぎぃん」


挿絵(By みてみん)


 まいったなぁ。

 3三銀としたいけど、それは5一成銀で角損なんだよねぇ。

 かといって、他に動かす駒もむずかしい。

「3三金」

 とりあえず、お花おねぇ、なんか指して。

「2七歩ぅ」

 そこ? 2五歩はあきらめたのかな?

 私はこれ幸いとばかりに、2三金引とした。

「8五歩ぅ」

 ぐぅ、また動かす駒がない。しかたがないので3二金と引いた。

「8四歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 な、なんとか反動を狙いたい。

 8五歩、5一成銀、同銀、7七角、3三金上、6六角。

 飛車先を突破できれば、なんとか。

 4二銀、7五歩、8四飛、7八飛、8六歩、7四歩。

「8七歩成」

「8四角ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ……ダメっぽいね。

 7八とと飛車を取っても、8二飛と下ろされて負けだ。

 8八飛と先着できればワンチャンあったけど、この状況じゃできない。

「負けました」

「うにゅ? まだ詰んでないのですぅ」

「いや、中押ちゅうおしだと思う」

 お花おねぇはうれしそうな顔で、

「ありがとうございましたぁ」

 と一礼した。

 いやぁ、私は嘆息して、

「ひどいなぁ、これ。金銀が最後までまとまらなかった感じ」

 と漏らした。

「序盤にあんまり変なことしないほうが、いいのですぅ」

「どのへんから悪くした?」

「角さんの位置が悪いと思ったのですぅ。6二角が変だと思いまぁす」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 たしかに、このあとの展開で、角筋は活きなくなった。

「たださ、ふつうに5三角と引いたら、4五桂の選択権が生じるんだよね」

「5三角〜7五歩で、先に攻める手があったのですぅ」

「それ危なくない? 例えば本譜の6二角に代えて、5三角、6八角、7五歩ってことだよね? 無視して3五歩と切り返されると、キツそうなんだけど」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 以下、後手陣はまとめるのが難しい──けど、こっちのほうがまだマシか。

「ごめん、本譜との比較だから、こっちのほうがマシだね」

「茉白ちゃん、今日は消極的すぎたと思うのですぅ。よくないのですぅ」

 んー、ちょっと自覚ある。

 対戦成績を気にしすぎたかな。

 でも、でたらめに指したわけじゃないし、やっぱ読み負けなんだよねぇ。

 ここでポニテのお化けのアナウンスが入った。

「決勝は15時15分から開始とします。それまで休憩してください」

 私は王様を一回カラ打ちして、

「これくらいにしよっか。ありがとうございました」

 と一礼しなおした。

「ありがとうございましたぁ」

 私は席を立つ。

 まっさきに声をかけてきたのは、青來せいらだった。

「あきらめんなよッ!」

 うっさいわ。それが負けた先輩に対する態度か。

「後手勝ちはもうないでしょ」

「詰みまで指しましょうッ! それが礼儀ですッ!」

「……青來がいつも頭金まで投げないの、礼儀だと思ってやってんの?」

「当然ですッ!」

 んなわけないでしょ。

「プロだってかたちづくりするじゃん」

「先輩はプロじゃないッ! アマはアマらしく粘るッ! 泥臭くいきましょうッ!」

「はいはい」

 私は青來をなだめて、控え室にもどる。

 とはいえ、なんか痛いところ突かれた気がする。

 たしかに、私はプロじゃない。かたちづくりとか不要。

 だけど、作法ってもんがあるでしょ。なかなか抜けないんだなあ、これが。

「ああッ! 心のなかでお嬢様しぐさをしましたねッ!」

「うっさいわ」

場所:2015年度全国高等学校将棋トーナメント(H島県予選・個人)

先手:桐野 花

後手:西野辺 茉白

戦型:先手向かい飛車


▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △6二銀 ▲7七角 △4二玉

▲8八飛 △1四歩 ▲1六歩 △3二銀 ▲6八銀 △3一玉

▲4八玉 △5二金右 ▲3八玉 △7四歩 ▲6六歩 △5四歩

▲2八玉 △5三銀 ▲3八銀 △3四歩 ▲6七銀 △8五歩

▲5八金左 △6四銀 ▲4六歩 △4二金寄 ▲5七金 △7三桂

▲4七金 △9四歩 ▲3六歩 △2四歩 ▲2六歩 △2三銀

▲2七銀 △3二金上 ▲3八金 △3三角 ▲3七桂 △9五歩

▲5八飛 △8三飛 ▲6八飛 △4四歩 ▲4五歩 △2二玉

▲4四歩 △同 角 ▲4六金 △3三桂 ▲4八飛 △8六歩

▲同 歩 △4三金直 ▲8八飛 △6二角 ▲6八角 △8一飛

▲4七金引 △4五歩 ▲同 桂 △同 桂 ▲4六歩 △4四金

▲4五歩 △同 金 ▲3七桂 △4四金 ▲6五歩 △5三銀

▲2五歩 △5一角 ▲2四歩 △同 銀 ▲2五歩 △3三銀

▲4六歩 △4三金引 ▲4五桂 △4二銀右 ▲3三桂成 △同金寄

▲7二銀 △2六歩 ▲1八銀 △8二飛 ▲6一銀成 △4四歩

▲1七銀 △1三桂 ▲2四歩 △同 金 ▲2六銀 △3三金

▲2七歩 △2三金引 ▲8五歩 △3二金 ▲8四歩 △8五歩

▲5一成銀 △同 銀 ▲7七角 △3三金上 ▲6六角 △4二銀

▲7五歩 △8四飛 ▲7八飛 △8六歩 ▲7四歩 △8七歩成

▲8四角


まで115手で桐野の勝ち

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