表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第30局 帰って来た将棋仮面?(2015年6月22日月曜)
312/681

300手目 ニセ将棋仮面

「さて、俺の出番か」

 男は、ゆっくりと立ち上がった。白いカッターシャツに黒の長ズボンを履いている。

 その顔は、人気特撮キャラ幽玄の御面におおわれていた。

 会場がざわつく。

「コスプレ?」

「ん、あいつ、深夜番組で観たことあるぞ」

 一方、俺たちもひそひそ話をする。

「ど、どういうことぉ? さっきまでそこは空席だったよぉ?」

 ふたばは目を白黒させていた。

 俺も覚えている。あそこは空席だった。

 すくなくとも、部屋が暗くなった瞬間までは。

捨神すてがみ、あいつはどっから入って来た?」

「ご、ごめん、ステージのほうを観てて気づかなかったよ」

 くそぉ、俺も内木たちのやりとりに気を取られてて見てなかった。

 悔しがる俺たちのまえを、将棋仮面は素通りした。

 ライトがその背中を追っていく。

《……48番さんでしょうか?》

 司会のお姉さんは、困惑しつつたずねた。

「そうだ」

《お顔のほうは拝見できませんでしょうか?》

「ヒーローは素顔をさらさない」

 会場から笑いがこぼれた。微妙にウケている。

《そ、そうですか。分かりました。では、内木レモンさんのペアは……えーと……》

「将棋仮面」

《将棋仮面さんにやっていただくことになりました。拍手をお願いします》


 パチパチパチ

 

 俺たちは拍手しながら、となりのテーブルのおじさんに質問した。

「すみません、あの将棋仮面ってひと、いつからそこにいたんですか?」

 スーツのおじさんは、こちらへ振り向いて、

「さっきまでは、いなかったんだがなぁ」

 と不思議そうに答えた。このひとも見てないのか。残念。

 と思いきや、おじさんのとなりの子どもが、

「あそこから入って来たよ」

 と言い、薄暗い壁を指差した。

 壁から?――いぶかしんで目をこらすと、ドアがあることに気づいた。

 

 STAFF ONLY

 

 ん? ……関係者の部屋があるのか?

 いや、まあ、そりゃそうか。カモフラージュされているせいで、見落としていた。

 壁とまったく同色に塗られていて、プレートも小さかったからだ。

 ふたばはこれを見て、

「もしかして、将棋仮面はイベントのサクラなのかなぁ?」

 と推測した。説得力がある。

 ところが、捨神は納得しなかった。

「さっきの司会のひと、素で驚いてなかった?」

「一部の関係者しか知らないんじゃないのぉ?」

「それはありえるけど……」

《えー、それでは、夜ノよるのさんにも引いてもらいましょう》

 TKY13の伊吹いぶきも、箱に手を突っ込んだ。念入りにかき混ぜる。

《わたしのペアになっていただくかたは……こちらですッ! 9番!》


 ダダダダダダ ジャーン!

 

 ライトは最前列左奥のテーブルを照らした。

 女の啖呵たんかが聞こえる。

「盤が呼ぶ、駒が呼ぶ、寄せが呼ぶッ! 将棋仮面、参上ッ!」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………え?

 俺の思考が止まる。

 ライトに照らされた人影が立ち上がると――もうひとりの御面ライダー。

 幽玄は黒だけど、女はピンクの派手な仮面をかぶっていた。

 会場がふたたびざわつく。

「おいおい、ふたりともコスプレか?」

「ママ、御面ライダーハッピーだよ」

 そうか。思い出したぞ。御面ライダー幽玄に出てくる脇役女ライダーだ。っていうか、そこはどうでもよくて……将棋仮面がふたり? 女は颯爽さっそうと席を立った。

 ステージのうえにあがり、伊吹の横につける。

 これには将棋仮面(男)のほうが動揺していた。

「お、おまえはだれだ?」

「私は将棋仮面ハッピー。おなじ番組に出てるでしょ」

「将棋仮面は俺だ。ニセモノは商標侵害だぞ」

「いいえ、ニセモノはあなたのほうよ。今日こそ成敗してあげるわ」

 えぇ……俺は捨神に話しかける。

「ど、どういうことだ? 将棋仮面はふたりいるのか?」

「ぼ、僕のほうが聞きたいよ。でも、男だったんでしょ? そっちが本物じゃないの?」

「いや、俺は現物を見たことがないから、分からないんだが……」

 しまったな。不破ふわにちゃんと聞いておくんだった。

 俺はスマホで不破のMINEを検索する。

 そのあいだも、ショー(?)は続いた。

「御面ライダー幽玄は主役だが、ハッピーは脇役だ。女が主演を張ったことはない」

「はい、ジェンダー差別。ヒーローの風上かざかみにも置けないわね」

「ぐッ……今のは失言だったが、ほんものの将棋仮面は俺だ」

「じゃあ将棋で決着をつけましょう」

 ハッピーの挑発。幽玄は顔をあげた。

「ほぉ……それは一理ある。勝ったほうが真の将棋仮面だ」

「うふふ、後悔するわよ……司会さん、ルールは?」

 もうアイドルおいてきぼりだな。とはいえ、内木うちきが驚いていないのはともかく、伊吹のほうもあまり驚いていないのは気になった。

「司会さん、ルールは?」

《あ、はい、1手30秒で……》

「20秒でいいわ。茶番が入ったから進行が押してるでしょ」

 気配り仮面。

 内木ペアも了承した。

《そ、それでは、大盤を用意しますので、しばらくお待ちください》

 スタッフは大急ぎで準備を始めた。

 将棋仮面ハッピーの言うとおり、かけあいでスケジュールが遅れているようだ。

 あっというまに機材が用意される。

《では、内木さんと夜ノさん、じゃんけんをお願いします》

 ふたりはじゃんけんした。内木が先手を引く。

 内木→伊吹→将棋仮面幽玄→将棋仮面ハッピーの順で指すことに決まった。

《では、内木さん、幽玄くん、対局準備はよろしいでしょうか?》

《はい》

「俺のマイクはないのか?」

 幽玄、しゃべりたがりだな。

《すみません、内木さんのものをお使いください……では、対局スタートッ!》

 4人は一斉によろしくお願いしますと言って、対局が始まった。

《7六歩です》

 内木は大盤の駒を片手で動かした。

 オーソドックスな出だし。

 伊吹はゲストアイドルらしく、すぐに指すようなことはしなかった。

《さーて、真・将棋仮面ハッピーさん、どちらにしましょうか》

「任せるわ」

《じゃあ8四歩で》

 伊吹は手のひらで滑らすように駒を動かした。


挿絵(By みてみん)


 居飛車か。

 始めて2ヶ月らしいし、伊吹が時間切れで自爆するんじゃないか、この対局。

 3手目の幽玄はここで小考。

「矢倉でも角換わりでもいいが……2六歩」

 幽玄は角換わりを選択した。

「ニセモノの角換わりなんて、怖くないわよ。3二金」

 7八金、8五歩、7七角、3四歩、8八銀、4四歩、2五歩、3三角。

 後手が避けてるじゃないか。ムリヤリ矢倉になった。

 4八銀、5二金、6九玉、4三金右、5八金、2二銀。


挿絵(By みてみん)


 俺は疑問に思って、となりの捨神に話しかけた。

「なあ、伊吹ってアイドル、ほんとに2ヶ月目なのか?」

 捨神も疑問に思っていたらしく、眉間にシワを寄せて答えた。

「妙だね。棋歴2ヶ月にはちょっと見えないかな」

 だよな。プロとは言わないがベテランっぽいぞ。

 幽玄が4六歩、ハッピーが5四歩と指したところで、内木は悩んだ。

《どうしましょうか。いろいろ手はあるんですが……》

《投了という手もありますよ、レモンちゃん》

《そのギャグ、あんまり面白くないですね。5九角》

 アイドルの火花が散っている。

 6二銀、4七銀、4一玉、3六歩、5三銀、7七銀。

 ハッピーの手番。難しいところかと思いきや、さくっと決断する。

「この一手でしょ。5一角」


挿絵(By みてみん)


 こっちも一般人に見えないな。ふざけてるけど、かなりの手練れだ。

 むしろ内木のほうが悩んでいる。

《ペアだと方針が取りにくいですね……》

《レモンちゃん、ニセ幽玄と和気あいあいな仲じゃないんですかぁ?》

 伊吹、ゴシップに持って行こうとする。

 内木はこれを無視した。

《んー、2六角》

《ノリが悪いですよぉ。3三桂》

 なんなんだ、この伊吹ってアイドル。

 20秒将棋でしゃべりながら指せるって、おかしいだろ。

 初心者だってのはウソだ。確信した。

 将棋仮面は観客席のほうを指差して、キメのポーズ

「レモン! 30分で視聴者を楽しませるぞッ! 3五歩ッ!」

【用語解説】

・御面ライダー幽玄

昭和から続く大人気特撮『御面ライダー』シリーズの第17作目。キャッチコピーは「ヒーローは、一度去って帰ってくる」。女子高生アイドルの朝日奈ひかる(主演:大澤めぐ)は、ある晩、事務所からの帰り道で謎の怪人に襲われてしまう。そんな彼女を助けに現れたのは、昆虫型バトルスーツに身を包んだひとりの改造人間だった。幽玄と名乗ったヒーローは、ひかるを助けるとすぐに闇のなかに姿を消す。翌日、幼いころに事故死したはずの少年、比良坂よもつ(主演:天王寺了)が街に帰ってきて……。


・ハッピー

本作で登場するもうひとりのライダー。正体はヒロインの朝日奈ひかる。御面ライダー幽玄が落とした変身用アイテムを解析し、御湯ノ水博士に作ってもらったコピー品で変身する。陽気な性格をしており、幽玄のツッコミ役に回ることも。平行世界から来た悪の秘密結社ジョッカー(パラレルジョッカー)の幹部ツクヨミの正体が、幼なじみの比良坂よもつではないかと悩んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ