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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
262/682

250手目 ふりだしにもどる

六連むつむらくん、どうぞ」

 六連はひと呼吸おいてから、口をひらいた。

「薬局には、だれがいる?」

「薬剤師のおじさんと、ハーブを見繕っている中年女性がみえます」

「薬剤師のおじさんに話しかけるよ」

 丸亀まるがめは、わざわざ声音を変えて演技を始めた。さっきからうまいな、こいつ。

「やあ、ロッジェさん、こんにちは。なにかご入用ですか?」

「傷薬と血止めの道具が欲しいんだけど」

「おや、猟でケガでもなさいましたか?」

 ロッジェは、その通りだと答えた。

 なんだ? なにが始まってるんだ? ケガのシーンなんてなかったぞ?

「消毒用のアルコールなら、あります。それに包帯も少々」

「GM、僕に支払能力はある?」

「そうですね……安い品ですから、ポケットマネーで買えます」

「オッケー、ふたつを購入しつつ、世間話を続ける」

 アルコールと包帯に、どういう関係があるのか、さっぱり分からなかった。

 ほかの面子も、ぽかんとしている。

「店長、最近の景気は、どう?」

「ぼちぼちですね。ヨーロッパのあちこちで戦争があって、物価が不安定です」

「でも、例えば……ほら、この消毒用アルコールや包帯みたいに、日常で使うものなら、定期的に売れるんじゃないかな? 最近も、だれか買いに来ただろう?」

「んー、そういう情報は、お客さんの体に関わる話ですからねぇ」

 ロッジェはすこし考えて、

「買収できないかな?」

 と尋ねた。薬剤師を買収? なにをする気だ?

「サイコロを振ってください」


 カラカラカラ

 

「18、成功」

「猟師のロッジェは言葉巧みに金を握らせて、情報を聞き出しました」

 丸亀は、イベントカードを六連に渡した。

 六連はそれをちらりと見て、

「予想通り」

 とつぶやいた。周りにプレッシャーをかけてやがる。

「六連くんのターンが終了、同時に、4日目午後の捜査フェーズも終了です」

 夜の情報共有フェーズに入った。私は第一声、

早乙女さおとめぇ、なにか言うことがあるだろッ!」

 と食って掛かった。

 早乙女は涼しげな表情で、髪をなでた。

「べつに、なにもないわよ」

「ウソをついた理由を言えッ!」

「拒否するわ」

 あたしは早乙女を指差して、丸亀のほうへ顔をむけた。

「GM! こんなプレイが許されていいのかッ!?」

「まったく問題はありません」

「ルール的にOKならOK、ってかッ!? 将棋を見習えッ! 将棋をッ!」

 礼に始まり礼に終わるんだぞ。口三味線くちじゃみせんは厳禁だ。

不破ふわさんが言っても、まったく説得力がないのですが……」

「あぁ?」

「もちろん、TRPGにもマナーはあります。しかし、今回のケースはマナー違反ですらありませんので、GMとしては対処しようがないです」

「ウソをつくのはマナー違反だろ。そんな詭弁……ん?」

 待てよ――あたしは、最初のルール説明をよーく思い出してみた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 全員の勝利条件が一緒とは、一回も言ってなくないか?

「GM、ひとつ質問していいか?」

「どうぞ」

「捜査妨害をし続けると自分の勝利条件に近づくキャラ……っているか?」

 丸亀はとぼけたような顔で、

「はい、いるかもしれませんね」

 と答えた。

 チクショー、そういうことかッ!

 ほかのメンバーも、ざわついた。

「なんか変だと思ったら、早乙女さんと六連くんは、僕たちと勝利条件が違うんだね」

 師匠が簡潔にまとめてくれた。

「ふえ? ってことは、素子もとこちゃんは裏切り者なんですかぁ?」

桐野きりの先輩、騙されないでください。私は桐野先輩の味方です」

 あ、取り込みにかかったな。あたしも桐野に話しかける。

「早乙女の言うことは信じちゃダメです。あたしを信用してください」

「うにゅ、かえでちゃんは毛虫さんを押しつけてきたことがあるから、信用しないですぅ」

 いつの話だよッ! 小学生の頃だろッ!

「地球人はすぐケンカする……ところで、GM、他のキャラは捕縛できないの……?」

「捕縛するルールもありますが、今回は練習ですし、ナシにしたいですね」

「そっか……早乙女さんと六連くんの行動は止められない、と……」

 んー、これは困ったな。

 六連が一番カードを多く集めている。しかも、そのうち1枚はあたしだ。

 1枚目のカードは桐野のやつだと思うが、3枚目はなんだったんだ? 薬局と関係のありそうなキャラは、いない――いや、そういう問題か? 六連が薬局に向かったのは、リリーの日記を盗み見たあとだ。そうすると……ん? この状況、マズくないか?

「ほかに共有する情報はありますか?」

 全員なにか言いたそうな気配だったが、だれも言葉を発さなかった。

 捜査はふりだしにもどる。

「それでは、5日目の午前になりました。行動順を決定してください」

 

 飛瀬とびせ→早乙女→西野辺にしのべ→桐野→六連→師匠→あたし


 宇宙人は、じっとりと村のマップをながめた。

「……」

「どうしました? 質問ならいつでも受け付けますよ?」

「ごめん……長考しちゃった……六連くんが協力してくれる可能性はあるのかな……」

「すみません、他のキャラとの相談は禁止です」

「了解……とりあえず、郵便局へ行くね」

 へぇ、そこか。

 じつはあたし、さっきの台詞でヒヤヒヤしたんだよね。

 六連が薬局で入手したカードは、花屋のリリー関連じゃないかって。つーか、この予想でおそらく正解だと思う。消毒用アルコールと包帯がポイントだ。リリーは(ようするにあたしのキャラだが)、両親を殺したとき、ケガをしたんじゃないか?

 最初のあの風聞カード――

 

【風聞L−1】

 花屋のリリーは寒がりで、年中長袖を着ている。

 

 これと情報が完全に一致している。

 花屋のリリーは、両親を殺したとき、腕にケガをした。

 最初は虐待の痕なんじゃないかと思っていたが、どうもちがう。

 そのケガを治療するため、薬局へ寄った。

 こんな感じじゃないか? と考えているうちに、あたしの番になった。

「不破さん、移動先を決定してください」

 あたしは、ほかのメンバーの移動先を確認した。

 

  飛瀬  郵便局

  西野辺 イゾルデばあさんの家

  早乙女 村の広場

  桐野  役場

  六連  村の広場

  師匠  ロッジェの小屋

  

 分かれたなぁ。それぞれ思惑があって動いていそうだ。

 便乗するか、それともだれも行っていないところへ行くか。

「……イゾルデばあさんの家に向かう」

 あたしは自分のコマを動かした。

 こうなったら、カードを引かれてるやつを攻める。

 飛瀬、西野辺、師匠も、そういう考えのはずだ。桐野はよく分からん。

「それでは、飛瀬さんから、どうぞ」

「郵便局って、どういう場所……? 大日本郵便と一緒……?」

「公会堂に併設された、木造の小さな建物です。郵便配達のほかに、地域の新聞や雑誌などの販売もおこなっています。ようするに、村の外から情報を仕入れる場所ですね」

「原始的な情報ポータル……だれがいるの……?」

「先日、役場のまえにいたおじいさんがいます。ハッシュは出掛けていていません」

 飛瀬は、おじいさんに話しかけると言った。これはなにかありそうだ。

 丸亀は、さっそく演技を始めた。

「こんにちは、イゾルデばあさん」

「こんにちは……」

「このまえは、荷物運びを手伝ってくれて、ありがとな」

「どういたしまして……ところで、ハッシュさんは……?」

「ハッシュなら、どこかへ行っちまったよ」

 飛瀬はここで、小考した。

「ハッシュさん宛の郵便物を拾ったから、届けに来たんだけど……」

「ハッシュ宛の郵便物? そりゃまた珍しい」

「どうして……?」

「わしはこの仕事を10年以上続けとるが、ハッシュ宛の郵便物は見たことがないよ」

 ん? 捜査のラインに乗ったんじゃないか?

 TRPGに慣れてきて、あやしい会話とそうでないのが、だんだん分かってきた。

 飛瀬も特有の勘を働かせたらしく、根掘り葉掘りたずねた。

「変だね……ハッシュさんは、友だちがいないの……?」

「ハハハ、あいかわらずイゾルデばあさんは口が悪い。友人かどうかは知らんが、たまにどこかへ出掛けて、人に会っておるようだ」

「どういうひと……?」

「さあな。この村では見かけん連中だ。大方、郵便仲間だろう」

 飛瀬は、ハッシュがよく行く場所をたずねた。

「んー、そいつは人に教えることじゃないなぁ」

「だったら、買収します……サイコロ振らせて……」

「了解です。サイコロを許可します」


 カラカラカラ

 

「81……将棋盤のマス目……」

「イゾルデばあさんは買収を試みました。が、あっさり拒否されました」

 うーん、どうもうまくいかないな。

 7日14ターンあれば楽勝かと思っていたが、そういうわけでもなさそうだ。

「早乙女さんのターンに移ります。どうしますか?」

「六連くんに共闘を申し込むわ」

「六連くん、早乙女さんから共闘の申し出がありました。受けますか?」

「拒否します」

「あら……ツレないのね。GM、ほかのキャラを尾行することは可能?」

「捜査フェイズにおなじ場所にいるときは、可能です」

「だったら、猟師のロッジェを尾行するわ」

 丸亀は、ふたりともサイコロを振るように指示した。

 尾行も出目の勝負なんだな。

「68」

「50」

「私の負けね……確率は、神の気まぐれ、天使のいたずら」

 おまえはコメントがいちいち大げさなんだよ。

「少年トマスは猟師のロッジェを尾行しましたが、見失ってしまいました……それでは、六連くんのターンに移ります。どうしますか?」

 名前を呼ばれた六連は、帽子をかぶりなおして、

「とりあえず、周囲の状況を教えてもらおうか」

 と頼んだ。

「今日は、市場いちばが立っているようです。大勢のひとが集まっています」

「年齢層は?」

「マチマチですね。老人から子供までいます」

「了解。だれに話しかけたものか……」

 六連はアゴに指をそえ、じっと虚空を見つめた。こういう長考中のポーズは、なかなかサマになっている。とはいえ、ミスって欲しいところだ。お祈りタイム。

「……子供に話しかける。家族連れじゃなくて、ひとりでウロウロしてる子に」

「ロッジェは、該当する子供を発見しました。屋台からすこし離れた路地で、石蹴りをして遊んでいます。どうやって話しかけますか?」

「屋台の売り物は?」

「果物屋のようです。リンゴがみえます」

「リンゴをひとつ買って、それから話しかける」

 丸亀は咳払いをして、こどものマネを始めた。

「ロッジェおじさん、なにか用?」

「リンゴを買い過ぎたから、ひとつ食べないか?」

「ありがと……でも、なんで僕に?」

「教えて欲しいことがあってね」

 ストレート過ぎないか? 子供でも警戒しそうな切り出し方だった。

 丸亀もそのあたりは甘くないようで、

「僕に教えて欲しいこと? ……なにもないけど」

 と、会話の糸口を細くした。

「教えてくれないと、きみの悪さをみんなにバラしちゃうよ」

「……どういう意味?」

 六連は、耳打ちしてもいいか、と尋ねた。

「そうですね……ここは、他のプレイヤーに聞かせないのが妥当でしょう。ただ、音漏れする恐れがありますので、メモ帳に書いてこちらに渡してください」

 六連は、胸元でペンを走らせてから、1枚千切って丸亀に渡した。

 丸亀はそれをのぞいて、ヒューと口笛を吹いた。

「サイコロを振ってください」

 イベントタイムか? なにが書いてあった?

 困惑するあたしの目の前で、サイコロは音を立てて転がった。

「今日は運がいい……49だ」

「このカードに辿り着くひとは、出ないと思ったのですが……やりますね」

 丸亀は、わざわざそう言ってイベントカードを渡した。

 六連は文面を読んで、かるくうなずくと、これまで集めたカードをトランプのように器用に切って、トンとテーブルのうえに束ねた。

「僕のターンは終了」

「次に移ります。西野辺さん、不破さん、共闘するかどうか相談してください」

「うーん……楓ちゃんが一番不利な気がするんだけど……」

 西野辺はそう言って、こちらをチラ見した。目逸らし。

「まあ、ここは共闘しよっか。それでいいよね?」

「あたしは構いませんよ。で、どこを捜します?」

「もち、ティーセットが入ってる棚」

 西野辺とあたしは、棚を調べると丸亀に伝えた。

「具体的にお願いします」

 あ、これはなにかイベントがあるな。西野辺も察知して、慎重に答えた。

「棚のなかにイベントがあるなら、わざわざ聞き返さないと思うんだよね。テューセットを調べるって言うのは、棚のなかを調べるってことだし……外側を調べてもいい?」

「ついでに、裏側も念入りに調べましょう」

 あたしがそう言った途端、丸亀はパチリと指を鳴らした。

「サイコロを振ってください」

 どっちが振るかじゃんけんして、あたしが振ることになった。

 

 カラカラカラ

 

「23! 成功だッ!」

「花屋のリリーと郵便屋のハッシュは、棚のうしろにあるものを見つけました」

 丸亀はそう言って、イベントカードをあたしたちに渡してくれた。


【I−4−2】

 イゾルデばあさんの家の棚には、ゾック家具店の名前が彫られていた。


 家具屋の名前か……数字は2だし、まだまだ解答にはほど遠い。

「桐野さんのターンです。どうしますか?」

「うにゅにゅ……なにをすればいいのか、分かんなくなったのですぅ……」

「パスもできますよ。あまりしないほうがいいですけど」

 桐野は、ポンと手を叩いた。

「マスカット村のみんなで、将棋大会をするのですぅ」

「しょ、将棋ですか……西洋将棋ならありそうですが……」

「西洋将棋って、なんですかぁ?」

「チェスのことです。ただ、こんな辺鄙な村まで普及してたんですかね?」

 GMも困ってるぞ。桐野、話題を変えろ。

「チェスはよく分かんないのでぇ……わんちゃんコンテストを開催しまぁす」

 桐野は両手をあげて、キャッキャとはしゃいだ。

 あのなぁ……全員あきれ気味。

「い、いつ開催しますか?」

「ゲームの最終日に、パーッとやるのですぅ」

「分かりました。メモしておきます。最終日に犬コンテスト、と……捨神すてがみくん、どうぞ」

 師匠は、ゲームの序盤で訪れた場所、六連の小屋に来ていた。

 どう攻めるか、お手並み拝見。

「うーん……六連くんの勝利条件が、イマイチ分からないんだよね。早乙女さんとは違って、イベントカードを集めてるみたいだし……単独勝利条件なのかな?」

「もうしわけありませんが、その手の質問にはお答えできません」

「アハッ、だよね、GM。小屋の鍵はかかってる?」

「かかっています」

「リリーさんのときとおなじで、ピッキングできないかな?」

 丸亀は、すこしばかり考えた。

「ドアの鍵は、簡単には開かないのですよね……30以下でOKなら考慮します」

「あ、難易度調整だね。僕はそれでもいいよ」

「では、どうぞ」


 カラカラカラ

 

「うーん、76」

「木こりのフェリスは、鍵を開けている最中、猟犬に吠え立てられて逃げました。これで午前のフェーズは終了です。情報共有フェーズに入ってください」

 あたしは六連のほうに向きなおった。

「おい、昴、いつもどおり耳栓を……」

「ちょっと待って。リリーさんに話がある」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あたしに?

 六連は、急にするどい目付きになって、あたしを見つめた。

「僕とふたりっきりになってもらおうか……とっても大事な話なんだ」

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