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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第36局 密偵Outsiders(2015年7月17日金曜)
375/682

363手目 スパイ大作戦

※ここからは、飛瀬とびせさん視点です。

 今日も夏真っ盛り。暑いね。

 地球は温暖化。というわけで、駒桜こまざくら市の公園に来ている。

 避暑ひしょってわけじゃないけれど、噴水ふんすいの近くでしずかちゃん、美沙みさちゃんと井戸端会議。

 話題は必然的に恋バナへと突入――

「というわけで、捨神すてがみくんに身体的特徴をとらえられている飛瀬カンナです……」

 大きなため息が聞こえる。

(あのさぁ、これそういうお話じゃないから)

 静ちゃんがテレパシーでつっこんできた。

「どういうお話なんですか……?」

(女子高生が将棋に青春をささげるお話だよ)

 いつからそうなったのかな。

 エスパーは歴史改竄が得意。

「そもそも、私の身体的特徴ってなんだと思ってるの……?」

(だから、これそういうお話じゃないから)

 私はコンタクトレンズをはずす。

 美沙ちゃんがおどろいた。

「あれ? 飛瀬先輩、赤目だったんですか?」

「シャートフ星だとこれが基本……」

「なるほど、たしかに身体的特徴ですが、人間でもアルビノはいますよ」

「うん、捨神くんがそうだよね……」

 じつは捨神くんもカラーコンタクトで黒目にしてる*。

 箕辺みのべくんたちも知っている。

(それじゃあ宇宙人の身体的特徴でもなんでもないじゃん)

「そう言われるとあまり反論できないんだけど……」

 そもそも、私の身体的特徴を語る場ではないので。

 今日集まったのは、ほかの学校の偵察のため。

 とりあえず、身内の偵察からはじめる。

獄門ごくもん椿油つばきゆは、こんどの県大会に自信あり……?」

 ふたりは「ある」と答えた。

(もちろんだよ〜、神崎かんざき先輩と私で2枚看板だし、雨宮あまみやちゃんもいるし)

「それは椿油もいっしょです。おはな先輩と私で2枚看板です」

 ぐぅのも出ないほど強い。

 ほかにライバルになりそうなところがないかも訊いてみる。

 するとふたりは、ソールズベリーの名前をあげた。

「全国大会常連校ですし、最大のライバルです」

(といっても、今年は南海なんかいさんが出ないんじゃないかな。3年生だし、神崎先輩みたいな就職組じゃないもんね)

 美沙ちゃんもうなずいた。

「その可能性は高いですか……すこし偵察してみたいところです」

 これは、えーと……渡りに船だっけ。地球のことわざ。

 乗るのはやぶさかじゃない。けど、私たちじゃ目立つ気がする。

 3人とも県内で無名じゃないからね。

 そのことを指摘すると、美沙ちゃんは魔法のステッキをとりだした。

「それなら簡単です。Transformor in cattam!!」

 美沙ちゃんは魔法のステッキをふって、黒猫に変身した。

(あ、ロシアンブルーだ。私も変身するね。えいッ!)

 静ちゃんはピンとひとさしゆびを立てて一回転。

 三毛猫に変身――って、あれ?

「エスパーって変身できるの……?」

(アハハ、これは脳波に働きかけてるんだよ。ほんとは変身してないから)

 さすがにエスパーでも、細胞を変えることはできないよね。

 というわけで、私も変身。

 ポケットから丸い機械をとりだす。

「ホログラフマシンです……ポチっと」

 私のまわりに光学迷彩ができあがる。これで透明人間。

 では、スパイに出発。


  ○

   。

    .


 私たちは空を飛んで、ソールズベリー女学院に到着。

 藤花ふじはなはお嬢様学校って感じだけど、ここはいかにも進学校って感じ。

 モダンな白い建物に、シンメントリを意識した花壇や木々。

 真っ白なブラウスにダークブラウンのスカート。胸元には水色の花柄ネクタイ。

 かわいらしい制服を着た女子生徒が、美沙ちゃんたちに気づいた。

「あ、猫だ」

「はじめてみるね。迷子かな」

 美沙ちゃんと静ちゃんはニャ〜と鳴いて、そそくさと移動。

 将棋部はどのあたりにあるのかな。さがすのにひと苦労。

 美沙ちゃんが窓からのぞきこんで、ひとつずつ確認していく。

「あ、ここですよ。1階で助かりました」

 どれどれ――あ、ほんとだ。見たことのある女子が何人かいる。

 ねじりんぱっていう髪型をしたひとが、部屋のまんなかでなにかしゃべっていた。

 えーと、たしか……西野辺にしのべさんだったかな。県大会優勝経験者だね。

 なにやら揉めてるっぽい。あきれたような声が聞こえてきた。

「だからぁ、南海おねぇは出ないんだって」

 このセリフに、大きなりぼんをした小柄な子が反応した。

 1年生のエース、東雲しののめ青來せいらさんだ。

「なんで出ないんですかッ! 規律違反ですよッ!」

「3年生で将棋指してないんだから、べつのレギュラー出したほうがいいでしょ」

「3年間を部活にささげない高校生活なんてありえないですッ!」

「そりゃあんたの中ではそうなんでしょ」

 なるほど、南海さんは出ないみたいだね。裏見うらみ先輩といっしょか。

 これには静ちゃんがほくそえんで、

「南海さんが出ないなら、獄門もワンチャンあるかなぁ」

 と言った。けど、美沙ちゃんは慎重な態度をとる。

「ジャビスコ杯をみたかぎり、南海先輩は棋力が落ちていましたよ。出ないという判断は正しいように思います。それより、べつのレギュラーがだれか気になります」

 室内のふたりは、ああだこうだと揉めている。

 でも、だれをレギュラーで出すかの話はしなかった。3人目は決まってないのかな、という雰囲気になったとき、東雲さんがこちらに気づいた。

「あッ! 猫ちゃんがいますッ!」

 東雲さんはこちらに駆け寄って、窓を開けた。

 そして、いきなり静ちゃんたちに話しかけた。

「猫ちゃんたちも、南海先輩は出ないといけないと思いますよねッ!」

 えぇ……猫に訊いてもしょうがないのでは。

 と思いきや、三毛猫の静ちゃんが悪ふざけをして、

「ニャ〜」

 と、いかにも同意したっぽいような鳴き方をした。

「ほらッ! 茉白ましろ先輩ッ! 猫ちゃんもそうだって言ってますッ!」

「いや、あのさぁ……ただの偶然でしょ」

「フーッ!」

 静ちゃん、怒ったような鳴き方。これには西野辺さんもドキリ。

 ちょっとからだをひいた。

「び、びっくりした……」

「猫ちゃんが怒ってますよッ! 猫ちゃんは南海先輩の出場を希望してますッ!」

「ニャ〜」

「猫が日本語わかるわけないでしょ」

「フーッ!」

「また怒ってますよッ! ですよね、猫ちゃんッ!?」

「ニャ〜」

「だから偶然だって」

「フーッ!」

 西野辺さん、さすがに怖くなってきたらしい。

 窓を閉めるように指示した。

 だけど、東雲さんは反抗。

「猫ちゃんを締め出す気ですかッ!」

「っていうか、青來が仕込んだ猫なんじゃないの、それ?」

「おっとッ! 茉白先輩ッ! じぶんに都合が悪いから陰謀論を唱えだしたッ!」

「じゃかぁしぃ、南海おねぇは出ないつったら出ないの」

 H島の女子高生らしい仁義なき戦い(?)がはじまった。

 静ちゃんも、悪ふざけがすぎる。

 私は三毛猫にこっそり話しかける。

「静ちゃん、めちゃくちゃになってきたよ……」

「うーん、ちょっとやりすぎたかな。それじゃあ、えいッ!」

 静ちゃんは超能力でふたたび変身……南海さんになった。

 窓から部室に突入する。

「おーい、こら、あたしのことでケンカするなよ」

 これには西野辺さんと東雲さんもびっくり。

「なんで窓から入って来てるんですかッ!」

「べつにいいじゃん。それより、ケンカはやめろよ〜」

 3年生をまえにして、西野辺さんも東雲さんもおとなしくなった。

 ただ、西野辺さんはちょっとあやしんでるみたいで、

「えーと……南海おねぇ、だよね?」

 と、確認をいれてきた。

「そうだよ」

「神崎おねぇの変装じゃないよね?」

 あ、そっか、変装できるひとがいるから、意外とうたがわれるのか。

 静ちゃんは冷静に、

「ほっぺ、ひっぱってみる?」

 とたずねた。すると、西野辺さんは、

「腕のほうでいい?」

 と、わざわざさわる箇所を指定した。

「いいよ」

 西野辺さんは、静ちゃん(が変装した南海さん)の腕をわしわしつかんだ。

「……筋肉のつき方からして、神崎おねぇっぽくはないかな」

 筋肉はアイデンティティを物語る。

 ところが、これがかえってまずくて、西野辺さんは、

「ん? ……南海おねぇ、ちょっと細くなった?」

 とたずねた。静ちゃん、ここでも冷静に対応。

「なに? まえは太かったって言いたいの?」

「い、いや、そういうわけじゃないけど……おねぇ、スポーツやってるわりに細いね」

 静ちゃんはスポーツしてないからね。

 サイコキネシスで物を持ち上げるのも楽チンだから、腕力ぜんぜんなさそう。

「いつまでさわってるの?」

「あ、ごめんごめん……神崎おねぇじゃないなら、だいじょうぶかな。ところで、今日は模試とか言ってなかった?」

「あ、そうだ、模試の最中だった。じゃあね」

「えぇッ!?」

 静ちゃんは窓から飛び出す。私たちは一斉に退散。さようならぁ。

 この調子でどんどんまわっていこう。


  ○

   。

    .


 というわけで、次の高校へまいりました……七日市なのかいち高校です。

 七日市高校は、山と海に面した狭い平野部にある、簡素な高校だった。

(ザ・田舎って感じだね)

 獄門高校がある鎌鼬かまいたち市も、たいがい田舎のような。

 そもそも、H島県ってH島市から西へ寄るとけっこう過疎ってるという。

 まあ、私の出身シャートフ星も銀河の田舎だから、あまりひとのことは言えない。

 私たちは七日市高校のなかをうろうろ。

「猫のかっこうで校舎をうろついてると、まずくない……?」

(アハハ、だいじょうぶだよ。迷い猫、迷い猫)

 2階にようやく部室をみつけた。私たちはこっそり近く。

 灯りがついてるね。

 廊下でようすをうかがう。すると、女の子の声が聞こえてきた。

「ああ、並木なみきくん、どうしてあなたは並木くんなの?」

*198手目 乾杯する少女

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