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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第23局 駒桜市立=清心合同練習会(2015年6月8日月曜)
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232手目 TRPG同好会からの挑戦状

※ここからは、飛瀬さん視点です。

 あちこちで、ごたごたがあったみたいだけど……市立いちりつは、今日も平常運転。

 私たちは狭い部室で、顔を突き合わせていた。月曜日の定例会だ。

「というわけで、赤井あかいもみじさんの退部が決まりました……おめでとうございます……」

「ちょっと待ってくださいッ! なんで退部届けが偽造されてるんですかッ!」

「自分の胸に訊いてみてください……」

 赤井さんは悶えて、私にすがりついてきた。

「もうしませんから、お赦しを」

「ほんとにしない……?」

 赤井さんは、スッと立ち上がった。

「この目を見てください。ウソをついているように見えますか?」

 地球人の眼光は、よく分からないんだよね。

「じゃあ、信用する……」

「ありがとうございます」

 赤井さんは、ホッとしたかと思うと、両頬に手をそえた。

「それにしても、捨神すてがみ先輩レベルの美少年は、やはりイイ匂いがするんですね」

「職員室に出してくるね……」

「さっき赦すって言ったじゃないですかッ!」

 反省が見られない。0点。

 他校の男子生徒に変装して抱きつくとか、セクハラにもほどがある。絶許。

 部室のすみでわちゃわちゃやっていると、裏見うらみ先輩に声をかけられた。

「ねぇ、そろそろ始めてくれない?」

「あ、すみません……」

 裏見先輩は受験生だから、時間がもったいないと感じたらしい。

 もっとまともな人選システムを作ればいいのに。地球人は不合理。

 そんなことを思いつつ、私はホワイトボードの前に立った。

「えー……長らくお待たせしました……これより、部室争奪戦を始めます……」

 生徒会からもらった文書のコピーを、全員に配る。

 みんな、めつすがめつ、プリントに目を通した。

 最初に口をひらいたのは、裏見先輩だった。

「結局、TRPG同好会と一騎打ちになったの?」

「はい……ほかに条件を満たしている部は、なかったみたいです……」

 裏見先輩は、プリントをひらひらさせながら、

「女子将棋部は、11人もいないわよね? 応募条件を満たしてなくない?」

 と訝った。それは、その通り。女子の名前だけ挙げると、裏見先輩、私、遊子ゆうこちゃん、ひかるちゃん、馬下こまさげさん、福留ふくどめさん、赤井さん、草薙くさなぎさんで、8人しかいない。

「男子もカウントしていいって言われました……」

「だれに?」

「生徒会に……」

 裏見先輩は、眉間にしわを寄せて、腕組みをした。

「生徒会長って、TRPG同好会の会長なんでしょ? なんで利敵行為してるの?」

「そこは、よく分かりません……すごくいいひとなのかも……」

 ただ、会ってみた感じ、そうでもない印象を受けた。月曜日に会ったのだ。いきなり生徒会室に呼び出されて、さっきのプリントを手渡された。今日はそれを踏まえたうえで、今後の方針を立てる会議。女子全員に集まってもらったから、部室がパンパンだ。

 裏見先輩は、首をかしげつつ、

「まあ、便宜を図ってくれるなら、それに越したことはないわよね」

 と、一応納得してくれた。私は、まだ納得してないんだけどね。地球人は素直。

「ほかに質問はありますか……?」

 馬下さんが手を挙げた。

「どうぞ……」

「男女の合計で認められた以上は、男子も会議に呼ばないといけないのでは?」

「あ、それはね……男子も参加させると、男女合併が既定路線になっちゃうから……そこのところは、全然決まってないし……裏見先輩はダメだって……」

 全員の視線が、裏見先輩に集まった。

 先輩は、ちょっと気が引けたのか、一瞬言葉に詰まった。

「絶対にダメってわけじゃないけど……私が卒業するまでは、やめて欲しいかな」

 3年生に言われては、どうしようもない。功労者だし。

「というわけで、生徒会の扱いがどうであろうと、女子だけでやります……」

 馬下さん以外からも、意思を確認――大丈夫そう。

「ほかに質問はありますか……」

「はい、はい」

 福留ふくどめさんが挙手。いつも元気がいいね。

「どうぞ……」

「部室の取り合いは、どうやって決めるんですか? ジャンケンですか?」

「それを今から相談する……」

「え? 私たちが勝手に決めていいんですか? 将棋でも?」

「じつはね……TRPG同好会のほうから、提案があったんだよ……」

「提案? 敵から提案があったんですか?」

「うん……TRPGで決着をつけよう、って……」

 全員、「え?」という顔をした。

 まっさきに文句をつけたのは、カメラの手入れをしていた光ちゃんだった。

「そんなのダメに決まってるじゃん。一方的に有利な提案とか、頭おかしいでしょ」

「私と遊子ちゃんは、それでもいいかな、と思ってる……」

「えぇ……カンナちゃん、もしかして買収された?」

「まさか……この瞳を見て……」

 捨神くんに「太陽の黒真珠くろしんじゅ」「恋の暗黒星雲あんこくせいうん」と言われた、この瞳を。

 光ちゃんは、カメラを両手でつかんだまま、私の顔をのぞきこんだ。

「うーん……いつも通り、魚の死んだ目」

「は……?」

「なんでもない、なんでもない。ところで、理由は? ちゃんと釈明できる?」

 そこのところは、遊子ちゃんにバトンタッチ。

 携帯ゲームで遊んでいた遊子ちゃんは、画面から顔をあげた。

「生徒会は、『TRPGがイヤなら、クジで決める』って言われたの」

 福留さんは、わけが分からないと言った表情。

「クジの、なにが問題なんですか?」

「クジってことは、運任せだよね?」

「もちろん……来島くるしま部長、運任せが嫌いとか?」

「嫌いってわけじゃないけど……微妙かな」

 大嫌いって顔してる。ゲーマーとして、運ゲーは避けたい模様。

 だけど、福留さんは食いさがった。

「でも、クジなら50%ですよ?」

「逆に言うと、努力しても50%ってことだよね?」

「ま、まあ、そうですけど……TRPG同好会とゲームで勝負するのは危険……」

「あぁん?」

「ひぃ……な、なんでもないです」

 遊子ちゃんがガンを飛ばして、終了。議論の余地なし。

 司会のバトンは、ふたたび私に回った。

「というわけで、TRPG同好会に殴り込みます……異議のあるひとは……?」

 念のため、裏見先輩に確認をとる。ここだけは了承が必要。

 裏見先輩は、しばらく目を閉じた。

「……私は半年後に卒業だし、みんなで決めなさい」

「分かりました……では、TRPG同好会を打倒します……」

「でも、なにか策はあるの? 無策はダメよ?」

 裏見先輩は、なんだかんだで勝率を気にしているみたいだった。

 将棋指しらしい性格だと思う。

「一応は……」

「一応? 一応じゃダメでしょ」

「まあ……かなり勝率の高い『一応』なので……」

「ほんと? どういう作戦?」

 勝率が高いというところに、裏見先輩は食いついてきた。

 だけど、この先は秘密。まだ決定事項じゃないし、どこから情報が漏れるか、分からないから。もちろん、部員を疑ってるわけじゃない……ただ、あの生徒会長、どこか変なところがあったと思う。用心するに越したことはない。

「もうすこし具体的になったら、みなさんに公表します……」

 私はそうごまかして、携帯を確認した。午後4時――そろそろかな。

 

 コンコン

 

 ナイスタイミング。

 返事をすると、ドアが開いた。そして、清心せいしんのメンバーが顔をのぞかせた。

 先頭に立っていたのは、タキシード姿の佐伯くんだった。

 うしろには、新巻あらまきくんと古谷ふるやくん。ふたりは、いつも一緒。

 佐伯くんは、部室がぎゅうぎゅうなのに驚いたらしく、

「ミーティング中だった? ちょっと早かったかな?」

 と尋ねた。

「ううん……ちょうど今、終わったところ……」

「そっか。それは良かった……けど、ここで指すの?」

 そういう反応になるよね。いくらなんでも、2校でやるには狭過ぎる。

「教室をひとつ確保してあるから……全員移動で……」

 清心との合同練習会――県大会に向けて、がんばらなきゃ。

 Stand up!!

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