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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第31局 将棋部 vs TRPG同好会、部室争奪戦!(2015年6月24日水曜)
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320手目 犯罪のエピローグ、恋のプロローグ

「して、あれでよかったのか」

 神崎かんざき先輩は羊羹ようかんを切り分けながら、そうたずねた。

 ここは、洋洋やんやん堂の飲食コーナー。

 犯人をみつけてゲームに勝利したあとの、至福のひととき。

 私はフォークを皿において、こう答えた。

「いずれにせよロボットの犯罪は成立しないので……事故死ともいえます……」

「法律はべつにして、殺人ロボを世にはなつのはいかがかと思うが」

 神崎先輩の考えにも一理ある。ただ、私たちはこの世界を裁きに来たわけじゃない。

 あくまでもヴァーチャルリアリティのなかでの推理合戦だ。

「むろん、飛瀬とびせ殿が解決したのだ。飛瀬殿の判断でよい」

「そう言ってもらえると、助かります……」

 神崎先輩は羊羹を口にいれた。私もゼリーを食べる。おいしい。

 となりで黙々とコーヒーを飲んでいたしずかちゃんは、ふとその手をとめた。

遊子ゆうこちゃんがにせものだって、いつ気づいたの?」

「再会したときからかな……しゃべりかたがびみょうに違う気がしたし……」

「え? そうなの?」

「うん……遊子ちゃんって、『〜だと思うよ?』みたいな感じで、同意を求めてくることが多い……じっさいは同意を求めるかたちの恫喝なんだけど……それに、アパートのJ1さんをSSDに移すっていう話が、なんか妙だったんだよね……」

「妙? どのあたりが?」

「私たちが脱出するとき、遊子ちゃんは転送が97%完了したって言ったよね……しかも100メガバイト残ってるって教えてくれた……ってことは、全体の転送量は3ギガバイトくらいしかない……あれだけ高性能のAIなのに、データ量がそれだけしかないのは変だと思った……スマホにも入るサイズだから、もっと普及してないとおかしい……」

「そっかぁ。だとすると、あの転送は演技だったの?」

「演技じゃなくて、あの外付けSSDには、ウィルスが入ってたんだと思う……」

「ウィルス? ……J1さんはあの時点で破壊されたってこと?」

「たぶん……あれは坂下さかしたくんの捜査妨害……」

「でも、ウィルスなんてどこで入手したの?」

「冨田さんのアパートにあった本をみて自分で作ったんだよ……私たちと合流するまでにはかなり時間があったから、ウィルスの作成に費やしてたんだと思う……その証拠に、あの本はちょうど私とおなじくらいの視線の高さに戻されてた……冨田さんは関連書籍を棚の下に入れてたから、ほかのひとが抜いて読んだのは分かった……しかも、私とおなじくらいの身長のひとだってことも分かった……」

 しずかちゃんは感心してくれた。

「カンナちゃん、ほんとよく観察してるね」

捨神すてがみくんの寝癖の角度もラジアン単位で観察してるから……」

「うわぁ……それは引く……」

 えぇ? なんで? エスパーは観察力不足。

「遊子ちゃんをあやしんだ理由はわかったよ。でもさ、拳銃をこのヴァーチャルワールドへ持ち込んだっていうのは、確証がなかったんじゃないの?」

「確証はなかったけど、自信はあったかな……」

「私たちみたいに、能力を取り上げられてるかもしれないのに?」

「取り上げられたのは、能力だけなんだよね……神崎先輩は手裏剣を持ってたし、私も通信機を持ってた……つまり、物体はそのまま持ち込まれてる……だから、遊子ちゃんだけ拳銃を没収されてるのは変だと思った……」

 この説明には、神崎先輩がうなった。

「拙者は井東いとう家で手裏剣を投げたが、あれもヒントになっていたのだな」

「そういうことです……あれがないと気づくのが遅れたかも……」

「やはり手裏剣は乙女のたしなみといえよう」

「それは違うと思う……」

「なにか言ったか」

「いえ、なんでもありません……事件の全貌については、これくらいでいいかな……?」

 最後に、美沙みさちゃんが質問した。

「井東さん親子に告発状を送ったのは、だれだったのですか?」

「あれはJ2さんだよ……」

「J2さんが? なんの目的で?」

「今回の事件で、J2さんはほかの人間を巻き込みたくなかったんだと思う……志織しおりさんと源五郎げんごろうさんの証言で、あの密室は完成した……従業員にお菓子をとどけたのも、おそらくJ2さん……犯行時刻にうろうろしたスタッフがあやしまれないように……」

 美沙ちゃんは納得顔。

「なるほど、自分には完璧なアリバイを用意し、ほかのひとは現場から遠ざけたわけですか。ひょっとして、これがあったからJ2さんを見逃したのではありませんか?」

「多少は、そういう理由もあったよ……今回のケースは、人間が自分でつくったものに殺された……つまり製造物の事故……それが結論……」

 私は説明を終えた。天井からこうもり悪魔が降りてくる。

「ケケケ、完璧だな。そこまで推理できるプレイヤーはなかなかいないぜ」

「どうも……じゃあ、これを食べ終わったら、もとの世界にもどしてくれる……?」

「もちろん、パンドラボックスは公平無私な魔法の箱だからな」

「坂下くんは、どうなるの……?」

「それは説明しただろう。敗者は勝者の召使いになるのさ」

 私たちは顔を見合わせた。

「べつに奴隷が欲しくてここに来たわけじゃないから……全員解放してくれない……?」

「それはできねぇなぁ」

 こうもりは強気な態度に出た。

「なんで……? 勝者が頼んでるんだよ……?」

「パンドラボックスで負けた人間の魂を回収するのが、俺様の仕事なんでねぇ」

「もしかしてノルマ……?」

 こうもりはケケケと笑った。

「ま、そういうことだね。世知がらいのは人間も悪魔も一緒だから、我慢し……」

 そのときだった。空間にヒビが入る。

 まるで空気が割れるような光景。紫色の光が漏れて、店舗の中央部が爆発四散した。

 あたりに粉塵ふんじんが舞う。

「こほっ、こほっ……なに……事故……?」

 私は煙をはらいながら、あたりを確認した。ガス爆発じゃないよね。

 うっすらと視界が晴れてきた。爆発した方向をみて、私はおどろいた。

 空間に大きな穴が空いていて、頭に2本のツノを持つ悪魔と、黒衣に身をつつんだ少年が立っていたから。黒衣の少年も、すこしおどろいたような顔をしていた。

「すごいよ、父さん……僕でも封印を解けなかったのに、パンチ一発で……」

美都男みつお、おぼえとけよ、これが愛の力だ……ハニー、助けにきたぜ」

「ダーリン!」

 美沙ちゃんはうれしそうに立ち上がった。

 一方、こうもりは慌ててパタパタしはじめる。

「お、おまえ、アスモデじゃねぇか! なんでここにッ!?」

 アスモデくんはこうもりをひと睨みした。そして、あっという間に鷲掴みにした。

「ぐ、ぐるじぃ……」

「それはこっちのセリフだろ。なんでひとの女を勝手に監禁してるんだ? あ?」

「は、話せば分か……」

「問答無用ッ!」

 アスモデくんは大きくふりかぶると、窓ガラスに向けてこうもりを思いっきり投げた。

 ガシャーンとガラスが割れて、こうもりは空の彼方へ消えていった。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………え、なにこれ?

 しずかちゃんはニガ笑いしながら、

「こ、これって、仮に推理がはずれても助かってたオチなのかな?」

 とつぶやいた。そうかもしれない。愛の力は偉大。

 美沙ちゃんはアスモデくんに駆け寄って、熱くキスをした。

 美都男くんはそれを横目にあきれ顔。

「息子のまえでそういうのはやめようね……あ、飛瀬さん、こんにちは」

「こんにちは……助けにきてくれたの……?」

「母さんの居場所がわからなくなったんで、あちこち捜してました」

「そっか……あのこうもりと交渉中だったんだけど……」

「悪魔と交渉しちゃダメですよ。オレオレ詐欺と一緒です」

 とはいえ、あれはさすがに交渉しないといけない。私は事情を説明した。

「あ、そういうことですか……さっきの攻撃で、自動的に解放されてると思います。あのこうもり悪魔、しばらく復帰できないんじゃないかな」

 なるほど、だったら全部解決――じゃないね。私はスマホをとりだす。

 しずかちゃんはそれをみて、

「え? どこに電話かけるの? もしかして小野崎おのざき刑事にチクるとか?」

 とたずねた。私は首を左右にふる。

「……あ、もしもし、毅多川きたがわ名人ですか……はい、あのときはお世話になりました……ひとつだけお伝えしたいことがあります……井東志織さんは、いまでもあのときの約束をおぼえています……おしあわせに……」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回からは将棋パートにもどります。

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