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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第4局 どっきり♡グループデート(2015年4月26日日曜)
40/682

30手目 大場・柳ペア(1)

※ここからは大場おおばさん視点です。

 青い空、白い雲。ついに、アタリーへやって来たっス。

 いやなことは忘れて、一発ドーンと遊ぶっス。

大場(おおば)お姉さん、もう10時過ぎてますよ」

 優太くんは、せっかちっすね。女の子をせかしちゃダメっス。

「大丈夫っス。急がなくても、みんな待ってくれるっス」

 とはいえ、あんまり遅いと、怒られそうっスね。

 さっさと入場門に移動するっス。

 ……あ、見えてきたっス。

 たっちゃんたちは……発見。集団だと目立つっスね。

「おはようございますっス!」

 朝は、元気よく挨拶しないとダメっスよ。これお約束っス。

 ……って、返事がないっス。

「みんな、どうしたんっスか?」

 5分遅刻くらいで、怒らないで欲しいっス。

「大場……おまえ、そういう趣味だったのか……?」

 たっちゃんは、なにを言ってるんっスかね。理解に苦しむっス。

 (すみ)ちゃんの趣味は、デザインとお裁縫と将棋っス。

「おねショタかな?」

遊子(ゆうこ)ちゃん、『おねしょた』ってなんっスか?」

「自分の胸に訊いてみればいいと思うよ?」

 なんっスか? それって、角ちゃんの可愛らしい胸への当てつけっスか?

「Sozusagen Pädophilie……verstanden?」

 ドイツ語で言われても分かんないっス。エリーちゃんは放置するっス。

「アハッ、年の差は関係ないよ。自由恋愛だものね」 

「そう……異星人同士の恋愛も自由……分かる……?」

 分かんないっス。

 とりあえず、九十九(つくも)ちゃんのまえで宇宙人ネタは止めたほうがいいっス。

 それ何回も言ってるっス。

「とにかく、角ちゃんのパートナーを紹介するっス。(やなぎ)くんっス」

(やなぎ)優太(ゆうた)でーす! よろしくお願いします!」

 そうそう、これくらい元気よく挨拶しなきゃダメっス。

「きみ、何年生?」

 と遊子ちゃん。自己紹介しないんっスか。減点っス。

「中1です!」

「中1か……あぶない人についていっちゃダメだよ?」

「はーい!」

 遊園地にあぶない人なんて、いるんっスかね?

 だれのことなのか、さっぱり分からないっス。

「まずは、自己紹介しよう。俺は箕辺(みのべ)。よろしくな」

「ふわぁ、来島(くるしま)遊子(ゆうこ)だよ」

飛瀬(とびせ)カンナ……出身はシャートフ星です……」

「『しゃーとふせい』って、H県のどこですか?」

「N72星雲……」

 優太くん、頭がハテナマークになってるっス。当たり前っス。

「Ich heiße Elisabeth Pon」

「僕は佐伯(さえき)宗三(むねみつ)。よろしくね」

捨神(すてがみ)九十九(つくも)だよ」

 九十九ちゃんが名乗ると、優太くんの目がキラキラし始めたっス。

「うわ、捨神さんって、県大会常連の捨神さんですか?」

「アハハ、そうかもね」

「あとでサインください!」

 そ、そんなに有名人なんっスか?

 やっぱり侮れないっス。

「それじゃ、チケットを配るよ」

 遊子ちゃんは、みんなにチケットを1枚ずつ手渡したっス。

 角ちゃんも、もらうっス。

「カップルチケットだから、バラバラに入らないでね」

「了解っス」

「Dann los!!」

 ゲートに移動するっス。なんかドキドキするっスね。バレないで欲しいっス。

 遊子ちゃんは、たっちゃんと手を繋いで、真っ先にゲートを通ったっス。

 んー、自然な演技っスね。角ちゃんもマネするっス。

「Herrサエキ、わ、わたくしたちも、て、手をつなぎませう」

「うん、いいよ」

 エリーちゃん、ちゃっかり便乗したっス。無事通過。

「ぼ、僕らもつなぐ?」

「……うん」

 九十九ちゃんは、カンナちゃんと手をつなぐのがイヤなんっスかね。

 動きがぎこちないっス。でも、通過。このスタッフの男性、目が節穴っスね。

「じゃ、角ちゃんたちも行くっス」

「オーッ!」

 チケットを渡して……。

「ちょっと待ってください」

 あれ? 止められちゃったっス。

「あなたたち、本当にカップルですか?」

 ギクリ。

「そうっス」

「姉弟ではなくて?」

 ……マズいっスね。節穴は角ちゃんの目だったっス。

「姉弟じゃないっス」

「大場、学生証をみせればいいんじゃないか?」

 あ、たっちゃん、ナイス・アドバイスっス。

「優太くん、学生証持ってるっスか?」

「持ってまーす」

 やったっス。これで角ちゃんたちの勝ちっス。

「……失礼しました。どうぞお通りください」

 スタッフから学生証を奪いかえして、入場っス。

「お待たせっス」

「どうする? 8人だと、順番待ちで困らないか?」

 さすが、たっちゃん、ダテに会長を務めてないっスね。気くばり上手っス。

「4人ずつに分かれる?」

 ヨシュアちゃんの、常識的な提案っス。

「4人も多いよ。このペア同士で、いいんじゃない?」

 え……遊子ちゃん、今なんて言ったっスか?

「こ、このペアって……ふたりずつってことか?」

 これには、箕辺くんもびっくりっス。

「箕辺くんは、私とペアじゃイヤなの?」

「そ、そんなわけないだろ……ただ、他のメンバーの意見も……」

「アハッ、僕はこのペアでもいいよ」

 あ、九十九ちゃんが賛成したっス。

「私も、それでいい……」

 カンナちゃんは、もちろん賛成っスよね。

 そのためのグループデートっスから。

「Ich stimme auch zu……わ、わたくしも構いませんわ」

「みんながいいなら、僕もいいよ」

 なし崩し的になってきたっス。

「大場たちも、それでいいか?」

 と、たっちゃん。

「いいっスよ。ふたりで遊んだほうが、効率がいいっス」

 アトラクションも、大勢が一度に入るのは、難しいっスからね。

「それもそうだな……じゃあ、12時にレストラン街で落ち合おう」

「了解っス」

 みんな、バラバラな方向へ立ち去ったっス。

 角ちゃんは、なにして遊ぶっスかね……うーん……。

「大場お姉さん、アレに乗りましょう、アレ」

 アレってなんっスか? ……ゲッ!

「じぇ、ジェットコースターっスか?」

「遊園地といえば、絶叫マシーンですよね。早く並びましょう!」

 くぅ、角ちゃん、これ苦手っス。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「次のかた、どうぞ」

 うぅ、ついに順番が回ってきちゃったっス。

「早く乗らないと迷惑ですよ」

「わ、分かってるっス」

 安全装置をつけて……もう逃げられないっス。

 アタリーのジェットコースターは、この界隈で一番大きいっス。

 角ちゃん、死にそう……助けて……。

《発車します》

 ゴトリと、車輪が動いたっス。ああ、この()がハンパないっス。

「大場お姉さん、海が見えますよ、海」

 見えないっス。角ちゃんには何にも見えないっス。

 ……そうだ、将棋のことを考えるっス。

 7六歩、3四歩、7五歩、8四歩、7八飛……あぁあああぁぁあああああ!

 

  ○

   。

    .


「大場お姉さん、次はアレに乗りましょう!」

「ちょ、ちょっと休ませて欲しいっス……」

 絶叫系だけで3つも回ったっス。中学生の体力をナメてたっス。

「まだ1時間しか経ってませんよ?」

「角ちゃんは、もうおばあちゃんになっちゃったっス」

「大場お姉さんは、おばあちゃんじゃないですよ! お姉さんです!」

 ああ、なんだか癒されたっス。

「でも、休ませて欲しいっス」

「じゃあ、飲み物買って、そこのベンチで休憩しましょう」

 コーラをふたつ買うっス。代金は、角ちゃんが持つっスよ。

 高校生の財力をみせるっス。

「ありがとうございます!」

「お安い御用っス」

 ふぅ……生き返るっス。

 裏見(うらみ)先輩なら、お茶っスね。炭酸飲んでるところ、見たことないっス。

「大場お姉さん、将棋を指しましょう!」

 なんでそうなるんっスか!?

「休ませて欲しいっス」

「将棋は休みながらでもできます!」

 できないっス。

「優太くん、お願いっスから、もう少し角ちゃんの……」

「そこのぼうや、風船は、いりませんか?」

 ん? だれっスか?

 顔をあげると、もじゃもじゃした髪の毛のお姉さんが立ってたっス。

 垂れ目で、なんか気が弱そうっスね。腕もすごく細いっス。

 ひらひらの白い服を着て、風船をいっぱい持ってるっス。

「あ、欲しいです!」

「おひとつどうぞ」

「ありがとうございます!」

 風船くばりのお姉さんっスね。

 ……頭に、変なものがついてるっス。かたつむりのツノみたいっス。

 かぶり物っスかね。もっとセンスを考えた方がいいっス。

「風船のお姉さん、将棋しませんか?」

 だから、なんでそうなるんっスか!?

「優太くん、仕事の邪魔しちゃダメっス」

「あ、べつにかまいませんよ」

 えぇ……オッケーが出ちゃったっス。

「やったーッ!」

「こどもと遊ぶのも、業務のうちですから」

 ……サボりっスか? サボりなんっスか?

 というか、将棋ができることに驚きっス。

「じゃあ、この盤でお願いします」

 いつものマグネット盤が出てきたっス。

「じゃんけん……」

「ぼうやが先でいいですよ」

 先手をゆずるあたり、さすがはおとなっスね。

 角ちゃんなら、振り駒かジャンケンするっス。

「んー、7六歩」

 3四歩、2六歩、8四歩、2五歩、8五歩、7八金、3二金。


挿絵(By みてみん)


 ……みごとな相掛かり模様っスね。

 このお姉さん、手つきが素人じゃないっス。

「2四歩!」

 同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛、3四飛。横歩取りっス。

「8八角成」

 あれ? ここで角交換だったっスかね?

 角ちゃん、居飛車は指さないけど、なんか違った気がするっス。

「んー、同銀」

「2八歩」

「……同銀」

「4五角」


挿絵(By みてみん)


「よ、4五角戦法ですか?」

 さすがの優太くんも、これは予想してなかったみたいっス。

 つぶらな瞳を、ぱちくりさせてるっス。

「うふふ、そうです」

「受けて立ちます。2四飛」

 2三歩、7七角、8八飛成、同角、2四歩、1一角成。


挿絵(By みてみん)


 わけわかんないっス。

 横歩特有の、アクロバティックな変化っスね。多分、定跡っス。

「3三桂」

 これは角ちゃんにも分かるっス。馬筋の遮断。

 8四飛、2六飛(ここで2八歩、同銀が活きるっス)、3九金。

 形は……優太くんのほうが怖いっス。攻められまくってるっス。

「2七銀」


挿絵(By みてみん)


 このお姉さん、めちゃくちゃな腕力将棋っス。見た目と全然違うっス。

「さすがに……同銀」

「同角成」

「角のほうなんですね」

 優太くんは、ここで長考。

 あんまり考えないほうがいいっス。お昼になっちゃうっス。

「8一……」

 そうそう、飛車成り込んで勝負するっス。

 ……あれ? 指さないんっスか?

「うーん」

 優太くんは背筋を伸ばして、髪の毛をくしゃくしゃにしたっス。

 難しいんっスか?

 例えば、8一飛成……2八馬、同金、同飛成……。


挿絵(By みてみん)


 (※図は大場さんの脳内イメージです。)


 これが詰めろ金桂取りっスか……でも、5八香くらいで受かってないっスかね?

 5八香、4八金……あるいは、2九龍……あ、違うっス。4五桂が激痛っスね。次の5七桂成で、一気に寄り筋になるっス。

 となると、先に受けるしかないっス。4八金とかっスか?

 振り飛車党の角ちゃんには、全然手が見えないっス。

「……6八玉です」


挿絵(By みてみん)


 こうやって受けるもんなんっスか。

 受けというか、早逃げっス。

 2八馬、同金、同飛成、7七玉。

 なるほど、さっさと左辺に逃げるんっスね。納得したっス。

「ぼうや、なかなかやりますね」

「えへへ、褒められちゃった」

「そろそろ反撃されそうですが……2九龍」

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