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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第22・4局 日日杯への道/大谷雛
232/682

220手目 女子高生的な、あまりに女子高生的な

※ここからは大谷おおたにひよこさん視点です。

 拙僧、文明の利器に揺られて、鎌鼬かまいたち市の山麓にやってまいりました。

 いわゆる忍びの里――のどかな田園風景が、日本人の心を思い出させてくれます。

 稲の香りに包まれながら、私は目印のお地蔵さんまで移動。

 しぃちゃんは……あ、いました。

「おひさしぶりです」

「ひぃちゃん、待っていたぞ」

 今日のしぃちゃんは職業服。忍者のかっこうをしています。

「もしや、修行の最中でしたか?」

「いや、くの一仲間と、遊んでいるところだ」

「どのような遊びを?」

「きわめて女子高生らしい遊びだ。ひぃちゃんにも、ぜひ加わって欲しい」

 私たちはあぜ道を通って、大きな日本家屋へ入りました。松の木が植えられた庭に、男女の忍者さんたちがいっぱい。皆さん、若いですね。国立の忍者養成機関だそうです。

 しぃちゃんは、松の木のそばにいる、くの一さんたちに話しかけました。

「戻ったぞ。こちらが拙者の友人、ひぃちゃんだ」

「大谷雛と申します」

 ぺこり。拙僧が頭をさげると、みなさんも挨拶してくれました。

 そのなかでも、眼鏡をかけた短髪の子が、

「はじめまして、赤井あかいもみじです」

 と自己紹介してくれました。

「もみじさんですか。また、可愛らしいお名前で」

「大谷さんこそ、可愛らしい名前ですね」

 よく言われます。

 さて、お次は……ん、こちらのひとは、忍者服ではありませんね。

 いわゆるスケ番でしょうか。セーラー服にマスクです。

「ちぃす、雨宮あまみやじゅんって言います。よろしく」

「はじめまして……あなたも、忍者ですか?」

「あたしは、内閣府超常現象課の調査員やってます」

「ほぉ、どのようなお仕事で?」

「宇宙人とか超能力者とか、そういうのを調査する仕事です」

 世の中には、いろいろ変わったお仕事があるのですね。知りませんでした。

「しかし、なぜこちらに?」

 雨宮さんは、黒いグローブを嵌めた手で、後頭部を掻きながら、

「最近、このへんに未確認飛行物体が現れるんで、それをメインに調べてます」

 と教えてくれました。こういうのを、情報開示と言うのです。

 行政の義務ですね。

 他にも、何人かの忍者さんたちが、自己紹介してくれました。

「というわけで、今をときめく女子高生諸君に集まってもらったわけだ」

「なるほど……して、しぃちゃん、その女子高生らしい遊びとは?」

「これだ」

 むッ、それは……手裏剣。

「女子高生と言えば、やはり手裏剣遊びであろう」

「一理あります。しかし、いろいろと遊び方があるのでは?」

 しぃちゃんは、10メートルほど離れたところにある藁人形を指差しました。

「もちろん、投擲とうてきだ……まずは、拙者からだな」

 しぃちゃんは優雅に構えて、サッとひと投げ。藁人形の心臓部に命中しました。

「しぃちゃん、さすがです」

「なに、これしきの距離ならば、はずしようがない……もみじも、どうだ」

「は、はい」

 この眼鏡の忍者さんは、あんまり乗り気ではないみたいですね。お手並み拝見。

「えいッ」

 手裏剣は、かろうじて藁人形のひざに当たりました。

 しぃちゃんは腕組みをして、ため息模様。

「もみじ、そんなへっぴり腰でどうする」

「す、すみません。手裏剣投げは苦手科目なもので……」

 忍者さんにも、苦手なものがあるようです。

「潤も、どうだ」

「やらしていただきやす」

 雨宮さんが挑戦。持ち方が、見よう見まねですね。

「とりゃッ!」

 手裏剣は的を外れて、地面に突き刺さりました。

「あちゃー……これ、思ったより難しいっすね」

「手裏剣の癖を覚えねばならん……ひぃちゃんも、ひとつ」

 では、拙僧もお借りして……てやッ!

 手裏剣は、藁人形のお腹に当たりました。

「あれ、うまいっすね」

「拙僧、しぃちゃんとよく遊んでおりましたので」

 実は経験者です。

 こうして私たちは、どんどん手裏剣を回して行きました。

 忍者学校のひとたちは、さすがにお上手です。

 でも、しぃちゃんが一番上手です。

「なかなか女子高生らしい汗をかいたな。休憩しよう」

「しぃちゃん、次は、なにをしますか?」

「最近、忍術学校で流行っている、とても女子高生らしい遊びがある」

「ほほぉ、その心は?」

 しぃちゃんは、忍者服に手をかけ、一気に脱ぎ捨てました。

裏見うらみ香子きょうこ、見参」

 おぉ……そっくりです。

「ただ、微妙に裏見さんと異なるような……」

「ひぃちゃんと言えども、聞き捨てならん。どのあたりだ」

「威圧感が強過ぎるような……これほどでは、なかったように記憶しています」

「ふぅむ……内面は、なかなか変えられぬからな」

「それにしても、なぜ裏見さんなのですか?」

「髪型が似ているからだ。真似しやすい」

 しぃちゃんの答えに、赤井さんが割り込んできました。

「変装の基本は、ショートカットです。ロングはカツラでごまかせますから」

「こらこら、髪は乙女の命。やすやすと切れるものではないぞ」

 乙女心と忍びの心は、調和が難しいようです。拙僧も、坊主にはしておりません。

「そう言うもみじこそ、変装してみてはどうだ」

「任せてくださいッ! なんにでも変装してみせますッ!」

 赤井さんは、私のほうへ向き直りました。

「今回は、大谷さんに指定してもらいましょう」

「拙僧に、ですか?」

「はい、将棋関係者なら、だいたい変装できます」

「男でも?」

「もちろんです」

 ほんとうでしょうか。試してみましょう。

「では、四国最強の少年、吉良きら義伸よしのぶくんに変装してもらいましょう」

「了解です」

 赤井さんは、忍者服を脱ぎ捨てて、くるりと一回転。

 なんと、オールバックの少年に変身してしまいました。

「どうだ、似てるだろ?」

「瓜二つです……声も同じとは、どのような仕組みで?」

「俺は声帯模写ができるんだ」

「左様。変装術でもみじの右に出る者は、学園におらぬ」

 手裏剣はヘタでも、変装は得意なのですね。

 人間、得手不得手があるものです。置かれた場所で咲きましょう。

「して、変装するのが遊びなのですか? それとも、変装後が本番ですか?」

「無論、変装後が本番だ。これでいろいろと悪戯いたずらをする」

 悪戯は感心しませんが……悪人正機とも言います。

「悪戯心は、女子高生に付きもの。拙僧もお共致しましょう」

「どこへ参ろうか。裏見殿に変装した以上は、駒桜こまざくらがよいのだが」

「そう言えば、吉良くんも、駒桜に行きました」

「む、それは好便。拙者たちも……否、私たちも、行くとしましょう」

「あ、うちはここに残って、UFOの聞き込みしますんで」

 では、雨宮さんを残して、いざ出陣。

 

  ○

   。

    .


 というわけで、駒桜市に到着です。

「バスには、久しぶりに乗ったわね」

 しぃちゃんが横文字を使うと、違和感があります。

「普段は、走っているのですか?」

「そうね。時速60キロで走れるから、走ったほうが速いのよ」

 さすがです。それだけ速ければ、八十八ヶ所巡りも、数日で終わるやも。

 ただ、速ければいいというものでもありません。真心――これです。

「だれとお会いしましょう。拙僧、このあたりに面識はまるでないのですが」

「うーん、ひぃちゃん……じゃない、大谷さんと吉良くんと私ってことは、四国であの化け猫と対決した面子よね」

「ん? 化け猫ってなんだ? 俺にも教えてくれよ」

「あんたね……リアルでも変装後でも年下って設定なんだから、敬語使いなさいよ」

「こっちのほうが迫力あるだろ。で、化け猫って、なんだ?」

 ここぞとばかりに、先輩後輩関係を崩しに来てますね。

「怪盗キャット・アイっていう、化け猫と戦ったのよ」

 しぃちゃんは、当時の様子を詳しく説明しました。

 赤井さんは、吉良くんの顔のまま眉をひそめて、

「ほんとかぁ? そんなの人間じゃないだろ……いや、それとも忍者か?」

 とつぶやきました。

「私も一瞬そう考えたけど、あの動きは、忍術と違うのよね」

「かんざ……裏見先輩がそう言うなら、そうなんだろうな」

 あの事件は、拙僧にも未だに理解できません。

「やはり化け猫なのでは?」

 拙僧のコメントに、他のふたりは半信半疑の模様。

「妖怪ねぇ……大谷さんを疑うわけじゃないけど、そんなのいるの?」

「物の怪は実在します。私たちとて、タンパク質に気が宿ったものに過ぎません」

「そんなものかしら……ま、とりあえず移動しましょ」

 そうです。ターゲットを探しましょう。

 私たちは、駅前のバス停から、商店街方面にのぼり始めました。

 なかなか活気のある町ですね。

「あ、獲物を発見」

 しぃちゃんは、ふたりの少年に声をかけました。

「つじーん、松平まつだいら、こんにちは」

 ひとりはうっすらとした茶髪で、もうひとりはオタクっぽい感じですね。

「あ、裏見さん、こんにちは……そちらの方は?」

 オタクっぽい少年は、私たちを気にしたようです。

「こっちは、四国から来た大谷さんと吉良くんよ」

「え? 吉良くんって、もしかしてK知の吉良義伸くんですか?」

「あら、知ってるの、つじーん?」

「そりゃ知ってますよ。四国で一番強い将棋指しでしょう」

 つじーんくんのコメントに、赤井さんは胸を張って、

「俺の名前を知ってるなんて、感心だな」

 と答えました。調子に乗り過ぎです。

「いえいえ、有名人ですからね。日日にちにち杯には、来るんでしょう?」

「もちろん」

「僕とけんちゃんも、観に行く予定なんですよ……あれ、剣ちゃん?」

 つじーんくんは、相方の少年に声をかけました。

 少年は、あごに手を当てて、しぃちゃんをじろじろ観察していました。

「剣ちゃん、どうしたの? 裏見さんの顔に、なにかついてる?」

「……おまえ、ほんとに裏見か?」

「私は裏見香子よ。将棋盤の角に、頭でもぶつけた?」

「いや……なんか、胸のかたちが違うような……」

 少年のひとことに、しぃちゃんは、ほほぉ、と地声にもどって、

「胸のかたちで判断するとは……おぬし、相当な助平すけべえだな」

 と返しました。

「あ、おまえ、神崎かんざきだろッ!?」

「左様」

「俺の裏見に変装するなッ!」

「ふん、おぬしのものではなかろう。それにしても、張り合いがないな」

「ほかのふたりも偽物か?」

 私と赤井さんは、本物だと答えました。ひとり嘘を吐いてますね。

 しかし、この少年の目をもってしても、赤井さんの変装は見抜けないようです。

「正体がばれては、仕方がない。おぬしたちも協力しろ。手頃な獲物はいないのか」

「そういうドッキリみたいなことしてもな……あ、そうだ」

 茶髪の少年は手を叩いて、

「そういや、くららんとサーヤが、剣道の練習するって言ってたな」

 と教えてくれました。

「ほぉ、涼子りょうこ殿も、受験の合間に修行しているのだな」

 しぃちゃんはそう言って、ニヤリと笑いました。

 この笑みは……なんだか、分かった気がしますよ。

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