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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第3局 激突!春の個人戦(2日目・2015年4月19日日曜)
30/682

24手目 女子の部決勝リポート(2)

挿絵(By みてみん)


 角を切るんじゃなくて、歩で叩いた。

 これは……7五銀なら6三歩成、同銀、7五歩。

 そうか、5三角成より、ずっと痛い。

「先手、いい気がしてきましたねぇ」

 葛城かつらぎくんも、不破ふわさん持ちになった。

 大場おおばさんは、仕方なく6二金引。

「8三歩」

 不破さんは、大場さんの王様を軽快に叩いた。

 同玉、5四歩、7五銀、同歩、5四歩。

「もういっちょ、8四歩」


挿絵(By みてみん)


 2度目の叩き。狙いは、8二玉なら5四銀だ。次に6三歩成、同銀、同銀成、同金、8三銀、7一玉、5二銀が詰めろで、5四歩と受けても6三銀成がある。5二同金は同飛成で必至だ。5二銀に7二銀と受けるのは、同銀成、同玉、6一銀不成、同玉、5二銀、7二玉、8三金、8一玉、6三銀成で、同じく必至。

 大場さんは3分ほど考えて、9四玉と上がった。

「かなり怖い受けですねぇ」

 同意。すごく不安定。

 ここまでの残り時間は、不破さんが12分、大場さんが9分。

 不破さんはそこから1分使って、8三銀と打ち込んだ。

 8四玉、7四銀成、9三玉。


挿絵(By みてみん)


 一見すると銀1枚の攻め。だけど、先手は5四銀で援軍を送ることができる。

 そこから6三歩成とすれば、3枚の攻めだ。

 とはいえ、後手にも言い分はある。2二の角が王様を睨んでいること。

 9四玉は、8三銀を急かすためだったのかもしれない。

「5四銀」

 不破さんは、力強く銀を出た。

 大場さん、ここでまた長考。持ち駒の歩をつまんで、盤上でパシパシやる。

 単なる空打ちか、それとも――

「歩を打つつもりですかぁ?」

「5八歩、同飛、7六角とか、確かにありそうだけど……」

「そうなると飛車銀両取りですねぇ。5九飛なら5八歩でもういっかぁい」

 ただ、1回目の5八歩に6三銀成と突っ込む手があるから、かなり微妙。

 先手は穴熊の暴力が活きる。


 パシリ

 

 と、指した。


挿絵(By みてみん)


 5八歩じゃなかった。単に7六角。

 とはいえ、これにも6三歩成がある。速度計算の段階にはいった。

「後手は、どう攻めますかぁ?」

「そうね……第一感、8七歩かしら」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


「同銀とできないからぁ……あれ、めちゃくちゃ厳しぃ……」

「8七同金、同角成が詰めろじゃないから、そこでどうするかよね」

 7三成銀、8八馬、同金、7八金のときに詰むかどうかだけど、詰まないような。

 私がそのことを伝えると、葛城くんは、

「7六角に6三歩成、同銀、同成銀、同金、同銀不成はどうですかぁ?」

 と提案した。私はその局面を考える。

「同銀不成……8七歩、同金、同角成……7四銀成?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 8三金、9四玉、8四金までの詰めろか。

 成立してなくはない。

「でも、7四飛が気になるわね。同歩、7八金……さすがに詰まないけど、5五歩と止められるくらいで混戦な気がする。7三歩成は詰めろだろうし、先手勝ちじゃない?」

「うぅん、納得ぅ」

 なかなか大場さん勝ちの順が出てこない。

 一方、不破さんもここになって時間をかなり使ってきていた。

 残り時間は、不破さんが8分、大場さんが7分。並びそう。

「……6三歩成」

「8七歩っス」


挿絵(By みてみん)


 あれ? 取らないの?

「ふえぇ、過激……」

 葛城くんも、びっくり。

 大場さんが指してなかったら、悪手認定してしまいそうだ。

 でも、不破さんの反応も早かった。

「6二と」

 うわ、取り合いになった。

 8八歩成、同金上、8七歩、同金右、同角成。

「8四金」

 不破さんは金を打って、9二玉と下がらせた。


挿絵(By みてみん)


 また長考。

 不破さんは残り7分、大場さんも7分。

「不破さんは、時間の使い方が上手いんですよねぇ。緩急がありまぁす」

 早指しするときは早いし、じっくり考えるところはじっくり。

 こういうタイプは、急所でポカをしないから厄介だ。

「5五歩なら5四飛と切りそう?」

「そこで6一とが2手スキなんですよねぇ……」

「そっか……となると、後手は詰めろが必要ね。8六歩とか?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 自分で提案しておきながら、巧い詰めろではないことに気づいた。

「ごめんなさい、これは8七金で後手玉に詰めろが掛かるわね」

 以下、同歩成、8三角、8二玉、7二角成、同玉、7三金、6一玉、6二金打で詰む。

「ですねぇ。5五歩には5四飛とせずに6二金だと思いまぁす」

「6二金のあとが難しいわね。飛車先は止めちゃってるし……」

「8六歩が詰めろになるから、先手は一回8七金じゃないですかぁ?」

 私たちが話し合っていると、不破さんは大きく背伸びをした。 

「ふぅ……これ、あたしの勝ちだね」

 いきなりの勝利宣言に、大場さんは眉をひそめた。

「なに言ってるんっスか?」

「ここであたしが5五歩って指したら、どうする?」

「そんなの答える義務はないっス」

 ですね。回答拒否。

「だったら、指し手で訊くよ。5五歩」

 大場さんは6二金。こうしないと、さっきの後手負けになっちゃう。

「8七金」


挿絵(By みてみん)


 手を戻した。これは、葛城くんが提案した手だけど、深くは読んでいない。

 じっくり考える。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ん? 好手っぽい?

「次の7一角が詰めろよね?」

「ですねぇ……9三金、8一玉、8二金までぇ」

 簡単な詰みだ。

「5四飛、7一角、8二歩、6二角成なら2手スキになって、時間が稼げるわ」

 そのあいだ、先手に詰めろがかかればいい。

 とはいえ、その詰めろが見えないのだ。

「受けますかぁ? 5四飛よりも先に8二歩とかぁ」

「それも5一角があるわ」


【参考図】

挿絵(By みてみん)

 

 飛車金両取り。

「ふえぇ……そっかぁ……」

「私が読んでるのは、現局面から6一金打よ」

 単に6一金は6三銀成が詰めろ。放置は8三角、8一玉、7二成銀、同金、同角成、同玉、7三金、6一玉、6二金打まで。だから、6一金打としないといけないんだけど、これには6三歩がありそう。5四飛なら6二歩成が詰めろで、同金なら7一角が詰めろ。これを避けて5二金寄は、8三角、8二玉、7三成銀、同銀、6一角成が詰めろ。7二銀は8三金打で詰み。7一銀も8三金打、8一玉、7一馬、同玉、7二銀まで。必至っぽい。


 ピッ


 大場さんは、1分将棋に突入。


 30秒……40秒……50秒……ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

「な、7一金打っス!」


挿絵(By みてみん)


 この手をみて、不破さんは再び考える。

「逃れる順、ありそう?」

「7一金打は、粘れそうですねぇ……6三歩、6一金引、5三銀成……」

 葛城くんが読む横で、パチリと指を鳴らす音がした。

 不破さんだった。

「8三角」


挿絵(By みてみん)


 あ、突っ込んだ。

 取ったら詰みそう……同銀、同金、8一玉、8二歩、同金、同金、同玉、8三銀と打ち直して、7一玉、7二金、同金、同銀成、同玉、6三銀成、8一玉……うわぁ、歩がぴったり足りてる……8二歩、同玉、8三金、7一玉、7二成銀で詰みだ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「8一玉っス!」

「6三歩」

 不破さんの手が早くなった。読み切り?

 これも6一金引よね。代わって8三銀は、同金、6一金引、7三成銀が詰めろ。ここで8二歩は9三桂、同香、9二銀までだから、8二銀と打って、同成銀、同金、7三桂、7一玉、6一桂成、同玉、6二金まで。受けになっていない。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 大場さんは、慌てて6一金と引いた。

「7二角成」

 不破さんは、角を切った。

 同金直、8三銀。

 これは8二歩、7一玉、7二銀成、同金、6二金以下の詰めろだ。

「6六角っス!」

「ケチって8八金は8七銀か。8八歩だぜ」

 大場さんは5五角行と追加した。懸命の追撃。

 7二銀成、同金、8三金、7一銀。


挿絵(By みてみん)


 8三金を同金とできないのはツラい。

 同金は同成銀が詰めろで、7一金に6二歩成で寄ってしまう。

 6三歩の拠点が活きてきた。

 6二金、8三金、同成銀、8二金。

 大場さんは、目をつむって引きつったような顔をしている。

 不破さんは首を鳴らしてから、7一金と入った。


挿絵(By みてみん)


 ……詰んだわね。

 同玉、6二金、8一玉、7二銀、同金、同金までだ。

 大場さんは肩をプルプルさせて、悔しそうにくちびるを噛んだ。

「全然いいところが無かったっス……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「す、すみちゃんの負けっス……」

「ありがとうございました」

 不破さんは深々と一礼して、対局終了――強い。

 それが、私の正直な感想だった。

「最後、なんかなかったんっスか?」

 大場さんの一言で、感想戦が始まった。

 しばらくは、終盤の寄せが話題になる。けど、私と葛城くんが考えたパターンで、だいたい合ってたみたい。大場さん勝ちの順は出てこなかった。

「どうなりました?」

 葉山さんが顔をのぞかせた。

「不破さんの勝ちだよぉ」

「ほいほい、あとで対局内容の解説よろしくぅ」

「ふえぇ……ボクは召使じゃないよぉ……」

 私はついでに、男子の対局結果も訊いてみた。

 葉山さんはメモ帳をめくって、

「男子は捨神すてがみ佐伯さえき古谷ふるや駒込こまごめの勝ちです」

 と答えた。

 えぇ!? 松平まつだいら、負けてるじゃないですかッ!

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