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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第4局 どっきり♡グループデート(2015年4月26日日曜)
41/681

31手目 大場・柳ペア(2)

「僕のターンですね。5六香!」


挿絵(By みてみん)


 優太(ゆうた)くんの反撃が始まったっス。

 風船のお姉さん、攻め間違えたんじゃないっスか。

「……4二銀」

「2一馬!」

 これが厳しいっス。

 単に3一金の受けは、同馬、同銀、5三香成。ここで4四角が王手成香取りに見えるっスけど、同飛、同歩、4三角とでも放り込めば、先手勝勢っス。


挿絵(By みてみん)


 (※図は大場さんの脳内イメージです。)


「3一金打」

 駒を足したっス。風船のお姉さんも、すぐには折れないっスね。

 豪腕だけど、受けるときは受けるタイプっスか。てごわいっス。

「一回、1二馬ですね」

「私も香車をひろいます」

 1九龍、8一飛成、8二香。

「あッ……そこに打てるんだ……」

 優太くん、うっかりは禁物っス。

「9一龍で……うーん、後手の王様が狭いからそのまま……」

 先手は薄いけど広い、後手は堅いけど狭いパターンっスね。

 龍は動かさないで、7二に利かせておいたほうが、いいかもしれないっス。

「ごめんなさい、ちょっと考えます」

「うふふ、どうぞ」

 んー、(すみ)ちゃんは、それだと微妙に困るんっスけどね。

 遊園地で将棋観戦とか、ナゾ過ぎるっス。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ? このお姉さんのかぶりもの、さっきから動いてるっスね。

 かたつむりのツノみたいな突起が、ニョキニョキしてるっス。

 電動式っスか。リアルっス。

 こういうのみると、角ちゃん触りたくなっちゃうっス。

 ちょんちょん。

「キャッ!?」 

 うわッ! おたがいにびっくりしたっス!

「触らないでください!」

「ご、ごめんなさいっス……」

 そんなに怒らなくてもいいっスのにねぇ。

 かぶりものを触るのは、だれだって……あれ?

 ツノが、片方なくなってるっス……こ、こわしちゃったっスか?

「お姉さん、指しましたよ」

「はいはい」

 あわわ、ど、どうすればいいんっスか?

 さすがに弁償できないっス……って、あれ?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 角ちゃん、眼がおかしくなったっスか?

 またニョキニョキ生えてきたっス。

 もしかして、触られてひっこんだだけっスか?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あんまり深く考えないことにするっス。気のせいっス。

 将棋のほうは……。

 

挿絵(By みてみん)


 こうなってるんっスね。6五桂に6四銀っスか。

 よくある、桂頭に銀っス。

「9五角」

 これも厳しいっスよぉ。優太くんが優勢だと思うっス。

 風船のお姉さん、かなり真剣になってきたっスね。

 前のめりで読んでるっス。こども相手に本気になっちゃダメっスよ。

「……2二金寄」


挿絵(By みてみん)


「ええ? 受けないんですか?」

「受けようがないですから」

 そうっスね。6二銀は7三桂成、同銀引、同角成、同銀、7二銀が詰めろで、5二角、6一銀成、同角、7二金、5二銀、7三金くらいで死んでるっス。最初の6二銀に8二龍の安全策もあるっスから、盤石もいいところっス。

 2二金寄は、受けずに逃げ出す手っス。でもこれ、寄ると思うっス。

行子(なめこ)さん、ニャにやってるんですか?」

 またへんな人が現れたっス……って、知り合いっス。

 この猫耳型ヘアは、見間違えようがないっス。猫山(ねこやま)さんっス。

八一(やいち)のメイドさんっスね、こんにちはっス」

「あ、これはこれは……大場(おおば)さん、でしたか?」

 大正解っス。常連さんの名前を覚えるのは、客商売の基本っス。

「ここでなにしてるんっスか?」

「アルバイトですよ」

 そう言って、猫山さんも風船の束をみせてきたっス。

 この人、いつもアルバイトしてる気がするっスね。

 苦学生さんっスか? 大学生だと思うんっスけど……謎っス。ちなみに普段は、駒桜(こまざくら)市にある、八一って喫茶店で働いてるっス。八一は、将棋好きのマスターが経営する、将棋指しの溜まり場っス。角ちゃんも、遊子(ゆうこ)ちゃんたちと一緒に、よく利用してるっス。

(あい)さん、お疲れさまです」

 風船のお姉さんも、挨拶したっスね。知り合いみたいっス。

「行子さん、お疲れさまです……って、ニャにしてるんですか?」

「みれば分かるでしょう。将棋です」

「いや、そういうことじゃニャくてですね……サボっちゃダメですよ」

 やっぱりサボりじゃないっスか。

「サボってません。これはキッズサービスです」

「ものはいいようですね……どれどれ」

 猫山さんは、マグネット盤を覗き込んだっス。

 4人だと窮屈っスね。


挿絵(By みてみん)


 あ、いつの間にか優太くんが指してたっス。

「ほおほお、こうニャってるんですか」

「うふふ、愛さん、呂律が回ってないですよ」

「そんニャ……そんなことはないですよ。それより、ピンチじゃないですか?」

「いえいえ、そうでも」

 え? 互角だと思ってるんっスか?

 さすがに優太くんがいいと思うんっスけど……。

「とりあえず、同銀上です」

「同香成!」

「同銀」

「7三角成!」


挿絵(By みてみん)


「これで馬が2枚、龍が1枚ですよ」

「駒の損得よりも、寄せの速度……4二玉」

 寄りそうなのは、ナメコさんの王様だと思うんっス。

「5六馬……かな?」

 ナメコさんは不気味に笑って、龍を持ち上げたっス。

「8九龍」


挿絵(By みてみん)


 ……あれ? いきなり危なくなったような……気のせいっスか?

 8五桂、6六玉、7八龍が狙いっスね。8五桂に6八玉は、8六桂の追撃で困るっス。受けるなら、8六歩、あるいは6三馬……6三馬は、あんまり迫ってる感じがしないっス。

「うーん、8六歩」

 優太くんは、そっちを選んだっスね。角ちゃんも賛成っス。

「7二香」

 あ……これが激痛……。

 6三馬、7六香。


挿絵(By みてみん)


 これを取るかどうかっスよね……同玉、7八龍が王手……それとも、いきなり8六龍っスか? これは駒が足りないと思うんっスけど……あ、龍を動かさずに、6四桂もあるんっスか。王手馬取りっス。

 優太くんも、顔色がおもわしくないっス。頑張るっス。

「取るのは全部厳しいから……6六玉」

「7八龍……駒が足りてきましたね」

「ニャハハハ、さすがは行子さん」

 応援は禁止っス。ギャラリーは無表情、無言、無視線が大事っス。

「困ったなあ、龍を動かせないです」

 8二香が、予想以上に働いてるっス。

 9一龍〜9三龍とできないこともないんっスけどね……冴えないっスか。というか、その暇がなさそうっス。9一龍の瞬間に、6四金が詰めろ。同馬、同銀が詰めろ(しかも5四桂と7七龍のダブル詰めろっス)。3四馬と逃げ道を作るのは、4四桂と縛って詰めろ。とにかく、一手一手になっちゃうっス。

「うふふ、ぼうや、投了する?」

 もはや丁寧語ですらなくなったっス。完全に優勢を意識してるっスね。

「投了はしません! 5五馬!」


挿絵(By みてみん)


 優太くんは、さきに王様の逃げ道を確保したっス。

 攻守が逆転しちゃったっぽいっスねぇ。

 7七龍、7五玉、8六龍、6五玉。

 ここで決め手がありそうっス。

 風船のお姉さんは、あいかわらず前傾姿勢で、盤面をみつめてるっス。

「いろいろありそうだけど……6四歩」


挿絵(By みてみん)


 うーん……一目、厳しいっス……まっすぐ引くのは7七香成で詰んじゃうっスから、5六玉……そこで、どうするんっスか? 4四桂とかでも勝ってるんっスかね?

「ニャるほど、これは終わってますね」

 猫山さん、外野が口出ししちゃダメっス。

 5六玉……あッ、5四歩があるっス。6六馬は4五金、反対側の4六馬は6五金で詰みっスか。でも、同馬上、同銀、同馬で、すこしは安全になると思うっス。その局面で後手は歩切れっスから、なんとかならないっスかね?

「……5六玉」

 そう、そっちに逃げるっス。

 5四歩、同馬上、同銀、同馬。

「6三角」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「あ、そっか!」

 優太くんは、ベンチから飛び上がったっス。

 角のタダ捨てっスか? 同馬で?

「同馬とできないから、勝負ありね」

 ナメコさんは、自分から勝利宣言。

「ま、負けました」

 優太くんは、あっさり投了。

 取ったらダメなんっスか? 同馬……あ、5五金があるっス。


挿絵(By みてみん)


 (※図は大場さんの脳内イメージです。)


 同玉、7五龍として、5四玉は6五龍まで。4六玉は、3四桂、3六玉、2五龍まで。龍と桂馬だけで詰んじゃうっス。だから、6三角は取れないっス。取れないなら、このまま馬を消されてゲームセットっスね。さきに5三銀、3二玉を決めてから6三同馬としても、詰み筋に影響がないっス。

 ナメコさんの勝ちっス。

「お姉さん、強いですね」

「それほどでも」

「どこがおかしかったですか?」

 ふたりが感想戦を始めようとしたところへ、猫山さんが割って入ったっス。

「行子さん、そろそろ仕事にもどりましょう」

「あ、そうですね」

 行子さんは席を立って、スカートのほこりをはらったっス。

「じゃあ、またね、ぼうや」

「今度は勝ちますよ!」

 再会できる確率は、めちゃくちゃ低いと思うっス。一期一会っスよ。

 ナメコさんと猫山さんは、風船を持って、どっかに行っちゃったっス。

「んー、どこが変だったかなあ……」

「最後、同馬と取ったらどうっスか?」

「6四歩のところですか?」

「そうっス」

 優太くんは、局面をもどしたっス。


挿絵(By みてみん)


「……どっちで取ります?」

「普通は同馬上じゃないっスか?」

 ただ、同銀としてくるなら、同じことになりそうっス。

「同馬上、同銀、同馬……これが王手龍ですね!」

「あ、待つっス、5三桂で受かってるっスよ」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 逆王手っス。8六馬とは、できないっス。

「そっかぁ……」

 優太くん、しょんぼり。

「これはダメですね」

「もっとまえから悪いのかもしれないっス」

「どのあたりからですか?」

 角ちゃんには分かんないっス。

 石田流や三間飛車と違って、経験値不足っス。

「5六香から、攻め間違えちゃったのかなあ?」

「それより、遊ばなくていいんっスか? 検討なら、あとでできるっスよ?」

 せっかく遊園地に来てるんっス。時間は有効に使うっス。

「そうですね! じゃあ、アレに乗りましょう!」

「ま、また絶叫マシーンっスか!?」

 す、角ちゃん、墓穴を掘っちゃったっス! だれか助けて!

場所:アタリーのベンチ

先手:柳 優太

後手:久慈 行子

戦型:横歩取り4五角戦法


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △8八角成 ▲同 銀 △2八歩

▲同 銀 △4五角 ▲2四飛 △2三歩 ▲7七角 △8八飛成

▲同 角 △2四歩 ▲1一角成 △3三桂 ▲8四飛 △2六飛

▲3九金 △2七銀 ▲同 銀 △同角成 ▲6八玉 △2八馬

▲同 金 △同飛成 ▲7七玉 △2九龍 ▲5六香 △4二銀

▲2一馬 △3一金打 ▲1二馬 △1九龍 ▲8一飛成 △8二香

▲6五桂 △6四銀 ▲9五角 △2二金寄 ▲5三桂成 △同銀上

▲同香成 △同 銀 ▲7三角成 △4二玉 ▲5六馬 △8九龍

▲8六歩 △7二香 ▲6三馬 △7六香 ▲6六玉 △7八龍

▲5五馬 △7七龍 ▲7五玉 △8六龍 ▲6五玉 △6四歩

▲5六玉 △5四歩 ▲同馬上 △同 銀 ▲同 馬 △6三角


まで78手で久慈の勝ち

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