表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第23局 駒桜市立=清心合同練習会(2015年6月8日月曜)
250/682

238手目 練習試合その5 新巻〔清心〕vs飛瀬〔市立〕

※ここからは、新巻くん視点です。

 いやあ、第1局は、あずさに快勝。

 さすがに負けられないからな。

「第2局は新巻あらまきくんか……よろしく……」

「よろしくお願いしますッ!」

 相手は飛瀬とびせ先輩だ。俺は椅子に座って、駒をならべた。

「飛瀬先輩って、宇宙人なんですか?」

「うん……」

「どこの惑星出身ですか?」

「シャートフ……」

「どんな惑星ですか?」

「牧畜が盛んな、まったりとした星……」

 結構、設定考えてあるんだな。

 駒を並べ終えた俺は、チェスクロが15分30秒になっているかを確認した。

 飛瀬先輩が振り駒をして、俺の先手になる。

「では、第2局を始めます……準備はいいですか……?」

 特に異論なし。

「それでは、始めてください……」

「よろしくお願いします」

 俺たちは一礼して、飛瀬先輩がチェスクロを押した。

 俺は意気揚々と、7筋に腕を伸ばす。

「7六歩」

 角道を開けた。

「8四歩……」

「5六歩ッ!」


挿絵(By みてみん)


 中飛車だぁ!

「ゴキゲン……新巻くんっぽい戦法だね……」

「人生、楽しまなくちゃ損ですよ。飛瀬先輩っぽい戦法も見せてください」

「私っぽい戦法……なにかな……?」

「それは自分で考えてもらわないと」

 飛瀬先輩は、おっとり系……いや、おっとり系じゃないな。不思議ちゃん。

 ただ、先輩って頭がいいらしいから、わざとなのかもしれないなあ。

 宇宙人設定もキャラ作りな気がする。

「先輩、4手目に時間使いますね」

「あ……私っぽさについて考えてた……6二銀……」

 ムダに時間を使わせてしまった。陰謀じゃないぞ。

「5八飛。ゴキゲンで潰してみせます」

「3四歩……」

 4八玉、4二玉、5五歩、5二金右、3八玉、8五歩、7七角。

「4四歩」


挿絵(By みてみん)


 ん? これはどっちだ?

 4三金までは確定として、急戦で来るか持久戦で来るか。

 右銀の出が遅いところをみると……持久戦っぽいな。

「6八銀」

「7四歩」

「2八玉」

 飛瀬先輩はこの手を見て、すこし間をおいた。

「美濃も穴熊もありうる……」

「それは先輩もですよ」

「うーん……7三銀……」


挿絵(By みてみん)


 そう出てくるのか。悩ましくなったな。

 4三金を優先してくるかと思ってた。

 俺は30秒ほど時間を使う。

「6六歩」

 この手を見て、飛瀬先輩はひとこと。

「ふぅん……そこを突くんだ……先手もあやしくなってきたかな……4三金……」

「5七銀」

「1四歩……」

 俺は飛車に指をそえて、1マスずらした。

「6八飛」


挿絵(By みてみん)


 四間飛車に振りなおす。

「3二銀……」

 後手は美濃で確定。こっちはまだ方針を隠す。

 6五歩、3一玉、5八金左。

「美濃にするのか穴熊にするのか、早く決めて……6二飛……」

「6九飛」


挿絵(By みてみん)


「うーん……新巻くんは、女の子をじらすタイプなのかな……?」

「棋風とデートの好みは関係ないですよッ!」

 俺の抗議を受けて、飛瀬先輩はちらりと視線をそらした。

「そう言われてみると、そうかな……」

「え? 飛瀬先輩、どこ見てます?」

 俺は先輩の視線を追いかけて、うしろをふりむいてみた。

 佐伯さえき先輩の将棋を、捨神すてがみ先輩と箕辺みのべ先輩が観戦していた。

 

 パシリ

 

 おっと、指したか。

 俺はあわてて向きなおる。


挿絵(By みてみん)


 やっぱりそうきたか。銀が5七にいて、6五歩が浮いてるからな。

 だけど、これは読み筋。

「同歩ッ!」

 颯爽と取って、同銀、6五歩。

「あれ……歩をくれるの……?」

「プレゼントです」

 飛瀬先輩は、前髪をさわってなおした。

 こうしてみると美人なんだけどなあ。色白だし。

 宇宙人とか言わなきゃいいのに。

「そっか……5六銀があるのか……」

 バレたか。6五同銀は5六銀でしびれる。同銀なら6二飛成。

「危ない危ない……7三銀……」

 こうなったら、さすがに方針を決めないといけないな。

 俺は腹をくくって、右香に指をそえた。

新巻あらまき虎向こなた、クマります。1八香」


挿絵(By みてみん)


「なんでもクマればいいという風潮……」

「そうわけじゃないですよ」

 俺は美濃のほうが多いし。

 飛瀬先輩は長考に入った。

 いろいろありそうな局面なんだよな。

 態度決定を遅らせたのはいいが、こっちも囲いが中途半端になっている。

「こうかな……1三角……」

 ん? 端角?

 変わった手だ。狙いは……なるほど、6筋に利かせたわけか。

 1九玉なら、6四歩、同歩、同銀、6五歩、同銀、5六銀に6八歩と打てる。


挿絵(By みてみん)


 (※図は新巻くんの脳内イメージです。)

 

 これは先手が潰れ。

 飛瀬先輩、なかなかやるな。市立の主将を張っているだけのことはある。

 俺は反撃の手段を模索した。

 おそらく、9五角が利くんじゃないかと思う。

 例えば、1九玉、6四歩、同歩、同銀、6五歩、同銀、9五角、6四飛、7七桂。


挿絵(By みてみん)


 (※図は新巻くんの脳内イメージです。)

 

 これなら、5七の銀を使わなくていい。いける。

「1九玉」

「クマったね……6四歩……」

 同歩、同銀、6五歩、同銀。

「9五角ですよッ!」

 飛瀬先輩は、黙って6三飛と浮いた。

 俺は力強く7七桂と跳ねた。

「5四銀……」


挿絵(By みてみん)


 スゴい手だな……まあ、これしか受けがないのは分かる。

 6三飛と浮いたのも、この手で紐をつけるためだ。

「さすがにムリし過ぎだと思いますけどね」

「恋も将棋も大胆に……」

「あ、それには賛成します。6三飛成」

 同銀、6一飛、7九飛(こっちはこれが痛い)、3八金、5二銀。

「8一飛成」

「9九飛成……」

 俺は拾った桂馬を空打ちした。先手自身あり。

「6四桂」


挿絵(By みてみん)


 新巻虎向、会心の一着。平凡だけど激痛。

「5二桂成〜4一成桂でいきなり死ぬ……困ったかも……」

「俺のほうは、まだ寄りませんよ」

「地球人は卑怯……4二金引……」

 6二角成、4三銀右。

「追撃ッ! 6五桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 これも激痛のはず。

 5三桂成、同金、同馬を嫌って3三金は、5二桂成、同銀、同馬で俺の勝ち。

「うーん……参った……解決手段がない……」


 ピッ

 

「はわわ……30秒将棋……」

 時間的にも俺が有利だ。まだ1分ある。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 玉の早逃げ。

 俺はノータイムで5三桂成と突っ込む。イケイケの進行。

 同金、同馬、5一歩、8二龍、5二香。

 ここで俺は、最後の持ち時間を使った。

 

 ピッ

 

 俺も30秒将棋に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5四歩」


挿絵(By みてみん)


 駒得よりも寄せの速さをみる。

 5三香なら同歩成から4三とで勝ち。先手は寄らない。

「うまいね……私もなにか手を……」

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 パシリ

 

 飛瀬先輩は、6二歩と置いた。

 6二歩? ……ああ、同龍のあと、5二桂成、同金が両取りになるのか。

「さすがに引っかかりませんよッ! 4八銀引ッ!」


挿絵(By みてみん)


からい……」

 俺は両手を後頭部で組んで、椅子をうしろにかたむけた。

「兎丸相手には、これくらいカラくしないと勝てないですからね」

「新巻くんと古谷くんは、ほんとに仲がいいね……9八龍……」

 6八歩、5六桂。

 これ以上お付き合いしてると、速度で逆転しそうだな。

「取りますね。6二龍」

「6八桂成……」

 同金、同龍。

 多分、次の手で大丈夫なはずなんだが――

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4三馬ッ!」


挿絵(By みてみん)


 同銀に5三歩成と成り込む。待望のと金攻めだ。

「その変な金銀の配置、意外と堅い……」

 たしかに。って言うか、意外と遠いんだよな。遠さと堅さはちがう。

 堅いかどうかなら、崩す手はありそうだ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 パシリ

 

 飛瀬先輩は4九角と打った。

 俺は4三とと迫る。

 3八角成、同銀、4八龍。詰めろ。

 4九金と補強するかどうか。念のため、金に指を触れておく。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 俺は高速で金と銀を入れ替えて、3三に放った。

 

挿絵(By みてみん)


 寄ったはず。

「なんか、ぽい手……」

 飛瀬先輩は、ふぅとタメ息をついて、サイドの髪をかきあげた。

「同桂は同と、同玉、4五桂、同歩、6六角の王手龍で終了……」

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「1二玉……」

 俺は最後の確認をして、5二龍と切った。

 同歩に2四桂と打つ。


挿絵(By みてみん)


「同歩は2三銀、同玉、3二角以下……同角は2二金以下……負けました……」

「ありがとうございました」

 一礼して終了。

 いやあ、快勝。一手差だけど、形勢はそれ以上ある。

 俺は持ってきた炭酸水を飲んで、感想戦を待った。

「6一飛以下は、あんまり勝ち目がなかった感じかな……」

「そうですね。あのあたりは、一直線だったと思います」

「ただ、1三角以外に指す手が見当たらないかも……」

 俺たちは、そこまで局面をもどした。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「積極策はダメな気がします。3三角から銀冠に組み替えませんか?」

「3三角、1九玉、2二玉、2八銀、2四歩、3九金、2三銀、4八金寄、3二金みたいな感じかな……あんまり自信がないかも……」

「そうですか? 次に2五歩と突かれたら、俺も相当自信ないですよ」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 飛瀬先輩は、ちらりと俺のうしろに視線を向けた。

 さっきからなに見てるんだ?

「んー……言われてみると、2四角まで出られたら理想的かな……」

「だから、俺のほうもどこかで動くと思います。5六銀を入れるとか」

 俺が入れるタイミングを計っていると、ふいに声をかけられた。

「アハッ、ここはもう終わってるんだね」

 ふりかえると、捨神先輩が立っていた。

「どうだった? 飛瀬さん、勝った?」

「負けちゃった……」

「そっか……残念」

 え、俺、ディスられてる? なんで? なんで俺が勝ったらダメなの?

「そう言えば、新巻くん、私らしい将棋って、結局なんだったの……?」

「それは、飛瀬先輩が決めることですってば」

「私が決めること……私らしい将棋……」

 飛瀬先輩は、ずいぶんと悩んだ。

「プリティな奥様……かな……」

「え? 奥様?」

「あるいは、セクシーな奥様……」

「いや、あの、それってどういう将棋なんですか?」

「新巻くんは、どっちのほうがいいと思う……?」

 意味が分からん。けど、先輩の質問とあってはことわれない。

 とりあえず、飛瀬先輩を観察する。

 プリティかセクシーか……あんまりセクシーって体型じゃないんだよなあ……ん?

 肩を叩かれた。見上げると、捨神先輩が笑っていた。

「新巻くん、今、飛瀬さんを性的なまなざしで見たね?」

「はい?」

「次は僕と指そうか」

「いや、これ、市立との練習試合で……」

「大駒は全部取るけど、全駒はしないから、安心してね」

 えぇ……。

場所:駒桜市立=清心合同練習会

先手:新巻 虎向

後手:飛瀬 カンナ

戦型:先手振り飛車穴熊


▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △6二銀 ▲5八飛 △3四歩

▲4八玉 △4二玉 ▲5五歩 △5二金右 ▲3八玉 △8五歩

▲7七角 △4四歩 ▲6八銀 △7四歩 ▲2八玉 △7三銀

▲6六歩 △4三金 ▲5七銀 △1四歩 ▲6八飛 △3二銀

▲6五歩 △3一玉 ▲5八金左 △6二飛 ▲6九飛 △6四歩

▲同 歩 △同 銀 ▲6五歩 △7三銀 ▲1八香 △1三角

▲1九玉 △6四歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲6五歩 △同 銀

▲9五角 △6三飛 ▲7七桂 △5四銀 ▲6三飛成 △同 銀

▲6一飛 △7九飛 ▲3八金 △5二銀 ▲8一飛成 △9九飛成

▲6四桂 △4二金引 ▲6二角成 △4三銀右 ▲6五桂 △2二玉

▲5三桂成 △同 金 ▲同 馬 △5一歩 ▲8二龍 △5二香

▲5四歩 △6二歩 ▲4八銀引 △9八龍 ▲6八歩 △5六桂

▲6二龍 △6八桂成 ▲同 金 △同 龍 ▲4三馬 △同 銀

▲5三歩成 △4九角 ▲4三と △3八角成 ▲同 銀 △4八龍

▲3三銀 △1二玉 ▲5二龍 △同 歩 ▲2四桂


まで89手で新巻の勝ち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ