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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
261/682

249手目 暴かれたウソ

「67……また失敗だ」

 緑と赤のサイコロを見つめて、六連むつむらはそうつぶやいた。

「猟師のロッジェは、置き場所を変えられた日記を見つけることができませんでした……これにて、3日目午後のフェーズは終了です。情報共有フェーズに入ります」

 六連は帽子のつばに手をかけて、タメ息をついた。

「柵の飛び越え、日記帳の発見、解錠を連続で成功させるのはむずかしいな」

 そりゃそうだ。単純計算で2分の1が3回だから、8回に1回しか成功しない。

 つまりは4日(午前のターン+午後のターン)に1回ってことだ。

 とはいえ、六連を笑うわけにもいかなかった。

 ほかのメンバーも、イベントカードの収集に苦労し始めていたからだ。

「んー、全然見つからないね」

 西野辺にしのべは、渋い顔でもういちどマップを俯瞰した。

「2日目と3日目が収穫なしって、けっこうヤバいんじゃないの?」

「えへへぇ、お花の妨害が功を奏しているのですぅ」

「お花お姉ぇも、このままスケープゴートが見つからなかったら負けなんだけど?」

「ふえ? そうなんですかぁ?」

 ルールを把握してないじゃないか。

 西野辺は、あきれて二の句が継げないようだ。

 あたしはヤレヤレと思いつつ、となりの早乙女さおとめに声をかけた。

「なにかいいアイデアはないのか?」

「そうね……」

 早乙女は髪をなでて、ほかのプレイヤーを見回した。

「ロッジェが日記の鍵をはずすのが、一番てっとり早いと思うわ」

「あのなぁ……あたしが不利になるようなことを言うなよ」

「あら、どうして? 質問に答えただけよ?」

 KYだな。

「それに、村長のほうがイベントは進んでるんだ。役場を攻めようぜ、役場を」

 あたしのポジティブ(?)な提案に、みんなもだいたい賛成してくれた。

「ほかに共有する情報はありますか? ……ありませんね。では、サイコロを」

 4日目午前のターンに入る。まずは行動順と捜査場所の決定。

 

 六連(リリーの家)→桐野きりの(役場)→飛瀬とびせ(役場)

 →早乙女(役場)→西野辺(役場)→あたし(役場)→師匠(役場)

 

 こうなった。

「それでは、六連くんから、どうぞ」

「柵の飛び越えから鍵の破壊まで、3回連続で振るよ」

 六連は、サイコロを振った。


 28→35

 

 ん? 連続で成功した?

「ロッジェは柵を飛び越え、日記を発見することに成功しました」

「じゃあ、最後の一回」

 待てぇ! やめろぉ!

「30」

「ロッジェは、日記の鍵をはずすことに成功しました」

 丸亀まるがめは、イベントカードを六連に渡した。

 あたしは舌打ちをする。

 くそぉ、家にいりゃよかったか。後悔先に立たず、だ。

「ロッジェのターンが終了し、役場組に回ります。桐野さんから、どうぞ」

「お花はお部屋のまえで待機しまぁす」

「了解です。攻撃がわのメンバーは、どうしますか?」

 あたしは気をとりなおして、ほかの連中と相談を始めた。

 絶対に時計の秘密を暴く。さっきから作戦を練ってあったんだぞ。

「3つのグループに分かれましょう。待合室、執務室、役場の外です」

 あたしは、そう提案した。

 ここで、師匠が口を挟んだ。

「2日目と3日目は、役場の外にだれもいなかったよ? 今日はいるの?」

 師匠の質問に対して、丸亀は「いません」と答えた。

「ほら、役場の外は意味がな……」

「師匠、待ってください。ひとに話しかけるとは言ってません」

「馬に話しかけるの? それとも犬?」

 あたしは身を乗り出して、

「窓から入るんですよ。窓から」

 と答えた。我ながら悪知恵だなぁ。

「ふえ? そんなの認めませぇん」

「認める認めないはGMの権限だろ。な、GM?」

「認めます」

 お、ずいぶんとあっさりだな。予想してたみたいな反応だ。

「じゃ、あたしは裏口から回ります」

「だったら、僕も手伝うよ。ふたりいないと登れないかもしれないし」

 ナイス判断。さすがはあたしの師匠。

「西野辺先輩は執務室のまえで、村長を釘付けにしておいてください」

「了解」

「早乙女と宇宙人は、待合室で聞き込みだ」

「分かったわ」

「了解……だけど、もう入手できる情報なさそうなんだよね……」

 飛瀬の発言には、一理あった。

 2日目と3日目の聞き込みからは、なにも得られずにタイムアップしてしまった。

「では、飛瀬さんと早乙女さんのグループが1番手です。どうぞ」

「トマスくん……どうする……?」

「窓口のおじさんは、あれ以上なにも知らなさそうですね」

「順番待ちのおじいさんとおばさんもつれないし……子供に話しかけようか……」

「では、イゾルデおばあさん、どうぞ」

 ん? なんで飛瀬にゆずるんだ?

 飛瀬も疑問に思ったらしく、首をひねった。

「おばあさんが話しかけるより、トマスくんが話しかけたほうがよくない……?」

 早乙女は、さもうっかりしたかのような顔で、

「失礼しました。おっしゃる通りです。私がGMに話しかけます」

 と訂正した。

「どう話しかけますか?」

 早乙女はすこしだけ考えて、「一緒に遊ぶ提案をします」と答えた。

 丸亀は咳払いをして、さっそく演技を始めた。

「こんにちは、トマス。こんなところでなにしてんの?」

「みんなと一緒に遊びたいな、と思って」

「えぇ? トマスが俺たちと? どういう風の吹き回しだい?」

「たまにはいいでしょうに。遊ぶの? 遊ばないの?」

 ぶっきらぼうだなぁ。そんなんじゃグループからハブられるぞ。

「べつにいいけどさ……トマスは、仕事で忙しいんじゃないの?」

「最近はヒマなのよ。で、なにして遊ぶ?」

「鬼ごっこだな。トマスが鬼だぞ。そーれ! ……と、子供たちは散開しました」

「追いかけないとダメかしら?」

「どちらでも。ただ、追いかけると、トマスくんは一時ロストになります」

「一時ロストとは?」

「アクシデントで一時的にゲームから除外される現象です。川に落ちたり、なにかに誘惑されたときに起こるイベントですね。今回は、遊びに夢中になってロストになります」

 早乙女は、それで構わないと答えた。

「少年トマスは捜査のことも忘れて、みんなと遊び回りました……飛瀬さん、どうぞ」

「どうぞって言われても……早乙女さん、もうちょっとマジメにやろうよ……」

「すみません。子供の相手は苦手なもので」

 そういう問題じゃないだろ。ロールプレイだぞ、ロールプレイ。

 早乙女にしては、妙な凡ミスだな。

「イゾルデばあさんのターンも終了させますか?」

「ほかのひとに話しかけるよ……待合室のおじいさん……」

「イゾルデばあさんは待合室のおじいさんと、世間話を楽しみました。ターン終了です」

「えぇ……どうしてそうなるの……?」

「イベントフラグのない行動だったからです」

 ぐだぐだだなぁ。

「西野辺さんのターンに移ります。どうしますか?」

「突破を試みるよ。さすがに5回連続で失敗はないでしょ」

 西野辺は盛大にフラグを立ててから、サイコロを振った。92。デカイ。

「えへへぇ、お花は77ですぅ」

「これマジ?」

「郵便屋のハッシュは、またまた執務室への突入に失敗しました」

「お花お姉ぇ、サイコロ強過ぎだよぉ」

 西野辺が愚痴って終了。いよいよ、あたしと師匠のペアだ。

「それじゃ、行きましょう」

「裏手に回ればいいんだよね? この地図だと、執務室は公道の反対側だし」

「ですね。GM、役場の裏手に回るぞ」

「花屋のリリーと木こりのフェリスは、役場の裏手に回りました。どうしますか?」

「窓にあがれそうな場所を探す」

 あたしがそう言った途端、丸亀は感心したような顔をした。

「サイコロを振らずに見つけるとは、驚きましたね……イベントカードを配ります」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?

「今、なんて言った?」

「とりあえずカードをどうぞ」

 あたしは、渡されたカードをこっそりとめくった。


【C−5−3】

 村長の執務室には窓がない。

 

「なんだ、こりゃ? ま……」

「シーッ、まだ情報共有フェーズじゃありませんよ」

「おっと悪い……でも、あたしたちのターンで終わりだろ?」

「まあ、そう言われるとそうなのですが……では、情報共有フェーズに入ります」

 あたしは、カードについてみんなと相談することにした。

 六連にはイヤホンをさせて、ショップの壁に顔を向けさせた。

「じゃ、カードをオープンしますね」


【C−5−3】

 村長の執務室には窓がない。

 

 これには、みんな素早く反応した。

 さすがに奇妙だと思ったようだ。最初に口をひらいたのは、西野辺だった。

「窓がないって、ありえなくない?」

 師匠もこれに続く。

「普通、事務室には必ず窓があるよね。村長さんなら、なおさらだと思うけど」

 あたしはそれぞれのコメントに耳を傾けつつ、親指の爪を噛んで考え込んだ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 どうも分からないな。窓がないのは変だ。それは分かる。だけど、ないからどうだって言うんだ? 村長が変わり者なだけかもしれないし、もしかすると、この役場は別の建物を改修して、そのときに窓をつける余裕がなかったのかもしれない。例えば、教会なら窓がない部屋がありそうだ。それとも偏見か? 修道院は? 刑務所だったとか?

「あれ……ちょっと待って……このカード、変じゃない……?」

 宇宙人、ワンテンポ遅いな。あたしは呆れつつ、

「ええ、だからみんな変だって言ってるじゃないですか。普通は窓がありますからね」

 と返した。

「そこじゃなくて……カード番号……」

 カード番号? あたしは上端に書かれたコードを凝視した。

「……ん? C−5−3?」

 C−5−3って、六連が持ってるんじゃなかったか。

 あたしはGMに確認を入れた。

「番号が同じカードは、複数あるのか?」

「いえ、ありません」

「ってことは……早乙女ぇ!」

 あたしは早乙女を睨んだ。早乙女は涼しい顔をして、

「なにかしら?」

 と尋ね返した。

「おまえ、ウソついたな?」

「ちょっと勘違いしただけよ。六連くんに見せてもらったときは、カード番号が重要だと思っていなかったから、ウロ覚えだったの。正直にそう答えれば良かったわね」

「じゃあ、正確な数字は覚えていないっていうのか?」

「不破さんは、カードの上端に書かれている数字を、いちいち記憶しているの?」

「いや……してないな」

 あたしはそう答えた――けど、どうも違和感がのこる。

 数学バカの早乙女が、ナンバーに関心を示さないってことがあるんだろうか。

「ほんとに覚えてないのか?」

「ウソを吐くメリットがないでしょうに」

 たしかに、嘘を吐くメリットは思い浮かばない。

 桐野がピンチなんだから、早乙女も桐野を攻略したいはずだ。

 スケープゴートに必要な人数は、ひとり。それ以上でも、それ以下でもない。

「ほかに、共有したい情報はありますか?」

 あたしたちは丸亀に、相談タイムをくれと頼んだ。

「OKです。5分さしあげますので、そのあいだに話し合ってください」

 ケチだなぁ。これだけ人数がいると、5分はアッという間だ。

 混乱しないように、あたしが指揮をとるぜ。

「師匠、どうします? このまま役場を攻めますか?」

「窓がないから、もう潜入ルートがなくない?」

 師匠の消極的なコメントに対して、西野辺が口を挟む。

「正規ルートをサイコロでふさがれてるだけでしょ。確率の問題」

 正面突破が不可能になってるわけじゃないんだよな。

 ただ、それでも難点はあった。あたしはふたたび師匠に、

「待合室にはもう情報が落ちてなさそうなんで、メンバーを分散させましょう」

 と提案した。

「どこに分散させるの? 目星がついてないよ?」

「これだけ広いマップですから、適当に動いても大丈夫じゃないですか?」

「それだと、全然ちがうルートを発掘しちゃうことにならない?」

 どうやら師匠は、仲間割れを心配しているようだった。

 村長以外のイベントカードが手に入る可能性は、かなり高いと思う。

「分かりました。全員で役場に行って、待機しましょう」

「それがいいと思うよ。まだ3日半あるし、どこかで突破……」

「はい、5分経ちました。行動順を決めますので、サイコロを振ってください」

 あたしたちはサイコロを振った。

 

 西野辺→早乙女→六連→師匠→桐野→あたし→飛瀬

 

「それでは、移動先を決めてください」

 六連以外は、全員役場を指定した。マップにコマがごちゃごちゃと置かれる。

「六連くんは?」

「僕は薬局に向かう」

 ん? 薬局? リリーの調査はあきらめたのか?

 あたしは内心ガッツポーズしたが、六連と目が合って、なにかイヤなものを感じた。

「役場のメンバーは、行動内容を相談してください」

 これもあっさり決まった。

 西野辺が桐野と勝負して、ドアがひらいたら全員で突入するという作戦だ。

 さらに、1437のヒントに合わせて、14時35分頃に時間を合わせた。

「それじゃ、今度こそいくよぉ……えいッ!」

 念入りに転がされたサイコロ、それが示した数字は――04!

「ふ、ふえぇ……ひとケタですぅ……」

「03、02、01、00なら桐野さんの勝ちです」

 こら、GM、桐野の肩を持つな。

「ここは県代表の腕の見せどころですぅ。よぉく振ってぇ……ぽい」

 サイコロはカラカラと音を立てて、テーブルのうえを回った。

 先に緑のほうが止まって――0! マジかよ!

「赤が0、1、2、3なら勝ちですぅ!」

「5以上ッ! 5以上ッ!」

 全員が見守るなか、出た目は――

「よっしゃぁああああ! 9! 9!」

「不破さん、カードショップではお静かに……クリストファー村長は、侵入者を待ち構えていましたが、尿意をもよおしたので、トイレに行ってしまいました」

「お花は尿意をもよおしてませぇん」

「ゲームの話だッ! 全軍突撃ぃ!」

 5人で一気になだれ込む。丸亀は、執務室のマップをふたたび提示した。


挿絵(By みてみん)


「村長がもどってくるまで、5分しかありません。そのあいだに調べてください」

 くそ、そんなタイムリミットがあるのか。

「とりあえず、14時37分になるのを待とう。なるべく時計のまえで」

 全員、師匠の案に賛成した。

「丸亀、14時37分まで飛ばしてくれ」

「なんで上級生を呼び捨てなんですかね……みなさんは、14時37分まで待ちました」

 よしよし……ん?

「おい、続きを言えよ」

「続きはありません」

「ない? どういう意味だ?」

「なにも起こらなかったということです」

 全員が悲鳴をあげた。

「なんにもないの? ほんとに? 壁に隠し通路があらわれたとかは?」

 と師匠。丸亀は、部屋にいっさい変化がないと伝えた。

「い、1437の解釈が間違ってたのかな? 不破さん、時刻以外になにかある?」

 いきなり訊かれてもな……早乙女のほうが暗号は得意そうなんだが、黙ってやがる。

「本棚の本の位置とかは、どうですか?」

「ありそうだね。1437番目……うーん、さすがに1000冊は入らないかも」

「上から14段目、とかでもなさそうですね。そんなデカイ本棚じゃないですし」

「もしかして、1437年ってことはないかな?」

「あ、年号ですか。それはかなり有望……」

「ちょ、ちょっと待ってッ!」

 西野辺が大声を出した。

 全員がふりかえるなか、西野辺は早口でまくしたてた。

「GM、時計を調べられない?」

「いいですが……なにを調べますか?」

「『1437って数字が実際に掘られてるかどうか』だよ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あ、そうかッ!

「郵便屋のハッシュは柱時計を調べましたが、それらしい数字は見当たりませんでした」

「や、やっぱり、素子もとこちゃんが言ってたのは全部ウソだったんだね」

 西野辺の機転で、あたしたちは全員騙されていたことに気付いた。

 あたしはテーブルをこぶしで叩く。

「早乙女、てめぇウソつきやがったなッ!」

「私の予想より、バレるのが31秒ほど早かったわね」

「なに気取ってんだッ! 六連のカードに書かれてた本物の……」

「不破さん、そこまでです。5分経ちました。郵便屋のハッシュ、少年トマス、木こりのフェリス、花屋のリリー、イゾルデばあさんのターンは終了です。クリストファー村長のターンも、さきほどの敗北で終了しました……では、六連くん、どうぞ」

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