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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第38局 2015年度全国高等学校将棋トーナメント(2015年7月19日日曜)
408/682

396手目 キザな優等生

※ここから、新巻あらまきくん視点です。

 よっしゃ、2回戦だッ!

 俺は対局席へむかう。

 キザな色白メガネが先に待っていた。

 七三分けで、いかにも優等生っぽい雰囲気だ。

 制服は黒のブレザーに青いネクタイ。

 こいつが白鳥しらとりだな。中学のとき、県大会で見かけたことがある。

 あのときは兎丸うさまるにやられてた記憶。

 白鳥はメガネをくいッとさせて、俺をにらんだ。

「きみが新巻あらまきか?」

 こら、くんをつけろ。

 と言いたいところだが、俺も気にしてないからテキトウでよし。

 着席して駒をならべる。

 えーと、データはどうだったかな。

 たしか、居飛車党。攻守にバランスがとれているタイプ。

 俺はチェスクロをセットして、1番席の振り駒を待った。

 佐伯さえき先輩が振って、清心せいしん偶数先ぐうすうせん。俺は後手か。

 それから時間おかずに、幹事の声が聞こえた。

「準備はよろしいですか? ……それでは、対局を始めてください」

「よろしくお願いしますッ!」

 チェスクロを押す。

 白鳥の初手は2六歩だった。

 俺が振り飛車党なことも研究されてるな、これは。

 3四歩、7六歩、4四歩、4八銀。

「4二飛ッ!」


挿絵(By みてみん)


 奇はてらわない。オーソドックスにいくぜ。

 5六歩、7二銀、6八玉、9四歩、7八玉。

 端を突き返してこなかった。やっぱり穴熊か。

 3三角、2五歩、5二金左、5八金右、9五歩。

「7七角」


挿絵(By みてみん)


 穴熊確定。

 予想どおりだ。

 団体戦で穴熊を放棄するメリットはない。

 けど、それなら逆に読みやすいぞ。

 この日のために兎丸と練習してきたからな。

「6四歩ッ!」

 白鳥はメガネをキランとさせた。

「藤井システムか」

 ぐッ、さすがにフォローしてるか。

 最近は勉強してない高校生もいるんだが。

 いや、勉強してるとは限らないな。かたちを知ってるだけかもしれない。

 とりあえず白鳥の出方をみる。

「……3六歩」

 6二玉、5七銀、3二銀、8八玉、7四歩、6六歩。

 手順を知らないってことはないみたいだ。

 あんまり研究してないことを願う。

 7三桂、6七金、4五歩、7八金、8四歩。

「3八飛」


挿絵(By みてみん)


 ん? 動いてきた? ……次に3五歩もありえるか。

 俺は4三銀とあがった。

 白鳥はここで小考。

 ほんとに動いてくるかもしれないな。

 1分が経過し、俺の予感はあたった。


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 マジか。

 俺は半分よろこんだ。が、半分困ってしまった。

 3五同歩、同飛狙いなのはわかる。

 そのあとはどうする気だ? 3七桂?

 でもそれには秘策がある。というか手筋がある──けど、さすがに気づくよな?

 まさか気づかないで突っ込んでくる?

「……3五同歩」

 同飛、3二飛、3七桂。

 マジで? この手筋、知らないの?

「6五桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 どうだッ!

 同歩、7七角成、同桂、3五飛で、飛車の素抜きだぞッ!

 と、思いきや、白鳥は冷静に6八角と引いた。

「さすがに知っている」

 ぐッ、そうなのか。

 じゃあ普通に交換する。

 俺は5七桂成として、同角に5八銀と引っ掛けた。

 4五桂、6七銀成、同金、2二角。


挿絵(By みてみん)


「飛車交換しようぜッ!」

「先に3三歩だ」

 まあそうだよな。

 同桂、同桂成、同飛。

 白鳥はこのタイミングで飛車交換をした。

 3三同飛成、同角。

 白鳥はこの順でいいと思っているらしい。

 だけど、先手が穴熊に組めないのは明白だ。

 それに匹敵する成果はあるのか?

 白鳥はメガネのつなぎ部分に指をそえて、盤をみつめた。

「ここが攻防だろう。5五桂」


挿絵(By みてみん)


 そこか……攻防ってなんだ? 単に攻めじゃないか?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あ、そっか、俺の飛車の打ち場所が、限定されてるのか。

 ほんとは6九飛、7八銀、1九飛成としたかった。けど、そのときに4三桂成とされてしまう。4三の銀を助けるには、3八飛と王手しながら下ろして、7八に合駒を使わせないといけない。

「3八飛」

「さすがに打ち間違えないか。7八銀打だ」

 銀か……慎重だな。俺だったら7八桂だったかも。

 これで後手はすこし安全になった。

「3二銀」

 こんどは白鳥が反応する。

「4四銀かと思ったが……」

 おたがいに読みが噛み合ってないな。

 4四銀は3四歩のとき、対処がむずかしいと思ったんだよ。

 白鳥は6筋に指をのばす。

「まあいい、これで攻めは通りやすくなった。6五歩」

 俺は即座に7一玉と引く。

 

挿絵(By みてみん)


 ここで粘る。

「言動が陽気なわりに慎重なんだな……6四歩」

 だいぶ押し込まれた。が、ノープロブレム。

 先手は6三歩成、同銀、同桂成とできない。

 8八角成の王手放置になる。

「4三桂」

 これも同桂成とはできない。

 白鳥もそれはわかってるから、7七桂と跳ねた。

「5五桂ッ!」

 同歩、同角と飛び出す。

 白鳥は6六桂と、これまた攻防に打った。

「端がガラ空きだぞッ!」


 パシリ!

 

挿絵(By みてみん)


 藤井システムらしくなってきた。

 白鳥も容易ではないと判断したみたいだ。

 手がとまった。

「くッ、端攻めの材料は豊富、というわけか」

 そうだぞ。

 ただ、俺のほうも危ない。7四桂一発で詰めろになる可能性がある。

 あと、香車を走ったら9一飛もあるんだよな。

 いい勝負か?

 のこり時間は、俺が14分、白鳥が10分。

 白鳥はそこから1分使って、同歩と取った。

 俺は9八歩、同香、9七歩、同香とつりあげて、9五歩と合わせる。

 同歩、6四角。


挿絵(By みてみん)


 ここで白鳥は悩んだ。

 たぶん、8六桂と5六桂で迷ってるんじゃないか?

 俺は8六桂だと予想した。

 そっちのほうがいいから、じゃない。白鳥なら攻防手を選ぶと思ったからだ。

 個人的にイヤなのは5六桂なんだよな。殴り合いになる。

「……8六桂」

 よし、予想どおり。

 俺は5五桂と打ち返した。

「それには対応がある。6八飛」


挿絵(By みてみん)


 ???

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………6七桂成、3八飛、5七成桂、3二飛成の攻め合い?

 そんな過激な順があるのか?

 俺は前かがみになった。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………いや、さっきのは俺がダメだな。

 2枚龍が強すぎる。先手陣には6七歩で迫ることになるが、遅い。

 となると、6七桂成、3八飛、7八成桂、同銀、3三歩?

 一回王手してから清算する手だ。が、これもダメだと読んだ。

 俺のほうは金2枚、銀1枚になるが、攻め切れない。

 となると──

「6八同飛成」

 俺は飛車交換を選択した。

「同角だ」


挿絵(By みてみん)


 そっちかぁ。

 同金は6七歩の拠点がイヤだったんだろうな。

 俺は3八飛と下ろしなおした。

 白鳥も反撃してくる。6二歩のくさび。

 同金直、3九歩。これも手筋だな。

 俺はうしろ髪をむすびなおす。ここが正念場だ。

「……9六歩」

 

挿絵(By みてみん)


 白鳥のメガネがずり落ちる。

「な、なに? 飛車取りなんだぞ?」

 そりゃ分かってるって。

 だけどさ、この9六歩は詰めろなんだよ。

 3八歩なら9七歩成、同玉、9五香、9六歩、同香、同玉、9五歩、同玉、8五金、9四玉、9三歩、同玉、8二角、9二玉、9一香までだ。

 さすがに簡単だから、白鳥も気づいた。

 メガネをなおす。

「そ、そうか、詰めろか。しまった、俺としたことが……」

 同香、9七歩。

 これも詰めろ。

 白鳥は一回3一飛と王手してきた。

 6一金、9七玉。

「白鳥、まだ助かってないぜッ! 6七桂成ッ!」


挿絵(By みてみん)


 2度目の飛車取り放置。

 この手は詰めろじゃない。だけど、3八歩なら7七成桂が詰めろ。

 これを同角は8五桂以下で詰むから、同銀とするしかない。

 以下、8五桂、8八玉、6七金と張りついて勝ち。

 先手陣は、見た目以上に逼迫ひっぱくしている。

 白鳥は6七同銀で息継ぎした。

「ここで6八飛成ぃ!」

 タダ取り回避。

 同銀に8九金。


挿絵(By みてみん)


 詰めろ。先手は持ち駒が悪い。

 白鳥はここで大長考。のこり3分を使い果たす勢いで考えた。

 俺はまだ5分残している。

 白鳥はさっきまでのキザ顔じゃなくて、ひたいに汗して読んでいた。


 ピッ

 

 お、使い切ったな。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ


挿絵(By みてみん)


 そこか……こんどは俺が読む。

 意外とめんどくさい手なんだよな、これ。

「……6九角」

「9八飛だ」

 白鳥はノータイムでスライドさせた。

 んー、俺は椅子にひっくり返る。

 6九角がちょっとぼやけてる。

 下だけから寄せるのはムリだ。

「9五香」

 上からも寄せる。

 同香、9六歩、同玉、8八金打(詰めろ)、同飛、同金(詰めろ)。

 白鳥は7八香で回避した。

 んー、本格的に6九の角がぼやけてるな。

「9九飛」

 とりあえず王手。

 白鳥は持ち駒の歩を手にとる。

「9七歩」


挿絵(By みてみん)


 ……ん? 意外と寄らない?

 白鳥のようすも、さっきと変わっていた。なんか冷静になってる。

 どっかでミスったか?

 いや、それでも詰めろは続く。

 俺は9八金と寄った。

 8九桂、同飛成、9三香成。

 上が広くなってしまった。

 8八龍、9五玉、9七龍、9六金。

 ん? 9六金?

 なにかが俺のアンテナに引っかかる。俺は最後の長考。

 

 ピッ

 

 1分将棋になった。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「これだッ! 8三桂ッ!」

 俺の桂打ちに、白鳥はほくそえんだ。

「さすがに読んであるぞ。同成香だ」

「そしてこれが会心の一撃ッ!」


挿絵(By みてみん)


 白鳥はこの手をみて、一瞬固まった。

 それから、本日2度目のメガネずり落ち。

「同歩とできない……だと……?」

 そのとおり。同歩は9四歩以下で詰みだ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「は、8四玉」

 8三銀、同玉、8二香、7三玉。

 王様どうしのご対面。

 8一桂と突きはなして、7四玉、4七角成(!)、6五歩。

 角が活きた。

「これで終わりだな。9六龍」


挿絵(By みてみん)


 完全包囲。先手は受けなし。

 白鳥は苦虫を噛みつぶしたような顔で、

「まさか3九歩の手筋が悪手とは……投了だ」

 と頭をさげた。

「ありがとうございましたッ!」

 新巻あらまき虎向こなた会心譜かいしんふ

 ひとまず感想戦を待つ。

 白鳥はいろいろ納得がいっていないみたいだった。

「……3九歩の代わりに5八歩だったか?」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 んー、俺は手を吟味する。

「同飛成で?」

「5九歩と打って、6七桂成、5八歩、6八成桂、同銀は、どうだ?」

 白鳥の手順を追う。

「駒割りは……金2枚と桂馬2枚で、俺のほうが駒得じゃないか?」

「駒割りは新巻のほうがいい。しかし、後手のほうが寄りやすいかたちだ」

 そうかな。どうだろうな。

 たしかに、3一飛や7四桂右があるか。

 ただ、俺はべつのところがポイントだと思っていた。

「8六桂のところ、6六桂と打ったほうがよくなかったか?」

 白鳥は腕組みをして、

「それは俺の棋風じゃない」

 と一蹴。

 ま、そういうのあるよな。

 あとは終盤を検討。

 あれこれやっていると、うしろから兎丸に声をかけられた。

「そこって9三香成じゃなくて9二香成じゃない?」

 俺は顔をあげる。

「もう終わったのか?」

「うん、僕と佐伯先輩は勝ったよ」

 3−0なのか。わりとすんなりだった。

 っと、今は兎丸の提案を検討しよう。

 

【検討図】

挿絵(By みてみん)


 ……なにが違うんだ?

 俺は兎丸に解説を求めた。

「9二香成、8八龍、9五玉、9七龍に9六歩と受けるんだよ」

「歩? 歩だと寄らないか?」

「9三香成なら、ね。9二香成の場合、9六歩、8三桂、8四玉、9六龍に9四桂と跳ねて、このとき9三にスペースがあるんだ。ここに逃げ込めるから寄らないわけ。9三香成だとこのスペースがないから、9六歩、8三桂、8四玉、7三角、7四玉、6三金、6五玉、4七角成、5六歩、6四金で詰み」


【参考図(9二香成としてから歩で受けた場合)】

挿絵(By みてみん)


【参考図(9三香成としてから歩で受けた場合)】

挿絵(By みてみん)


 うーん、なるほど。

「さすがは兎丸だな」

「ところで、そろそろ昼休憩だよ」

 おっと、もうそんな時間か。

 俺は白鳥に、

「ほかに検討する局面はあるか?」

 とたずねた。

 白鳥は、

「いや、ない」

 と答えた。

「じゃ、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 おたがいに一礼して終了。

 腹が減っては戦はできぬ。ランチへGO!

挿絵(By みてみん)


場所:2015年度全国高等学校将棋トーナメント(H島県予選)

先手:白鳥 玲二

後手:新巻 虎向

戦型:後手藤井システム


▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二飛

▲5六歩 △7二銀 ▲6八玉 △9四歩 ▲7八玉 △3三角

▲2五歩 △5二金左 ▲5八金右 △9五歩 ▲7七角 △6四歩

▲3六歩 △6二玉 ▲5七銀 △3二銀 ▲8八玉 △7四歩

▲6六歩 △7三桂 ▲6七金 △4五歩 ▲7八金 △8四歩

▲3八飛 △4三銀 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 飛 △3二飛

▲3七桂 △6五桂 ▲6八角 △5七桂成 ▲同 角 △5八銀

▲4五桂 △6七銀成 ▲同 金 △2二角 ▲3三歩 △同 桂

▲同桂成 △同 飛 ▲同飛成 △同 角 ▲5五桂 △3八飛

▲7八銀打 △3二銀 ▲6五歩 △7一玉 ▲6四歩 △4三桂

▲7七桂 △5五桂 ▲同 歩 △同 角 ▲6六桂 △9六歩

▲同 歩 △9八歩 ▲同 香 △9七歩 ▲同 香 △9五歩

▲同 歩 △6四角 ▲8六桂 △5五桂 ▲6八飛 △同飛成

▲同 角 △3八飛 ▲6二歩 △同金上 ▲3九歩 △9六歩

▲同 香 △9七歩 ▲3一飛 △6一金 ▲9七玉 △6七桂成

▲同 銀 △6八飛成 ▲同 銀 △8九金 ▲7八飛 △6九角

▲9八飛 △9五香 ▲同 香 △9六歩 ▲同 玉 △8八金打

▲同 飛 △同 金 ▲7八香 △9九飛 ▲9七歩 △9八金

▲8九桂 △同飛成 ▲9三香成 △8八龍 ▲9五玉 △9七龍

▲9六金 △8三桂 ▲同成香 △8六角 ▲8四玉 △8三銀

▲同 玉 △8二香 ▲7三玉 △8一桂 ▲7四玉 △4七角成

▲6五歩 △9六龍


まで128手で新巻の勝ち

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