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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第21局 2014年度 四市対抗オールスター戦(2015年1月11日日曜)
219/682

207手目 3回戦 裏見〔駒桜市立〕vs吉備〔県立本榧〕(2)

挿絵(By みてみん)


 ええ、攻めて来るの? 同桂、同桂、同金だと?

 なにもないように見えるけど……私は吉備きびさんの棋力を尊重して、狙い筋があるという前提で読みなおした。4五同桂、同桂、同金は、どうみても成立していない。まさか、そこで3七角成の空成りから、同玉、5七飛成はしないと思う。

 となると……4四歩? 3三桂成、同銀……6六桂で飛車を追い回せるから、これも先手が良さそう。次に7四歩もある。つまり、もっと別の手順があるってことか。うぅん、別の手順……あッ、もしかして、4六角、同歩、4五桂、同歩、4六桂?

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は香子きょうこちゃんの脳内イメージです。)

 

 これは、ありそう。って言うか、先手はかなり受けにくい。放置は3八金が王手飛車取りだし、飛車を逃げたら、5八金〜5七飛成が待っている。4七玉と立つのが好便に見えるけど、3八桂成、同玉、5七飛成のあと、受け駒が桂馬と角しかないから、どうやっても次に金を打たれて負ける。

 ただ、ここから4七角の受けは、できそうなのよね。3八金、同角、同桂成、同玉、5七飛成の駒割りは……先手の桂得。これを嫌うなら、3八金じゃなくて、3七歩かしら。次に3八歩成とされると、駒割りは角桂交換で、後手の得になる。先手陣は崩壊してるから、間違いなく劣勢。かと言って、3七歩に同玉は、無条件で5七飛成とされてしまう。

 ふむふむ、どうやら吉備さんが狙っているのは、この路線みたいね。

「5六金」


挿絵(By みてみん)


 吉備さんもうなずいて、

「やりますね」

 と言ってから、3五歩と仕掛けてきた。

 同歩は3六歩だから……2七銀と下がるしかない。

 2七銀、3六歩、同銀、3五歩(これも取れない)、2七銀。

「2四歩です」


挿絵(By みてみん)


 またよく分からない手がきた。2五歩〜2四飛の準備? ……違うわね。3四飛に2五角と打たれるのを防いだわけか。こっちも3四飛〜3六歩は防がないといけない。

「桂頭が負担だから、もう交換するわッ! 4五桂ッ!」

「拒否します。2五桂」

 くッ、跳ね違い? ……って言うか、3七角成が残ってるじゃないッ!

「さ、3八歩」

 吉備さんは、3六歩と伸ばした。私は2六銀と立って受ける。

「それは美しくありません。4四歩」


挿絵(By みてみん)


 うぅ……四方八方から攻められてる……桂馬が助からない……。

 6五角と打つ? 飛車が逃げたら、3二角成だけど……後手は、飛車角交換歓迎な構えをしている。飛車を打ち込まれる隙がないからだ。6五角と打っても、無視して4五歩、5四角、同歩としてきそう。次に8二角打と重ねられたら、3筋が受からない。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ、待ってよ。ここで2五銀がない? 同歩に6五桂とか。


挿絵(By みてみん)


 (※図は香子ちゃんの脳内イメージです。)

 

 これなら、角当たりなうえに、5三桂右成、同飛、同桂成、同玉で、玉が露出する。後手も相当危ない。駒割りは……飛車と銀桂の2枚換え。これなら大丈夫。

 私は自信を持って、2五銀と桂馬を喰いちぎった。

「おや?」

 吉備さんはきょとんとして、背中を引き、斜め目線で考え込む。

 そして、ちょっとだけニヤリとした。

裏見うらみさん、指し慣れていない戦法は、やはり指すものではありませんね……同歩」

 脅された? なんで?

 私は疑心暗鬼になりつつ、6五桂と打った。

「これを見落としてませんか? 3七銀です」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 え? どこが見落としなの?

 こんなの5八玉で、なんともないじゃない。

 5八玉に3八銀成なら、5三桂右成、同飛、同桂成、同玉、2五飛とできるし……ん、結構微妙? そこで3三桂と打たれると、飛車の処置に困るわね。3五飛とするのは、3七歩成or3七角成がある。後手からの攻めは速くないけど、先手から速く攻める手もない。そもそも、駒割りが飛車と銀桂の2枚換えで、バランスが取れていた。

 私はお茶を飲んで、リフレッシュする。思ったより簡単じゃない。

 もう一度考え直しましょう。5八玉、3八銀成、5三桂右成、同飛、同桂成、同玉に2五飛までが確定路線として、そこで3三桂、3五飛、3七角成が問題……ん? もしかして、それが勘違い? 3七角成じゃなくて、1九角成、3六飛、3七馬として、飛車を逃げたら5四香のほうが厳しいってこと?


挿絵(By みてみん)


 (※図は香子ちゃんの脳内イメージです。)

 

 6六金に4五桂打と重ねられて、先手が潰れている。6八銀と受けるのは、4八成銀、6九玉、4七馬、7九玉、5七香成、同銀、同馬で、これが王手飛車だから即死。

「そっか……受け駒に飛車角しかないのか……」

 私の独り言に、吉備さんは素早く反応して、

「さあ、どうしますか?」

 と尋ねてきた。私は、なにも答えずに考え込む。

 6八金と受ける? 4八成銀、6九玉、4七馬、7八玉、5七香成、同金、同馬が飛車当たりで、このときに逃げる位置が1五くらいしかない。ただ、6九香と打てば粘れる。こっちは8二角という奥の手があるから、悪くは……あッ、1五飛と逃げた瞬間に、7七歩の叩きがあるのか。同玉は7九馬、同桂は玉の退路がなくなる。

 私はこぶしを口もとに添えて、黙考した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「3七同歩」


挿絵(By みてみん)


 分からないときは取る。私は初心に帰った。

 吉備さんは、「ほほぉ」と言って、身を前に乗り出した。

「顔面受けですか。おもしろい。おもしろいですよ。同角成です」

 5八玉、4五歩、同金、6四飛、6六歩。

 いやあ、どうなんだろ。こっちのほうが良かったと断言できる進行じゃない。

 とはいえ、吉備さんも攻めさせられていると感じたのか、時間を使い始めた。

 次の手に1分近く消費する。

「……3三桂」


挿絵(By みてみん)


 これまためんどくさい手だ。攻防一体で、吉備さん好み。

 私も30秒ほど使って、4六金と引いた。

 残り時間は、私が7分、吉備さんが8分。そこまでひらいていない。

「3八馬」

 やっぱり、そう来るわよね。

 2五飛とは逃げられないから、私は6九飛と横に逃げた。

 3七歩成、6七玉、5四飛、5六歩、8四飛、7七玉。

 どんどん逃げるわよ。

「4七と」

「5五金」

 吉備さんはここで、ひと呼吸おいた。

「5八とです」


挿絵(By みてみん)


 私はすかさず、6七飛と浮く。

 後手の狙いは明確だ。4八馬と寄って、次に5七と。

 そのあいだに、私はなにかしないといけない。もちろん、伏線は張ってある。

 4八馬と寄られた瞬間に、3五角と打つのがそれだ。以下、6二金の受けに、4四銀と露骨に重ねてみたい。

 吉備さんのことだから、なにか上手い返しがありそうで怖いけど……ここは、踏み込むしかないわよね。受け切って勝つことができる局面じゃないし。

「4八馬」

 来た――私は深呼吸してから、3五角と置いた。

 6二金、4四銀。

「攻守逆転は、望むところです。3四歩」


挿絵(By みてみん)


 そ、そんな受けがあるの?

 てっきり、4二金寄だと思ってた。そこで先手から3四歩の予定だったのに。

 私は残り時間が5分弱なのを確認してから、もういちど腰を据えなおした。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 5三銀成しかない。

「5三銀成」

 私がチェスクロを押したとたん、吉備さんは4一玉と引いた。


挿絵(By みてみん)


 うわあ、もうめちゃくちゃ……読みがどんどんズラされる。

 時間を使わせに来ているみたいだけど、でたらめな手でもなさそう。

 おそらく、6二成銀、3五歩、7二成銀なら、以下5七と、6九飛、7六歩、8八玉(同玉は5八馬が王手飛車)となって、後手だけ入玉の権利を得るから終わり。そもそも、先手は点数が足りない虞もある。角は生かさないと。

「4二成銀ッ!」

「!」

 吉備さんは、この手を指してこないと思っていたのか、すこし仰け反った。

「裏見さん、ほんとうに強くなりましたね……同金です」

 6二角成、7三銀、同桂不成(!)、5七と、8一桂成(!)、6七と、同金。

 私も入玉を目指す。

「7六歩」

「同玉」

 吉備さんは、持ち駒の銀をひらりと打った。


挿絵(By みてみん)


 入玉でき……ないッ!

 6五玉は、6四飛打、同金、同飛、5五玉、4五金で詰みだ。3三桂が利いている。


 ピッ

 

 しかも、ここで1分将棋。踏ん張れ、私。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7七玉ッ!」

 吉備さんは6九飛と下ろす。私は6八銀打。

 この手をみて、吉備さんは最後の長考に入った。飛車を逃がすしかないと思う。

 

 ピッ

 

 吉備さんも1分将棋に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「8三飛」

 そう、そこしかない。

 私は駒音高く、4四桂と打った。

 

挿絵(By みてみん)


「これは……何手スキですか?」

 吉備さんは自問自答するように、自分の王様の周囲をさぐった。

 私も自信がない。少なくとも、詰めろじゃないし、2手スキでもない。

 次の5二金に同金のポカだけが頓死になる。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5八馬」

 吉備さんは、ギリギリのところで馬を寄った。

 この手も厳しい。6八馬、同銀、8九飛成が見える。

 私は必死になって寄せをさがした。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5二金ッ!」

 とりあえず追っかける。

 3一玉、4二金、2一玉。


挿絵(By みてみん)


 だ、ダメだ。詰めろがかからない。

 っていうか、今気づいたけど、私のほうは詰めろになってる。馬切りじゃなくて、7九飛成、同銀、7六銀打、8八玉(同金は同銀以下詰み)、8七銀成、同玉、8六銀、9六玉、8七銀不成、9五玉、9四歩までだ。複雑で発見が遅れた。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「は、8八玉ッ!」

 私は詰めろを解除した。

 この手に、吉備さんの表情が変わる。

「それは最善……」

 そりゃ、吉備さんのほうは詰まないんだから、私の詰めろを解除するのは最善……ん、ちょっと待ってよ。そもそも吉備さんのほうは何手スキなの? 3手? 4手?

 私はもういちど寄せを確認した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ? もしかして2手スキ?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 吉備さんは、1二玉と逃げた。

 私は寄せを読みなおす。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 やっぱり2手スキだ。私はチェスクロが鳴るまえに、3二桂成とした。


挿絵(By みてみん)


 吉備さんは、キュッとくちびるを結び、2三玉と逃げた。

「2二成桂」

 これが急所。一見、上に逃がしているようだけど、馬筋が2六まで伸びているから、後手には入玉のチャンスがない。それどころか、2四玉なら1五銀(!)と捨てて、同玉、1六歩、1四玉、1五歩、2四玉、2三金まで――詰み。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 吉備さんは同玉。私は焦らすことなく、2四歩と置いた。


挿絵(By みてみん)


 完全な受けなし。4一桂は3二金打、1二玉、2一銀までだし、7九飛成、同玉と切って2一銀も2三金までの一手詰み。2三銀のトリッキーな受けも、同歩成としないで3一銀、1二玉、2二金で解決。おそらく必至だ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「負けました」

 吉備さんは頭を下げた。私も一礼する。

「ありがとうございました」

 沈黙――私は感想戦が始まるまで待つ。

「最後は、5八馬のところで3一玉でしたか?」

 吉備さんはそう言って、局面をすこしもどした。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「それは5二馬の予定だったわ。同金とできないし、放置なら4二馬と取れるから」

 タダ捨てしてるわけじゃない。同玉なら3二金、5三玉、5二金で詰みなのだ。

「4二馬に2一玉だと?」

「それは3二桂成、1二玉、2四歩と押し込んで……ん?」

 私は舌の動きを止めた。自陣を確認する。

「ごめん。2四歩の瞬間に、7九飛成から詰むわね」

 吉備さんはタメ息をついて、

「詰めろに気づいていない可能性に賭けていたのですが、方針自体は合ってましたね」

 と答えた。ぐぅ、そういう言い方は、やめてくださいな。

 本譜でも危なかったのは認めるけど。

「2四歩と打たないで、7八銀打かしら?」

「それが飛車取り+2三玉と逃げないと今度こそ2四歩ですから、私の負けです」

 ふむふむ、勝ち筋はちゃんとあった、と。

「中盤でミスをした気がします。4八馬に代えて3四歩でしたか?」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 吉備さんは、3五角打を防いだ。

「正直、このへんはよく分からなかったわ。3五歩、同歩、4四銀とか? 6二金なら7一角と打って、4二金に3四歩よね。3五歩を同歩とせずに4八馬なら、3四歩、同飛、3五歩、同飛、4四角。もちろん、こうは指さないでしょうけど、先手良しだと思う」

 私の指摘に、吉備さんは肩をすくめた。

「裏見さん、ほんとに強くなりましたね。それが一瞬で見えるとは」

 照れます。

「なんて言って、吉備さんもこれは誤摩化しだって分かってたんでしょ?」

 吉備さんは笑って、

「まったくその通りです。裏見うらみさんと出会ったときなら、まちがいなくこれで誤摩化しに行きましたけどね……竜王戦で攻めの切れ味を見て、考えが変わりました」

 と答えた。私もほほえむ。

「ま、私も相掛かりで受け将棋にさせなかったし、おたがいさまね」

「そういうことにしておきますか……では、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

場所:2014年度 四市対抗オールスター戦 3回戦

先手:裏見 香子

後手:吉備 丸子

戦型:相掛かり


▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金

▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛 △7二銀

▲3八銀 △3四歩 ▲2七銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛

▲7六歩 △5二玉 ▲3六銀 △7四歩 ▲4五銀 △7六飛

▲7七歩 △8六飛 ▲8七歩 △8五飛 ▲3四銀 △3六歩

▲3八金 △3五飛 ▲2五銀 △3七歩成 ▲同 金 △5五角

▲3六歩 △4五飛 ▲4八玉 △2二銀 ▲7六歩 △3三桂

▲5五角 △同 飛 ▲1六銀 △7五歩 ▲4六金 △5四飛

▲7五歩 △7三角 ▲3七桂 △4四歩 ▲2九飛 △4五歩

▲5六金 △3五歩 ▲2七銀 △3六歩 ▲同 銀 △3五歩

▲2七銀 △2四歩 ▲4五桂 △2五桂 ▲3八歩 △3六歩

▲2六銀 △4四歩 ▲2五銀 △同 歩 ▲6五桂 △3七銀

▲同 歩 △同角成 ▲5八玉 △4五歩 ▲同 金 △6四飛

▲6六歩 △3三桂 ▲4六金 △3八馬 ▲6九飛 △3七歩成

▲6七玉 △5四飛 ▲5六歩 △8四飛 ▲7七玉 △4七と

▲5五金 △5八と ▲6七飛 △4八馬 ▲3五角 △6二金

▲4四銀 △3四歩 ▲5三銀成 △4一玉 ▲4二成銀 △同 金

▲6二角成 △7三銀 ▲同桂不成 △5七と ▲8一桂成 △6七と

▲同 金 △7六歩 ▲同 玉 △8五銀 ▲7七玉 △6九飛

▲6八銀打 △8三飛 ▲4四桂 △5八馬 ▲5二金 △3一玉

▲4二金 △2一玉 ▲8八玉 △1二玉 ▲3二桂成 △2三玉

▲2二成桂 △同 玉 ▲2四歩


まで129手で裏見の勝ち

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