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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第34局 カァプ応援団(2015年7月11日土曜)
361/682

349手目 ひらがなのちから

「戦闘開始です。ダイスを振ってください」

 え、どういうことなの。おいらはあわてた。

「ちょちょちょっと待って。戦闘ってなに?」

「うおうおくんはサメに襲われています。撃退してください」

 いや、ムリでしょ。瀬戸内海でもサメが出たら遊泳禁止なんだよ。

「おいら武器持ってなくない?」

「持ってませんね。武器補正はかかりません。戦闘ターンは基本ルールに従い、攻撃力を6面ダイスの出目で割って、小数点第一位を五捨六入した整数をダメージとします」

 えーと、おいらの攻撃力は4だから、ダイスで1が出たら4、6が出たら0.6の五捨六入で1……あ、意外とダメージが通る? ただ、サメの体力がわかんないかな。

「何ポイントのダメージで勝ち?」

「それは隠しステータスなので公開できません」

「うーん……とりあえず振るね」


 カラカラカラ

 

「3」

「4を割って1.3。サメに1点のダメージです。サメのターン」


 カラカラカラ 5

 

「5点ダメージですね」

「そんなに強いのッ!?」

「サメですから」

 反論できない――って、あれ? 5点?

「おいら、体力4しかないよ?」

「というわけで、うおうおくんはロストになります……と言いたいところですが、これだと初心者にやさしくありませんね。気絶して浜辺に打ち上げられたことにしますか」

 あちゃ〜、ってことは、普通ならゲームオーバーなのか。

 このゲーム、バカゲーのわりにシビア。

「浜辺についたってことは……とりあえず……」

「うおうおくん、セリフ大事に」

 あ、またルール違反しちゃった。むずかしいなぁ。

 おいらは黙って考える。とりあえず、釣りとおなじ要領でいこうか。えものを手にするには、どうすればいいか。時間、場所、道具だよね。時間と場所はオーケーだけど、道具がない。ってことは、道具の調達が先。

「山、行くッ!」

「「うほ」」

 浜辺に【ひも】っぽいものがないなら、山へ行こう。

「うおうおくんたちが獣道けものみちをたどっていると、いのししと遭遇しました。戦闘です」

「またッ!?」

「今回は陸ですから、3人とも戦えますよ」

 ここで六連むつむらくんが挙手。

「僕は貧弱キャラだから不参加でOK?」

「OKです。すばすばくんはほかの2人のうしろに隠れました」

 うぅ、おいらも早乙女さおとめちゃんを盾にしようかな。脳筋キャラだし。

 とはいえ、2人で戦ったほうがクリアは楽っぽいよね。

「では、ダイスを振ってください。もともとさんからです」


 カラカラカラ 2

 

 早乙女ちゃんはダイスの結果をみて、

「攻撃力が5なので、2.5は2ですか。五捨六入ルールは意外とイタいですね」

 とつぶやいた。長い黒髪をなでる。

「もともとさんは、いのししに2点のダメージを与えました。うおうおくんのターン」

 1出て、1。


 カラカラカラ 4

 

「ぴったり1点のダメージだね」

「はい、1点のダメージです。いのししの攻撃。まず攻撃対象を決めます。偶数ならもともとさん、奇数ならうおうおくん」


 カラカラカラ 6

 

 あぶない。ダメージ計算だったらどっちもアウトだったよ。

「攻撃対象はもともとさん。ダメージダイス」


 カラカラカラ 1

 

「もともとさんに1点のダメージ」

「のこり5ですか。比較的余裕がありますね……そういえば、さきほどひろった木の枝で攻撃はできませんか?」

「釣り用にひろったものなので、棍棒こんぼうのようには使えません」

「殴っても折れるだけかしら……普通に攻撃します。ダイス」


 カラカラカラ 1

 

 ナイスッ! クリティカルだッ!

「いのししに5点のダメージ。いのししはダウンしました」

「あら、野生のわりに体力がないんですね」

「あまりに強いとクリアできなくなりますので……なにか行動しますか?」

 早乙女ちゃんは、質問の意味をたずねた。

「行動とは?」

「いのししが目のまえに落ちています」

「なるほど……GMに回収を頼んだら、回収してもらえますか?」

「それはできません。言語とスキルでなんとかしてください」

 ここで六連くんが口をひらいた。

「スキル、料理」

「野生のいのししは、素手では料理できそうにありません」

「……」

 うーん、だったらどうしようもなくないかな。

 3人が持ってる言語とスキルって、

 

【すばすば】

《言語》

ぼう いし ひも ほね

《技能》

料理 工作 薬草


【もともと】

《言語》

けもの さかな さがす たおす

《技能》

泳ぐ 火起こし 狩る


【うおうお】

《言語》

いく うみ やま さす

《技能》

泳ぐ 火起こし 狩る

 

 これだけだから、「解体しよう」とか「肉をとろう」って言えない。

 それに、道具がないと使えないスキルが多すぎて、あんまり意味ないんだよね。

 おいらが悩んでいると、六連くんがいきなり、

「ぼうぼう」

 とつぶやいた。おいらと早乙女ちゃんは、六連くんのほうをみる。

「ぼうぼう」

 棒? 棒でいのししを殴るのかな? もうやっつけてるよね?

 おいらが首をひねっていると、早乙女ちゃんがパチリと指を鳴らした。

「スキル、火起こし」

「さすがですね、このゲームのポイントをつかんできましたか……ここは山ですので、火を起こすための材料はそろっています。もともとさんは火を起こして【いのししの肉】をゲットしました」

 あ、そっかッ! おいらたちがしゃべれる単語は、意味が限定されてないんだ。漢字が書かれてるわけじゃないし、「ぼう」は「棒」だとも説明されてないもんね。

 六連くん、さすがゲームなれしてるなぁ。

 これでシャリの部分はゲットだよ。「なんらかの食材の上に海産物が乗っているもの」でいいんだから、シャリの部分は肉でもいいんだ。変な寿司だけど。

「うおうおくんたちは、ふたたび山を登り始めました。ひらけた場所に出ます。あたりには蝶が舞い、足もとにはくるぶしほどの下草がひろがっています」

 ここで六連くんと早乙女ちゃんの連携プレイ発動。

「ひも」

「さがす」

「すばすばくんともともとさんは【ひも】を捜しました。イベントです。100面ダイスを振ってください」

 うわ、100面ダイスってあるんだ。なんかゴルフボールみたいだね。

「僕と早乙女さんのどっちが振るの?」

「ふたりともです。振る順番はお好きにどうぞ」

「出目でイベントが決まるパターンっぽいですね……では、私から」

 早乙女ちゃんから振った。

 

 カラカラカラ 29

 

 次に六連くん。

 

 カラカラカラ 81

 

 丸亀くんは説明書をとりだして目を通した。

「……六連くんのダイスから処理しますか。すばすばくんはなにも見つけられませんでした。もともとさんは蛇に噛まれました」

 あちゃ〜、マイナスイベントだ。六連くんがすかさず助けに出る。

「スキル、薬草」

 丸亀くんはここで一瞬考えた。

「薬草で蛇の毒が治りますかね?」

 あ、ムリそう。じゃあ、傷口から吸い出すとか、あるいは――

「べつにロストでもいいです」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………え?

 早乙女ちゃんの発言に、おいらはびっくりして、

「ロストはマズくない?」

 と、3度目のルール違反をしてしまった。

 でも、丸亀くんのほうもびっくりしてて、この違反はスルーされた。

「ロストでいいんですか? なにか企んでます?」

「ルール的にNGなのですか? プレイヤーがロストを選択しているのですが?」

「……いえ。では、もともとさんは蛇の毒が回ってロス……」

「遺言を残せますね? 蛇の毒で即死はないと思います」

「え、あ、はい、しゃべれる言語なら」

「け・もの」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………???

 なんだろ。変なイントネーションだったような。

 六連くんがすかさず割り込んだ。

「スキル、工作」

 丸亀くんはなにかを察したらしく、一瞬イヤそうな顔をした。

「……なにを工作するんですか?」

「早乙女さんの死体から髪のを切り取って、ヒモにするよ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………羅生門らしょうもんかな?

「すばすばくん、すこし考えなおしませんか?」

「ません」

「……すばすばくんは、髪を切り取る道具を持っていません」

 丸亀くん、断固阻止の方針。

「じゃあむしるよ」

「【むしる】という言語を持っていないのでムリです」

「いや、これは【工作】スキルだから。言語関係ないよね」

「……すばすばくんはもともとさんの髪をむしって【ひも】を作りました」

「スキル、工作。今度は釣ざお」

「すばすばくんは【ほね】【ぼう】【ひも】で釣りざおを作りました」

「スキル、料理でいのししの肉を一部スライスして、スキル、工作、針に餌づけ」

「両方成立です」

 六連くんは、おいらのほうをじっと見つめてきた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あッ、そっか。

「行く、海ッ!」

「うほ」

「途中で肉の匂いに気づいたクマに襲われました。戦闘です」

 襲われすぎでしょ。これ、丸亀まるがめくんがクリア妨害にきてるんじゃないかな。

 疑心暗鬼になったおいらのよこで、六連くんがすぐにスキルを使った。

「スキル、料理」

「料理する時間はありませんよ」

「僕を生き餌にしてクマの注意を引くよ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「すばすばくん、すこし考えなおしませんか?」

「ません」

「……許可します。すばすばくんがクマに身を捧げているスキに、うおうおくんは海へ到着しました。すばすばくんはロストです。うおうおくん、どうしますか?」

「スキル、釣り」

「うおうおくんは海に釣り針を垂れました」

 かなしい釣りだなぁ。

「というわけで、魚をゲットです……まだ続けますか?」

「これで終わりにするよ。寿司をにぎるのに料理スキルはいらないよね?」

「材料がそろえば、スキルは必要ありません」

「じゃ、いのししの肉に魚をそのまま乗せて【寿司】完成」

「クリアです……バカゲーで最短攻略をめざすのはよくないというお手本だね」

 丸亀くんはGMの立場を終えて、急に毒舌になった。

 これには六連くんが反発。

「いや、どんなゲームでも全力を尽くすのがあたりまえだろう」

「バカゲーで全力を尽くすならバカになってもらわないと」

 六連くんは考え込んでしまった。

 彼にはむずかしい注文な気がするなぁ。バカ笑いしてるところ、見たことないし。

 そもそも六連くんってあんまり笑ったりはしゃいだりしないんだよね。

 おいらは場の空気をなごませるつもりで、

「あと30分だから、べつのゲームしない?」

 と誘った。丸亀くんはショップの棚を見る。

「のこり30分となると……」

「お、六連じゃん」

 聞きなれない声に、おいらたちはふりかえった。

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