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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
259/681

247手目 成功と失敗

「イベントタイムです。サイコロを振ってください」

 桐野きりのは、「ほえぇ」と変な声を出した。

「おはなは、なにもしてないのですぅ」

「イベントの発生には、『キャラクターの提案によるもの』と『一定の行動をとったときに自動で発動するもの』の2種類があります。今回は後者です」

 丸亀まるがめはそう言って、サイコロを桐野にまわした。

「なにが出るか、お楽しみなのですぅ。えい」

 緑と赤のサイコロは、テーブルのうえをカラカラと転がった。

「緑が0、赤が5なのですぅ」

「イベント成功です。カードを配ります」

 丸亀はイベントカードを1枚引いて、裏返しのまま桐野に渡した。

 桐野は、だれにも見られないように、こっそりと覗き込んだ。

「ほえ? なんですか、これはぁ?」

「まだ捜査フェーズです。ほかのひとには教えないでください」

「はぁい」

 今のやりとりをみて、飛瀬とびせは、

「自分の家で知らないことをされると、気になるね……」

 とつぶやいた。

「えへへぇ、気にしないでくださぁい。お茶を飲むのですぅ」

「桐野先輩がイベントを成功させたから、私のターンも終了……?」

 飛瀬の質問に対して、丸亀は、

「村長とイゾルデおばあさんは、仲間として動いていません。いわば敵同士ですね。別々に行動することができます。終了させても構いませんが、どうしますか?」

 と尋ね返した。

「うーん……ちょっと考えるね……」

 飛瀬は10秒ほど思案した。

「クリストファー村長さん……最近、村の様子はどう……?」

「わんちゃんがワンワン鳴いて、猫ちゃんがニャーニャー鳴いてますぅ」

「発情期かな……ほかには……?」

「紅茶には砂糖を入れますかぁ? お花はミルクだけ入れまぁす」

 全然TRPGになってねぇな、これ。会話が成立してない。

「私もミルク派だけど……ねぇ、GM、また質問していいかな……?」

「ルールと仕様に関してなら、何度でも」

「イベントの発生条件は、こっちがなにかアクションを起こすだけでいいの……? 相手が失言しないとダメとか、そういうのは……?」

 丸亀はちょっと困ったような顔で、

「どうしましょうか……みなさんは慣れていないので、ロールプレイがうまく進まない気もしますね……適切な質問をしたらイベント発生というのは、どうですか?」

 と提案した。だれも反対しなかった。

「じゃあ、そうするね……村長さん、ひとつ質問があるんだけど……」

「なんですかぁ? セクハラは禁止ですぅ」

「村長さんの仕事場に、大きな柱時計があるよね……?」

「ありまぁす」

「あの柱時計って、なんのためにあるの……?」

 桐野が答えるまえに、丸亀が挙手した。

「イベントタイムです。サイコロを振ってください」

 お、宇宙人、やりやがった。

 みんなが注目するなか、飛瀬はサイコロを振った。

「95……すっごくおっきい……」

「イゾルデおばあさんは村長と会話してみましたが、なにも分かりませんでした……これでイゾルデおばあさんの捜査フェーズも終了です。ふたりは楽しくお茶を飲み、そのまま解散しました」

「えへへぇ、助かったのですぅ」

 だぁ、肝心なところでサイコロ失敗か。

 でも、あの柱時計になにかあるってのは分かったぞ。

 こうなると、桐野はかなりピンチなんじゃないか? だって――

「次は私たちの番ね」

「そうだね。よろしく、早乙女さおとめさん……じゃない、トマスくん」

「よろしく、猟師のロッジェさん」

 六連むつむらと早乙女は、さっそく会話を始めた。

「役場に来てみたけど、どうしましょうか? 別行動にする?」

「そのほうが、サイコロを2回振れていいと思う」

「じゃあ、ロッジェさんは柱時計をお願い。私は他の場所をさぐってみるわ」

「了解」

 おいおい、なんだこの手慣れた捜査は。桐野が困惑してるだろ。

「ふえぇ……お花を狙い撃ちしちゃダメですぅ……」

「GM、別行動になったら、もう相談できないっていう設定でOKかな?」

 六連の質問に、丸亀はうなずいた。

「そうですね。電話もメールもないので、別行動に入った時点で相談禁止になります」

「了解。トマスくんと僕、どっちを先に行動させる?」

「そこは最初のサイコロ順になるので、ロッジェ→トマスです」

 六連たちは、行動を始めた。

 まずはロッジェ役の六連からだ。

「村長の執務室の様子は、どうなってる?」

「こうなっています」

 丸亀は執務室の見取り図をみせた。


挿絵(By みてみん)


「赤で×印のついているところに、柱時計があります」

「了解。イベントのサイコロは1回しか振れないんだね?」

「基本ルールではそうなります。今回は特殊ルールなしです」

「一直線に柱時計を調べるよ。ほかのイベントに引っかからないように」

「ロッジェは柱時計を念入りに調べました。サイコロを振ってください」

 カラカラと、サイコロの音が鳴る。

「緑が4、赤が9、クリアだ」

「際どいところを引きましたね……柱時計を調べたところ、ロッジェはあることに気付きました。カードを配ります」

 丸亀は、カードを裏返しのまま配った。

「これで僕のターンは終了。トマスくんにバトンタッチするね」

「では、トマスくんの捜査フェーズです。なにをしますか?」

「役場には、どんなひとがいるの?」

「トマスくんは、役場の待合所にいる人間を観察しました。窓口のおじさんがひとり、椅子に座って待っているおじいさんとおばさんがひとりずつ、入り口の近くでは、子どもたちがグループになって遊んでいます」

 早乙女は髪をなでて、しばらく考えた。

「柱時計の秘密を知っていそうなのは……窓口のおじさんかしら。話しかけられる?」

「どうやって話しかけますか? トマスくんは子どもですよ?」

「そうね……世間話を装うわ」

 丸亀は、コホンと咳払いをした。

「モブキャラは、GMの僕が演じさせてもらいます。トマスくんから、どうぞ」

「こんにちは、窓口のおじさん」

「こんにちは、トマスくん。何か用かい?」

「特に用はないけど、おじさんがヒマそうにしてたから、話しかけたのよ」

「ハハハ、こうみえても忙しいんだけどね。用がないなら帰った帰った」

 おっと、厄介払いされそうだ。早乙女、ふんばれ。

「つれないわね。そういうときは素数をかぞえるのよ……今、何時かしら?」

「さあ……11時くらいじゃないか」

「正確に知りたいわ。時計はどこにあるの?」

「待合室にはないよ」

 早乙女の視線が、ちらりと六連のほうに移った。

「アイコンタクトも禁止ですよ」

 丸亀の注意に、早乙女は謝りつつ、

「ごめんなさい……どうしてこの待合室には、時計がないの? 不便じゃない?」

 と尋ねた。丸亀はピンと指を立てて、

「イベントタイムです。サイコロを振ってください」

 と指示した。早乙女は、軽くサイコロを振った。

「61……カオスの制御に失敗してしまったわ」

「さきほどのおばさんが窓口にやって来て、あなたは厄介払いされてしまいました」

「ターン終了ってわけね」

「では、不破さん、次はリリーさんの……」

「ちょっと待って」

 早乙女は、丸亀の司会に待ったをかけた。

「どうかしましたか?」

「サイコロは失敗したけど、ロッジェと会う時間くらいは残ってるんじゃないの?」

「しかし、情報共有フェーズは、捜査フェーズ終了後ですので……」

「それはおかしいわ。イベントが成功あるいは失敗した時点でターン終了なら、フェリスがハッシュにカードを見せたときだって、時間はなかったはずよ」

 丸亀は、なるほどとつぶやいた。

「合理的な説得です。採用しましょう」

「おいおい、ルールはGMが決めるんじゃないのか?」

 あたしのヤジに、丸亀はふりむいて、

「TRPGでは、GMに対する説得も重要です。裁量の余地があります」

 と答えた。んー、なんか納得いかねぇな。将棋みたいにきっちりしろよ。

「カードを読むのに時間はかからないから、かえでさん、続きをどうぞ」

 早乙女は六連のカードを見ながら、あたしにターンを回した。

「これって、今から役場に行っても間に合わないのか?」

「ダメです。捜査場所の変更は認められません」

「チッ、やっぱダメか……だったら、することねぇな。パス」

 あたしのパス宣言で、1日目午前の捜査フェーズは終了した。

「これからは、情報共有フェーズです。あなたたちは、村の中央にある大きな食堂で顔を合わせました。自由に話し合ってください」

 丸亀は、全員に発言を許可した。

 最初に発言したのは、西野辺にしのべだった。

「とりあえず、入手したカードをお互いに見せっこない?」

「アハッ、それがいいね。練習だし、ほかのイベントカードも気になるよ」

「お花は構わないのですぅ」

「僕も異論ありません。カードを伏せるメリットがないので」

「それじゃ、僕とハッシュさんが手に入れたイベントカードを公開するね」

 師匠はそう言って、カードを表向きにおいた。


【R−1−1 ロッジェの覗き穴】

 覗き穴の奥には、未開封の木箱と、大きな鏡がみえた。


 みんな無言になる。また師匠が口をひらいた。

「箱のなかに、なにか証拠が入ってるんじゃないかと思うんだ」

 なるほど、いかにもって感じだな。

「それじゃ、桐野さんもカードを見せてね」

「はぁい」


【I−4−1 イゾルデばあさんのティーセット】

 イゾルデばあさんのティーセットは、ホコリをかぶっていた。


 また無言になる。

「お花の推理はぁ……よく分かんなかったのですぅ」

 全員ずっこけた。とはいえ、あたしたちの誰も、アイデアを出せなかった。

「次は、六連くんの番だね」

 師匠は、六連にイベントカードの提示を求めた。

 すると六連は、なにやら真剣な表情で、身動きをとめた。

「六連くん?」

「……拒否します」

「え? なにを?」

「カードのオープンを、です」

 あたりがざわつく。

「ちょっと、さっきは見せるって言ったじゃん」

 と西野辺。そうだ、そうだ。

「気が変わりました。猟師のロッジェは、執務室で入手した情報を教えません」

 あたしはドンとテーブルを叩いた。

「おい、てめぇ、ぶん殴られたいのか?」

不破ふわさん、TRPGで暴力は厳禁です。たとえ他のプレイヤーが協力的でなくても、それは本人の自由ですから……猟師のロッジェは、情報を残さずに食堂を去りました。ほかに話し合うことはありますか?」

 みんな憤慨した様子だったが、そのあたりは将棋指し。

 負けたときほど腹が立っているわけでもない。

 すぐに険悪な雰囲気は晴れた。

「おい、早乙女」

「なにかしら?」

「おまえ、さっき六連からカードを見せてもらってたよな?」

 あたしの問いかけに、早乙女は「ええ」とだけ答えた。

「よし、だったら代わりに教えろ。六連の口から聞く必要はない」

 全員の視線が、早乙女に集まった。早乙女は、すぐには答えなかった。

「早乙女、まさかおまえまで教えないって言うんじゃないだろうな?」

「待ってちょうだい。損得を計算してるの。ロッジェの機嫌をとるか、それとも他のメンバーの機嫌をとるか……OK、計算できたわ」

 こいつが【計算】って言葉を使うと、ほんと不気味だからやめて欲しい。

「で、内容は?」

「『柱時計には1437という数字が掘られていた』よ」

 1437? ……暗号か?

 ほかのメンバーも、おなじように感じたらしい。まずは西野辺が、

「14時37分じゃない?」

 と言い出した。これには師匠が、

「時計で1437だと、そう読めるけど……そんなに簡単な暗号かな?」

 と疑問を呈した。あたしはテーブルに身を乗り出して、

「午後のフェーズには14時37分が含まれますし、全員で役場に押しかけませんか?」

 と提案した。

 よくよく考えると、ひとりをぼっこぼこに捜査するほうが、効率がいい。

 桐野には悪いけど、スケープゴートになってもらうぜ。

「ふえぇ……これはイジメなのですぅ……」

「それでは、午後の行動順を決定します。サイコロを振ってください」

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