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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第28局 ニャンと猫山さんに彼氏!?(2015年6月16日火曜)
299/682

287手目 食べ物の恨み

挿絵(By みてみん)


 か、カニカニ銀……もどき?

「5、6、7、8、9」

「6六歩」

「ほほぉ、冷静ですねぇ」

 この程度で切れ負けになったりはしないわよ。

「3四歩ぅ」

 ナメコさんは角道をついに開けた。速攻もありえる。

 私は6七金右として上部を厚くした。

久慈くじ行子なめこ、いきま〜す。7五歩」


挿絵(By みてみん)


 そこからか……無難ではあるわね。

「同歩」

 ナメコさんは7二飛とひとつ寄った。新しい缶ビールを開ける。

「ビールって、なんでこんなにおいしいんでしょうねぇ」

 さあ、飲んだことないし。とりあえず5九角と引いた。

 4五銀、7七銀、5五歩、同歩、5二飛。


挿絵(By みてみん)


「ナメちゃん、酔っとるんじゃないか。最初から5二で良かったじゃろ」

 こらこら、助言禁止。それに、いきなり5二飛はこの順になっていない。

「タマさん、秒読みぃ〜」

 ナメコさんの催促。

「おっと、5、6、7、8、9」

 私は3七桂と跳ねた。ナメコさんはビール缶から口をはなす。

「ん? これは……」

「5、6、7、8、9」

 ナメコさんは3六へ銀をススッと進出させた。

「ところでぇ、なんでこのアパートにいるんですかぁ?」

 ろれつの回らない口調で、ナメコさんはそう尋ねた。

 私は1回無視して2四歩と指す。

「もしも〜し」

「タマさんに呼ばれました」

「5、6、7、8、9」

 ナメコさんは3七銀成とせずに、いったん2四歩と取り返した。

 同飛、4七銀成、4五桂。


挿絵(By みてみん)


 意外とイケているのでは。

 3六銀はヌルかった印象。多分。

「ん〜……」

「5、6、7、8、9」

 ナメコさんは黙って1四歩と突いた。

 この端歩は……1三角狙い?

「5、6、7、8、9」

「5六銀」


挿絵(By みてみん)


 ナメコさんはこの手を見て猫背になった。

「なるほど……1三角〜5七成銀を嫌いましたか……4六成銀」

 なんか急にマジメになった。豹変しないでください。

 6八角、2三歩、2九飛、1三角。

 私は小気味よく3三歩と打った。

 取ったら同桂成、同金、2五桂で両取りだ。

「逃げ方がむずかしいですが……2二金」

 ナメコさんは壁金を選択した。

 私のほうは追撃手段がない。7九玉と入る。

「入城は許しませぇん。8六歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ん? 8六銀でタダ……じゃないか。7六歩と垂らされて困る。

「5、6、7、8、9」

「同歩」

 ナメコさんは、すかさず8七歩と置いた。

 ちょっと窮屈になってしまった。

「5、6、7、8、9」

 6五歩……いや、こっちだ。

「4二歩」

 一回叩く。ナメコさんは、この手を見て、

「やりますねぇ。同玉は王手飛車取りの筋が生じるので、5一玉です」

 と、一瞬で狙いを看破してきた。

「ナメちゃん、今のは取らんのか?」

「タマさん、秒読みぃ〜」

「5、6、7、8、9」

 今、絶対テキトウなところから読んだでしょッ!?

「6五歩」


挿絵(By みてみん)


 4二歩はこの手とセットだ。まずは左辺を整理する。

 7五銀、7六歩、8四銀、6四歩、同歩。

「2四歩」

 これも狙いの一手。同歩は4六角でボロっと銀を取れる。

 酔っ払いのうっかりは――

「2四角ぅ」

 さすがにないか。同飛、同歩、4六角は4九飛の王手角。8七の歩が邪魔。

「8七金」

「角筋を遮断します。5七歩」


挿絵(By みてみん)


 うッ……完璧なタイミングで打ってきた。

「5、6、7、8、9」

 私は8八玉と入城する。次の手が難しい。

「5、6、7、8、9」

「こうですかね」


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 えッ……これは1秒も読んでなかった。

「ふぅむ、ナメちゃん、それはどういう……」

「タマさん、秒読みぃ〜」

「5、6、7、8、9」

 だーッ! 私は同桂成と交換した。

 同金、5四桂(後手のほうがきつくなったのでは?)、5八歩成。

 うわぁ、一番過激な展開になってきた。

 私は2四飛と食いちぎって、6八と、同金、2四歩に6三角と放り込む。


挿絵(By みてみん)


 手応えあり――と言いたいところだけど、駒を渡しすぎた気もする。

 ナメコさんは黙考。

「……駒の補充を警戒しますか。7二金」

 カラい。私は5二角成としかけて、手をひっこめた。

「……」

「5、6、7、8、9」

「4一歩成」

 ここの歩が邪魔だ。成り捨てておく。

 同玉、5二角成、同玉。

「3一飛ッ!」


挿絵(By みてみん)


 三方に利かせる。1一飛成or3三飛成or8一飛成だ。

「ふぅむ、これは一石三鳥の狙い。さすがは人間、強欲ぅ」

「ニャハハハ、人間は欲の皮が突っ張っとるからな」

 は?

「タマさん、秒読んでください」

「5、6、7、8、9」

「一発で止めまぁす。5六成銀」

 それのどこが止まって……あッ! 8一飛成は5三から脱出できるのかッ!

「5、6、7、8、9」

「さ、3三飛成ッ!」

 ナメコさんはビールの缶をテーブルに置き、飛車を手にした。

「これで私の勝ちぃ、4九飛」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………いい手過ぎる。

「5、6、7、8、9」

 私は力なく6九歩と打った。

 6三玉、4四歩、9五桂、4三歩成、7三桂、9六歩、7九銀。

「同玉」

 ナメコさんは無言で桂馬をひっくりかえす。


挿絵(By みてみん)


 りゅ、龍で追い回せば、なんとか。

 私は4四とと引いた。

 7四玉、7五銀、同銀、同歩、8三玉、7四金。

「9二玉……詰みませんねぇ」

 詰まなくても詰めろはかかるッ! 4二龍ッ!

「詰めろは間に合いませんよ〜7八銀」

 え? 詰むの?

 すぐには判別がつかなかった。

「5、6、7、8、9」

 読み切れないまま同金と取る。

 同銀成、同玉、6七角、8八玉、7九角、9八玉。


挿絵(By みてみん)


 詰まないのでは? 7六角成も8七桂と打てばギリギリ詰まない。

 そう思った瞬間、8八金と置かれた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あ、詰む。同銀、同角成、同玉、8七歩と打って、9八玉(同玉は7六銀から早く詰む)、8九角成、8七玉、7八銀、7六玉、6六金までだ。7三の桂馬が利いている。信じられない。

「愛ちゃん、このへんにあった煮干しはどこじゃ?」

「それなら全部食べましたよ」

「ニャッ!? わしもお金払ったのにッ!?」

「タマさ〜ん、秒読みぃ」

「あ、いえ……投了します。ありがとうございました」

 ぐぅううう……酔っ払いに負けた。

 一回深呼吸する。落ち着いてから感想戦。

「最後、駒が足りてませんでした。8六歩に同歩じゃなくて同銀でしたか?」

「ん〜、あれは同歩がかたちだと思いますけどねぇ」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 とはいえ、ナメコさんもすこし迷った。この局面はあまり考えなかったらしい。

 実際、10秒将棋なら私も無思考で同歩を想定すると思う。

「王様のふところが広くないんで、5六成銀とイッちゃう順もありそうな……あ、タマさん、ビールもう一本お願いします

「もうないぞい」

「えッ!? もうないんですかッ!?」

 タマさんは空っぽのダンボール箱をひっくり返してみせる。

「なにも入っとらんぞ」

「そ、そんな……ビール1年分が……」

 ナメコさんはぐにゃぐにゃとテーブルに突っ伏す。

「う、うう……禁断症状が……」

 早すぎィ! さっき飲み終わってから10分も経ってないわよ。

 私が右往左往していると、ナメコさんはガバリと起き上がった。

「というわけで、ビールおごってください」

 は?

「あの……おごってくださいというのは……?」

「私が勝ったから景品で」

「お断りします」

 未成年者は買っちゃダメってコンビニでも言われてるでしょ。

 ナメコさんはほっぺたを膨らませた。

「ぶぅ、ケチぃ」

 どうみても年上のお姉さんにおごれと言われるシチュエーション。意味不明過ぎる。

 この空間、ダメな大人の溜まり場なのでは。

 タマさんも未練タラタラで、

「愛ちゃん、悩んでるとはいえ、ひとの分まで食べるとデブ猫になるぞい」

 と暴れ始めた。

「べつに悩んでません」

「いいや、悩んでおる。絶対にあの男の……ギニャー!?」

 私たち3人はオタマでポカリとやられて、部屋から追い出されてしまった。

 とばっちりを食らう。

「いたたた……タマさん、もうこの話は止めにしませんか?」

「んふぅ、煮干しを食べた罪は重いのじゃ」

「び、ビールぅ……」

 はぁ……アホくさ。帰ろ。

場所:猫山さんのアパート

先手:裏見 香子

後手:久慈 行子

戦型:角換わり力戦形


▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲7七角 △5四歩

▲8八銀 △6二銀 ▲5六歩 △3二金 ▲5八金右 △5三銀

▲2五歩 △4一玉 ▲4八銀 △7四歩 ▲7八金 △4二銀上

▲6九玉 △6四銀 ▲5七銀 △5三銀上 ▲3六歩 △4四銀

▲6六歩 △3四歩 ▲6七金右 △7五歩 ▲同 歩 △7二飛

▲5九角 △4五銀 ▲7七銀 △5五歩 ▲同 歩 △5二飛

▲3七桂 △3六銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △4七銀成

▲4五桂 △1四歩 ▲5六銀 △4六成銀 ▲6八角 △2三歩

▲2九飛 △1三角 ▲3三歩 △2二金 ▲7九玉 △8六歩

▲同 歩 △8七歩 ▲4二歩 △5一玉 ▲6五歩 △7五銀

▲7六歩 △8四銀 ▲6四歩 △同 歩 ▲2四歩 △同 角

▲8七金 △5七歩 ▲8八玉 △3三桂 ▲同桂成 △同 金

▲5四桂 △5八歩成 ▲2四飛 △6八と ▲同 金 △2四歩

▲6三角 △7二金 ▲4一歩成 △同 玉 ▲5二角成 △同 玉

▲3一飛 △5六成銀 ▲3三飛成 △4九飛 ▲6九歩 △6三玉

▲4四歩 △9五桂 ▲4三歩成 △7三桂 ▲9六歩 △7九銀

▲同 玉 △8七桂成 ▲4四と △7四玉 ▲7五銀 △同 銀

▲同 歩 △8三玉 ▲7四金 △9二玉 ▲4二龍 △7八銀

▲同 金 △同成桂 ▲同 玉 △6七角 ▲8八玉 △7九角

▲9八玉 △8八金


まで116手で久慈の勝ち

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