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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第38局 2015年度全国高等学校将棋トーナメント(2015年7月19日日曜)
407/681

395手目 マジック失敗?

「飛車馬交換、上等、ってわけか……」

 大伴おおともくんは、ジッと盤をにらんだ。

 この少年、なかなかスゴみがある。僕も気合負けしないようにしよう。

 大伴くんはさらに30秒ほど考えて、3七歩成と成った。

 同飛、同馬、同桂。

「6一玉」


挿絵(By みてみん)


 冷静だね。次に7一銀の割り打ちは、ちょっと考えてた。

 とはいえ、割り打ちでビックリは得られない。

 むしろこういう手のほうが意外かも。

「5五馬」


挿絵(By みてみん)


 大伴くんは、ととのった眉毛をぴくりとさせた。

 驚いてるね。

「どう、この手?」

「それを対局中に訊くか?」

 感想を求めるよ。

 大伴くんはかるくタメ息をついた。

「ぼんやりしてる手だな。それが第一感だ」

 大伴くん、いいひと。

 じっさい、この手に明確な意図はない。

 けど、3七桂の防御と、馬の封じ込め回避みたいに、複数の効用がある。

 あと、飛車のこびんに利いてる。6五桂の防止。これがメインかな。

「こっちもしぶくいくか。4二金」

 なるほど、4一角の筋を消してきた。

 僕は6八銀と引いた。

「5七飛の阻止か?」

「もっとビックリする手だよ」

「それ、対局あいてに言っていいのか? ……まあ楽しみにしといてやるよ」

 2九飛、3九歩、1九飛成。

「7七桂」


挿絵(By みてみん)


 左桂の活用。

 大伴くんは、

「6五桂からのこじあけ、か。王様の逃げ道もひろがるってわけだ」

 と言い、1八龍と引いた。

 これは機敏だ。

 5七香、同銀、8八龍みたいな攻めがある。7七の桂馬が馬筋を邪魔してる。

 僕は持ち駒の角を手にした。

「3六角」

「?」

 大伴くんはけげんそうな顔をした。

 背を引き、この手をみつめる。

「……切るつもりか?」

「……」

 秘密だよ。

 正解だけどね。

 龍を移動させて6三角成、同金、6六香の予定。

 ただ、移動し──

「2七銀」

 ないよね。龍が動くと先手玉は安泰。それをきらったっぽい。

 じゃあ予定どおり角切り。

 6三角成、同金、6六香。


挿絵(By みてみん)


 さて、攻めの迫力は出てきた。

 でも、先手もちょっとあぶないんだよ。

 3五角一発で詰めろになる。

 大伴くんも、自陣と敵陣をみくらべていた。

「……一回は受けるか。6四歩」

 これは取る。同香。

「5二金」

 駒を節約した受けだね。

 即取りしてもいいんだけど──

「4八歩」

 一回受けておく。

 大伴くんは4四香の追加攻撃。

 これは、そんなにあぶなくない。

「6五桂」

 攻勢。

 僕のほうがいいはず。

 大伴くんからのビックリな手を期待。

「……9五角」


挿絵(By みてみん)


 ん、これはちょっとおどろき。

 窮屈な角だ。

 4八香成、同金、6八角成、同玉、4八龍狙い?

 ……いや、むしろ7三の受けと考えるほうがよさげ。

 とりあえず追い回す。

「8六銀」

 8四角、7五歩、6二飛。

 大伴くんは、飛車をスライドさせた。

 ごちゃごちゃしている。取る順番をまちがえないように。

 6三香成、同金、8三金。


挿絵(By みてみん)


 角を捕捉ほそく

 大伴くんはタメ息をついた。

「個人戦ならここで投了だな」

「そう? まだ勝勢って差ではないと思うよ?」

「逆転の芽がないだろ……つっても団体戦だからな。時間がなくなるまでは指すか」

 それがよさげ。

 以下、6五桂、同馬、5四金、7四馬。

 ここで大伴くんは大長考して、時間を使いきった。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7六桂」

 攻め合っても勝てそう。

 でも、団体戦だからね。ていねいに指す。

 7八金、4八香成、同金、4六香、4七歩。


挿絵(By みてみん)


 そろそろ投了してくれるかな。

 と思ったけど、大伴くんは続行した。

 3六銀成としてくる。

 これは4七に突っ込んでくる準備だね。

 頓死もありえるから、受け。

「3八金」

「カラいねぇ。3七成銀」

 ここで手抜ける。3八金の効果。

 僕は残り5分のうちの1分を使って、6三香と打ち込んだ。

 いよいよ投了かな。

 と思ったけど、大伴くんはまだ続行。

「5一玉」

「……3三から脱出する気?」

 大伴くんはサングラスを胸ポケットからとりだし、専用の布でふいた。

「それしかやることないだろ」

「そっか……」

 右どなりの古谷ふるやくんは、もう勝ったっぽい。感想戦をしていた。

 僕も、なるべく休憩したい気持ちはある。

 でも、それは失礼だよね。投了タイミングは選手の権利。

「じゃあ6二香成」

 4二玉、8四金、3三玉、3一飛、3二歩。

 あせって入玉させちゃわないように注意。

 僕は1五角で、包囲網をしいた。

 2四歩、2一飛成、6八桂成、同金、4八銀。


挿絵(By みてみん)


 ん? 意外とめんどう?

 僕はすこし考えた。

 取る順番をまちがえると、滑り込まれるかもしれない。

 

 ピッ

 

 ここで僕も1分将棋に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6九玉」

 この手をみた大伴くんは、なやんだ。

 次の3五銀で、後手は完全に包囲される。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 それしかないね。

 僕は3七角として、同銀成、同金と清算した。

 大伴くんは、白いスーツのえりをただした。

「4六の香車が助からないうえに、角を打つ場所もなし、か……投了」

「ありがとうございました」

 握手は……しないんだっけ。

 ぺこりと頭をさげて終了。

 大伴くんはしばらく口をつぐんだ。

「……飛車と馬の交換でここまで悪くなるとは、思わなかった」

「そのあとの6一玉が、消極的過ぎたんじゃないかな?」

 僕たちは局面をもどした。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 僕は6筋のラインをゆびさして、

「このラインが安全じゃないから、攻めたほうがよくなかった?」

 とたずねた。

 大伴くんは同意しつつ、

「5五馬からの攻めがみえてなかったんだよな。割り打ちを警戒してた」

 とコメントした。

「割り打ちは考えてたよ。でも、7一銀、7二飛、6二銀成、同飛に、そこまでインパクトはなかったと思う。先に2九飛と打たれてたら、金銀を渡すのは躊躇ちゅうちょしたかも」

「たしかに、割り打ちは放置でよかったな」

 そのあと、僕たちは終盤をすこし検討した。

 後手が助かってる線は、なかったみたい。

 大伴くんはサングラスをかける。

「ぐだぐだなゲームにつきあわせちまって、悪かった」

「いいよ、団体戦だから。立場が逆なら、僕でもああしてたと思う」

 大伴くんはフッとほほえんだ。

「ところで、記念になにか見せてくれねぇか?」

「見せる? ……もしかしてマジックのこと?」

「ああ、けっこうな腕前なんだろ?」

 これは気合が入るね。

 ムネミツ・ヨシュア・サエキ、渾身の手品。

 僕は左腕をあげた。

「なにも持ってないよね?」

「ああ……薔薇でも出すのか?」

 ここで左手をグッパーする。にぎにぎ。

「大伴くん、なんか違和感をおぼえない?」

「違和感? ……そういや、胸もとが軽くなったような」

 右腕をあげる。左とみせかけて右。

「じゃじゃん、大伴くんのふところに入ってたものを取り出したよ」

 えーと、これは、拳銃かな。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………拳銃? モデルガンにしては、すごく重い。

 大伴くんはサッとその銃をとりあげて、スーツの内側へしまった。

 なにごともなかったかのように席を立って、僕の肩をたたく。

「拳銃をつくるなんて、なかなかおもしろい手品だったぜ」

「いや、今のはつくったんじゃなくて、とりだし……」

「東H島市に来る用事なんかないと思うが、あったら遊びに来てくれ」

「うん、機会があれば」

 というわけで解散。

 古谷くんと新巻あらまきくんは、対局会場のすみっこで待ってくれていた。

 僕から声をかける。

「遅くなってごめん」

 古谷くんは冷静な調子で、

「いえ、かまいません。3−0です」

 と教えてくれた。

 そっか、新巻くんも勝ったんだね。よかった。

 新巻くんは、はしゃいで、

「2回戦は世良せら高校ですッ!」

 と言った。

 駒桜こまざくら市とはおつきあいが薄いところだね。

白鳥しらとりくんっていう1年生を、マークしとけばいいんだっけ?」

 古谷くんはうなずいて、

「そうです。と言っても、当たるのは虎向こなたですね」

 と言った。

 新巻くんは、

「俺に任せてくださいッ! ちゃちゃっとやっつけますッ!」

 と、気合十分だった。ポジティブでよし。

 ここで幹事からアナウンス。

「次の対局の準備をお願いします」

 いけるところまではいきたいな。

 それじゃあ、次の対局もがんばろう。

場所:2015年度全国高等学校将棋トーナメント(H島県予選)

先手:佐伯 宗三

後手:大伴 勝利

戦型:居飛車力戦形


▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲2五歩 △3二金

▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀

▲1六歩 △3三銀 ▲3八銀 △6二銀 ▲3六歩 △7四歩

▲7八金 △7三桂 ▲3七銀 △6四歩 ▲4六銀 △6三銀

▲6六歩 △6二金 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △8六歩

▲同 銀 △6五歩 ▲7七銀 △4五角 ▲5六角 △同 角

▲同 歩 △8八歩 ▲同 金 △6六歩 ▲6八歩 △8四角

▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 銀 ▲同 飛 △2三歩

▲2八飛 △6七歩成 ▲同 歩 △5七角成 ▲6六角 △4七馬

▲1一角成 △3六歩 ▲2七飛 △3七歩成 ▲同 飛 △同 馬

▲同 桂 △6一玉 ▲5五馬 △4二金 ▲6八銀 △2九飛

▲3九歩 △1九飛成 ▲7七桂 △1八龍 ▲3六角 △2七銀

▲6三角成 △同 金 ▲6六香 △6四歩 ▲同 香 △5二金

▲4八歩 △4四香 ▲6五桂 △9五角 ▲8六銀 △8四角

▲7五歩 △6二飛 ▲6三香成 △同 金 ▲8三金 △6五桂

▲同 馬 △5四金 ▲7四馬 △7六桂 ▲7八金 △4八香成

▲同 金 △4六香 ▲4七歩 △3六銀成 ▲3八金 △3七成銀

▲6三香 △5一玉 ▲6二香成 △4二玉 ▲8四金 △3三玉

▲3一飛 △3二歩 ▲1五角 △2四歩 ▲2一飛成 △6八桂成

▲同 金 △4八銀 ▲6九玉 △2三桂 ▲3七角 △同銀成

▲同 金


まで121手で佐伯の勝ち

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