角ちゃん、オフ会に参加する
というわけで、約束の待ち合わせ場所に来たっス。
「やっぱりH市は凄いっスねぇ。人がたくさんいるっス」
鳩さんもたくさんいるっス。
「もう12時過ぎてますよ?」
五見くんは細かいんっスよ。まだ12時2分っス。
「連絡があるまで待つっス」
それっぽい人は、何人かいるんっスよね。
例えば、あそこの眼鏡をかけた私服の男子なんか、いかにもっス。
あっちのチェック柄も怪しいっスね。
実はネナベで、噴水際に座ってるオタサーの姫っぽい人だったりするっスか?
「ところで、その服、自分で作ったんですか?」
「さすが五見くん、見る目があるっスね」
今回は、赤と白の斜めスプライトを基調にしてみたっス。
「見る目があるというか……いえ、なんでもないです」
「なんっスか? 言いたいことがあるなら、言ったほうがいいっスよ」
「まだ連絡は来ないんですか?」
あ、話を逸らしたっスね。
「MINEに反応はないっス」
「すっぽかされたんじゃないでしょうね」
「だから、3分しか経ってないっス。気が早過ぎるっス」
そういう性格は、女の子に嫌われるっスよ。
まったく……ん、なんか視線を感じるっス。
かわいらしいサラサラヘアーの男の子が、こっち見てるっスね。
中学生……小学生の可能性もあるっスか。ひとりじゃ危ないっス。
「なんか用っスか? 迷子なら、そこの交番に行くっス」
角ちゃんはよそ者だから、道を訊かれても分かんないっスよ。
「すみちゃんさんですか?」
……………………
……………………
…………………
………………
「ゆ、ユウタくんっスか?」
「わーい、やっぱりすみちゃんさんですね、こんにちは〜」
ちょっと待つっス!
「ほ、ほんとにユウタくん本人っスか?」
「そうですよ」
「何年生っスか?」
「中1でーす」
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…………………
………………
「これはやらかしましたね」
なに冷静に状況分析してるんっスか!
「ちょっとそこで待つっス」
五見くんを連れて、木陰にダッシュ。
「ちゅ、ちゅ、中学生だったっス」
「なにを焦ってるんですか? 中学生なんかそこらじゅうにいますよ」
「中1は完全に予想外だったっス!」
MINEで出会ったときは小6だったことになるっス。
角ちゃんショーック!
「ど、どうするっスか?」
「さあ、あんなショタキャラが来ることは前提にしてませんでしたからね。カラオケとか、そういうところは入れないかもしれません」
「このままじゃ角ちゃん、青少年健全育成条例でしょっぴかれるっス!」
「こんなので逮捕されるわけないでしょう。ホテルに連れ込むわけじゃあるまいし……それともアレですか、裸の写真でも送りつけたんですか?」
「んなわけないっス! 角ちゃんは露出狂じゃないっス!」
「だったら、普通に対応すればいいでしょう。ただのオフ会です」
そ、そうっスね……普通に遊べばいいんっス、普通に。
とりあえず、ユウタくんのところへ戻るっス。
これ以上は怪しまれるっス。
「ゆ、ユウタくんは、どこへ遊びに行きたいっスか?」
「あれ? 将棋指すんじゃなかったんですか?」
……あ、そうだったっス。
「どこで指したいっスか?」
「どこでもいいでーす」
くぅ、その弟スマイルみたいなの、やめるっス。
角ちゃんきょどるっス。
「僕の行きつけの喫茶店にしましょう。混んでるかもしれませんが」
五見くんがいて助かったっス。
ひとりで来てたら、ほんとに危なかったっス。
「ユウタくん、お金は大丈夫っスか?」
「ちゃんとママにもらって来ました」
それじゃ、路面電車に乗って移動するっス。
路面電車はH市の名物っスよ。
「それにしても、なんで角ちゃんだって分かったんっスか?」
「口調ですぐ分かりました」
「むしろ分からない人がいるんですかね?」
五見くんはうるさいっス。
「こっちが五見さんですよね?」
「そうだよ。駒桜市の五見。ユウタくんは、どこの中学かな?」
「岩徳中学でーす」
五見くんはなにか思い当たる節があるのか、眼鏡をくい〜としたっス。
「もしかして、柳優太くん?」
「あ、正解です。すごいですね。なんで知ってるんですか?」
「岩徳に強い子が入ったと聞いたからね。きみがそうだったんだ」
「えへへ、照れるなあ」
柳くんは、ほっぺたをポリポリ。
「すみちゃんお姉さん、名前はなんて言うんですか?」
「角ちゃんは角ちゃんっス」
「なんですか、それ……小学生でもそんな返事しませんよ」
五見くんは黙るっス!
「すみちゃんさんって言うんですか? すっごく珍しい名前ですね」
「ほら、勘違いされるでしょう」
「大場角代っス。大きい場所って書くっス」
「大場お姉さんですね、覚えました」
柳くんは、その場でぴょんぴょん。危ないっス。
リュックを背負ってるから、周りの人にぶつかるっス。
田舎の感覚で歩き回っちゃダメっスよ。
「ずいぶんとハイテンションだね」
と五見くん。
「絶対ネカマだと思ってたんで、キレイなお姉さんが来て嬉しいです」
「うなーッ//////」
き、キレイって言われちゃったっス。
「前から思ってましたけど、大場先輩って……男性への免疫なさ過ぎですよね」
そんなことはないっス!
実は将棋部の男子以外に話す異性がいないとか、そんなことはないっス!
「五見くんこそ、典型的なオタクじゃないっスか」
「オタク=女性に対する免疫がないと、いつから思ってました?」
「だったら彼女いるんっスか?」
「いますよ」
嘘っス! 絶対信じないっス!
「わー、すごいなー、チューとかするんですか?」
「もちろん」
やめてッ! 角ちゃんの心をえぐらないで欲しいっス!
「あ、次の駅ですよ」
なんとか助かったっス。さっさと降りるっス。
「やっぱりH市はおっきいですね」
高いビルが多いっス。首が疲れるっス。
「一応、100万都市ですから」
そうだったっス。H市は100万都市だったっス。
「で、喫茶店はどこにあるんっスか?」
「すぐそこです」
大通りを右に曲がって、3番目のビルの2階に入ったっス。
自動ドアをくぐると、お洒落な空間。
ゲスマックはシックな感じっスけど、こっちはモダンっス。
テーブルもパイプ脚の白がメインで、いかにも機能的な印象。
データマンな五見くんのイメージにもぴったりっスね。
「そこの4人席が空いてます」
一番奥になっちゃったっス。
昼過ぎだから、しょうがないっス。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「コーヒーにホットケーキのセットで」
五見くん、早いっス。
こっちは常連さんじゃないんっスよ。
「角ちゃんはまだ決めてないっス」
「僕も」
「では、あとで声をおかけください」
……………………
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…………………
………………
気まずいっス。
メニューにかじりつくっス。
「んー、僕はアイスクリームソーダ!」
「角ちゃんはコーヒーにチョコレートケーキっス」
店員さんを呼んで注文したっス。
……………………
……………………
…………………
………………
だから気まずいっス。
「将棋しないんですか?」
柳くんは、年上ふたりが相手なのに、全然臆してないっスね。
角ちゃんも頑張るっス。
「僕、将棋盤持って来ました」
リュックサックから、100均で売ってるような盤が出てきたっス。
これ、ちっこいから苦手なんっスよね。
マウス指しで修行を積んできた角ちゃんにはツライっス。
「それじゃ、角ちゃんと指すっス」
「五見お兄さん、お願いしまーす」
ハブられたっス!
「そうだね。僕とは初対局かな」
くぅ、初対局ならしょうがないっス。
ウォーズでさんざん指してるから、ここは譲るっス。
「じゃんけんぽん」
五見くんがグーで、柳くんがパー。柳くんの先手っスね。
「よろしくお願いしまーす」
「よろしく」
柳くんは小さな駒を器用に摘んで、7六歩と突いたっス。
3四歩、2六歩、3二金、7八金。
角換わりっぽいっスね。居飛車は指さないけど、なんとなく分かるっス。
「8八角成」
「横歩じゃないんですね。同銀です」
4二銀、3八銀、7二銀、3六歩、6四歩、1六歩、1四歩。
「1七香」
「ん、それは?」
五見くんは眼鏡をくい〜とやって、考え始めたっス。
「お待たせしました」
注文が来たっス。
「ありがとうござまーす」
柳くんはメロンソーダをチューチュー。
せっかちっスね。
「……3三銀」
受けになってるんっスかね、これ。
「1八飛」
「指すの速いね」
「そうですか?」
お子様特有の早指しっスね。
小学生なんかだと、全部ノータイムで指してくるっス。
6三銀、6八玉。
「4二飛」
五見くんが陽動振り飛車っスか?
遊んでるんっスかね……まあ、先手も形が変っスけど。
3七桂、4四銀。
「1五歩ッ!」
「仕掛けてきたか……」
五見くんはコーヒーを飲んで、蜂蜜をホットケーキにかけたっス。
角ちゃんもチョコレートケーキを食べるっス。
ぱくり……おいしいっス!
まわりに掛かってるホットチョコレートがビターでいい感じっス。
「いい店、知ってるっスね」
「それほどでも……3五歩」
これは取らざるをえないっス。
1四歩は戦場から遠過ぎてムリっス。
「んー、同歩」
「5四角」




