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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 新入部員を探せ!(2015年4月22日水曜)
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え? もう見つかった?

 ここは、駒桜こまざくら市でも有名なスイーツ店、ゲシュマック。

 女のひとがたくさんいるね。あとカップルも。僕たちは場違いじゃないかなぁ。

「へへへ、それじゃあ、『本日の特製パフェ』をいただくことにしますか」

 不破ふわさんはもみ手をしながら、店員のお姉さんを呼んだ。

歩夢あゆむは、どうする?」

「僕はコーヒーでいいよ」

 お金があんまりないからね。特製パフェっていくらするんだろ……900円!?

「これは痛い……デフレ大国日本には痛い……」

「夏目で足りるんだから、そう気にするなよ」

「たしかに、税込でも972円……って、そういう問題じゃないよね?」

「そういう問題」

 どうも不破さんのペースに巻き込まれちゃうな。僕ってお人好し。

 そのうちメニューが運ばれてきた。

 不破さんのパフェは、キウイフルーツをふんだんに使った緑色のチョコソフト。

 僕のホットコーヒーは普通だね。カップが陶器に金模様。綺麗だ。

「いただきまーす」

 不破さんは、細長いスプーンで生クリームをパクリと食べた。

「ん〜、おいひぃ〜」

 ご満悦だね。僕はコーヒーをひとくち飲んで、鞄をあけた。

「『将棋ワールド』の今月号か?」

「そうだよ。読みかけなんだ」

「せっかくふたりっきりなんだから、もうちょっと配慮しろよ」

「なにを?」

 不破さんは頬杖をついた。ムスッとしている。

「これだから歩夢はなぁ」

 意味が分からない。僕がなにをしたって言うんだい。

 ソフィストみたいな会話は受けつけないよ。

 面倒だから、さっさと続きを読んでしまおう。詰め将棋のコーナーから。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「おい、貴様」

 ん? 貴様呼ばわりされた?

 声音が不破さんじゃなかった。声の方向も違った。

 僕は顔をあげた。

「貴様が駒込こまごめ歩夢あゆむか?」

 僕より背の高い女子高生が、するどい眼光をむけていた。

 細いようにみえて、明らかに鍛えてある。

 髪はロングを束ねているだけ。ファッションには気を遣ってなさそうだ。

 もうひとつ気になったのは、右目に眼帯をしていること。 

 制服は市立のものだったけど、顔に見覚えがなかった。

「こんにちは、どなたですか?」

「さきに質問したのは私だ。おまえが駒込歩夢か?」

 失礼だなぁ。不破さんも、不審に思ったみたいだ。ギロリとにらんだ。

「おい、なに歩夢に声かけてんだ?」

 さすがは不良の溜まり場、天堂てんどう高校。ガンつけに迫力がある。

 ここは不破さんに任せよう。

 ところが、あいても負けじとにらみ返してきた。

「貴様に用はない」

「あぁ? てめぇ、あたしが誰だか知ってて言ってんのか?」

「知らんな」

 長引くと、パフェが溶けちゃうよ。サクッと、サクッと。

 不破さんに任せると物騒な気がしてきた。自分で対応しよう。ご指名だし。

「僕が駒込歩夢だけど、なにか用?」

 眼帯のお姉さんは、右手の親指で胸もとをグッとゆびさした。

「私は草薙くさなぎともえ駒桜こまざくら市立いちりつ高校の1年生だ」

 いや、用件を尋ねたんだけど。それに、制服で分かる。新品だからね。

「クサナギさんは、なんで僕に声をかけたの?」

「貴様、将棋部だな?」

 あ、そういうことか。はじめから言ってくれればいいのに。

「入部希望なら、僕じゃなくて女子将棋部のほうに言ってね」

 このひと、筋肉がありそうだから、てっきり体育会系だと思ってた。

 文化部に入りたいなんて、奇特だね。

「なに? 男子将棋部と女子将棋部があるのか?」

 眼帯少女は眉間にシワをよせた。

「そうだよ。正確には、男子将棋同好会と女子将棋部ね。前者は非公認」

 僕の回答に、眼帯少女はすこし考え込んだ。右手をあごに添えて、そっぽを向く。

「しまった。お嬢さまから聞いていなかった」

 お嬢さま? 誰のことだろう。

 不破さんも引っかかったらしい。僕に耳打ちしてきた。

「おい、こいつ、姫野ひめののババァの刺客しかくじゃねぇか?」

「えぇ? 姫野さんの友だちっぽくはないけどなぁ」

「あのババァ、お嬢さまぶってて、ウラでなにしてるか分かんねぇぞ」

 それは半分以上、私怨入ってるよね。

 姫野さんっていうのは、去年卒業した藤花ふじはな女学園の生徒会長だよ。

 実家が姫野重工っていう、瀬戸内でも有名な会社なんだ。いわゆる御令嬢。

 姫野さんは藤花の将棋部の主将で、市代表経験もある強豪だった。

 不破さんがライバル視してるってわけ。姫野さんがどう思ってるかは知らない。

「女子将棋部は、どこで活動している? ここか?」

 トンチンカンな質問だなぁ。

 どう見ても将棋を指してな……あ、『将棋ワールド』を読んでた。

「ここじゃなくて、学校の部室だよ」

「今から行っても間に合うか? 紹介状がいるのではあるまいな?」

「べつにいらないよ。まあ、頼まれたら紹介するけど。きみ、何段? 強いの?」

「柔道、剣道、空手、各二段、その他もろもろ持っている」

 アホの子かな? 格闘技の段位を言われても困る。

 ただ、ヘタに怒らせないほうがいいみたいだ。骨折しちゃいそう。

「将棋は? 初段くらい?」

「昨日、駒の動かし方をおぼえたぞ」

 あ、はい。初心者か。それでもまったく問題はない。

 駒桜市立高校将棋部は、だれでもウェルカムなのさ。みんなも、どう。

 それに、この状況は願ったり叶ったり。ちょうど11人目を探してたんだからね。

「それじゃ、飛瀬とびせ主将にMINEするから、ちょっと待ってて」

 

  ○

   。

    .


「こんにちは……飛瀬カンナです……」

「私が草薙巴だ。ご足労だったな」

「年齢関係を無視している地球人が、またひとり……」

 飛瀬先輩、あんまり宇宙人ネタを仕込まないほうがいいですよ。

 怒りだすかも。からかわれてるように見えるし。

 僕たちは4人がけのテーブルに座って、おたがいに様子をうかがっていた。

 飛瀬先輩の正面に草薙さん、僕は不破さんと向かい合いっこ。

「で、入部してもいいのか?」

「うーん……原則自由なんだけど……」

「私だけノケモノにする気ではないだろうな?」

 草薙さんはすごんだ。でも、飛瀬先輩は動じない。

「今は事情があって、幽霊部員になる可能性のあるひとは、入れたくない……」

「幽霊部員? 私は生きているが……まさか、るのか?」

 なにを言ってるんだ、このひとは。

「幽霊部員っていうのは、登録だけして来なくなるひとだよ……」

「それなら安心しろ。お嬢さまのご命令だからな」

 ん? また【お嬢さま】っていうワードが出てきたぞ。

 飛瀬先輩も反応した。

「草薙さん、だれかに頼まれて入るの……?」

 草薙さんはこのとき初めて、言葉につまった。

「気にするな。独り言だ」

 いや、気にするだろう。しかも、さっきのは独り言じゃないよ。会話。

 飛瀬先輩も、警戒心がつのったらしい。即答しなくなった。

「ごめん、ほかの部員と相談するね……」

 飛瀬先輩は、トイレに姿を消した。テーブルには、飲みかけの紅茶。

 僕のコーヒーも冷めちゃった。

「チッ、パフェが溶けちまったじゃねぇかよ」

「溶けたほうがいろいろ混ざっておいしい」

 草薙さん、そこは食いついてくるんだ。不破さんも苦笑した。

「ま、そりゃそうだけどよ……ところで、お嬢さまって、だれだ?」

「独り言だ。気にするな」

 そういう返し方だと、入部はムリなんじゃないかな。

 うちは礼儀作法にきびしいんだよ。とくに裏見うらみ先輩とか。

 飛瀬先輩は、しばらくしてトイレからもどってきた。

「お待たせ……結論から先に言うね……」

「ああ、単刀直入に言え」

 草薙さんは、指の骨をポキポキ鳴らした。脅迫だよ、それは。

「入部を許可します……」

「おい、宇宙人、ビビってんじゃないだろうな?」

 不破さんのツッコミ。

「ううん……ちゃんと相談した……部長もOKだって……」

 草薙さんは、さも当然そうな顔をして、

「あたりまえだ」

 と答えた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ん?

 なんであたりまえなんだ? 全然あたりまえじゃないよね?

 もしかして……お嬢さま=来島くるしま先輩(部長)?

 でも、来島先輩って、キャラクターフードをかぶった変わり者だしなぁ。

 お嬢さまっていうよりは、ゲームオタクって感じなんだけど。

 一方、草薙さんは、もういちど指の骨を鳴らした。

「交渉成立だな。で、どうすればいい?」

「草薙さん、主体性がないね……好きに将棋を指せばいいんだよ……」

「将棋を指せと言われても、駒の動かし方しか知らん」

 動かせれば遊べるよ。

 将棋を楽しむコツは、ルールをおぼえたらさっさと指すこと。

 詰め将棋とか定跡とかは、あとでもオッケー。

 サッカーとかバスケだって、基本的なボールの使い方をおぼえたらプレイする。

 それと一緒だね。

「小学校のスポーツクラブでも、もうすこしマシな説明をするぞ」

「うぅん……じゃあ、私が指導するね……」

 飛瀬先輩は、めんどうみがいいなぁ。あとはよろしくぅ。

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