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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 新入部員を探せ!(2015年4月22日水曜)
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11人いる!

※ここからは、駒込歩夢くん視点です。

 はじめましてのひとは、はじめまして。そうじゃないひとは、こんにちは。

 僕の名前は、駒込こまごめ歩夢あゆむ

 昨年度は姉さんがお世話になったみたいだけど、今年度からは僕の出番だよ。

 よろしく。

 今日は、駒桜こまざくら市立いちりつ高校の将棋同好会のミーティング。

 2年生の箕辺みのべ先輩と3年生の松平まつだいら先輩の3人で、学生食堂のテーブルを囲んでいた。

 放課後の食堂は雑談スペースとして公開されている。学生もそこそこいた。

「というわけで、昨日のレストランでの件、なんとかなりませんか?」

 箕辺先輩は、おっかなびっくりといった感じで、松平先輩に話しかけた。

 松平先輩は、椅子にもたれかかって一言。

「ムリだな」

 ばっさり切り捨てた。

「男女合併は重要な案件ですし、松平先輩も関係者ですよね?」

「その点なんだが……」

 松平先輩は椅子をかたむけるのをやめて、テーブルにひじをついた。

「仮に合併するとしても、春の団体戦には間に合わないだろう。職員会議を通さないといけないからな。俺は3年生だから、どうせ秋の団体戦には出られない。となると、俺は利害関係人とは言えないんだ。辰吉たつきちたちでなんとかして欲しい」

「俺たちじゃ無理がありますよ。裏見うらみ先輩がノーって言ってますし」

「裏見が卒業するまで待つ、ってのはどうだ?」

 松平先輩の提案に対して、箕辺先輩はあいまいな回答をした。

 どうも足並みがそろわないね。

 僕が傍観者に徹していると、松平先輩はこちらへ顔をむけた。

「歩夢は、どうしたい?」

「僕ですか? 僕はどっちでもいいです」

「だよな……」

 僕は、個人戦にしか興味がないんだよね。

 団体戦に出るのは構わないけど、積極的にはかかわらないよ。

 松平先輩も僕の回答に満足したらしく、ウンとうなずいた。

「歩夢もこう言ってるし、合併を急ぐ必要はない。これが俺の結論だ」

 松平先輩はそう言って、壁の時計をみあげた。

「っと、もうこんな時間か。学内模試が近いから、俺は先に失礼するぞ」

 松平先輩は席を立って、食堂を出て行った。

 姿が見えなくなったところで、箕辺先輩は大きくタメ息をついた。

「完全に尻に敷かれてるな……」

「松平先輩のことですか?」

 箕辺先輩は、黙ってうなずいた。

 だろうね。春の団体戦に間に合わないとか、秋の大会は出られないとか、いろいろ理由をつけてるけど、本心は裏見先輩と揉めたくないからだよ。姉さんはKYだったけど僕はKYじゃないから、こういう人間関係はちゃんと察しがつくのさ。

 僕は水を飲んで、続きを待った。先輩は両手を合わせて、祈るように考え込む。

「……松平先輩を動かせないとなると、OBを動かすしかないな」

「あ、僕の姉さんはダメですよ。『どうでもいい』って言うに決まってます」

「それはなんとなく分かる……他にいないか?」

 いないか、って言われてもね。

 箕辺先輩だって、さんざん考えたうえで目星がつかないんだと思う。

 それもそのはず。OB世代は男子の不祥事で部が潰れたことを知ってるから、今さら男子と合併させろとは言えない。特に、直近のOBは女子しかいないから、テコでも動かないだろう。

 ただね、そもそもの部分が変じゃないかな?

「箕辺先輩は、なんで男女合併にこだわるんですか?」

 僕の質問に、先輩は一瞬あせったような顔をした。

「え? そりゃ……男女合併したほうが戦力アップしていいだろ?」

「それだけですか? だれかに突っつかれてません?」

 箕辺先輩は、そんなことはない、と答えた。

 ほんとかなぁ。あやしいなぁ。

 だってさ、男子将棋同好会って、3人しかいないんだよ。松平先輩は受験生だから、実質2人。箕辺先輩には悪いけど、団体戦で戦力になりそうなのは僕ひとり。そこまで揉めなきゃいけない案件じゃないと思う。

「ほんとに戦力強化のためだけですか? ほかに理由ありません?」

 先輩はごまかしきれないと思ったのか、席を移動して小声になった。

「他言するなよ」

「口は堅いほうです」

 先輩はポケットからプリントを取り出して、ひらいてみせた。

 

挿絵(By みてみん)


「部室の公募? 将棋部も応募するんですか?」

「シーッ、声が大きい」

 僕も声を落とす。

「将棋部も応募するんですか? 人数がぜんぜん足りてませんよ?」

 裏見、飛瀬とびせ来島くるしま葉山はやま馬下こまさげ福留ふくどめ赤井あかい

 ほら、4人も足りてない。と、そこまで考えて、僕はあることに気づいた。

「もしかして、男女合併って人数合わせのためですか?」

 箕辺先輩はかるくうなずいた。

 そんなことなら、最初から言ってくれればいいのに。

「男女合わせても10人ですけど、追加で1人くらいならなんとかなりそうですね」

「だろ? 4人はむずかしい。幽霊部員は、ほかのクラブから突っ込まれる」

「ですよねぇ……って、箕辺先輩、やっぱりだれかにせっつかれてません?」

 箕辺先輩はギクリとした様子で、背を引いた。

「ど、どうしてそう思うんだ?」

「先輩って、あれが欲しいこれが欲しいってタイプじゃないですよね」

 先輩は、ドンとテーブルをこぶしで叩いた。

「部室くらいは欲しいぞッ!」

「先輩、声が大きいです」

 まわりに見られてる。

「コホン……ともかく、男女合併しないと話が進まない」

 その話を進めないといけない動機が分からないんだけどね。

 箕辺先輩に圧力をかけられそうなのって、女子将棋部の上級生か同級生でしょ。

 3年生は裏見先輩しかいないから除外するとして、同級生の誰か。

 候補は飛瀬(女子将棋部主将)、来島(同部長)、葉山(同幹事)の3人。

 飛瀬主将はなさそうかな……いや、ああいうのが意外と強欲セレブだったり。

 あるいは、来島部長……うーん……付き合いが短いから、なんとも言えない。

 やっぱり、葉山先輩かなぁ。「もらえるものはもらっちゃえ!」ってね。

「歩夢、なにかアイデアはないか?」

「1年生に相談とか、連盟会長の名が泣きますよ」

「そういうなよ……ほんとに悩んでるんだぞ……」

 箕辺先輩は人がよすぎるんだよね。はっきり分かる。

 こんなの「俺と関係ないだろ」で終わらせられるのに。

 僕は自販機で買ったパック入りジュースをチューチューして、しばらく考えた。

「……なにも思い浮かびません」

「そうか」

 先輩は、がっくりと肩を落とした。

「ただ、ひとつアドバイスがあります」

「お、なんだ?」

「男女合併が認められるかどうかはともかく、女子将棋部の部員を増やす努力は、したほうがいいです。運良く4人集まったら合併の必要がありませんし、合併するにしてもあとひとり足りません。新歓はじきに終わりますから、早く動かないと手遅れになりますよ」

 箕辺先輩は「そうだな」と言って、また表情が暗くなった。

「来島といっしょに頑張ってはいるんだが、なかなかつかまらない」

 そりゃ将棋だからね。いくらブームとは言え、大量には来ない。

「とりあえず勧誘ポスターを作って、掲示板に貼ってみては」

「それなら、もうやってるぞ」

 先輩は、見本をみせてくれた。


 【将棋部員・将棋同好会員募集】

 

 ◇場所  女子:2号館3階 男子:食堂

 ◇活動日 月〜金の放課後(大会は日曜祝日)

 ◇大会  個人戦(男女4月・9月)、団体戦(女子のみ5月・11月)

 ◇担当者 女子:来島遊子(2年2組) 男子:箕辺辰吉(2年2組)


 ふぅん、なるほど、箕辺先輩もちゃんと動いてるわけか。

「毎日活動っていうのは、ちょっと気になりますね」

「最初はおどしといて、あとから週2〜3にしとけばいいだろう」

 それじゃ見学にも来ないんじゃないかなぁ。

 ま、僕には関係ないからね。しょうがないね。

「分かりました。1年生で将棋に興味のある子がいたら、声かけしときます」

「頼んだ」

 僕たちは、そこで解散になった。

 箕辺先輩は、いったん教室にもどると言って消えた。

 僕はカバンを持って、校庭に出る。

 ランニング中の運動部を横切って校門にさしかかったとき、名前を呼ばれた。

「おい、歩夢」

 ふりかえると、不破ふわさんが立っていた。

 一番うえのボタンをはずして、上着を腰に巻いている。

 あいかわらずだらしない格好だなぁ。制服はちゃんと着ないとダメだよ。

「歩夢、元気してるか?」

「可もなく不可もなくだよ」

「今日は将棋サークルやってないのか?」

「男子は最近低調なんだ」

 女子のほうは、部室でわいわいやってるんじゃないかな。

 食堂でずっと活動するっていうのは、なかなかむずかしいように思う。

 僕がそのへんの事情を伝えると、不破さんは、

「なんだなんだ、高校生のくせに陰謀じみたことするなよ」

 と言った。

「だね。そのあたりは気が合うよ」

「へへへ、だろ……ところで、なにか忘れてないか?」

「忘れ物? カバンはちゃんと持ってるよ?」

 不破さんは、またまた、と言った感じで、僕をひじで小突いた。

「個人戦優勝のお祝いだよ、お祝い」

「あ、そうだ、まだ言ってなかったね。おめでとう」

「サンキュ、今日は歩夢のおごりな」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「え? なにを?」

 僕の質問に、不破さんはキョトンとした。

「なにっておまえ……ゲシュマックで特製パフェに決まってるだろ」

「えぇ? いつそんな約束したの?」

 不破さんは前髪をかきあげて、タメ息をついた。

「あたしと歩夢の仲だろ。それくらい察しろよ」

「いや、お気持ちで攻められても困るんだけど」

「ハハハ、気にするな。細かいことはおいといて、ゲシュマックにレッツゴー!」

 不破さんは僕の背中を叩くと、そのまま腕をひっぱった。

 僕は為されるがままに、校門をあとにした。

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