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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第22・2局 日日杯への道/二階堂姉妹
228/682

216手目 邪魔された週末

※ここからは二階堂早紀さん視点です。

 やっほー、ついに到着。

 ここが兎丸うさまるくんの通ってる、清心せいしん高校かぁ。静謐せいひつな空気。マジメそうな学校だね。清掃が行き届いている。植え込みもキレイに刈り込まれていた。黒い服を着た女性が、胸元で手を組んで、しずしずと厳かに歩いているのがみえた。シスターさんかな。

「あっちのほうにあるのは、教会かな?」

「多分……ところで、お姉ちゃん、連絡はほんとに取れたの?」

 もちろん、ばっちり。全国大会で、兎丸くんのメアド訊いといて良かった。こういうのを、準備周到って言うのよ。私たちは、校門のところで待機する。

 今日は土曜日だから、授業のある高校でも、午前中だけのはず。現に、運動部が練習をしている以外に、学生の姿はなかった。

「ほんとに、ここで待てばいいの? もう10分経ったよ?」

 亜紀あきは、時間に細かい。私も細かいけどね。そのあたりは双子。

 たしかに、ちょっと心配になってきた。スマホを確認。もしかすると、集合場所を間違えているのかもしれない。出入口が2ヶ所あるとか、あるいは――

「こんにちは」

 声をかけられた。男子の声だった。

 ふりかえると、ショートボブ風味の髪型をした男子が、笑顔で立っていた。

「兎丸くん、こんにちはッ!」

 私と亜紀は、元気よく挨拶した。1年経って、またイイ男になってる。

 ガンガンおしゃべりしちゃいましょう。

「ごめんね、急に呼び出しちゃったりして」

「K川の県代表に訪問されるなんて、光栄だよ……きみが早紀さきちゃんだっけ?」

「そうだよ。こっちが亜紀」

「兎丸くん、こんにちは。お姉ちゃんがどうしてもって言うから、ごめん」

 あ、こら、なに自分だけイイ子ぶろうとしてるの。

「いやあ、アポなしで突撃しようって言ったのは、亜紀なの」

「お姉ちゃん、なんでそういう言い方するの?」

「おい、そこの女ふたりッ!」

「ま、どっちでもいいじゃない。ちなみに、兎丸くんとは去年の夏休み以来?」

「そうだね。二階堂さんたちに会うのは、全国大会の観戦以来かな」

「おーいッ! 無視するなッ!」

「私とお姉ちゃんは、市内観光したいんだけど、案内してくれない?」

「市内観光って言っても、観るところはあんまりないよ」

「こらッ! 俺の話を聞けッ!」

 うるさいなあ。さっきから大声出してるのは、だれ?

 私と亜紀は、お揃いのポーズで腕組みをして、あたりを見回した。

 すると、すこし離れたところに、兎丸くんと同じ制服の男子が立っていた。後ろ髪をゴム紐で結んだ、なかなかのイケメン。兎丸くんがカッコカワイイ系なら、こっちは純粋にカッコイイ系かな。

 その少年は、腕を振り回して、

「おまえたちッ! 兎丸を呼び出して、どういうつもりだッ!」

 と訊いてきた。

「どういうつもりって……あなた、だれ?」

「俺は兎丸の親友、新巻あらまき虎向こなただッ! 俺たちの大事な週末を邪魔するなッ!」

 うわぁ……大事な週末って……危ない人だなぁ。

 私は兎丸くんの耳もとで、

「なに、このひと? ストーカー?」

 と尋ねた。兎丸くんは、にっこりして、

「虎向は、ちょっと気が立ってるんだよ。部室で練習の予定だったから」

 と答えた。県大会に向けての自主練らしい。

 つまり、こいつも清心の将棋部員か。それなら話は早い。

「だったら、私と亜紀も混ぜて、みんなで将棋を指せばいいじゃない?」

 我ながら名案。

 と思いきや、コナタくんはあごに手をあてて、私たちをじろじろ観察した。

「おまえたち、ほんとに強いのか?」

「あのさ……いくら日本一面積が小さい県でも、県代表だよ?」

「人口も100万切ってるだろ? H島市単体より少ないんだよな?」

 むかぁ!

「あんたね、初対面の女子に失礼過ぎでしょッ! 溜池ためいけに投げ込むわよッ!」

「おまえこそ、いきなり訪問して来て、ずうずうし過ぎだろッ!」

 兎丸くんが割り込んでくる。

「まあまあ、ふたりとも、仲良くね。指してみれば、分かるんじゃないかな?」

 望むところ。私たちは、部室へ移動した。こざっぱりした感じの部屋で、中央にテーブルが置かれていた。兎丸くんが窓を開けると、6月の風が吹き込む。私は、勝手に着席して、勝手に駒を並べた。ボコボコにしてやる。

「アレだけ大口叩いたんだから、負けたら罰ゲームね」

 コナタくんは、ちょっとひるんだ。

「そ、それは……」

 私はニヤリとして、下から顔をのぞきこむ。

「んー? 罰ゲームもできないのかなぁ? H島って、大したことないねぇ?」

「さ、3回まわって、ワンワンしてやるッ!」

 微妙。もっと面白い罰ゲームがいいのに。

「おまえこそ、負けたら罰ゲームするんだろうな?」

「いいわよ。鼻からうどん食べてあげる」

「そういう不可能なことを罰ゲームにするなッ!」

 負けないからいいんだって。はい、振り駒――歩が1枚、私の後手か。

「30秒将棋よ。よろしくお願いします」

「こら、勝手に決めるな」

 チェスクロをポチ、っと。

「えーいッ! 5六歩だッ!」


挿絵(By みてみん)


 ほえぇ、中飛車宣言。中飛車党なのかな?

 私も振り飛車党だから、相振りでもいいんだけど……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「8四歩」

 居飛車にしちゃお。

「初手にギリギリまで考えるのか?」

「いろいろ思うところがあるの」

 一番気にしたのは、こいつが左穴熊使いなんじゃないかってこと。

 用心するに越したことはない。

「あやしいやつだな。7六歩」

 3四歩、5八飛、6二銀、5五歩、4二玉、4八玉、3二玉、3八玉。

 ふぅむ、手つきを見る限り、素人ってわけじゃ、なさそうね。

「5二金右」

「2八玉」

 中飛車対策には、いろいろあるけど……これにしよっ。

「6四歩」


挿絵(By みてみん)


「オーソドックスな形か……」

 K川県民は保守的だからね、という冗談は置いといて、これが一番、様子見できそう。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3八銀」

 美濃囲い。振り穴党でもないのか。さばきに自信ありと見ました。

 振り飛車党党首(K川県限定)の早紀ちゃんが、採点してあげましょう。

 6三銀、1六歩、1四歩。

「6八金」

 ん? なにそれ? ここで金上がり?

 不穏……だけど、べつに奇襲される筋もなさそう。

「7四歩」

「5七金だッ!」


挿絵(By みてみん)


「はぁあああ?」

 あきれる私のまえで、コナタくんは椅子をうしろに傾けた。

「どうだ。新巻流だぞ。昨日思いついた」

「ふざけてんの? 振り飛車の美学ってものを考えなさいよ」

「ん? おまえは居飛車党だろ?」

「私は振り飛車党よッ!」

「あ、舐めプだなッ! 指し直せッ!」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 だーッ! 8五歩ッ!

「おい、舐めプは禁止だ。振り飛車で指し直せ」

 今度は私が腕組みをして、椅子を傾ける。

「べつに、なにを指そうが私の勝手でしょ」

「負けたときの言い訳にする気だろッ!」

「だーかーらー、あんたみたいなのに負けるわけないじゃん」

「それが舐めプだって言ってるんだッ!」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 コナタくん、大慌てで7七角。

 私は4二銀と上がった。

「4四歩〜4三銀型?」

「ノーコメント」

 コナタくんは29秒まで考えて、4六歩と突いた。

 私は5筋の歩に指を添える。

「5四歩」


挿絵(By みてみん)


 コナタくんは、怪訝そうに目を細めた。

「もう攻めるのか?」

「見れば分かるでしょ」

「……」

 おっと、挑発に乗ってこない。真剣に考えてる。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同歩」

 ま、それしかないよね。

 私は7七角成と成り込んで、同桂に5四銀と取っておいた。

 コナタくんは、持ち駒の角を手にして、しばらく考える。

「これでなにが悪いんだ……7一角」


挿絵(By みてみん)


 んー、5四歩の時点でそれが見えたのは、及第点。

 だけど、先が甘いかな。

「8三飛」

 飛車を逃げておく。

 当然の2六角成に、私は8六歩と突いた。同歩、同飛。 

 8八歩と打とうとして、コナタくんの手が止まる。

「損っぽいな……」

 さあ、どうでしょう。私は、ニヤニヤしながら待つ。8八歩でも一局だと思う。でも、コナタくんがそこそこ強いなら、べつの手が見えてるんじゃないかなあ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3六馬」


挿絵(By みてみん)


 コナタくんは、29秒ギリギリで馬を寄った。これが銀当たり。8九飛成、5四馬、7九龍なら銀の取り合いだけど、こうはならない。5四馬のまえに、7八銀があるから。

「5三金」

 一回銀を守る。コナタくんは、今度こそ8八歩と打ちかけた。

「あれ……打てない……?」

 お、やるねぇ。8八歩には6九角が待っている。

 

挿絵(By みてみん)

 

(※図は二階堂にかいどうさんの脳内イメージです。)


 飛車を逃げたら3六角成、同歩で、馬を消せるわけ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「い、1五歩だッ!」

 ん? そこ? ちょっと暴発した印象。

 私は考える。一気によくする順は……ないか。

「8九飛成」

 普通に指す。7八銀、9九龍、1四歩に1二歩と謝って、香得になった。

 コナタくんは軌道修正が必要だから、一手一手に時間を使う。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5五歩ッ!」

 中央を押さえに来た。妥当。先手はそこしか主張がない。

 私の6三銀に、8二歩と追撃してくる。これは7三桂……いや、もっといい手がある。

「8七歩」


挿絵(By みてみん)


「ぐッ……」

 8二歩と打っちゃったから、8九歩と受けられない。かと言って、これを同銀は、さっきと同じ6九角の筋がある。今度は飛車銀両取りだから、かなりきつい。

 というわけで、8一歩成、8八歩成と、攻め合いになった。

「6九銀と逃げられないのか……8五桂」

 桂馬だけは助けようって寸法か。でも、3手後に面白い返しがある。

「7八と」

「7三桂成」

 私は持ち駒の角を放つ。

「8・四・角」


挿絵(By みてみん)


 コナタくんは、背筋を伸ばして、テーブルを両手で打った。

「こ、こんな手があるのか?」

 ありあり、大有りぃ。金を逃げたら3九銀でゲームセット。逃げないなら、次に6八とと寄って終了。受けに回ったら、7三角で桂馬を取り切って優勢。

 どうやら、もう後手有利みたい。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7五桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 やるぅ。私の予想よりは強いかな……それじゃ、本気を出そっか。

 3回まわって、ワンワン吠えてもらっちゃお。

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