角ちゃん、突っ込みの嵐に遭う
こんちゃっス! 大場角代っス。
日曜日の角ちゃんの大活躍、観てくれたっスか?
駒桜北高校将棋部の主将になった角ちゃんは、今日もミーティングに励むっス。
「男女とも個人戦で2日目に進出したっス! 幸先いいっスよッ!」
「くじに恵まれていたという印象です」
「この勢いで、個人戦も団体戦も総なめにするっス!」
「団体戦はムリですよ。人数が足りてません」
「穴はみんなで補っていけば、きっと優勝できるっス!」
「よくある精神論ですね」
「角ちゃんも頑張って全勝するっスから、みんなも頑張って欲しいっス!」
「大場先輩の勝ち星は、チームに加算されないでしょう」
さっきからうっさいっス! しばくっスよッ!
「五見くんは、なんで角ちゃんにいちいち突っ込むんっスかッ!?」
「僕は事実を指摘しているだけですよ」
その眼鏡くい〜ってやるのも止めるっス!
「事実でも言ってイイことと悪いことがあるっス!」
「建前で勝てるわけないでしょう。うちの将棋部は他の学校と比べて、平均レーティングが100近く低いんです。要するに、香落ちの差です。しかも、連盟の規約によると、異性選手の勝ち星はチームに加算されないじゃないですか。大場先輩が5勝してもダメなんですよ。以上のことから総合的に判断して……」
「シャラーップ!」
お口にチャックしてやるっス。うりうり。
「もごぉ……」
「大場さん、暴力はダメだよ」
「津山先輩も注意して欲しいっス。前主将の貫禄をみせるっス」
顔にちょっとそばかすのある、おとなしそうなのが津山先輩っス。
「僕はもうただの3年生だよ。とりあえず、喧嘩はやめよう」
「これは喧嘩じゃないっス。制裁っス」
「制裁もダメ」
くぅ、津山先輩は五見くんの味方っスか。四面楚歌っス。
「ごほ、ごほ……大場先輩、まずは現状を冷静にみつめてですね……」
「はい、五見くんもそこまで。この話題は終了」
津山先輩は、ムリヤリ話を終わらせちゃったっス。
「大場さんも五見くんも、2日目進出おめでとう。この調子で頑張ってね」
「ありがとうございますっス」
「ありがとうございます……と言っても、優勝できる気はしませんね」
「どうしてそこで一歩引くんっスかッ!?」
「ベスト8に残ってるのは、僕、曲田くん、古谷くん、駒込くん、捨神先輩、佐伯先輩、辻先輩に松平先輩でしょう。ちょっと厳しいですね。特に捨神先輩は優勝候補ですし」
そこを勝つのが将棋なんっスよ。
五見くんは、そこらへん分かってるんっスか。
「まあ、できるところまでは頑張ります」
「角ちゃんは絶対優勝するっス」
「世の中に絶対はありませんよ」
「だからいちいち突っ込まないで欲しいっス!」
ピロロロ♪
ん、角ちゃんの携帯が鳴ったっス。
だれからっスか?
件名:暇?
送信者:来島 遊子
ゲシュマックでお茶会中。カンナちゃんとエリーちゃんもいるよ。
やったっス。遊子ちゃんからのお誘いっスね。
五見くんと話してても面白くないし、さっさと退散するっス。
「ちょっと用事ができたっス。お先に失礼するっス」
「どうせ遊びの誘いでしょう」
「五見くん、退部したくなったらいつでも言っていいっスからね」
鞄を持って、バイバイっス。
○
。
.
ゲシュマックまでは、自転車で10分くらいっス。
どの高校からもだいたい等距離にあって、溜まり場になってるっス。
シックな感じの喫茶店で、メインの客層は女子高生とか女子大生っスよ。
「いらっしゃませ」
えーと、遊子ちゃんたちは……あ、いたっス
隅っこの観葉植物のうしろに陣取ってるっスね。
これは、秘密会議の合図っス。
「Frauオオバですわ」
エリーちゃんがこっちに気づいたっス。
エリーちゃんっていうのは、藤女のポーンちゃんのことっスよ。
名前がエリザベートっスからね。
「みんなお揃いっスね。もう始まってるんっスか?」
「んー、別に打ち合わせて集まったんじゃないんだけどね。たまたま」
と遊子ちゃん。
「わたくし、ひとりで来たのですが、FrauクルシマとFrauトビセの姿をお見かけして、同席させていただいてますの」
そういうことだったんっスか。
とりま席について、注文するっス。
「ケーキセットをお願いするっス」
「かしこまりました」
店員さんは、すぐにコーヒーとチーズケーキを持ってきてくれたっス。
おいしそうっスね。甘い物は常に別腹っスよ。
さーて、ここから秘密の会議が始まるっス。
「というわけで、第11回、『どうすればカンナちゃんが捨神くんにモテるか会議』を開催するっス」
カンナちゃんは、捨神くんにベタ惚れなんっスよねぇ。
恋ができるなんて、うらやましいっス。
でも、あんまりうまくいってないっス。
「カンナちゃん、なんか進展はあったっスか?」
「この前の大会で、捨神くんとおしゃべりした……」
そ、それだけっスか。めちゃくちゃもどかしいっス。
カンナちゃんがこの町に現れたのは、去年の4月なんっスよね。どこからか引っ越してきたらしいっスけど、具体的にどこなのかは知らないっス。本人はシャートフだかショートフだか、よく分かんないことを言ってるっス。
自称宇宙人っスけど、角ちゃんは信じてないっス。当たり前っスね。
「で、どういう内容だったの?」
遊子ちゃんは、根掘り葉掘り訊いていくスタイルっスか。
「最近、ちょっと寒いよね、とか……名人戦の話とか……」
あんまり冴えないっスね。
「カンナちゃんは、おとなし過ぎるっス。もっと積極的にいくっス」
「うん……自分でもそう思って、少し作戦を練ってきた……」
カンナちゃんは手帳を取り出すと、テーブルのうえに広げたっス。
あ、コーヒーが冷めちゃうっスね。ケーキもそろそろ食べるっス。
チーズケーキを食べつつ、角ちゃんは手帳を覗き込んだっス。
【捨神くんGet作戦 その1】
パンをくわえて登校する
↓
捨神くんのマンションの近くでぶつかる
↓
恋が芽生える
……は?
「最近読んだ地球の漫画で思いつきました……」
「あのっスね……そんなこと起こるわけないっス」
「全力疾走してひとにぶつかったら、ケガすると思うよ?」
「これはあくまでもFiktionのお話ですわ」
パンをくわえて登校する女子高生なんて、見たことないっス。
「んー……そう言えば、初対面じゃないといけないのか……」
いや、そういう問題じゃないっス。根本的におかしいっス。
「その1があるなら、その2もあるの?」
「あるよ……」
【捨神くんGet作戦 その2】
捨神くんのマンションを訪れる
↓
ベッドのしたでエッチな本をみつける
↓
なしくずし的にイチャイチャ
↓
恋が芽生える
……………………
……………………
…………………
………………
「これも地球の漫画で勉強しました……」
「どのような漫画かは、訊かないことに致しますわ」
さすがにこれはみんな呆れるっス。
「その2はその1よりも勇気が必要……」
「そういう問題じゃないと思うよ?」
遊子ちゃんの言う通りっス。そういう問題じゃないっス。
「んー……どっちもいい案だと思ったんだけど……」
こんなのいい案でもなんでもないっス。
マジメに考えるっス。
「まず、地球人の恋愛方法を分析する必要があるかな……」
「ひとつ提案があるんだけど」
ここで遊子ちゃんが動いたっス。
「なんかいいアイデアある……?」
「もう告白するだけして、ダメならダメで諦めた方がいいと思うよ?」
遊子ちゃん、さすがにそれはひどいっス。
女の子の恋は、恋してるプロセスも重要なんっスよ。
「それは拒否されたときに死んでしまいます……」
「でもさ、1年以上ぐだぐだしてるし、ずっと高校生できるわけじゃないよ?」
カンナちゃん、押し黙っちゃったっスね。
なんか気まずいっス。
「カンナちゃんがムリなら、私たちももう少しサポートしようか」
「どのようにですかしら?」
「再来週の日曜日、みんなでアタリーに行こうよ」
「え? グループデートっスか?」
「別にデートってほどじゃなくて、ここにいる女子4人と男子4人で」
それをグループデートって言うと思うんっスけどね……。
アタリーっていうのは、H県にある有名なテーマパークのことっス。
デートスポットとしても定評があるっスよ。
「Ehrlich!? あ、あ、相手はだれでもよろしいのですかしら?」
「いいよ。佐伯くんでも誘えば?」
「Ich zögere damit……は、恥ずかしいですわ……」
エリーちゃん、顔が真っ赤っス。
「私が男女ペアチケット4枚持ってるから、もったいないって言えばいいよ。それとも、箕辺くん経由で頼もうか?」
「あ、それがいいっス。たっちゃんなら、九十九ちゃんとヨシュアちゃんの両方に顔が利くっスからね。全然怪しまれないと思うっス」
ただ、遊子ちゃんがペアチケットを4枚も持ってるのは、よく分からないっス。
あれって月ごとの枚数が決まってるはずなんっスけど……ま、気にしないっス。
「だったら決まりだね。男子は箕辺くん、捨神くん、佐伯くんと……」
そこで遊子ちゃんは、指折り数えるのをやめたっス。
「もうひとり、どうしようか?」
「ふたばちゃんじゃダメなんっスか?」
「葛城くんは、男じゃ通らないと思うよ?」
そうだったっス。男の娘だったっス。
「ペアチケットというからには、男女ペアで入らなければなりませんの?」
「確か、そうだよ。カンナちゃんと捨神くん、エリーちゃんと佐伯くんがペアとして……私は箕辺くんと組むから、大場さんはだれか連れてこないとダメだね」
「了解っス。だったら、だれか誘ってくるっス」
デートじゃなくても、アタリーは行きたいっス。タダならなおさらっス。
……………………
……………………
…………………
………………
あれ? だれを誘えばいいんっスか?




