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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第33局 日日杯司会決定オーディション(2015年6月28日日曜)
351/682

339手目 フェアリー詰将棋

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「これは……詰め将棋かしら?」

 私がそうつぶやくと、将棋仮面はうなずいた。

「おそらく、な。今回のオーディションで9×9マスのアイテムといえば、将棋盤しか考えられない。色とかたちで、駒を分類してあるようだ」

 そこまでは直感的にわかった。問題は、どの記号がなにを意味しているのか、だ。

 私は3つのパズルを見比べた。

「……意外と簡単かも。1つ目のパズルは、こうじゃない?」


挿絵(By みてみん)


 私の案に、将棋仮面は留保付きで同意した。

「それもありうる」

「それも、っていうのは?」

「攻め駒2枚は銀かもしれないぞ」


【将棋仮面の提案】

挿絵(By みてみん)


「あ、それはないわ」

「なぜだ?」

「銀だと2問目が解けなくなるでしょ」

 将棋仮面は、なるほど、と納得した。

「この3つのパズルは、同じルールを採用していると読むわけか」

「でないと、3問目のヒントがなさすぎるのよね。5手詰めだと思うし」

「右上の数字は、おそらく手数だろうな。右下は持ち駒か。1問目の答えは5二金左。2問目の答えは2四金ということになる。◆と●はなんだ?」

「手順を固定するための駒じゃないかしら。だとすると、◆は飛車っぽいわ。5二金直に同飛のつもりじゃないかしら。●の可能性があるのは歩でしょうね。銀や角だと、2問目がいきなり王手になってるし、桂馬だと2四金、同玉で詰まなくなるから」

「待て、●は香車もありえる」

 ……あ、そっか。香車でも詰め将棋として成立している。

 ただ、●が歩でも香車でも、手順に変化はなさそうだ。

「いずれにせよ、ここまでの推理で3問とも解けそうね」

 私と将棋仮面は、解答ボタンをさがした。見当たらない。

 ってことは――タッチパネルかも。私は画面にふれた。

「ビンゴ、マークを動かせるわ」

「あとは単純だな。詰めていけばいい」

 私は1問目のパズルを操作した。左側の▲を5二の地点に移動させる。


挿絵(By みてみん)


 ピンポーン

 

 画面全体が明るく光った。正解のようだ。

「2問目は金引きね」

 ▲を1個うしろにさげて――

 

挿絵(By みてみん)


 ピンポーン

 

 よしよし、カンタンカンタン。

「それじゃ、最後の……あら?」

 私は手をとめた。

「どうした?」

「これ、答えが2通りない?」

 将棋仮面はすこし背が高いから、かがみこんでうろのなかを確認した。

「……たしかに、8九飛、同玉、7九金打、9九玉、8九金打と、8九飛、同玉、8八金打、9九玉、8九金打の2通りがあるな」

 将棋仮面は背筋を伸ばした。両腕を組んで3秒ほど考え込む。

「……どちらでもいいんじゃないか?」

「そうかしら? 1問目はわざわざ5三飛で5二金左を限定してるのよ?」

「しかし、ほかにヒントはないぞ?」

「……よね」

 私はこれ以上考えてもしかたがないと思い、パパッと駒を動かした。

 

挿絵(By みてみん)


 ブーッ

 

 画面が暗転した。15秒ほどでもとの明るさにもどる。

 ちょっとあせった。

「レモン、その★はどこからきた?」

「わ、わかんない」

 高速で駒をうごかしたから、プロセスをあんまり見てなかった。

 もしかして失格になった? 私は画面にそっと触れてみる――まだ動かせる。

「1発アウトってわけじゃないみたいね」

「最初からゆっくりと動かしてみてくれ」

 了解。こんどは1手ずつ確認する。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「待て、持ち駒がおかしいぞ」

 ん、左ばかりみてたせいで、気づかなかった。

「最初の▲を取ったときに発生してるわね」

 私たちは、しばらく思案にふける。将棋仮面がポンと手をたたいた。

「わかったぞ。8九の▲は金じゃない」

「え? だったらなに?」

「成銀だ」


挿絵(By みてみん)


「成……銀……?」

「そうだ。3問目の解を1通りに限定する組み合わせは、これしかない」

「8九飛……あ、そっかッ!」

 理解した。成銀なら1問目と2問目にも対応しているうえに、3問目の答えが8九飛、同玉、7九金打、9九玉、8八銀の1通りに限定される。

「ってことは、▲は『金』じゃなくて『金または金とおなじ動きをするもの』?」

「そうだ。最初の推理がまちがっていた。1つの駒に1つのマークが割り当てられてるわけじゃない。1つの動きのパターンに1つのマーク、だ。成銀以外にも、と金、成香、成桂はすべて▲になるんだろう」

「さすがは囃子原はやしばらグループ、ひとすじ縄ではいかないわね」

「感心してる場合じゃないぞ。ほかの3人が見当たらないということは、彼女たちもこのパズルを解いたのだろう。すぐに追わないと差をつけられる」

 了解、と。私はサクッと解答を入力した。


挿絵(By みてみん)


 ピンポーン

 

 画面が光った瞬間、目のまえの木が割れた――エレベータが姿をあらわす。

「正解ね」

 私たちは片手でハイタッチした。さっそく乗り込む。

「とりあえず最上階へ……」

 私は35階のボタンを押した。ドアが閉まる。スーッとする感覚。

「……ん? もうついたの?」

 ほんの数秒でエレベータは止まった。

「3階上のはずなのに、早いわね」

 ドアが開く。めのまえに真っ白な壁があらわれた。

 私は顔だけエレベータから出して、左右を確認する。

「……屋上っぽくないわ」

「レモン、ここは33階だぞ」

 将棋仮面に指摘されて、私はようやく気づいた。ドア上の表示が33になっている。

 押し間違えたのかと思い、もういちど35階を押した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………動かない。

「どうやら1階ずつしか上がれないようだな」

「どういうこと?」

「順番にイベントをこなしていかないといけないのだろう」

 私はタメ息をついた。と同時に、ほかのメンバーもまだ屋上ではないと読んだ。

「追いつける可能性があるわね。はやくイベントをみつけて解決しましょう」

「将棋だと助かるが……怪人もすこしは手の込んだワナを用意してくるだろう」

 エレベータを降ると、右手のほうから水のせせらぎが聞こえた。

 トイレが近いのだろうか。私たちはそちらへ移動してみる。

 すると、いきなり水が足元に流れてきて、次第に水かさを増し始めた。

「す、水道管の破裂ッ!?」

「レモン、おちつけ、ホログラフだ」

 あッ……私はちょっと赤面して、せき払いをする。

「コホン……ホログラフってことは、この先になにかありそうね」

 私は念のため、靴が濡れていないか確認する。大丈夫なようだ。水流はすでに小川のように廊下を流れていた。思いっきり一歩を踏み出して、奥へ進む。このフロアはもともと来客を想定していないのか、ずいぶんと簡素だった。

「将棋仮面、さっきからおとなしいわね。なにか気になるの?」

「すこしばかり妙な感じがする」

「なにが?」

「ほかの3人に会う気配がないことだ。声すら聞いていない」

「えぇ、だいぶ先に行かれちゃったみたいね」

「そういう意味では……いや、やめておこう。じきにわかる」

 奥へ進めば進むほど、水量は増していった。床だけでなく、壁や天井からも水が吹き出している。まるでビルの配水管がすべて破れてしまったかのようだ。視界もだんだん悪くなってくるし、ホログラフとはいえ、精神的によくない。気が滅入ってきた。

「ねぇ、ぐるぐる回ってない?」

「たしかに、4回左へ折れたな。分岐もなかったから、もとの位置にもどって……ん」

 将棋仮面は足をとめた。うしろを歩いていた私もストップする。

「なにかあった?」

「水位があがっていないか?」

 私は足元を確認した。さっきまではくるぶしほどの高さだったのに、今は足首のところまですっかり水につかっていた。屈折の効果で、くつのかたちがゆらぐ。

「ほんとだ……でも、ほんものじゃないんだから関係なくない?」

「そうだろうか。これが特撮なら、俺たちを溺死させる作戦だ。そろそろあせって出口をさがさないといけないタイミングになる」

 あのさぁ、と思ったけど、私もちょっと気がかりになった。というのも、このホログラフになんの意味もないとは思えなかったからだ。

「なぁ、レモン、ここにもどってくるまで、どれくらい歩いた?」

 私は思い出してみる。時間も距離もあいまいだ。けど、ひとつ気づいたことがある。

「そういえば、あんまり歩いてない気がする」

「32階とくらべて、移動範囲が狭すぎる。ドアも窓もなかった」

 私と将棋仮面は、おたがいに顔をみあわせた。

「壁もホログラム?」

「と、いうことだな。やはりヒーローに脱出はつきものだ。水に浸かりきらないうちに、出口をさがすとしよう。どこかに通路が隠れているはずだ」

 私たちはエレベータのちかくから取りかかった。

「あったわ。ここに透明な取っ手がある」

 ノブをひねると、すぐに一回転して、壁にすきまができた。

「やれやれ、スタート地点がゴールとは、よくあるトリックだ」

 そういうジョークを言ってる場合じゃない。時間を消耗してしまった。

 水は腰のところまで上がってきていた。

 私たちはすぐに部屋に飛び込む。


挿絵(By みてみん)


「「パズルが水没してるッ!?」」

 私たちは大慌てで、向かいの壁にかけよった。

 持ち駒の部分に触れてみる――動かない。私はホログラムの水に顔をつけてみた。視界はプールみたいなのに、息ができて変な気分だ。持ち駒の部分をみてみると、跡形もなくなっていた。イヤな予感が的中してしまった。

 私は水面から顔をあげた。

「このパズル、水につかると駒が消えるみたい」

「そうか……水位があがっていたのは、タイムリミットの表示だったか」

 冷静な分析。相方がパニックにならないのは助かるけど、もどかしい。

「どうするの? 先に進めなくなったわ」

 私は、ほかにもパズルがあるんじゃないかと推測した。

 ところが、将棋仮面は首を左右にふった。

「待て、ほんとうにアウトなのか考えよう。よくみると、このパズルはまだ暗転していないし、不正解音が鳴ったわけでもない。まだアクティブな可能性がある」

 私は半信半疑で将棋盤をみつめた。

「32階のパズルと対応してるなら……こうね」


挿絵(By みてみん)


「持ち駒はなんだったかわかるか? 位置的に1枚しかなかったように思うが」

「たしか……上が三角にとがってたわ。金じゃない?」

「金……いや、それはないな。金なら2二金の1手詰みになってしまう」

「あ、そっか……ってことは飛車の♦︎? でも、飛車は変じゃない?」

「なぜだ?」

「2二飛は王手にならないし、1二飛や2一飛に意味があるように……あッ」

 私は意見を変えた。

「ごめんなさい。さっきの案を修正するわ」


挿絵(By みてみん)


「ビンゴだ。●が歩なのか香車なのかは、前回のパズルではわからなかった」

「つまり、2一飛、1二玉、2二飛成が答えね。3三と4四の地点にも駒があるけど、3三の◎は味方の駒だから関係ないわ。ただ、答えがわかってもしょうがないじゃない」

「レモン、ひとつ忘れているぞ」

「なにを?」

「このパズルは水につかると駒が消える」

「……あッ」

 私は将棋仮面のほうをむいて、頭をこつこつしてあげた。

「天才ね。このまま放置しておけば、4段目の敵駒が消えるわ」

「そういうことだ。あとは⚡︎と◎の正体を暴くだけだ」

「4段目が消えたところで全通り試したらよくない?」

「それは危険だ。パズルは間違えるたびに暗転して、しばらく操作できなくなる。俺の目算では、1マスあたり40秒ペースで上昇している。3段目が消えたらアウトだ」

 たしかに、水位は私たちのおへそのところまで来ていた。

 さっそく◎の正体を考察する。


挿絵(By みてみん)


 最初のヒントは、限定問題だということ。32階のパズルは、2通りの解を認めていなかった。今回のパズルでも、おそらくおなじ配慮がされている。3一に香車がいるのは、4一飛などの余詰めを消すためだろう。ということは、⚡︎と◎にも意味があるはず。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「わっかたわ」

「わかったぞ」

 ほとんど同時にひらめいた。

 私が先に答える。

「◎は桂馬、⚡︎は角か馬だわ」


挿絵(By みてみん)


「俺もおなじ結論だ。2一桂成、1二玉、2二成桂のときに同角か同馬を用意している。俺たちが助かる道は、まだあったというわけだ。4四の角が消えれば、飛車がなくても3手で詰むからな」

 私もうなずき返した。水位が4段目に到達する。⚡︎と♦︎が消えていく。

「というわけで、答えね。2一桂成、1二玉、2二成桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 ピンポーン

 

 よし、と思った瞬間、水が引き始めた。

 さらに、目のまえの壁が割れた。


 ガタン スーッ

 

 エレベータが姿をあらわす。

 ちょっと意外な場所だったので、私は目が点になった。

「部屋のなかにエレベータ……?」

「おそらく人荷用じんかようだな。このフロアは荷物置き場らしい。先をいそぐぞ」

 私たちは乗り込んで、34階のボタンを押した。

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