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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第23局 駒桜市立=清心合同練習会(2015年6月8日月曜)
247/682

235手目 練習試合その2 古谷〔清心〕vs馬下〔市立〕(2)

挿絵(By みてみん)


 飛車抜き……ですが、あくまでも飛車角交換。

 厳密に言えば飛車と角歩の交換ですが、純粋王手飛車ではありません。

「同香」

 古谷ふるやくんはテーブルに頬ひじを突いて、4五飛と走りました。

「おせっかいかもしれませんが、お行儀が悪いですよ」

「アハハ、ごめんごめん」

 ……違和感をおぼえます。昔の古谷くんと、どこか違うような?

 明るくなったと言いますか、あっけらかんとしたと言いますか。

 まあ、微妙な違いですし、思春期特有のなにかなのかもしれません。

「9八歩」

 ここに歩を垂らしておきます。

 同玉なら7八銀、同金、同歩成で、と金ができるという寸法。

 古谷くんレベルが引っかかるわけもないので、7七金とされてしまいました。

「継続手、8六歩」

「それには、こうかな」


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 からい……というか、激痛。

 次に4三飛成とされたら、同金と取れないのでゲームセット。


 ピッ

 

 しかも、ここで30秒将棋に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4二銀右」

 受けざるをえません。

 とはいえ、先手もすぐに8六飛成とは、できないように思います。

 それは5三角と打って、龍を狙いにしつつ玉頭に殺到できますので。

 

 ピッ

 

 古谷くんも30秒将棋に。

「素直にいこうか。2五桂」


挿絵(By みてみん)


 これも厳しい。受けてばかりもいられませんし、反撃しましょう。

「6七歩」

 まずは拠点づくりから。

 古谷くんも、この手の対処には悩んだようで、時間を使いました。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同金」

「9九歩成です」

 同玉は6四角から飛車をどかして、一気にあやしくなりますよ。

「とりあえず3三桂成」

 古谷くんは、たくみに桂馬と銀の位置を交換しました。

「同桂です」

「6五飛」


挿絵(By みてみん)


 次に6一飛成は、王様の背後がスカスカ。

 しかし、飛車2枚が接近しました。両取りをかけやすくなったはずです。

「6四歩」

 同飛なら7三角です。 

 古谷くんはこの手をみて、口もとに手をあて、視線をうえにあげました。

「8五飛から粘ってもいいんだけど……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7五飛」


挿絵(By みてみん)


 両取りをかけられに来た? 理由は?

 よく分かりませんが、堂々と両取りをかけましょう。

 と、そのまえに。

「8九と」

 桂馬を入手。同金に対して、待望の9三角です。

「それは両取りになってないよッ! 8一飛成ッ!」


挿絵(By みてみん)


 ……ッ! うっかりしました。8一飛成は詰めろ。7五角とできない。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7一歩ですッ!」

 角を攻撃から防御に切り替えます。

「8四歩……これで、僕の飛車は取れない」

 たしかに……かと言って、このままでは7一飛成、同角、同龍がまた詰めろ。

 それとも、この順は飛車を渡して危ないので、先手も見送りますか?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「さ、3一銀」

 マイナスにならない手を。

「そういう冷静な手を指されると、僕も困るんだよね……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「1六歩。これもマイナスにならないよ」


挿絵(By みてみん)


 ヌルいようで好手。

 端に殺到されると、どうしようもありません。

 いいかげんに8七銀と打ちますか? しかし、7七玉~8六玉の脱出路が……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6五歩」

 迷ったあげく、ちょっと中途半端になった気が。

 しかし、古谷くんも面食らったようです。

「そこ? 同飛に7四桂?」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 古谷くんは、いったん6五歩と取りかけて、素早く1五歩と伸ばしました。

 間違ってくれましたか? これは6六歩があります。

「6六歩」

 同金、6五歩、同飛。

「7三桂ですッ!」


挿絵(By みてみん)


 飛車当たり。逃げたら5七角で絡んでいきます。

 会心の着手。

馬下こまさげさん、この手を見落としてないかな? 4六角」


挿絵(By みてみん)


 ……しまったッ! 詰めろ桂取りッ!

 6五桂は1三角成、同玉、1四歩、2四玉、1五銀、2五玉、2六香で詰み。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7七銀ッ!」

「さすが。同玉、6五桂で2枚換えだけど……もっと欲張らしてもらうね。7九玉」


挿絵(By みてみん)


 うッ……翻弄されてます。

 さすがに危ないのでは? ……いや、まずは自玉を安全にしないと。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「2五桂ッ!」

 ハッチを開けます。

 同飛、6六銀成。

「30秒だと読み切れないな……行きがかりで、こう」

 古谷くんは、29秒ぎりぎりで1四歩と突きました。

 7七成銀と入れば詰めろですが、1三歩成、3三玉、2三とがあやしいです。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 読み切れないッ! 同香ッ!

「こっちも同香」

 受けがなくなりました。突っ込みます。

「7七成銀ッ!」


挿絵(By みてみん)

 

 詰めろ(6七桂、6九玉、5九金まで)。

 古谷くんはこの手を見て、いつになく真剣な表情。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6八歩」

 受けました。チャンスです。

「6六桂」

 再度詰めろ。6九銀と受けたら8七歩成で、ほぼ必至。

 古谷くんは、さきほどと同じ真剣な表情で、1四の香車を持ち上げました。

「29秒じゃ読み切れなかったけど……6八歩でもう29秒稼げたよ。1三香成」

 私はノータイムで3三玉。

 以下、2三成香、同金、4五桂。

「4四玉」


挿絵(By みてみん)


 これで詰みません……が、5五銀、同歩、同角、5四玉、6六角で、桂馬を抜く筋はありえます。8七歩成、6九玉、4七銀と詰めろをかけて、どうか。

「あ、うーん……そっちなんだ……」

 古谷くんは、こめかみに指をあてて、盤面を凝視。

「むずかしいほうに逃げたね……3五銀」

 そちらからですか? てっきり5五銀一択かと……3五銀は同歩、同角、4五玉に5三角成、5六玉で捕まらないはず。そこで2三飛成は、7八金から詰みます。

 他になにかあるのですか?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同歩ッ!」

「同角」

「4五玉です」

 古谷くんは予想どおり、角に指を添えました。

「1三角成」


挿絵(By みてみん)


 ……? 詰みませんよね?

 まちがえて5六玉と逃げるのは4六馬で詰みますが、4四玉、3五馬、3三玉、2三飛成、同玉、2四香は足りていません。

「4四玉です」

「4五香」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「う、馬筋が絶妙……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5三玉ッ!」

 4三香成、同玉、2三飛成、3三歩、5三金、同玉。

「3三龍」


挿絵(By みてみん)


 詰みました……ここまでです。

「負けました」

「ありがとうございました」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 恥ずかしいです。

「最後、うっかりしました。詰まないかと思ったので」

「んー、最後詰んだのは、たまたまかな。運が良かったよ」

のがれる筋はなかったですか? 4四玉のところで4二玉もあったような?」

 古谷くんはあごに手をそえて、本譜を思い出すような格好。

「まず、4四玉のバージョンを確認しようか。4三香成に6三玉は、6四金、同玉、3一馬と入って、7四玉、7五馬、6三玉、5三成香まで。他はもっと簡単に詰むから、4四玉は明らかに助からないね。問題は、4二玉だけど……」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 こちらのほうが危険だと思ったのですが、勘違いだったのでしょうか。

 古谷くんの読み筋を訊いてみましょう。

「私は、6四角の王手が気になりました」

「だよね。第一感でそれを考えるよ。馬下さんは、どこに王様を逃げる予定?」

「逃げずに5三香はダメですか?」

「5三香は、同桂成、同金、同角成、同玉、2三飛成、4三歩、6三金かな」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 なるほど、たしかに詰みます。

 5三角成に4一玉は、5二銀、3二玉、4三馬、2二玉、2三飛成以下ですね。

「では、すなおに王様を逃げます。6四角に4一玉です」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 古谷くんはこの局面になって、また真剣な顔立ちになりました。

「これが一番悩んだんだよね……玉は下段に落とせ、に反してるけど……」

 古谷くんはそう言って、5二銀。

「駒がさすがに足りないのでは? 同玉で?」

「5三桂成」

「同金、同角成、同玉、2三飛成……これは明確に詰み……桂成を取らずに4一玉は?」

「4二歩と打つよ」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「同銀、同成桂、同金、同角成、同玉、4三金、同玉、2三飛成以下、詰みだね」

「4二歩に3二玉は、4三成桂、2二玉、3三金、1一玉、1二歩、同玉、2三金、1一玉、1二金打までですか……5三桂成に対して5二玉と逃げるのは、7三角成が王手で、4一玉、6三馬、3二玉、4三成桂となり、4一玉の場合と変わりません」

「6一玉も同じだね。6三香と打って、5一玉、6二香成、4一玉、5二成香」

 私は嘆息しました。

「そこまで読み切られているのでは、勝ち目がありません。完敗です」

「ハハハ、じつは、今になって読んだ部分もあるんだけどね。さっきも言ったけど、30秒将棋で本譜の詰みをあらかじめ用意するのはムリだし、運が良かっただけだよ」

 運も実力のうち……いえ、やはり古谷くんの棋力だと思います。

 私がそんなことを考えていると、古谷くんは思い出したように、

「そうそう、対局前に言ったことだけど……」

 と、すこし声を落としました。私は身構えます。

「来年度、僕が会長に推されたら、副会長は馬下さんがやってくれないかな?」

「……私が、ですか?」

「馬下さんが会長でもいいくらいだし、どう?」

 私は一考して、

新巻あらまきくんがやりたいと言いませんか?」

 とたずねました。古谷くんは、苦笑いしました。

虎向こなたは『だったら俺が副会長だッ!』って息巻いてるけど、いろいろね」

 いろいろなんなのか、古谷くんは説明してくれませんでした。

 と同時に、飛瀬とびせ先輩から、次の対局へ移るように指示がありました。

「それじゃ、考えといてくれるとうれしいよ。またあとで」

「……はい」

 私が席を立つと、あずささんが声をかけてきました。

「どうだった?」

「負けました」

 あちゃーという感じで、梓さんは両腕を後頭部で組みました。

「ま、1年生だと兎丸うさまるくんが一番強いし、しょうがないか」

「はい……それに、古谷くんとの対局は、どうも苦手です」

「苦手? どういうこと?」

「なんと言いますか……いえ、なんでもないです」

 古谷くんと指すと、胸がどきどきして恥ずかしいです。

 この恥ずかしさは、いったいなんなのでしょうか?

場所:駒桜市立=清心合同練習会

先手:古谷 兎丸

後手:馬下 よもぎ

戦型:矢倉


▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀

▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金右 △3二金

▲7八金 △4一玉 ▲6九玉 △7四歩 ▲6七金右 △5二金

▲7七銀 △3三銀 ▲7九角 △3一角 ▲3六歩 △4四歩

▲3七銀 △6四角 ▲6八角 △4三金右 ▲7九玉 △3一玉

▲8八玉 △2二玉 ▲4六銀 △4五歩 ▲3七銀 △5三銀

▲4八飛 △9四歩 ▲4六歩 △同 歩 ▲9六歩 △9三桂

▲6五歩 △7三角 ▲6六銀 △6四歩 ▲同 歩 △6二飛

▲6五銀 △6四銀 ▲7四銀 △8二角 ▲6五歩 △5三銀

▲8三銀成 △9五歩 ▲8二成銀 △同 飛 ▲4六角 △9二飛

▲9五歩 △8五桂 ▲8六歩 △7七歩 ▲7九金 △9七歩

▲8五歩 △9五飛 ▲9六歩 △8五飛 ▲8六歩 △6五飛

▲6六歩 △4五飛 ▲9七香 △8五歩 ▲1三角成 △同 香

▲4五飛 △9八歩 ▲7七金 △8六歩 ▲8二飛 △4二銀右

▲2五桂 △6七歩 ▲同 金 △9九歩成 ▲3三桂成 △同 桂

▲6五飛 △6四歩 ▲7五飛 △8九と ▲同 金 △9三角

▲8一飛成 △7一歩 ▲8四歩 △3一銀 ▲1六歩 △6五歩

▲1五歩 △6六歩 ▲同 金 △6五歩 ▲同 飛 △7三桂

▲4六角 △7七銀 ▲7九玉 △2五桂 ▲同 飛 △6六銀成

▲1四歩 △同 香 ▲同 香 △7七成銀 ▲6八歩 △6六桂

▲1三香成 △3三玉 ▲2三成香 △同 金 ▲4五桂 △4四玉

▲3五銀 △同 歩 ▲同 角 △4五玉 ▲1三角成 △4四玉

▲4五香 △5三玉 ▲4三香成 △同 玉 ▲2三飛成 △3三歩

▲5三金 △同 玉 ▲3三龍


まで141手で古谷の勝ち

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