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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第34局 カァプ応援団(2015年7月11日土曜)
359/681

347手目 急ごしらえの応援団

※ここからは、魚住うおずみくん視点です。

挿絵(By みてみん)


 おっす、おいらだよ。魚住うおずみ太郎たろう

 今日はね……おいらの高校の教室で……ふわ……。

「へ……へ……へっくしゅん」

 いけね、対局中にくしゃみしちゃった。

 対局相手の六連むつむらくんは、

「風邪?」

 とそっけなく訊いてきた。ちょっと怒ってる……わけでもないのかな。

 六連くんって、なんだか淡白なんだよね。ただの事実確認だと思う。

「ん〜、体調悪くないし、おいら、だれかにうわさされてるね」

「うわさ……古谷ふるやくんかな」

「な、なんでそういう怖いこと言うの……?」

「怖い? ……団体戦で当たるからうわさしてるかも、って意味だけど」

 ほんとかなぁ。

 六連くん、心のうちが全然読めないや。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 っと、時間がない。

「4九角」

 すぐに応手がとんできた。


挿絵(By みてみん)


 あぁ〜……さすがにムリ。詰んだっぽい。

「負けました」

「ありがとうございました」

 おたがいに一礼して終了。

「中盤でヘタったかなぁ」

「魚住くん、最後のほうで諦めムードだったね」

「大差だかんね」

「相手がミスする可能性もあるし、最後まで喰らいついたほうがよくない? 1枚の引きから大逆転することは、TCGでもよくあるよ」

 おいらが早投げなのは認めるよ。でもさ、早投げするプロだっているし、執念=強さってわけじゃないと思うんだよね。釣りだって、ムリに意気込んだらかえってかからない。このへんの感覚は、磯前いそざきの姉ちゃんと一緒かな。

 そんなことを考えていると、うしろあたまをぽかりとやられた。

「いたたた……御城ごじょうのあんちゃん、暴力反対」

「いや、詰将棋の本でコツンとやっただけだぞ」

「それもダメでしょ」

「魚住、やる気がないのはべつにかまわんが、対局中に私語はいかんぞ」

 おっと、見られてたか。笑ってごまかす。

「へへへ、ちょっとくしゃみしちゃってね、謝ってたんだ」

「なんだ、古谷にうわさでもされたのか?」

 だからなんでそういう怖いこと言うの?

「あんちゃんたち、昔の事件をネタにしすぎでしょ」

「昔と言っても去年の11月なんだが……で、古谷はゆるしてくれたのか?」

「赦すもなにも、『怒ってない』って言ってたよ」

 おいらの主張を聞いた六連くんは、

「あれは嘘だと思うけど」

 とつぶやいた。

「六連くん、お願いだからおいらを恫喝どうかつするのはやめて……」

「べつに恫喝はしてないよ。だいたい、将棋で持ち駒を見せないといけないってルールはないんだろう? だったらなにも怖がることはないさ。むしろ『錯覚いけない、よく見るよろし』くらい言ってあげても良かったんじゃないの」

 殺されるでしょ、その場で。

 おいらは腕組みをして、椅子にふんぞりかえった。さすがに反発する。

「まったく、ふたりとも、ひとごとだと思って」

「いや、俺も六連も心配してるんだぞ。夏の団体戦、当たる可能性があるじゃないか」

「うッ……そうなんだけど……大丈夫だよ。仲直りしたし」

 おいらの発言に、御城のあんちゃんは「おや?」という顔をした。

「いつしたんだ? 魚住から謝ったのか?」

「このまえ電話でめちゃくちゃ詰められて、和解した……気がする」

 御城のあんちゃんは、頭にハテナマークを浮かべた。

「古谷に電凸されたのか? 気がする、ってなんだ?」

「いや……それがよく覚えてないんだよね。ガンギレされたような記憶なんだけど」

「古谷がガンギレしてたのか……魚住、命は大切にな」

 それがアドバイスなのッ!? おかしいでしょッ!?

 おいらのつっこみを無視して、御城のあんちゃんは手をたたいた。

「よし、感想戦はそこまでだ。全局終わったな……おい、渋川しぶかわ、そっちもOKか?」

 そばかすのある三つ編みの女子が登場。世良高せらこうの渋川姉ちゃんだ。

 あいかわらず暗そうだなぁ。爪噛んでるし。

「じょ、女子も終わったわよ……ッ」

「だったらミーティングに入ろう」

 御城のあんちゃんは、黒板のまえに立った。

紫水館しすいかんの御城だ。今日は県大会にむけた合同練習会に集まってくれて感謝する」

 いきなり手が上がる。長い黒髪の美少女、もとい、赤き狼の早乙女さおとめちゃん。

「どうした? 質問タイムならあとで取るぞ?」

「合同練習、ということでしたが、なぜ県東部のメンバーしかいないのですか?」

 質問はあとで、って言ってるのに、あいかわらず唯我独尊だね。

 そういうところ、おいらは嫌いじゃないよ。

 御城のあんちゃんはあんちゃんで、強気に返す。

「なるほど、いい質問だ。この合同練習会は、打倒・県西部の趣旨もふくまれている」

 早乙女ちゃんは、よくわからないという表情。

「個人戦には早乙女さおとめ素子もとことして出ているのであって、県東部代表として出ているわけではありません。団体戦も、あくまで各高校の代表という立場だと思いますが?」

「すこし話を聞いてくれ。今年度は3年に一度の日日杯にちにちはいが開催される。仕切りは県西部のメンバーだ。幹事が比呂ひろ月代つきしろ、副幹事が修身しゅうしん並木なみき七日市なのかいち正力しょうりき。東はだれも呼ばれていない。なぜだろうか? ……単純だ。ここ数年の県大会の成績は、西高東低が続いているからだ」


 【女子の部】

 2012年度 春:三和遍 (ソールズベリー) 秋:三和遍 (ソールズベリー)

 2013年度 春:筒井順子(紫水館)     秋:桐野花 (椿油)

 2014年度 春:桐野花 (椿油)      秋:裏見香子(駒桜市立)

 

 【男子の部】

 2012年度 春:九ノ川雅幸(修身) 秋:牧剛太 (紫水館)

 2013年度 春:千田光成(升風)  秋:丸目尚賢 (本榧)

 2014年度 春:捨神九十九(天堂) 秋:御城悟 (紫水館)

 

 でっていう。

 早乙女ちゃんもまったく関心なし。

「スタッフとしては東も呼ばれていますし、雑務のチーフにメリットはありません」

「日日杯の主催者は、あの囃子原はやしばらグループだ。コネを作っておけば、将来の就職でだいぶ有利になるぞ」

 なになに、これって利権争いなの? ヤバい方向につっこんでる気がするなぁ。

 ここで六連くんも挙手。

すばる、どうした?」

「コネと言いますが、次の日日杯は3年後ですよね? 僕たちは関係ありません」

 そうそう、日日杯は3年おきだから。

 ところが、御城のあんちゃんはきちんと回答を用意していた。

「どんな組織でも、後輩が出世したら上の世代にも恩恵はあるんだぞ……と、まあ、それは半分本気だが、半分くらい冗談だ。県東部のメンバーばかりなのは、交通費等を考えて西は呼びにくいと思ったのもある。現に、東部でも遠い学校は欠席している」

 なるほどね、奥村おくむらのあんちゃんたちは来てない。三好みよしは遠いから。

 早乙女ちゃんも納得したらしく、

「交通費の関係なら仕方がありませんか……わかりました」

 と言って着席した。

 御城のあんちゃんは先を続ける。

「では、大会当日の集合場所だが……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「ふわぁ〜疲れた」

 おいらは背伸びして席を立った。

 みんなぞろぞろと教室を出て行く。まだ3時前なんだよね。遠距離の生徒に配慮して、早めに解散になった。

 どうしよっかな、っと。このまま帰って釣りの準備を――

 そうだ。とりあえず六連くんがどうするか訊こう。

 おなじブロックに住んでるのに交流がないから、これを機会に。

「六連くん、もう帰る?」

「早乙女さんから『カァプの応援に行かない?』って誘われてるんだ」

「え……今から行くの? マヅダスタジアムまで?」

「まだ時間はあるよ。18時スタート」

「自由席のゲートは15時にはあくよ。今からじゃ席が取れなくない?」

 おいらが疑問に思っていると、うしろから声をかけられた。

 早乙女ちゃんだった。

「魚住くんも、カァプの試合に興味があるの?」

「え……まあ、あるけどさ、自由席は今から行っても取れないよ?」

 早乙女ちゃんは、1枚のチケットをとりだした。

「カァプを応援する者は救われる……年間指定席よ。まだ1枚余ってるわ」

 な、なんで手品みたいにチケットがポンポン出てくるんだろ。

「もしかして、おいらも誘ってくれるの?」

「そうね。3人パーティーのほうが安定するかもしれないわ」

 RPGかなにか?

 だけど、タダで野球観れるのはいいよね。便乗しちゃお。

「行く行く、おいらも連れてって」

「それじゃ、山陽本線でさっそく移動しましょ」

「あ、待って。指定席ならすぐにスタジアム入りする必要ないよね? 市内で遊ぶ?」

 おいらの質問に、六連くんが返事をした。

「僕は市内のカードショップに用事があるんだ。3人別行動でスタジアム集合は?」

「……おいらもカードショップでいいよ」

「魚住くん、TCGやってたっけ?」

「やってないけど、ちょっと覗いてみたいかな」

 六連くんがふだんどういう遊びをしてるのか、見てみたいからね。

 早乙女ちゃんもカードショップでいいと言った。

 長い黒髪を撫でながら、カバンを持つ。

「さっそく移動しましょ。交通費は自腹でお願い、ね」

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