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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第37局 葉山光、中四国9県を取材せよ!(2015年5月18日金曜)
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387手目 桐野花・西野辺茉白〔編〕

 はーい、というわけで、午後はH島市。

 あたしから見たら、ほとんどご近所さん。

 勝手知ったる地元ということで、はりきって取材しちゃおう。

 あたしがやって来たのは、H島でも名門の女子校、ソールズベリー女学院。

 こんを基調としたワンピースで、夏は白いそでを出すタイプ。

 冬にはボレロ風の上着があって、これがまたかわいいんだ。

 女子校だから、犬井いぬいくんは留守番で、あたしだけ潜入することに。

 べつにそういうの気にしなくてもいいと思うんだけどね。

 将棋部は校舎の1階にあった。

 あたしはノックする。

「こんにちは、日日にちにち杯の取材でまいりました」

「えへへぇ、おはなも入れるのですぅ」

 あたしがびっくりしてふりかえると、白い夏服を着た黒髪ロングの少女が立っていた。

 H島代表の桐野きりのはなさんだ。

「こんにちはぁ」

「こ、こんにちは……」

「そんなにびっくりしなくてもいいのですぅ。打ち合わせどおりなのですぅ」

 たしかに。

 H島市→艶田つやだ市→駒桜こまざくら市の移動がたいへんだから、ここで二人分やる約束。

 桐野先輩は、

「ところでぇ、だれもいないんですかぁ?」

 と言って、あたりをきょろきょろした。

 ノックしたのに返事がないね。

 すりガラスの窓をのぞくと、なんだか薄暗い。

 もしかして、日程をまちがって送っちゃったかな。

 あたしはスマホをポチポチしながら、約束の時間を確認した。

 するとろうかの奥から、パタパタと走ってくる音が聞こえた。

「ごめんごめん、遅れちゃった」

 ソールズベリーの制服を着た少女が、手をふる。

 西野辺にしのべ茉白ましろさんだった。

 西野辺さんはちょっと小柄な女の子で、ねじんりんぱっていう髪型をしていた。

 顔立ちは幼いけど、けっこう気が強そうな雰囲気。

 西野辺さんはササッと鍵を開けて、なかに通してくれた。

「てきとうに座って」

 室内はいかにも女子校風……というわけでもなく、ただの部室だった。

 テーブルと椅子がならんでて、本棚には将棋の本がぎっしり。

 やっぱり強豪校は、ちゃんと勉強してるんだね。

 あと、定番の参考書とかもおいてあった。このへんは進学校らしい。

 あたしはパイプ椅子のひとつに腰かけた。

 桐野先輩は勝手に本棚をあさって、

「ほえぇええ……むずかしいですぅ……」

 と言った。

 西野辺さんはペットボトルのお茶を出しながら、

「お花お姉ぇは直感型だから、あんまり読んでも意味ないでしょ」

 と言った。年上に強い。

 桐野先輩も、あたしの右どなりに着席。

 あたしたちのまえに、紙コップのお茶が出された。

「ありがとうございます」

 お礼を言ってひとくち。ひんやりしてておいしい。

 桐野先輩もご満悦で、

「夏は麦茶にかぎるのですぅ」

 と言って、ぜんぶ飲んでしまった。

「ところで、お花お姉ぇ、丸子まるこお姉ぇたちといっしょじゃなかったの?」

「さそったけど、断られちゃったのですぅ」

 桐野先輩、ちょっとさみしそう。外野はわりと歓迎なんだけどね。

 西野辺さんは「ふーん」と言って、

「あのふたり、将棋関連だとなんかストイックだよね」

 と、ひとりごとのようにつぶやいた。

 それからあたしの正面に座った。

「じゃあ、葉山はやまさんだっけ、今日はよろしく」

「よろしくお願いします……西野辺さんからですか?」

「ううん、お花お姉ぇからでいいよ」

「ふえ? いいんですかぁ?」

「もち、先輩だしさ」

 先輩後輩だからどっちが先ってこともないと思う。

 むしろ大御所はあとなんじゃないかな。

 ま、そのへんで揉める必要もない。あたしは手帳をとりだした。

「では、将棋をはじめたきっかけなどを」

「将棋はぁ、小学生のとき、丸子ちゃんに教わりましたぁ」

「マルコちゃん、というのは?」

吉備きび丸子まるこちゃんですぅ」

 ……聞いたことあるかも。

 たしか、裏見うらみ先輩の友だちで、そういうひとがいた気がする。

 ただ、桐野さんとおなじ学校じゃなかったような? 本榧ほんがやだっけ?

「教わった、というのは?」

「教室でひとりで遊んでたらぁ、教えてくれたのですぅ」

 んー、よくわかんない。

 どういうシチュなんだろ。

「わりとひとりで遊ぶタイプですか?」

「お絵描きが好きでぇす」

 あ、趣味を先に聞いちゃったかも。

 あたしは質問を変えた。

「ふだんの練習は、どうしてますか?」

「丸子ちゃんと指したりぃ、しのぶちゃんと指したりしてまぁす」

「部活動では、どうですか?」

「部ではかんちゃんと指しまぁす」

「カンちゃんというのは?」

立花たちばな寒九郎かんくろうくんなのですぅ」

 なるほど、男子と指してるのか。

 ただ、そのひとは県代表じゃないから、桐野さんのほうが強そう。

「趣味はなんですか?」

「食べることと寝ることと、それからお絵描きとお散歩と……」

「あ、ひとつだけ、特にこれというやつでお願いします」

 桐野先輩は、はたと固まってしまった。

「……ふえぇええ、選べないのですぅ」

「じゃあ、最初に言ったふたつでもいいですか? 食べることと寝ることで?」

「オッケーですぅ」

 あたしはメモしつつ、

「これは好奇心からの質問なんですけど、好きな食べ物はなんですか?」

 とたずねた。

「お母さんが作ってくれるホットケーキでぇす」

 あ、いいねぇ、ホットケーキ。

「バターつける派ですか?」

「もちろんですぅ。あとハチミツもたっぷりかけまぁす」

 なんか食べたくなっちゃった。

 あとで八一やいちに寄って、猫山ねこやまさんお手製のホットケーキをつくってもらおうかな。

 と、仕事仕事。

「気になってる選手はいますか?」

「ふえ? どういう意味ですかぁ?」

「とくに深い意味はないんですが、マークしてるとか、そういう」

 桐野先輩は、首を左右にかしげて、

「いませぇん」

 と答えた。

 これは桐野先輩らしいね。

「じゃあ、次は西野辺さん、おなじ順番で質問します。将棋をはじめたきっかけは?」

 西野辺さんは、すぐには答えなかった。

 イントロの簡単な質問なんだけど。

「えーとさ、これオフレコにしてもらってもいいかな?」

「将棋をはじめたきっかけが、ですか?」

「うん、あとで犬井に訊かれるとどうせバレるから、ウソつけないんで言うけど、彼氏に教えてもらった」

 冒頭からマウンティングか。強いな、この女。

 こうなったら勢いを借りて、

「じゃあ、記事には『友だちに教わった』と書きますから、オフレコで詳細を」

 と、好奇心丸出しの質問で反撃。

「詳細もなにも、彼氏の趣味が将棋だったから、教えてもらっただけだよ」

「……もしかしてけっこう有名な選手ですか?」

「ぜんぜん、いまでも初段あるかないか。ただ犬井の知り合いだから、これウソつけないんだよね。あたしと彼がつきあってること、犬井は知ってるし」

 初段あるかないかって、あたしくらいじゃん。

 これはあれだね、カノジョに教えたら追い抜かれたパターン。

 あたしはメモをとりつつ、ふと妙なことに気づいた。

「……あれ? 西野辺さん、小学校のときも大会出てますよね?」

「うん、彼氏に教わったの小2のときだし」

 犯罪の匂いがする。

 あたしの態度を読み取ったのか、西野辺さんはすぐに、

「あ、彼氏は同い年だからね」

 とつけくわえた。

 いやいや、ちょっと待って、混乱してきた。

「小2のときからずっと付き合ってるんですか?」

「告白したのは中学にあがってから」

 あ、そういうことか。

 ようするに幼馴染なわけね。

「いずれにしても、つきあってる期間長いですよね……」

 西野辺さんは、いかにもノロケな笑みをみせつつ、目を閉じて、

「今思い返すと、幼稚園のときから好きだったと思うんだよね」

 と言った。

 はぁああああ、いかんいかん、葉山光、このノロケの流れを断ち切れ。

「練習は彼氏と……じゃないですよね?」

「練習は部員と指すよ。ソールズベリーは部としても強いし」

「趣味は?」

「日本舞踊」

 マジ? 高尚すぎるでしょ。

「日本舞踊が趣味って、どういう流れで……?」

「うちのママが日本舞踊の家元なんだよ」

 いかん、そっち系のセレブだったか。

 なんか言葉遣いがびみょうに荒いから、かんちがいしてた。

「実家が日本舞踊の家元なら、趣味っていうか本職では?」

「そう言われたくないから『趣味』って強調してるの。継ぐ気ないし」

 なるほど、家業を継ぐ気がないことの意思表示なのか。

 わりと断固としたものを感じるから、深入りはやめておく。

 家庭の事情だと困るし。

「気になる選手はいますか?」

 西野辺さんは、くちびるに指をあてて、しばらく考えた。

「……いないかな。いるって答えた選手、これまでいたの?」

 あたしは、取材で得た情報はヒミツです、と答えかけた。

 けど、どうせパンフに載るんだから、隠す意味もないような気がした。

 あたしはあたりさわりのない範囲で答えた。

「ふーん、みんなおとなしいね。女子だと、あざみちゃんだけ過激な感じか」

「掲載されるってわかってますし、本音を言いづらいかな、とは思います」

「たしかにねぇ、パンフに載らないなら、あたしも名前をあげたい子がいるし」

「……オフレコで教えていただけません?」

囃子原はやしばらグループの記者なら、そこそこ信頼できるかな……素子もとこちゃん」

 早乙女さおとめさんか。県内の選手を挙げてきた。

「理由は?」

「小6の大会で負けて以来、勝ててないんだよねぇ」

 そっか、この項目、オフレコにしたら、指名したひとがもっと多かったかも。

 過去の対戦成績とかで、気にしてる選手はいそうだから。

 とはいえ、それじゃあ取材にならないから、やっても意味ないんだよね。

 さっきのノロケ話で固まっていた桐野さんも、これには乗ってきて、

「素子ちゃんはめちゃんこ強いのですぅ。お花もブルっちゃうのですぅ」

 と言って、わざとらしくブルブルと演技をした。

 あたしはうまい会話のきっかけができたから、

「桐野先輩は、早乙女さんに対してどのくらい自信がありますか?」

 とたずねた。

「数学の問題が出たら勝てないと思いまぁす」

「いや、将棋で……」

 桐野先輩のオーラが変わった。

 なにか闘気のようなものを感じる。

「将棋は、負けるつもりで指しちゃダメなのですぅ。わかりますかぁ?」

「あ、はい……すみません」

「なんで謝るんですかぁ?」

 詰めないでください。反省してます。

 と言ってもなぁ、これは怒られるから言わないけど、上位層のめちゃくちゃ負けず嫌いなところ、あたしはちょっとよくわかんないんだよね。

 ついでだから、西野辺さんにも訊いてみようか。

「西野辺さんは、対局前のモチベをどうしてます?」

 西野辺さんは頬杖ほおづえをついて答える。

「おっきな大会で勝つと、彼氏に『すごいね』って言ってもらえるんだ。それかな」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あのさぁ、ノロケが許されるのはワンエピソードだけだよ。

 あたしがあきれていると、部室のドアがパーンと勢いよくひらいた。

 凛々しいポニテの長身女子と、小学生くらいの背たけの女子があらわれる。

 西野辺さんは目を白黒させた。

「え? なんで忍お姉ぇと丸子お姉ぇがいるの?」

「西野辺、なんだその軟弱な発言は? 大和撫子やまとなでしこたるもの、恋愛にうつつを抜かすな」

「いや……忍お姉ぇ……もう戦後70年だよ、70年?」

「えへへぇ、もはや戦後ではないのですぅ」

「いや、それ意味違うし」

 小学生くらいの背たけの女子は、メガネをなおしつつ、

「県代表がこれでは、締まりがつきません。私たちで調整しましょう」

 と言った。ほかのふたりも同調する。

「左様、調整が必要だな」

「というわけで、茉白ちゃんを調整しまぁす」

 3人は西野辺さんを囲んだ。

「ちょ、ま、葉山さん、助けてッ!」

 ノロケは罪だよ、西野辺さん。

 それじゃ、いよいよ次が最後なんで、さいなら〜。

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