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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第36局 密偵Outsiders(2015年7月17日金曜)
377/681

365手目 身近な裏切り者

「他県が俺たちのことをスパイしてるだと?」

 ドキッ――な、な、なんでバレたの?

 私は動揺する。すると、しずかちゃんがテレパシーで、

(私たちのことじゃなくない? 他県って言わなかった?)

 と指摘してくれた。

 あ、そういえば、他県って言ったような気がする。

 でも、他県とかんちがいしているだけかもしれない。

 私たちはドアのすきまから、こっそりとのぞきこむ。ふたりの高校生が、深刻そうな顔で会話をしていた。ひとりは、おっきなポニーテールの女子高生。比呂ひろ高校将棋部の主将で、高校将棋連盟H島県支部の支部長、月代さん。もうひとりは、髪の両サイドをとがらせた大柄な男子だった。彼はだれかわからなかった。

 私はこっそり、静ちゃんにたずねた。

「あの男子……知ってる……?」

(知ってるよ。大文字だいもんじくんでしょ。ジャビスコ将棋祭りに来てたよ)

 ん……そういえば、捨神すてがみくんと対戦したチームで見かけた気がする。

 大文字くんは扇子せんすで顔をあおぎながら、うーむ、と声を漏らした。

晶子あきこの考えすぎだろう。支部長になってから、すこし神経質だぞ」

「まあ、それは否定できないけど……目撃情報が多いから」

「目撃情報?」

「男女2人組の高校生が、将棋関係者をストーカーしてるらしいわ」

 大文字くんは首をひねった。あんまり信じてないっぽい。

「だいじな大会とはいえ、しょせんは高校生のアマ将棋だ。そこまでするとは思えん」

「四国勢は、わりと本腰入れてるみたいだけど?」

 大文字くんは扇子を閉じて、耳の穴をかっぽじった。

「で、そのストーカーはどこに出没してるんだ?」

「目撃ポイントと、去った方向をリサーチしてあるわ」

 さすがは幹事長。ぐぅ有能。

 月代さんは、H島の地図をホワイトボードに貼った。


挿絵(By みてみん)


 あれ……これって……。


  ○


   。


    .


 え〜、というわけで、このなかに裏切り者がいる――かもしれない。

 私は駒桜こまざくら市の喫茶店八一やいちで、犯人を物色していた。

 2年生の主だったメンツが集合している。

 箕辺みのべくん、葛城かつらぎくん、佐伯さえきくんの役員メンバー。

 それに、捨神すてがみくん、遊子ゆうこちゃん、大場おおばさん、エリーちゃんも。

 今日は県大会直前ということで、市内スタッフの会合。箕辺くんと葛城くんは手伝いに行かないといけないし、ほかのメンバーにもそこそこの雑用が割り振られていた。その打ち合わせもひと段落して、休憩タイム。私たちは思い思いのスイーツと飲み物を一品づつ注文した。私はコーヒーと季節のゼリー。さすがに経費じゃ落ちないんだよね、これ。

 私はひとりずつ観察する。

「じーッ」

すみちゃんの顔に、なにかついてるっスか?」

 大場さん、あいかわらず変な制服を着ている。

 今日はピエロみたいな水玉模様。

 って、論点はそこではなく。

「大場さん、Y口県の男の子とよく遊んでるよね……?」

優太ゆうたくんのことっスか?」

「あの子と、どういう関係……?」

「ただの友だちっス」

 あやすぃ。大場さんの個人的趣味じゃないのかな。

 って、論点はそこではなく。

「優太くんは、どうしてわざわざH島へ遊びに来るの……?」

「I国市からH島へ遊びに来るひとは大勢いるっスよ」

 そう言われると、そうだね。さすがに100万都市だから。

 それに、優太くんって無邪気なかわいい系キャラだし、スパイではないかな。

 男女2人組で県外っていう情報に照らすと、1番あやしいところだったけど。

「疑ってごめんね……」

「?」

 ほかに候補がいるとすれば――私は遊子ちゃんを見つめる。

「じーッ」

「?」

 遊子ちゃんは手帳をとりだして、ボールペンでなにやら書きつけた。

 私だけにみせてくる。

 

 なにガン飛ばしとんじゃわれ


 ヒエッ……裏社会に触れるのはやめておこう。

 それに、男女ペアだったら相方は箕辺くんだよね。箕辺くんもなさそう。

 ほかには……エリーちゃん。

「ジーッ」

「? わたくしの顔になにか?」

「エリーちゃん、県外に友だちいる……?」

 エリーちゃんは顔を赤くして、

「それは、わたくしに友だちが少ないという指摘ですのッ!?」

 と怒った。あ、しまった、言い方が悪かった。

「ごめん、そういう意味じゃなくて……最近、知らない高校生が駒桜市をうろうろしてたから、だれかの友だちかな、と……」

 てきとうにごまかす。すると、思いもよらぬ情報が手に入った。

 それまで黙って紅茶を飲んでいた葛城くんが、ふいにつぶやいたのだ。

「そういえば、街中でやたら写真をとってる男子を見かけたよぉ。メガネとマスクをしてたから、なんかあやしくておぼえてるよぉ」

「そのひとの制服、どこの学校か分かる……?」

「うーん、制服は着てなかったけど、体格と肌年齢をみるかぎり高校生だったよぉ」

「どのあたりで目撃した……?」

市立いちりつの裏門だねぇ」

 えッ、うちの学校?

 まさか箕辺くんと遊子ちゃんでワンチャン……なわけないか。葛城くんが箕辺くんたちを見間違えるとは思えない。この場にいる全員シロだと判断。

「いつごろ……?」

「先月の頭だったかなぁ」

 この話を聞いた箕辺くんは、心配そうな顔で、

「不審者か……学校に通報しといたほうがいいかもな」

 と言った。

 警察が捕まえてくれたら、万事解決なんだけどね。

 ただ、ちょっと今の情報で気になることがあった。

「その男子高校生は、裏門でなにしてたの……?」

「んー、植物の写真を撮ってたねぇ。だれかを待ってるっぽかったよぉ」

「だれかを待ってた……? どのあたりからそう感じた……?」

「荷物を2人分持ってたからだよぉ」

「どんな荷物だったか、おぼえてる……?」

 葛城くんは、うーん、と上目遣いに記憶をたぐった。

「……女物だった気がするぅ。怖いからあんまりジロジロ見なかったけどぉ」

 なるほど、月代さんたちが言っていたことと合致している。

 男女2人組で、葛城くんがすぐには見分けられない人物=県外濃厚。

 一方、箕辺くんはこの話を聞いて、すこし安心したようだった。

「どこかの写真好きっぽいな。うちの学校は桜並木さくらなみきで有名だから、それを撮りに来たんだろう。もうひとりが女なら、変質者って線も薄い」

 そうかな。けっこう夫婦で事件を起こしてるケースが地球だと多いような。

 とりあえず、私が見えている情報と箕辺くんが見えている情報はちがう。

 私はかばんを持って席を立った。

 箕辺くんは、

「ん? もう帰るのか?」

 とたずねた。

「ごめん、ちょっと用事を思い出した……」

 捨神くんも席を立つ。

「あんな話があったばかりだし、僕が送って行くよ」

「ありがと……」

 ふたりでお金を払って、喫茶店を出る。

 まだ夕暮れには早くて、人の流れも多かった。

「ちょっと不自然だったかな……」

 私のつぶやきに、捨神くんはちょっぴり赤くなった。

「あ、うん、そうかもね……でも、さっきので思い当たることがあるんだ」

 信号が赤に変わる。私たちは横断歩道のまえで静止した。

「気になったこと……?」

「さっきの2人組、僕も心当たりがあるんだよね」

 衝撃的な事実。私は調査の目的も忘れて、不安になった。

「捨神くんがストーカーにあってるの……?」

「あ、いや、ストーカー……なのかな。一回だけ、写真を撮られた気がする」

「どこで……?」

天堂てんどうの帰り道だよ。マンションまでの近道をたどってたら、シャッター音がした……気がしたんだ。そのときは気のせいだと思ったけど、今日の話を聞いて、なんとなくそうなのかな、って思った。そのときも6月の頭だったから」

 ということは、スパイがいることは確実なんだね。さらに、日日杯がらみだという予想も当たっているらしい。

 でも、ちょっと奇妙かな。捨神くんが使ってる近道は、市内でもそんなに知っているひとはいない。行き止まりの多い住宅地のあいだをすり抜けるルートだから。待ち伏せポイントだって限られているはず。あのへんを熟知しているとしたら、市内の将棋関係者だけじゃないかな……やっぱり身内に犯人がいる?

 2年生じゃないのかもしれない。1年生であやしいひと、3年生であやしいひとも考えてみる。でも、わざわざ他県とつるんでスパイをしそうなひとはいな……ん?

 ちょっと待って……ひとりいた。


  ○


   。


    .


「いやぁ、今回の現像げんぞう、神技でしょ」

「やっぱりひかるちゃんだったんだね」

「うわぁあああああああッ!?」

 薄暗い現像室げんぞうしつのなかで、光ちゃんは飛び上がった。

 ピンセントから写真がひらりと落ちる。

 光ちゃんはそれを拾い上げようとした。先手必勝。私が先に手を出す。

 そこに写っていたのは――六連むつむらくんと早乙女さおとめさんだった。

「光ちゃん……まさか他県のスパイだったなんて……」

「ち、ちがうってばッ! 誤解だよッ!」

 なにが誤解なのかな。物証はある。

 ここは弁明してもらわないと。

 私は光ちゃんに圧力をかけた。

 すると、光ちゃんは思いもよらないことを言い始めた。

「は、囃子原はやしばらくんに頼まれたの」

「囃子原くん……? 囃子原グループの御曹司、礼音れおんくんのこと……?」

 光ちゃんは、そうだと答えた。

 ますますあやしい。お金で買収された宣言に近いものを感じる。

「なんで囃子原くんが光ちゃんに写真撮影を頼むの……?」

「あたしの記事を気に入ってくれたんだよ。うちと清心の取材したじゃん*」

 そういえば、光ちゃんが清心せいしんの取材をしたんだった。おぼえてる。

 でも、そこから日日杯の撮影を任されるって、ちょっと唐突じゃないかな。

 私は作り話じゃないかどうか、詳細を話すようにお願いした。

「あれはね、5月の終わりなんだけど……」

*192手目 突撃取材、となりの将棋部さん!

https://ncode.syosetu.com/n2363cp/204/


地図はこちらからお借りしました。

https://illustimage.com/?id=552

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