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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第29局 不破楓、両想いに踏み切る(2015年6月20日土曜)
305/683

293手目 女子高生、突撃しまーす

「ちょちょいのちょい、と」

 あたしは地面に図を書いた。アトラクションの内部構造だ。

 4人の記憶を集めたから、そこそこ復元できた。


挿絵(By みてみん)


「で、敵はどこにいた?」

 最初に指摘したのは安奈あんなだった。

かえでさんは向かって左から撃たれたわよね。左の柱にひとりよ」

 なるほど、合理的だ。

 飛び降りて来たのも左だったな。金髪の女――白人だった気がする。

「ほかには?」

 歩夢あゆむは、左カウンターにメガネの女性がひとり、右にふたりいたと答えた。

 それに対して並木なみきは、

「右の片方は男じゃなかった?」

 と訂正した。あたしは撃たれてパニくってたから、よく覚えてないんだよなぁ。

「私も男のひとだったと思うわ」

「安奈、客観的に見てるか?」

「失礼ね。私情は挟んでいないつもり」

 じゃあ、こうだな。あたしは図に敵を配置する。


挿絵(By みてみん)


「狙撃役が敵の人数を減らして、戦力差が倍になったら突撃……非常にシンプルかつ強力な戦術ね。将棋でも有効だわ」

 安奈は、やたら感心していた。あたしも同意する。

 将棋でも、よほどのことがないかぎり物量で決まる。

 地形的にも相手のほうが有利だ。こっちは高台がない。

「狙撃手から倒すのはムリそうね。柱があったから」

「だな……おい、男子もなんかアイデア出せ」

 あたしの催促に、歩夢と並木は考え込んだ。

「テーブルの下にもぐりこんで、そのまま移動するっていうのはどうかな?」

 と並木。安全策タイプか。これには歩夢が異議をとなえた。

「それはできないと思うよ」

「え、どうして?」

「あのテーブル、床に固定されてたから。お客さんがケガをしないようにだと思う」

駒込こまごめくん、そこまで確認したの? すごいね」

「うん、カウンター越しに並んでたお酒も、プラスチック製っぽかったかな」

 あたしは歩夢の首に腕をまわす。

「さすがは歩夢。あたしも鼻が高いぜ」

「今の会話のどこに、楓さんの鼻が高くなる要素があったのかしら」

 うるせぇ。ひとがイチャついてるんだからホッといてくれ。

 とはいえ、これで議論はふりだしだ。べつのアイデアを探す。

「……狙撃手をなんとかするしかないわね」

 安奈の見解はもっともなんだが、有効な策がない。

「歩夢、なんかアイデアないか?」

「うーん……並木くんは?」

「あの2階にいたひと、英語しゃべってなかった?」

「え? そうなの? 僕はリスニング全然だから、分かんなかったよ」

「さすがは並木くん、私も鼻が高いわ」

 今の会話のどこに、安奈の鼻が高くなる要素があったんだよ……っと、このネタはやめよう。ブーメランになる。問題は、英語をしゃべってたからなんなんだ、ってこと。

「英語だろうが日本語だろうが、勝負にゃ関係ないだろ」

 あたしのツッコミに、並木は真面目な顔で、

「このあたりで英語を流暢にしゃべってるひとと言えば、基地の海兵隊さんだよね」

 と答えた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………なるほど。

「射撃が上手いのも、つじつまが合うな」

 並木は「だよね」と答えて、ほかのメンバーにも確認を取った。

 歩夢と安奈も同意見のようだ。

「でも、それだとますます勝ち目がないわ」

 と安奈。しょうがねぇなぁ。ここはあたしがいっちょカッコいいところ見せるか。

「よし、こっちは最初から突撃しよう」

 あたしの提案に、ほかの3人は半信半疑。

「さすがに無理筋じゃない? カウンターの向こう側の構造も分かんないんだよ?」

 と歩夢。あたしは肩をバシバシと叩く。

「そこは将棋でつちかった勘でなんとかなる」

「えぇ……」

 論より証拠ッ! 並びなおすぞッ!

 

 *** 少年少女たち、ふたたび行列中 ***

 

 ってほど並ばなかったな。連勝カウンターが9で止まってる。

「強すぎて警戒されてるみたいね」

 安奈はそう言いながら、ヘルメットをかぶった。

「並木くん、うしろの紐を結んであげる」

正力しょうりきさん、ありがとう」

 なんかなぁ、そういうお節介は男をダメにするぜ。

 あたしも手足のバンドを絞めて、ヘルメットをかぶった。ポケットをまさぐる。

不破ふわさん、なにしてるの?」

 となりにいた歩夢が覗き込んできた。

「ちょいとしたおまじないだよ」

 ……これでよし、と。

「で、ほんとに初手で突撃するの?」

 安奈はしつこく確認してきた。

「する。左端のメガネに全員でかかれ。あいつが一番パニクりそうだ。それに、左サイドは狙撃手の位置からは狙いにくい。足元だからな。そのまま全員で階段を昇って、2階のパツキン姉ちゃんを襲う」

「分かったわ。不破楓キャプテン」

 よーし、銃を構えて――GO!

 あたしたちはドアを蹴り開けて、一斉に突撃した。

「なんだッ!? 私のほうに来るぞッ!」

 案の定、左のメガネはパニックになって顔をのぞかせた。

輝子てるこ先輩、頭下げ……」


 パパパパパーン!

 

 一斉射撃でメガネのヘルメットが赤くなった。

 あたしたちは予定通り階段に殺到する。

「Wow!! アキ! モエ! Stop them!!」

 2階から指示が飛ぶ。が、遅いぜ。

 

 パパパーン! パン!

 

 銃声にもかかわらず、あたしたちには一発も当たらない。

「わーっはは! 背中に当たり判定がないからなッ!」

 ツールの欠陥をついて、あたしたちは2階にたどり着いた。

 階段の左右を男子ふたりで確保。

 あたしと安奈はパツキン姉ちゃんに襲いかかる。

「日本人を舐めるなーッ!」


 パパパン! パパパパパーン! パーン!

 

 壮絶な打ち合い――安奈のヘルメットが赤く点滅した。

 が、相手は目を見開いて、

「Why!? 両方当たったデショ!」

 と言い、もういちど引き金を引こうとした。

 それよりも早く、あたしの赤外線が照射される。

 

 ピーッ!

 

 相手の右腕に命中。そのまま突っ込む。

「Don't play with me!!」

「へッ?」

 タックルされた瞬間、世界がひっくり返って床に叩きつけられた。

 太ももが首に絡まる。

「へなちょこジャパニーズ女子高生じゃ勝てないデース」

 待て待て待てッ! なんで肉弾戦なんだよッ!

「Take easy, I kill you now……」

「お客様ッ! 格闘は禁止ですッ!」

 スタッフがどやどやと上がってきた。

 よくみると、天井の隅っこにカメラがある。

 パツキン姉ちゃんは軽く舌打ちをして、あたしを解放した。

「げほっ、げほっ……暴力に訴えるやつがあるかッ!」

「暴力じゃないヨ。マーシャルアーツだヨ」

「日本で素人相手に格闘技は犯罪なんだぞッ!」

「Oh、ワタシ、ニホンゴワカリマセーン」

 くそぉ、馬鹿にしてるな。あたしが突っかかろうとすると、スタッフに止められた。

「まあまあ、お客様、こちらへ……」

 あたしたちのグループは2階から降ろされて、裏の事務室に回された。

「こちらのバッジを差し上げますので、今回のことは内密に……」

 口封じかよ。アトラクションで喧嘩があったら困ります、ってか。

 あたしはほかの3人にたずねた。

「迷惑料もらって終わりでいいのか?」

「いいんじゃない」

 と歩夢。並木と安奈も、

「あのひとたちと再戦するのも気まずいし、いいと思うよ」

「そうね。悪い条件じゃないわ」

 とあっさり譲歩した。

「じゃ、もらっとくぜ」

「こちらのお食事券もどうぞ」

 なんか儲かったな。あたしはポケットにチケットを入れて、揚々と建物を出た。

「しっかし、あの暴力女、なに考えて……」

「Hey, girl!!」

 げげッ……あたしはうしろをふりむいた。

 さっきの姉ちゃんたちが立っていた。

「おまえら、さっきのはノーカン……ん?」

 あたしは相手の顔を観察する。

「げッ! おまえらY口のッ!」

 長髪のメガネは、偉そうにあたしたちを一瞥した。

「いかにも、Y口高校将棋界の県代表であるぞ。ひかえおろ〜」

「ははっ〜……なんて言うわけないだろ。いいかげんにしろ」

「ハハハ、言ってみたかっただけだ。私は毛利もうり輝子てるこ……と自己紹介したはいいが、おまえたち、日日杯の準備会場にいなかったか? 見覚えがあるぞ?」

 ぎくッ――途中で抜け出したから覚えてない。

「に、人数が多かったからな……」

「うむ、私も5人くらいしか覚えていない」

 アホの子かよ。さすがにその倍は覚えてるぞ。

「Ahahaha、モーリは将棋以外に脳のメモリー使ってないネ」

「そういうつもりではないのだが……まあいい。順番に紹介しよう。こちらの変な日本語をしゃべっているのは、キャサリン・キングだ」

「Nice to meet you」

「こちらのどう見ても男にしか見えないのが萩尾はぎおもえ

「よろしく」

「こちらのミリオタで性格が悪そうな顔をしているのが長門ながと亜季あき

「よろしく……って、あの、先輩、さっきからなんで悪口みたいな紹介なんですか?」

「ん? 悪口は言っていないが?」

 大丈夫か、このひと。

「ところで、さっきはスタッフと一緒にどこへ行っていたのだ?」

 毛利の質問に、あたしは、

「トイレだよ」

 と適当な答えを返した。

「そうか、我慢は体に悪い」

「モーリ……どう見ても騙されてるヨ? オフィスかどこかデショ?」

「だったらどうなんだよ」

「なんかもらったんじゃないかなぁ、とguess」

 チッ、勘のいい女だな。あたしははぐらかすのもめんどくさくなって、

「食事券だよ、食事券。それだけ」

 と打ち明けた。

「Wow!! うらやま。わたしたちにクダサーイ」

「は?」

 キャサリンと呼ばれた女は肩をすくめて、

「か弱いジャパンを守ってあげてる海兵隊のみなさんにLOVEの手を」

 とかなんとか抜かしてきた。

「なにがLOVEの手だ。Y口は保守王国でもH島は左が強いんだぞ」

 ここで安奈が割り込む。

「ダメよ、楓さん、デートのときに政治の話はダメ、絶対」

 おまえはなんでデートだってバラすんだよ。あたしは安奈の口を塞いだ。

「も、もごぉ」

「とにかく、おまえらにあげる筋合いはねぇ」

「じゃ賭けヨ」

「賭け? ……ガンマンごっこはこりごりだぜ」

 キャサリンはウィンクをして、右手で物をつまむような仕草をした。

「もちろんこのmemberなら決まりでしょ……シ・ョ・ウ・ギ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ここまで来て将棋指すとか、ないだろJK

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