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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
265/683

253手目 見当違いな捜索

「サイコロを振ってください」

 ぐッ、マズい。ここでサイコロかよ。リリー関連の情報っぽいぞ。


 カラカラカラ

 

「45……成功……」

「イベントカードを渡します」

 丸亀まるがめは、カードを1枚、飛瀬とびせに配った。

 新品のカード――六連むつむらが入手したものと被っていないのは、明らかだった。

 飛瀬は、ゆっくりとそれをめくった。心臓が高鳴る。

「……あれ?」

 飛瀬は、ちょっと意外そうな顔をした。

「これは……うーん……」

「飛瀬さん、会話は相談タイムでお願いします。不破ふわさん、早乙女さおとめさん、共闘するかどうか選択してください」

 あたしと早乙女は、一致して共闘しないと告げた。

「あたしは自室に待機する」

「私も別行動にします」

「そうですか……となると、同ターンにする必要がありませんね。早乙女さん、待機しているリリーに干渉しますか? それとも、干渉しないように行動しますか?」

「違いがあるのですか?」

「リリーさんに干渉する場合は、トマス少年のターンもここで処理します。干渉しない場合は、サイコロ通り、一番最後に回ってもらいます」

 早乙女はあらかじめ決めてあったかのように、

「一番最後に回してもらうわ」

 と答えた。

「その場合は、家に入るという選択ができませんが、よろしいですか?」

「OK」

 ん? 家に入って来ないのか? ……なんかイヤな予感がする。

「おい、丸亀、あたしは家の周辺を見回ってもいいか?」

「不破さんは、さきほど自分の行動を決定しました。変更はできません」

「それは、後出しの早乙女が有利だ。おかしいだろ?」

「不破さん→早乙女さんの順で決定するのは、サイコロ通りですよ」

 くッ、やっぱり先攻が不利か。動物将棋と一緒だな。

 あたしは飴玉を奥歯で噛んで、説得を断念した。

「では、捨神すてがみくん、どうぞ」

「僕は今、森にいるんだよね? うろうろしてても大丈夫かな?」

「うろうろする、というのは困ります。具体的に行動してください」

 師匠は、マップを眼差した。

 森の部分はけっこう面積があって、川や岩場もみえる。

 それに、師匠のキャラクター、木こりのフェリスの小屋もあった。

「リリーさんのお父さんとお母さんが行方不明になった現場って、分かる?」

 ッ! そうきたかッ!

「それは分かりません」

「分からないの? ってことは、死体が出てないんだね?」

「死体が出た場合、『行方不明』とは言わないと思いますが……」

「あ、それもそうだね。つまり……生きてる可能性もあるのかな?」

 おっと、推理が明後日の方向に行き始めたぞ。しめしめ。

「リリーさんのお父さんとお母さんは、じつは失踪していなくて……うーん、どこかに監禁されてるとかかな。それに関与してるのがリリーさん本人で……」

「捨神くん、あまり推理を口にすると、ほかのメンバーへの助言になりますよ」

「ごめんごめん……とりあえず、花がたくさん咲いている場所ってある?」

「あります」

「じゃあ、そこへ向かうよ」

「木こりのフェリスは、花が咲き乱れるひらけた場所にたどりつきました」

「なにか怪しいものはないかな? 死体が埋まってそうな穴とかは?」

 こういうのは、ドキっとするなぁ。場所は全然見当違いなんだが。

 一方、丸亀はすこし困ったような顔をした。

「そうですね……なにも見つかりませんでした」

「え? 今のはなに?」

「ルール処理ですこし迷いました。説明はゲーム終了後にします」

 おいおい、それでいいのか、GM。

 師匠もあまり納得できないような顔だったが、急にアッとなって、

「そっか……ここって僕の……」

 とつぶやいた。最後のほうはよく聞き取れなかった。

「捨神くん、ノーコメントでお願いします」

「ご、ごめん……これは場所の選択をミスしたね」

「どうしますか? 行き先の変更は、原則的に認められないのですが……」

「だったら、パスするしかないか……パス」

 師匠、なにやら自爆した模様。

 だいたい察しがつくぞ。多分、自キャラのヒントが隠されてるんだろ。

 自分のイベントカードは自分じゃ入手できないから、なにも見つからなかったわけだ。

西野辺にしのべさんのターンです。郵便屋のハッシュは、教会の門のまえにいます」

「門のまえに、だれかいる?」

「おばさんがふたりで立ち話をしています」

「んー、女性なら、ヒントがもらえそうだけど……ねぇ、GM、教会のなかの様子を見てから外にもどるくらいは、認めてもらえるよね?」

「そうですね、さすがにそれは認めざるをえません」

「じゃあ、教会のなかに入るよ」

「郵便屋のハッシュは、教会に入りました」

「だれかいる?」

掃除夫そうじふと神父さんが、なにやら話をしています」

 なかなか面倒な選択だな。

 外にもどって女性に話しかけるか、教会にとどまって男性に話しかけるか。

「なんとなくだけど、リリーちゃんが女性だから女性に訊いて回るのは、トラップになってる気がするんだよね……神父さんに話しかけるよ」

「では、僕が神父さんの役を……こんにちは、ハッシュさん」

「こんにちは、今日はいい天気ですね……と、こういう会話は省いてもOK?」

「TRPGの醍醐味を損なっているような気もしますが、今回はご自由に」

「リリーちゃんって、最近教会に来てますか?」

「ええ、来ていますよ。あなたも、よくお見かけしていると思いますが?」

「そ、そういう突っ込みが入るんだ……この村、神父さんがいるってことは、カトリックだよね? プロテスタントじゃないよね?」

「はい、説明書には『カトリックの信仰地域』と書いてあります」

「じゃあ、懺悔室もある?」

「あります……西野辺さん、なかなか博学ですね。どちらの高校ですか?」

「ソールズベリー」

「おっと、県内一の進学校でしたか、これは失礼……懺悔室に入りますか?」

「なんか誘導されてるような……ちょっと考えさせて」

 西野辺は、30秒ほど思案した。

「懺悔室に来たかどうかなんて、教えてもらえないと思うんだよねぇ」

「いかにもTRPGっぽい推理ですね」

「話す相手を変えるよ。となりにいる掃除夫さんに話しかける」

 丸亀は、すこしばかり声音をかえた。

「これはこれは、ハッシュさん、景気はどうですか?」

「どうですかって言われてもね……まあまあ、だよ。ところで、質問していい?」

「なんですか?」

「あ、ちょっと待って、神父さんと掃除夫さんを引き離せないかな?」

「それは簡単にできますよ。適当に口実を作ってください」

 西野辺は、ふたりだけで話したいことがあると告げた。

 口実になってないと思うんだが。

「ヤバい話じゃないでしょうね?」

「大丈夫、大丈夫、神父さんは、またあとで」

「ふたりは、教会の庭に移動しました。どうしますか?」

「質問するよ。リリーちゃんが、最近懺悔に来なかった?」

「えぇ……ハッシュさん、そういうのはさすがに答えられませんよ」

「OK、GM、ここで買収」

「すこし邪道ですが……サイコロを振ってください」

 いいのか、それ? 買収最強だな。

 

 カラカラカラ

 

「39、成功」

「リリーさんは、懺悔には来てませんよ」

「え? 今、サイコロ成功したじゃん?」

「その代わり、イゾルデばあさんはちょくちょく来てるみたいですがね」

 西野辺は、あちゃー、という顔をした。

「カンナちゃんのほうを掘り当てちゃったか。失敗だね」

「どうしますか? このままイベントカードが出るまで粘りますか?」

「そうだね。ぶっきらぼうにプレイしてもしょうがないし、イゾルデおばあさんのヒミツも調べておこうか……イゾルデおばあさんは、なにか悪いことでもしたのかな?」

「ここでサイコロです」


 カラカラカラ

 

「60……2回連続はむずかしいねぇ」

「西野辺さんのターンは終了です。桐野きりのさん、どうぞ」

「森のクマさんは、どこですかぁ?」

「と、とりあえず、調べる場所を指定してください」

 丸亀が困惑してるぞ。桐野、早くしろ。

「うにゅう……クマさんと言えば、川でシャケ獲りなのですぅ。川に行きまぁす」

「村長は、川へ移動しました。このあたりは傾斜がゆるやかなので、水流はそこまで速くないようです。どうしますか?」

「シャケさんは泳いでますかぁ?」

「川に魚はいますが、シャケはいないようですね」

「ふえぇ……もっとよく捜すのですぅ」

 丸亀はそこで、ピンと指を立てた。

「フラグです。サイコロを振ってください」

 マジかよ。桐野、運がいいな。

 

 カラカラカラ

 

 14

 

「成功でぇす。クマさんは見つかりましたかぁ?」

「クマは見つかりませんでしたが、イベントカードをさしあげます」

「ありがとうございまぁす」

「クリストファー村長のターンは終了です。早乙女さん、どうぞ」

 早乙女は、すこしもったいぶったような仕草をして、

「前日に相談した条件は、すべてそろったように思いますが、どうですか?」

 と尋ねた。丸亀は場をチェックした。

「……なるほど、条件はそろっていますね。ほんとにやりますか?」

「えぇ、でないと勝てそうにないので」

 なんだなんだ? ざわつくあたしたちに、丸亀は目隠しを要求した。

「おい、なにかインチキがあるんじゃないだろうな?」

 あたしは右耳にバンドをしながら、そう尋ねた。

「ご安心を、インチキではありません」

「それならいいが……早くすませろよ」

 あたしは目隠しをして、暗闇の世界へ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ん? もう合図があった?

 あたしは念のため、外していいかどうか確認した。

 すると、もういちど肩を叩かれたから、あたしは目隠しを外した。

「なにしてたんだ? 30秒もかからなかったよな?」

 早乙女はノーコメントだった。気味が悪い。

「それでは、6日目午後のターンも終了です。情報共有フェーズを開始します」

 今度は、あたしと六連から相談することになった。

 ほかのメンバーは目隠しをする。

「飛瀬が拾ったカード、なんだと思う? 未知のカードみたいだぞ?」

「リリーさんの1番目のカードじゃないかな」

 なるほど……六連の推理は、一理ありそうだ。

 飛瀬のリアクションは、そこまで大したことはなかった。もちろん、飛瀬は反応がもとから薄いし、演技ということも考えられる。が、深読みするのも危ない。

「じゃあ、早乙女の行動は?」

 六連は、そっちのほうが問題だと考えているらしく、しばらく口をつぐんだ。

「……時間的に、サイコロを振ったような気がする」

「サイコロ? ……あたしの家で、なにかしたってことか?」

「そこは分からない。丸亀との相談内容が不明だし……それに、サイコロが成功したかどうかも分からない。成功したとして、なにか入手できたのかな?」

 推理は行き詰まってしまった。

「六連くん、不破さん、そろそろよろしいですか?」

 丸亀に催促されて、あたしたちは他のメンバーと交代する。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 長いな。念入りに相談してるみたいだ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………よし、終わった。

「それでは、みなさん、いよいよ最終日、7日目の午前になります。サイコロをどうぞ」

 あたしたちは、めいめいサイコロを振った。

 

 桐野→師匠→あたし→西野辺→六連→早乙女→飛瀬

 

「それでは、桐野さんから、行き先を決めてください」

「またまた森のクマさんを捜しまぁす」

「森ですね……捨神くんは?」

「僕も森」

 ほぉ……さっきの相談内容が、だんだん見えてきたぞ。

「不破さんは、どうしますか?」

「あたしは自宅待機」

「西野辺さんは?」

「森」

 やっぱりな。もうターンが少ないから、がむしゃらに死体探しだ。

 埋まっていそうなのは……行方不明になった森のなか、という推理。

 間違いなんだなぁ。あたしは、内心ほくそえんだ。

「六連くんは?」

「みんな森か……誤誘導かもしれないから、市場で待機するよ」

「早乙女さんは?」

「リリーさんの家」

 早乙女は、あたしにべったり。もしかして、サイコロは失敗したのか?

「最後に、飛瀬さん、どうぞ」

「私も森……」

「全員決めましたね。では、桐野さんから行動してください」

「あ、待ってくださいですぅ」

 丸亀は、ターンを管理しているメモ帳から顔をあげた。

「どうかしましたか?」

「ワンちゃんパーティーを忘れてるのですぅ」

「あ、そう言えば……えーと、どういうパーティーなのでしょうか?」

「街中のワンちゃんを集めて、大行進するのですぅ」

 もうめちゃくちゃだな。

「困りましたね。それだと、森に行けないかもしれませんよ」

「森のほうへちょっとだけ行ってぇ……」

 桐野は、マップでルートを指差した。

「そこから街中へグルっともどってくるのですぅ」

「森の奥へは入れなくなりますが、いいですか?」

「問題ありませぇん」

 というわけで、よく分からない犬の行進が始まった。

「村長は、犬の群れとともに、森のすぐそばまで来ました。どうしますか?」

「んーとぉ……あ、そうだ、いいこと思いついたのですぅ」

 桐野は、ポンと手をたたいた。またしょうもないことなんだろ。

「このワンちゃんたちに、死体を捜させまぁす」

 !? これには一同驚いた。

「な、なかなかスゴいことを考えますね……しかし、犬の行進を認めてしまった以上、これも認めざるをえませんか。捜査に犬を使うことを許可します」

「ここ掘れワンワン」

「村長は犬にあたりを嗅がせてみましたが、なにも見つかりませんでした」

「うにゅぅ、だったら、べつの場所を……」

「さすがにそれはできません。一回の捜索に時間がかかり過ぎます」

「ふえぇ……ワンちゃん大行進……」

 たまに思うが、桐野のやつ、天然にみせかけて腹黒なんじゃないだろうな。

 冷や汗が出た。まあ、出ないものは出ないんだが。

「捨神くん、どうぞ」

「昨日、桐野さんが調べた川をもう一回調べるよ」

「木こりのフェリスは、川のなかを調べてみましたが、なにも見つかりませんでした」

「え? まだサイコロ振ってないよ? ……あッ!」

 師匠は青くなった。

「も、もしかして、ここも僕のイベントだった?」

 御愁傷さま。どうやら、森のなかは、師匠のキャラのヒントが多かったみたいだ。

 木こりのフェリスは森に住んでるし、当たり前ではある。

「残念ですが、捨神くんのターンは終了です。不破さん、どうぞ」

「パス」

「西野辺さん、どうぞ」

 西野辺は、半分あきらめ気味な顔をした。

「もう見つからない気がしてきたよ……とりあえず、森の奥へ行くね」

「どのあたりまで行きますか?」

「花の咲いているところも、木こりのフェリスに関係してるんだよね……もっと人目につかなさそうな場所は、ある? 例えば、洞窟とか」

「サイコロを振ってください」

「うぐぅ、これも当てないといけないのか……えいッ!」


 カラカラカラ

 

「29! 成功ッ!」

「郵便屋のハッシュは、不気味な洞窟を見つけました。どうしますか?」

「中に入って、地面を掘る」

「もういちど、サイコロをどうぞ」


 カラカラカラ

 

「25! また成功ッ!」

 丸亀は、イベントカードを配った。西野辺は、意気揚々とそれをめくった。

「……げッ! 全然関係ないッ!」

「シーッ、お静かに。西野辺さんのターンは終了です。六連くん、どうぞ」

「パス」

「早乙女さん、どうぞ」

「パス」

 ん? 早乙女もパス?

 これには、他の面子も違和感を覚えたらしい。西野辺は、

素子もとこちゃん、裏で六連たちとつるんでる?」

 と尋ねた。丸亀はこれを注意した。

 つるんではないんだよな……それは、あたしと六連が一番よく知っている。

 だけど、昨日はアクションを起こしたのに、今日起こさないのは、なぜだ?

 早乙女の勝利条件って、そんなに特殊なのか?

「最後に飛瀬さんのターンです」

「死体を森のなかに捨ててないのかな……うーん……」

 いくら考えても、見当違いなところを捜してるから、見つかりようがないぜ。

「涸れ井戸というか、廃墟みたいな小屋ってある……?」

「サイコロをどうぞ」

 あるのか。最後になって、みんな勘が冴えてるな。


 カラカラカラ

 

「82……失敗……」

「飛瀬さんのターンも終了。お昼の情報共有タイムです。午後が最後のターンですから、情報共有タイムはこれが最後です。よく話し合ってください」

 あたしと六連には、特に話し合うことがなかった。早乙女も、会話に加わらない。

 目隠しと耳バンドをして、師匠たちの相談が終わるのを待つ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「おーい、まだか? かなり経ってるぞ?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「おーい」

 あたしが2回目の声かけをしたところで、ようやく肩に触れられた。

 目隠しを外し、師匠たちのほうをみる。

 みんな、かなり困ったような顔をしていた。

 のこりは1ターン、裏庭に通じるヒントはない――これ、勝ったんじゃね?

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