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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第34局 よもぎちゃんを脅すのは誰だ!?(2015年6月30日火曜)
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343手目 よもぎちゃんを脅すのは誰だ!?

※ここからは、福留ふくどめさん視点です。

 ここは駒桜こまざくらのゲシュマック。中高生に人気の、おしゃれな喫茶店だ。

 放課後だけあって、ずいぶんにぎわっていた。暗色のテーブル。電灯は輝度を押さえたぶら下げ式。そのシェードは、チューリップのようなかたちをしていた。それぞれのテーブルは、観葉植物を植え込んだ仕切りで区切ってある。プライバシーも万全。カップルがよく使うんだよね、ここ。値段は他のお店より高め。あたしも、あんまり利用しない。

 じゃあ、なんで今日に限ってここにいるかというと……馬下こまさげよもぎちゃんが、古谷ふるや兎丸うさまるくんにデートに誘われちゃったのだッ!

 じゃけん、親友として見守りましょうねぇ〜。

 サングラスにマスクもしてきたし、近距離でもバレないっしょ。多分。

 あたしはウキウキしながら、よもぎちゃんたちの到着を待った。

 すると、向かいの席に座っているもみじちゃんが、

「デートじゃなくて、ふつうに将棋のお話だと思うのですが……」

 と、つぶやいた。もみじちゃんも、ちょこっとメイクして変装している。パッと見、全然知らない女子高生だ。もみじちゃんは変装の天才だから、絶対にバレないね、うん。

「もみじちゃん、甘いよ。将棋の話にかこつけたデートだよ」

「古谷くんが来年度の会長だというのはもっともらしいですし、よもぎさんが副会長というのもしっくりくるので、その打ち合わせなんじゃないでしょうか」

「会長と副会長が勝手に決まってる時点であやしいってば」

「たしかに、駒桜こまざくらの場合は選挙もなにもないので、不透明ですが……しかし、棋力から考えても性格から考えても、古谷・馬下ペアで問題ないように思います。先輩方もそう考えて、ふたりを指名したのでは。箕辺みのべ会長から直接聞いたわけではありませんけど」

「もみじちゃん、もっと世の中を疑ってかからなきゃ。兎丸くんが、よもぎちゃんを指名したのかもしれないでしょ。ふたりきりで、あんなことやこんなことを……むふふ……」

「えぇ……古谷くんのどこをどう分析したら、そういう結論になるんですか?」

「ああ見えて、古谷くんは狼系だと思うんだよね。殺人兎さつじんうさぎって呼ばれてるし」

「それは棋風の話ですよね?」

「ゲームのほうが素の性格でるじゃん」

「そうかもしれませんが……あ、来ましたよ」

 あたしたちは会話をやめた。入り口のところに、兎丸くんとよもぎちゃんが登場。

 うわぁ、ふたりとも制服デート。初々ういういしい。これぞ高校生。

「うひひひ、ふたりともカワイイねぇ」

「あ、あずささん、ご自身の趣味しゅみ嗜好しこうで観察をしてませんよね?」

「ちがうよ、もみじちゃん。送り狼の兎丸くんから、よもぎちゃんを守るんだよ」

「べつに送り狼がダメという年齢でもないと思うのですが……」

「も、もみじちゃん、唐突にオトナになるのやめて……」

 ふたりは店員さんに案内されて、ちょうどあたしの右隣のテーブルに座った。あたしたちのあいだには、ドラセナという観葉植物を植えられた仕切りしかない。

 いかん、近すぎるかも。あたしは背を丸めて、ドラセナのうしろに隠れた。

 よもぎちゃんも兎丸くんも、ホットコーヒーを頼んだ。

 店員さんが「以上でよろしいですか?」と尋ねると、兎丸くんは、

「なにか追加で頼んでもいいよ。今日は僕がおごるから」

 と言った。ほらほらほら、やっぱりデートじゃん。

 だけど、よもぎちゃんは、

「いえ、お金はちゃんと払いますので」

 と言ってことわった。これはあれか、初回は割りカンにしてアピールする作戦か。

 コーヒーが届くよりもまえに、ふたりは打ち合わせを始めた。

「で、このまえの件なんだけど、いい返事はもらえそうかな?」

 なッ! いきなりそんな展開ッ!

「高校将棋連盟の副会長に、というお話ですが……まだ、なんとも」

 なんだ、そのことか。っていうか、まだ返事してなかったんだね、よもぎちゃん。市立と清心せいしんで合同練習会したときの話*だから、ずいぶんまえなのに。

「ネガティブになる理由を教えてもらえない?」

「棋力で言っても運営のしやすさで言っても、虎向こなたくんのほうが適任かと思います」

 あんなワンちゃんみたいな虎は、放置、放置。

 兎丸くんも懐柔かいじゅうを始めた。

「先々代は升風ますかぜ千駄せんだ先輩と藤女ふじじょ姫野ひめの先輩、先代は升風の蔵持くらもち先輩と藤女の鞘谷さやたに先輩、今は市立の箕辺みのべ先輩と升風の葛城かつらぎ先輩だろう。男女で組むのが基本だし、学校も分けるのが伝統だと思うんだ。だから、同じ学校の虎向とは組めないんだよ」

 3番目はなんか違うかもしれないけど、男の娘だから大丈夫だね。うん。

 ところが、よもぎちゃんはあいまいな返事をかえした。

「しかし、そういう決まりがあるわけでもありませんので……」

 なんでそんなに強情なの? あたしは不思議に思った。

 もみじちゃんに小声で話しかける。

「なんかOKできない理由があるのかな?」

 もみじちゃんも変だと思っているらしく、こう答えた。

「ここまで強くことわるのは、なんだか妙ですね……よもぎさんは、他人から頼まれたらノーと言えないタイプだと思うのですが……」

 ほんそれ。中学のときなんか生徒会長に推されて、ポンとなっちゃったからね。

 けっこう押しに弱いはずなんだけど、なんで今回だけ拒否きょひってるのかな。

「あッ……まさか」

「なにか心当たりでも?」

「よ、よもぎちゃんにもナニがついてるんじゃ……葛城先輩みたいに……」

「あのぉ、中学のとき、一緒に修学旅行へ行きましたよね? しかもどういう関係が?」

 あ、そっか。いけない、思考が変な方向へ突っ走ってる。

 そのあいだも会話が進んでいたらしく、兎丸くんのタメ息が聞こえた。

「そっか……まだ半年あるから、箕辺先輩ともよく相談してもらえないかな」

「……わかりました」

 なんか気まずくなってしまった。離婚するかしないかの相談してる夫婦みたい。

 おかしいなぁ。ラブラブデートを観察したかったんだけどなぁ。うーん。

 それからふたりは学校の話とか、将棋の話をして、解散した。

 ふたりが出て行ったところで、あたしは真剣に悩む。

「おかしい……おかしいよ、これは」

「あの……これは私の憶測なのですが……」

 もみじちゃんの憶測ならばっちこい。

「なになに?」

「もしかして、だれかに『副会長を引き受けないように』と言われているのでは?」

「……だれに?」

「それは見当がつかないのですが……よもぎさんがここまで拒否するからには、なにか外的な圧力があったとしか思えず……」

 うーん、外圧ねぇ……ん、待ってよ。ひとりいるじゃんッ!



 ***** 少女たち、容疑者の自宅を襲撃中 *****



「おい、こら、虎向ぁ、とっとと出てこんか〜い」

 あたしがチャイムを連打すると、虎向が玄関から飛び出してきた。

 短パンにTシャツ、足もとはサンダルで、いかにもくつろいでましたって感じ。

「さっきからうるさいぞ。近所迷惑だろ」

「あんたね、よもぎちゃんに不当な圧力をかけてるでしょ」

「?」

「じぶんの胸に聞いてみなさい」

 虎向は律儀に手をあてた。

「金の貸し借りはしてないしな……なんのことだ?」

「副会長の件で、よもぎちゃんとなにか話したでしょ?」

「副会長? ……高校将棋連盟の副会長のことか?」

「そうよ」

「俺はなにも聞いてないが……ひょっとして、俺とよもぎの一騎打ちなのか?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あれ、なんか知らないっぽい雰囲気。

 うしろに控えていたもみじちゃんも、あたしに耳打ちする。

「うそをついてるようには見えませんよ」

 ぐぬぬぬ、推理ミスだったか。

 あたしが言いわけを考えるまえに、虎向は意外なことを口走った。

「まあ、副会長はよもぎでいいんじゃないか」

「……マジで?」

「なんだ? あずさは俺派なの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……虎向ならやりたがるかな、と……」

「兎丸となら、やりたいけどさ、事務的なことは、よもぎのほうが向いてると思う。それに、女子と折衝せっしょうするのが俺はムリな気がする。特に笑魅えみといおりん」

 たしかにめそう。

「虎向、意外と常識人だったんだね……」

「どうみても駒桜の将棋指しの中じゃ常識人サイドだろッ!」

 はーい、おっしゃるとおりで。さいならぁ。

 あたしたちはそのままとんずらした。

 第1容疑者、あっさりハズレ。あたしのかんもニブったなぁ。

「じゃけん、第2容疑者にとりかかりましょうねぇ」

「え? 第2容疑者の目星がついてるんですか?」

 よもぎちゃんにプレッシャーをかけそうな人物といえば、彼女ッ!

 

 

 ***** 少女たち、容疑者を市内で捜索中 *****

 

 

琴音ことねちゃん、発見ッ!」

 あたしたちは、藤女の通学路で、白杖はくじょうを持った琴音ちゃんを発見した。

 琴音ちゃんは制服姿で、これから自宅に帰るらしかった。

 笑魅ちゃんといおりんがいないから、チャンス。

 近づいていくと、琴音ちゃんはいきなりふりむいた。

「その声は、福留ふくどめあずささんですね」

「えへへへ、こんにちは、ちょっといいかな?」

「用件次第です」

 これは、のらりくらりすると逃げられるパターンだね。

 率直に行こう。

「最近、よもぎちゃんとなにか話さなかった?」

「なにか……と言われましても。いろいろ話しましたが」

「例えば?」

「神社の猫をもふもふする話など」

 くぅ、あたしもタマちゃんをもふもふしたい。

 よもぎちゃんの実家の神社には、タマっていう真っ白な猫がいるんだよ。

 もうおばあさんらしいけど。って、今はその話じゃない。

「ほかには?」

「そうですね。駅前に最近できたタピオカ屋の話……」

「あそこのタピオカ屋さん、すっごい並んでるよね」

「ええ、ひとりだとひまになってしまうので、よもぎさんと並んでいました」

 視覚障害者のおつきあいをするよもぎちゃん、マジ聖人。

「ちなみに、どのドリンクを頼んだの? 王道のミルクティー?」

「よもぎさんが抹茶まっちゃミルクで、私が杏仁あんにんミルクでしたが……タピオカドリンクの好みを聞くのが用件なのですか?」

 あ、話が逸れてた。

 ちなみにあたしはブルーベリーヨーグルトだよ、うん。

「来年度の高校将棋の運営について、なにか相談されなかった?」

「来年度の運営? ……もしかして、よもぎさんが会長か副会長なのですか?」

 くッ……ここもちがったか。今初めて知った、みたいな反応だ。

「あ、うーん、そうだね、そういうこともあるかなぁ、と」

「もうひとりは兎丸くんでしょうし、私はこのとおり視覚障害がありますので、よもぎさんでいいのではないかと思います」

 ふ、ふぇええん、福留あずさ、ひとを疑って悪うございましたぁ。

「だ、だよね、よもぎちゃんが適任だよね」

「もしや、あずささんも立候補なさるのですか?」

「ちがうちがうちがうッ! あたしはよもぎちゃん一択だよッ!」

「……そうですか」

 ぐッ、なんか疑われた気がする。

 じゃけん、ここは退散しましょうねぇ。

 まだまだ容疑者はいるんだから。次は上級生だぁ。

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