表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第22・1局 日日杯への道/四国勢編(2015年6月6日土曜)磯前好江
225/682

213手目 上陸した強豪たち

※ここからは磯前さん視点です。

「以上、日日にちにち杯の会場を、ご案内させていただきました」

 スーツ姿のお姉さんが、あたしたちに微笑みかける。まばゆい天井のライト。几帳面に並べられた丸テーブルのシーツが、オレンジ色に輝いていた。奥には、挨拶用のマイクとスクリーンが見える。結婚式のときは、あそこに司会が立つんだろう。詰めたら、500人は入りそうなホールだった。

「なにか、ご質問はございますか?」

 だれも質問しなかった。説明が丁寧だったからね。

「それでは、本日のご案内を終了させていただきます。ありがとうございました」

 あたしたちも、お礼を言った。ホールを出る。H島で一番有名なホテルらしい。絨毯もふわふわで、やわらか。釣り用ジャケットで来たのは、まずかったかな。香宗我部こうそかべみたいに、学生服を――いや、ほかのメンバーも私服だし、いっか。エレベーターで、1階まで降りる。普通のホテルとはちがって、ショッピングセンターになっていた。

 エントランスを出て、あたしたちは円陣を組む。タクシーの邪魔にならないよう、隅っこに移動した。詰め襟の香宗我部は、学生手帳をめくりながら、

「さて、日日杯会場の下見は終わったわけだが……このあと、みんなの予定は?」

 とたずねた。

「拙僧は、しぃちゃんのところへ遊びに行きます」

「みかんはダーリンと市内観光するの〜」

「私と亜紀あきも、O道経由で観光しながら帰るね」

 全員、バラバラな回答。だけど、予定の決まっていない面子のほうが多かった。

大谷おおたに鎌鼬かまいたち市、温田おんだ石鉄いしづちは市内観光、二階堂にかいどうは電車でK川まで移動……ほかは?」

 香宗我部はメモを取りながら、もういちど確認した。

 あたしは、

「それって、把握しとかなきゃいけないの? ここで解散でも、よくない?」

 と訊いた。香宗我部は、渋そうな顔で、

「ダメだ。引率者は僕になっている」

 と答えた。責任問題ってわけね。

「でもさ、高校生なんだし、携帯電話も持ってるから、いざというときは、囃子原はやしばらに連絡して終わりだろ? 誘拐されたりは、しないと思うんだけど」

「そういう安心感が、事故を招くんだぞ」

 香宗我部は、マジメだなあ。

「拙僧も、行き先くらいは把握しておいたほうが、良いように思います」

 大谷も、香宗我部の味方か――3人いる3年生のうち、ふたりが慎重派。多数決。ほんとはもうひとりいて、あいつなら反対してくれそうなんだけど、来てないんだよね。

「分かった。あたしも予定を伝えておくね。午後は駒桜こまざくら市へ遊びに行くよ」

「駒桜? ……偵察か?」

「ちがうよ。今日は裏見うらみに会いに行くの。明日は黒潮くろしお魚住うおずみのところで釣り」

 あたしは、そこまで研究家じゃないから。香宗我部は、四国の支部長を偵察に行かせているらしい。E媛の1年生だった。スパイ行為は感心しないね。瀬戸内海に来たら釣りだよ、釣り。

 魚住も釣りをするから、道具は一式貸してもらえる予定だ。マイ釣り竿のみ持参。

「了解。磯前は、今日の午後が駒桜市、明日は黒潮、と……ほかは?」

 2年生以下で、予定が決まっていない面子は、なにやら相談していた。

鳴門なると先輩は、どうするじょ?」

「んー、どうしよっかなあ。耕平こうへいはいないけど、駒桜の多喜たきくんに会いに行こうかな」

「スミレは、鳴門先輩について行くじょ」

「では、拙僧たち3人で、西行きのバスに乗りましょう」

 T島県勢は、話し合いがついた模様。

「鳴門と那賀ながも駒桜、と……おーい、ほかは、まだ決まらないのか?」

 優しそうな清潔感のある男子と、ちょっと生意気そうな男子が振り返る。

 K川の長尾ながおとE媛の阿南あなんだった。

「僕たちは、市内で食べ歩きをすることにしました」

「僕もついて行くよ」

 なるほどね、と。長尾が言い出すのは、違和感がない。高校生パティシエだから。

 阿南のは、完全に便乗っぽい。

「市内観光は、ほかにいないの〜? 時間がなくなるから、先に行かせて欲しいの〜」

 みかんの催促で、市内観光組は解散になった。残るは──

吉良きら、まだか?」

 腕組みをして考え込んでいた義伸よしのぶは、香宗我部の質問に対して、

捨神すてがみに会いに行きたいです」

 と答えた。香宗我部は、メモを取ろうとした。

「吉良も駒桜……」

「だけど、心の準備ができてません」

 なにを言ってるんだ。あたしはあきれた。

「お見合いじゃないんだからさ。それとも、義伸はそういう系なの?」

「違いますよッ! 変なこと言わないでくださいッ!」

 からかっただけ。本気で怒ると、勘ぐっちゃうよ。

 一方、義伸はこぶしをにぎって大マジメに、

「会ったとき、将棋を指すかどうか悩んでるんです」

 と告白した。ふぅん……たしかに、むずかしい選択だね。香宗我部は、

「ほかの面子にも言っておくが、H島の県代表と指すことは、禁止する」

 と釘を刺した。そこまで秘密にしなくても、いいと思うんだけど。そもそも、将棋なんか水ものなんだし、県代表クラスじゃなくても、負けるときは負けるんだから。

「だ、ダメなんですか?」

「ダメだ」

「どうしても?」

 香宗我部は、ダメ、絶対、と答えた。

「で、でも、将棋がダメなら、なにしていいか分かりませんッ!」

「高校生らしいことをすれば、いいだろう。なあ、磯前?」

 そうそう、海釣りとか川釣りとか。

「高校生らしいことと言えば、将棋じゃないですか」

 いくら流行っているとは言え、それはない。

「高校生らしいことと言えば、釣りだよ、釣り」

「釣りなんてマイナーな趣味でしょう」

 は?

「義伸、ちょっとホテル裏の駐車場まで来ようか?」

「吉良、磯前、漫才してる場合じゃないんだぞ。ほかの面子に迷惑だから、早く決めろ」

「了解。じゃあ、義伸はあたしがこのまま連れて行くから」

「勝手に決めないでくださいッ! うわッ!?」

 はいはい、釣り糸でぐるぐる巻きにして、終わり。

 巻き結びを作っていると、ひそひそ話をしていた二階堂姉妹が、

「私たちも、駒桜へ先に寄りますッ!」

 と言い始めた。どっちだっけ? 結んだ髪が向かって右に流れてるから、早紀さきかな。

「いいけど、駒桜って観光名所じゃないよ? あたしは知り合いがいるだけだし」

 早紀は頬に手をあてて、

「えへへ、ちゃんと用事はありまーす」

 とごまかした──男だな。釣り人の勘で分かる。

「OK、全員で路面電車に乗って、駅前のバス停まで行こうか」


  ○

   。

    .


 はい、到着。駒桜駅前のバス停。100万都市からのアクセスは、便利だ。

「ここで解散、かな」

 あたしはスマホをいじりながら、ほかのメンバーにたずねた。

「そうですね。多喜くんとは連絡取れたので、僕たちは移動します。また今度」

「バイバイだじょ」

 鳴門と那賀は、バス停を去った。

「私と亜紀も連絡が取れたので、解散しまーす」

 ふたりは手を振って、退散。

 結局、行き先は言わないのね――だいたい予想はつくけど。

 バス停に残ったのは、あたしたちK知勢だけ。

「磯前、裏見さんとは連絡とれてるのか?」

「返信があったよ。迎えに来るってさ」

「合流したあと、どこに移動する?」

駒桜こまざくら市立いちりつ高校」

「よしよし、ちゃんと手はずは整ってるな……ん?」

 香宗我部は、あたりをキョロキョロした。

「吉良は、どこ行った? トイレか?」

「釣り糸をほどいたとき、逃げたんじゃないの?」

「逃げた……だと……?」

 香宗我部は大慌てで、隠れられそうな場所を調べ始めた。

 かくれんぼじゃないんだからさ。近くにいるわけないだろう。

「磯前は、そっちを捜してくれッ! 僕はあっちの商店街を捜すッ!」

「了解」

 あたしはスマホをポチポチ。捜す気はない。17にもなっておりをされるとか、土佐男児にとっちゃ、恥辱でしかないよ。そりゃ逃げる。香宗我部は神経質だ。あたしは義伸のことが嫌いなわけじゃない。過干渉が嫌いなだけ。

「磯前さーん」

 顔をあげると、商店街のほうから、ポニテ少女が手を振って歩いて来た。

「ごめんなさい、遅くなっちゃった」

「いいよ。わざわざ迎えに来てくれて、ありがと。ここから徒歩?」

「案内できる場所がいくつかあるから、徒歩のほうがいいかな」

 了解。あたしたちは、商店街から反対の方向へと歩き始めた。

「そう言えば、香宗我部くんに似た子が走ってたけど、気のせい?」

「他人の空似そらにじゃない?」

「そっか……見たことない制服だったけど……」

 この話題は打ち切り、と。あたしは、ほかのメンバーの伝言を伝えた。

「みかんとれつとひよこと駿しゅんあきらが、よろしくって」

 下の名前で言われたからか、裏見は、きょとんとした。

「あ、そういうことね。ありがと……アキラくんって、だれだったかしら?」

「長尾彰だよ。会ったことあるはず」

 裏見は、知らないと答えた。

一之宮いちのみやのパーティーで会ったらしいよ」

「え? ナガオくんなんて子、いなかったけど?」

「料理を作ったり配ったりしてる、タレ目の男子、覚えてない?」

 裏見は額に指を当てて、しばらく思い出そうとした。

「……あ、覚えてる。デザートを配ってたわ。彼、将棋指しだったの?」

「K川の県代表だよ、あいつ」

 裏見はちょっと驚いた。

「あのパーティー、強豪ばっかりだったのね」

「一之宮が県代表だからね。日日杯で、みんな再会するんじゃないかな」

 裏見が日日杯に来るのかどうか、あたしは確認した。

「受験シーズンだけど、日日杯だけは行くことにしたわ。解説で呼ばれてるし」

「裏見には、ぜひあたしの対局を解説して欲しいね」

「んー、磯前さんの棋譜って、レベル高そう」

「そんなことないよ……っと、そろそろ、移動しようか」

 義伸が捕まらないことを祈りつつ、出発。

《第10回 日日杯参加者 四国勢名簿》


【K知県】

〔男子〕

香宗我部こうそかべ 忠親ただちか

元徳がんとく義塾ぎじゅく高校3年生。

吉良きら 義伸よしのぶ

王手町おうてまち高校2年生。


〔女子〕

磯前いそざき 好江よしえ

南国なんごく水産すいさん高校3年生。

越知おち 夢子ゆめこ

清海せいかい高校1年生。


【E媛県】

〔男子〕

今治いまばり 健児けんじ

新浜にいはま高校3年生。

阿南あなん 是靖これやす

愛甲あいこう学園2年生。

石鉄いしづち れつ

愛甲学園1年生。


〔女子〕

温田おんだ みかん

聖カナリア学院2年生。

宇和島うわじま 伊代いよ

県立M山高校1年生。


【K川県】

〔男子〕

長尾ながお あきら

T松調理専修学校高等課程2年生。


〔女子〕

二階堂にかいどう 早紀さき

一本松いっぽんまつ高校1年生。

二階堂にかいどう 亜紀あき

一本松高校1年生。


【T島県】

〔男子〕

鳴門なると 駿しゅん

渦潮うずしお高校2年生。


〔女子〕

大谷おおたに ひよこ

観音かんのん高校3年生。

那賀なが すみれ

渦潮高校1年生。


 以上、男子7名、女子8名。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ