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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第32局 わらしべ香子(2015年6月27日土曜)
333/682

321手目 最初のもらいもの

※ここからは香子ちゃん視点です。

「おーい、裏見うらみぃ」

 昼休みに購買にならんでいると、松平まつだいらに声をかけられた。

「ちょっと、声かけで割り込みはダメよ」

「いや、購買は関係ないんだ。この問題の答え、わかるか?」

 松平は1枚のプリントをみせてきた。


挿絵(By みてみん)


 シンプルな不定積分だ。女子高生、思考中――あれ? 解けない?

「……見た目より、むずかしいわね」

「そうなんだよな。多分、初手はルートの除去だと思うんだが……」

「次のかた、どうぞ」

 おっとっと、もう順番がまわってきた。

 私はすばやく物色する――むッ! まだ焼きそばパンが残ってるッ!

 この時間帯では奇跡。私は即座に購入した。

 意気揚々と飲食スペースへむかう。

「今日はツイてるわ」

「うーん……ルートを外すしかないよなぁ……」

「松平、前を見て歩かないと危ないわよ」

 そう言った途端、私のほうがだれかとぶつかりそうになった。

 すぐに謝る。

「ご、ごめんなさい」

「あ、こちらこそすみません」

 気の弱そうな少年は、ぺこぺこと頭をさげた。

 どうやら生徒会役員のようだ。学校の行事で顔をみかけたことがある。

 少年はわざわざ弁解までし始めて、

「掲示物を貼っていたもので、すみません」

 と、また頭をさげた。

「べつにケガしたわけじゃないし……ん?」

 私は掲示物をよく見る。

 

 2015年4月7日に公募がかけられた部室の割り当ては、

 

 女子将棋部

 

 に決定しました。

 

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?


  ○

   。

    .


 ガラガラガラ

 

「もしも〜し?」

 部室には飛瀬とびせさんしかいなかった。飛瀬さんは詰め将棋の本から顔をあげた。

「このドアの開き方はマズいやつ……だんだんわかってきた……」

「飛瀬さ〜ん? これはどういうことなのかしら?」

 私は、生徒会からとりあげた掲示物をみせる。

「ええ、まさにですね……それこそがわたくしが申し上げていることでありまして……」

 私は飛瀬さんをクリンチする。

「総理大臣のマネなんかしてないで、早く白状しなさい」

「く、くるしぃ……地球人は過剰スキンシップ……」

 まったく。宇宙人ネタでごまかすのは許さないわよ。

 私はとりあえず解放した。

「部室の移転申請をしたなんて、私はまったく聞いてないわよ」

「部長と主将の決定事項なので……」

「私も利害関係人でしょ。意見くらい聞いてもらわないと」

「受験勉強の邪魔はよろしくないかな、と……」

「しかも、びっくりして焼きそばパンを握りつぶしちゃったじゃないの」

「それは濡れ衣……100%冤罪……」

 私はドンとテーブルをたたく。

「この件についてはきちんと弁明してもらうわよッ! 男女合併する気でしょ!」

「憶測にもとづく質問にはお答えできない……」

 官房長官のマネをしても無駄無駄無駄ァ!

「そもそも、こんなことに時間を使って、県大会の準備はちゃんとしてるの?」

「してます……」

「具体的に」

清心せいしんとの交流戦など……」

「例が少ない」

 飛瀬さんは将棋盤をもちだした。私は目が点になる。

「なにしてるの? まさか将棋で決着をつけるつもり?」

「やはり実力をみてもらうのが、一番早いかと……」

 ほほぉ、おもしろいじゃない。受験勉強でブランクがあるからって、舐めすぎよ。

 私は席について駒をならべた。

「振り駒の結果は、私が先手……1手30秒で、よろしくお願いします……」

「よろしくお願いします」

 7六歩、8四歩、2六歩、3二金、2五歩、8五歩、7七角。


挿絵(By みてみん)


 角換わりで撃墜する。

「さすがに序盤の定跡は忘れてないか……」

 あたりまえでしょーッ!

 3四歩、8八銀、7七角成、同銀、2二銀、3六歩、3三銀。

 このあたりから慎重に指す。

 最新定跡はさすがに知らないから、ハマらないように注意。

 4八銀、6二銀、3七桂、4二玉、4六歩、6四歩。


挿絵(By みてみん)


 ちょっと変わったかたちね。

「1六歩……」

「1四歩」

 ここで飛瀬さんの手がとまった。なにか仕掛けてきそう。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 やっぱり仕掛けてきた。私は対応を考える。

 とはいえ、これは取るしかない。問題は、次になにをしてきそうか、だ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 私は29秒ぎりぎりで同歩と取った。

「4五桂……」

 マ? そんなのあるの? 攻めが続かなくない?

 っていうか先手は居玉だし……もしや最新定跡なのでは。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「よ、4四銀ッ!」

 2四歩、同歩、同飛、2三歩、2六飛。


挿絵(By みてみん)


 飛瀬さんの手が速い――ということは、研究手順だ。

 わざわざブランクのある先輩に研究をぶつけてくるとは、いい度胸じゃない。

 そういうのは大会で使えっちゅーねん。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5一金」

 あまり研究してなさそうな手でいく。

「うッ……」

 顔に出たわね。さぁ、30秒で実力を示してみなさい。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「1五歩……」

 ほぉ、攻めてきましたか。悪手……では、なさそう。

 ただ、同歩でどうするのかしら。先手の選択肢は多くないわよ。

「同歩」

 私の同歩に、飛瀬さんは1三歩で返してきた。

 歩切れにした? ……ああ、なるほど、同香は1二角があるのか。


挿絵(By みてみん)


 (※図は香子きょうこちゃんの脳内イメージです。)

 

 だとすると、1三歩は取れない。飛瀬さん、なかなかやるわね。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3六歩」

 常套の伸ばし。

 同飛なら1三香と取れる。1二角が成立しないからだ。

 放置は3五銀出から居玉を圧迫する。

「これはむずかしい……」

 悩め悩め。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同飛……」

 私は1三香と回収した。飛瀬さんは1二歩と追撃する。

 今度は1一歩成があるのか……防げないから放置。

「2八角」


挿絵(By みてみん)


 直接手。だけど回避不能。

「攻め合うしかないか……1一歩成……」

 3五歩(とりあえず蓋をする)、2六飛、1九角成。

「2一と……」

「それは悪手ッ! 2四香ッ!」


挿絵(By みてみん)


 私の香打ちに、飛瀬さんは無表情になった。

 ま、2五桂でしょ。以下、同香、同飛、4六馬で、4五の桂馬が助からない。

 正確にはわからないけど、この時点で後手がねじり合い勝ちとみました。

 ここでお茶……がない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!


挿絵(By みてみん)


「えぇえええええッ! やりすぎでしょッ!」

「え、いや……桂馬抜かれるともうダメかな、と……」

 悲観しすぎィ! とはいえ、これで後手の有利は確定だ。

 同歩、3四香、2三金、1二角。

 あれ……ちょっと待ってよ。

 1四金、3一と。


挿絵(By みてみん)


 ぐッ……あんまり良くない。すくなくとも、思ったより良くない。

「もしかして、飛車切りがいい手だった……?」

 そんなバカな。裏見うらみ香子きょうこ、断じて認めないわよ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5二玉ッ!」

 一回逃げる。飛瀬さんは当然のように追跡を始めた。

 3三香成、4六馬、2三角成。

 なんか桂馬を守られてるし、むしろこっちの銀を抜かれそうな勢いだ。

 6三玉、4一と、6一金、4二と、7二玉。


挿絵(By みてみん)


「あう……」

 飛瀬さんの手がとまった。

 ここで4三成香なら、4五馬で相殺する。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ

 

 飛瀬さんは4一馬と入った。

 私はすこし落ち着いて、4五馬と取る。

 4三成香に6七馬と突っ込んだ。


挿絵(By みてみん)


「銀を逃げない……?」

 さすがにそれはないでしょ。5二とと寄られたくらいで終わる。

 10秒……20秒……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「はわわわ……6八歩……」

 ここで8九馬――じゃなくて、逆サイドに切る。

「4九馬」

 飛瀬さんは馬切りにおどろいた。でも取るしかない。

「同玉……」

 私は10秒ほど読みなおして、持ち駒の桂を手にした。

「4六桂」


挿絵(By みてみん)


 拘束完了。

 5八金と受けても、3八金、5九玉、4九飛で詰む。

 先手は居玉が祟った。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 飛瀬さんはぎりぎりで4七角と受けた。

 私は飛車を打ちおろす。

「1九飛」


挿絵(By みてみん)


 ほんの数秒で、飛瀬さんは負けを悟った。

「あ、そっか……3九桂と受けても1八飛成で受け駒がない……負けました……」

「ありがとうございました」

 一礼して終了。

「飛瀬さ〜ん、見てもらいたかった実力、とは?」

「えー、女子高生には好不調というものがあるわけでありまして……」

 まったく。反省の色がみられない。

「というか、2四同飛はやりすぎよ。普通に2五桂じゃない?」

「2五桂、同香、同飛、4六馬、3四香は考えました……が、4五馬、3二香成、同玉、2二金、4二玉のとき、2三飛成とできないので、悪いのかな、と……」

 私と飛瀬さんは、その順を若干検討した。思ったよりむずかしい。

 飛車切りは変だと思うんだけどなぁ。

「あ、そういえば……裏見先輩、携帯ストラップ欲しくないですか……?」

「ストラップ?」

 飛瀬さんは、将棋の駒がついた携帯ストラップをポケットから出した。

「いかがでしょうか……」

 私はスマホだから、ストラップは使わないのよね――あ、おじいちゃんがパカパカ式のガラケだった。おじいちゃんにあげましょ。

「ありがたくもらっておくわ」

「こちらこそ、引き取っていただき、ありがとうございます……」

 私は盤駒をかたづけて、部室をあとにした。

 ひさびさに指すと、やっぱり楽しいわね。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………なんか忘れてる気がする。

場所:駒桜市立高校女子将棋部の部室

先手:飛瀬 カンナ

後手:裏見 香子

戦型:角換わり力戦形


▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △3二金 ▲2五歩 △8五歩

▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀

▲3六歩 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀 ▲3七桂 △4二玉

▲4六歩 △6四歩 ▲1六歩 △1四歩 ▲3五歩 △同 歩

▲4五桂 △4四銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩

▲2六飛 △5一金 ▲1五歩 △同 歩 ▲1三歩 △3六歩

▲同 飛 △1三香 ▲1二歩 △2八角 ▲1一歩成 △3五歩

▲2六飛 △1九角成 ▲2一と △2四香 ▲同 飛 △同 歩

▲3四香 △2三金 ▲1二角 △1四金 ▲3一と △5二玉

▲3三香成 △4六馬 ▲2三角成 △6三玉 ▲4一と △6一金

▲4二と △7二玉 ▲4一馬 △4五馬 ▲4三成香 △6七馬

▲6八歩 △4九馬 ▲同 玉 △4六桂 ▲4七角 △1九飛


まで72手で裏見の勝ち

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